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2016年11月10日 (木)

地獄谷温泉 無明ノ宿【庭劇団ペニノ】161109

2016年11月09日 ロームシアター京都 ノースホール (130分)

舞台美術の驚嘆は毎度のこと。これだけでも観に行く価値ありと、毎回、本当に凄いという言葉しか出て来ない。
作品は、近々取り壊されるらしい山奥の湯治宿に人形師親子が訪ねて来ての一晩を描いただけ。時間にすれば16時間ぐらいの話だ。
そこで、この宿主不在の温泉宿にいる、様々人たちの心の奥が露わになっていく姿が描き出される。
不幸でみじめで、無気力になり諦めてしまっているかのような宿の人たち。温泉で言えば、ぬるま湯みたいな感じか。でも、決して、そんないい湯に浸かっているかのように心安らかに生きてはいない。むしろ苦しみの中にいる。心に闇を抱える。それがこの作品名にもある無明というものみたいだ。
そんな人たちが、人形師親子と出会って、心のざわつきを得る。
それは、もっと奥深い、恐ろしい闇を持って生きてきたかのような人だと感じたからなのか。
皆は、心奥底に隠して見ないようにしていた自分の欲を溢れ出す。
でも、そのことで無明から解放される。自分に闇など無かったことに気付く。
そんな露わになった自分の欲に押し潰されそうになる者もいる。でも、それを心穏やかに生きる力として掴んだ者もいる。
宿と同じように、壊されてしまう恐怖。
そんな宿そのものと、そこに住む人たちの想いが、彼らを呼び寄せたのか。
その一晩で、この宿、そこに居た者たちは、無明から解放され、人間が本能的に持つ欲望を受け入れて、そのままの自分として生きる力を得る。
そんな人間という存在を受け入れて、心穏やかに過ごす生を見出そうとしているような話だったように感じます。

<以下、あらすじがネタバレしますが、再演のため、ネットである程度は出てくるようなので、白字にはしていません。ご注意願います。公演は日曜日まで>

山奥の湯治宿。
午後2時。人形劇の余興を頼まれ、東京からやって来た親子が到着。
玄関先で声をかけても、誰も出てこない。
父、クラタモモフクは小人症。宿までの旅路はけっこう大変だったみたいでお疲れ気味。息子のイチロウに介助してもらって、とりあえず中に入れてもらうことに。
お婆ちゃんが2階から降りてくる。タキコと名乗る。歳は80歳くらい。モモフクと同じくらいか。ここから少し離れた小さな町の人らしい。
タキコ曰く、ここの家主はいないらしい。だから、そんな余興の依頼などあるわけが無いと。でも、手紙は確かに届いたので、それを見せる。それでも信じてくれない。
こんなところに来るのは病気の人だけだと、モモフクを見ながら言う。そして、ぶっきらぼうで淡々としているイチロウに何か怯えを覚えたのか、念仏を唱えている。

バスはもう無い。今晩はここに泊めてもらうしかないようだ。
部屋は1階と2階に一部屋ずつ。湧き続けている温泉もある。
2階はタキコが寝泊まりしている。イチロウたちは1階の部屋にお邪魔する。そこには目は不自由なマツオという男がいた。ここの湯が光を取り戻す最後の望みなのだとか。ここでほとんど食事もとらず、たまに山菜を茹でて食べ、押し花をしながら、心眼を極めようとしているらしい。見えないが空気でモモフクから漂う違和感は感じるらしい。触りたい。そして、見たい。そんな欲望が湧き上がってくる。
ここには三助がいる。寡黙でひたすら働き続ける男。だから、みんな名前が分からず、サンスケと呼ぶ。サンスケに手紙を確認してもらうが、やはり分からない様子。疲れて座布団の上で寝ているモモフクを抱きかかえ、布団を敷いて、寝させてくれる。モモフクを見て、得体の知れない興奮を覚えている。
2階ではタキコの他に、近隣の温泉宿で芸妓をしているフミエとイクがいる。親子ぐらい歳が離れており、タキコも入れたら、3世代の家族みたいな感じだ。
この一帯は冬は豪雪で閉鎖される。もちろん、近隣の温泉宿も。雪解けを待ち、また出稼ぎに芸妓たちがやって来る。
でも、それもいつまで続くかは分からない。新幹線が通るので、取り壊しの話が挙がっているようだ。タキコはここで死にたかったと寂しがる。
そんな話をしているうちに、芸妓の出勤の時間となる。

風呂場をサンスケが日課の掃除。
モモフクが入って来る。脱いで湯船に。サンスケは異常な興奮を覚えている。
マツオとイチロウも入浴。
サンスケは皆の背中を流す。
マツオはイチロウを見詰める。彼から感じる闇の奥深くを覗きたい気持ちが湧き上がっている。
タキコも入浴。
イチロウに話しかける。イチロウの母は生まれてすぐに亡くなった。結婚はしていない。学校も行かずにずっと父と一緒に人形劇をしていた。そんな話から、タキコはイチロウに闇を感じる。そして、そんな親子に念仏を唱える。

風呂上がり。
マツオは、モモフクやイチロウと一緒にいることで湧き上がる欲望を自分で制御できないことが不安になっているのか、散歩に出掛ける。
モモフクとイチロウは、軽く食事。芸妓たちが宴会が終わって戻って来る。
タキコからモモフクとイチロウのことは聞いており、酔いの力も借りて、フミエとイクは部屋に上り込む。
酒をイチロウに薦め、大騒ぎ。モモフクは一服して何も言わない。イチロウも一杯だけ付き合うと言って、ただ黙っている。
そのうち、人形劇が見たいと芸妓たちは言い出す。イチロウがやんわり断るが、三味線を披露するから、次に人形劇をしろと勝手に三味線を弾き出す。
2階にいたタキコは、その三味線の音を聞き、いつもと違って何か火がついたのか、かつて芸妓をしていた頃を急に思い出す。階下に下りて、迷惑をかけるなと二人に説教。
しかし、それをモモフクは制して、人形劇を始めようと準備をする。
外で様子を見守っていたサンスケが、部屋に入ってきて、簡単な舞台を作る。
イチロウの胡弓。モモフクの操る怪しい人形。人形と絡み合うモモフク。美しい音色を奏でるイチロウ。
サンスケは外から見ながら、歓喜に溢れている様子。
戻って来たマツオは、恐れおののき、その場にへたりこむ。
タキコ、フミエ、イクは、身動きできずに、ただ息を呑んでいる。
やがて、人形劇が終わり、モモフクは疲れて寝る。
タキコは、モモフクとイチロウに感謝をして手を合わせる。
フミエとイクは茫然としながら2階に上がっていく。
マツオは震えながら、眠ることすら出来ない状態だが寝床に就く。

イクはサンスケの下に向かう。39歳。子供を産むなら、あと1年と思ってるから。
タキコとフミエは寝床で、人形が怖かったことを語り合う。
やがて、タキコはタバコを吸いに玄関先へ。フミエは子供を産めなかった自分を思う。無性に泣きたくなり、玄関先へ。
マツオは、暗闇の中、人形に触れる。気が触れたように怯えて、風呂場へ。サンスケとイクがセックスをしている中を突き抜けて、湯船に。湯を目にかけて、飲み、意識喪失の状態に。
イチロウは、人形を抱き締めてぐっすり寝ている父を見て、少し笑みを浮かべながら、宿の中を回る。
喘ぎ声をあげてセックスをし、終わって餅を貪り食うイクとサンスケ。
湯船で茫然としているマツオ。
涙するフミエの頭をなでるタキコ。
タキコは、そんなイチロウを見て、真っ暗だと言う。

翌朝、フミエとイクは風呂に。タキコも入って来る。マツオは昨晩から、湯船でボーっとしたまま。
モモフクとイチロウが人形を連れて、風呂に入って来る。無邪気に人形に湯をかけて、入浴させるモモフク。
マツオはその姿を見て、ひたすら湯を吐く。その後、マツオはここを去って行ったらしい。
モモフクとイチロウは、始発のバスで東京に戻る。その帰り道、二人は笑顔で互いを見合う。普段は、みじめな自分たちを求めて呼ばれる。でも、ここでの時間は少し違った。また、呼ばれたところで余興を演じる日々が続く。
冬がやって来る。
この辺り一帯は閉鎖。温泉の湯だけ湧き続ける。
でも、今年の冬は重機の音が迫ってきているようだ。

夏がやって来る。
あの温泉宿にはイクがいる。赤子を抱えて。
夏らしい蝉の声に混じって、どこかから重機の音が聞こえてくるような。
そんな音に耳をすまし、外の景色を眺めているイク・・・

無明というのは仏教用語で苦の根源みたいなものらしい。人間の苦しみは、全て、この無明から始まるのだとか。
この無明から解放される姿を見せているのかな。
それはあくまで各々の形であり、必ずしも、幸せを掴めたのかは分からないところはあるが、苦からは解放された感が残るラストだったように感じる。
マツオは目が見えない。そのことから、無気力になり、食欲もほとんど無くしてしまってるみたいだ。
タキコは、若かりし頃の自分を思い、傍にいる若い芸妓たちに嫉妬の念を抱くが、歳のせいか、諦めの感情の方が強く、ただ生き長らえようとしている。
フミエは芸妓として熟練しているが、この先のこと、特に子供を産めず、家族がいないことに不安を抱いているようだが、もうどうしようもないという考えが先に来るみたいだ。若かりし頃のまだ色々と選択肢があった頃の自分をイクに、自分の将来の姿をタキコに見ているのかもしれない。
そんな無気力とか諦めとか、それを極められればいいのかもしれないが、どこかで何とか出来ないだろうかという意識もあるみたいで、彷徨って、心に苦しみを抱えているかのよう。
そんな心の闇を照らしてくれたのは、光のような輝かしい存在では無い。
小人症。その小人症の父に仕える息子。そんな単純な、もっと深い闇。
その闇から、自分たちの闇だと思っていたところから、まだまだたくさんの欲望が沸いてきて、それは闇なんかでは無かったことに気付く。
溢れ出てくる欲望が、自分たちが心安らかに生きる力となったのか、その溢れることに押し潰されてしまったのかは、各々のようだが。

サンスケとイクは、上記の人たちとは少し違って見える。
サンスケは小児愛とか異形愛といった性愛嗜好があるのだろうか。それを封印しているのか、言葉を発しない。しかし、人形師のモモフクの姿を見て、そこにある欲望を抑え切れなくなってしまったかのよう。でも、それを逆に受け入れることが、モモフクの演じる人形劇から出来るようになったように感じる。観終えて、息を吐く彼の姿には安堵のようなものを感じる。
イクは貪欲だ。子供を産んで、芸の仕事も極めてと欲望を溢れさせる。その溢れた欲望の行き場所が無くて、彷徨っているかのよう。人形師親子の何がきっかけになったのかは分からないところがあるが、彼女もまた何かしらふっ切れたような表情を見せている。
感覚的には、サンスケとイクは、温泉のように溢れ出す湯に、何か違和感を持って、それを抑え込まないといけないのだと苦しんでいたように感じる。
タキコ、マツオ、フミエは、自分たちはもう枯れた温泉であり、溢れる湯などもう無い。そう思いこむために、地下深くでグツグツと湧こうとしているその熱い湯に目を背け、そんなものは無いし、溢れることは無いのだと抑え込んで苦しんでいたように感じる。
全ては心に苦しみを抱える自分たちの闇のせいだと考えていたが、そんな闇など無かった。自分たちはただ、当たり前の温泉、欲望を湧き続けさせる人間であることを知る。欲に囚われるなんてことは罪深きことではあるが、でも、それが人間という者。だからこそ地獄谷温泉なのかなと。

そして、ここの人たちと同じように、この温泉宿自体が無明の存在だったように見える。
ひなびた山奥の温泉。誰が来るわけでもなく、近くに住む人たちが立ち寄るだけ。病気を治す効果・効能などがあるのか無いのか、世間から離れて、ただそこにあるだけ。長い冬で閉鎖されて、誰一人いなくても、ただそこにあるだけ。雪解けの時期を迎えても、さして何も変わらない。ただ、湯だけは溢れ続ける。
みじめな温泉。このまま廃れてしまうのをただ待つのみ。
でも、新幹線が通る計画が起こり、本当に取り壊されることになる。
その時に、まだ、溢れる湯の力を温泉宿は知ったかのようだ。自分で自分を抑え付けていただけで、本当はまだ多くの人たちにくつろぎや癒しを与える大きな力が自分にはあることを知る。人と同じように闇というものを自分で作っていただけで、本当はそんなものは無かった。だから、どうにかしたいという活力を得る。
人形師親子を呼んだのは、宿なんじゃないのかな。スリッパとか用意されていたし。
遠くで重機の音が聞こえる。きっと、それは怖い音だ。
また、それを恐れて心の闇を創ってしまうのかもしれない。そして無明の宿となり、無明で苦しむ人たちを引き寄せてしまうのかも。
でも、それに混じって聞こえる自然の綺麗な音色もある。さらには、新しい命の声も今は響いている。それをこの地に残したい。そんな気持ちが湧き上がるような音。それに耳をすまして聞き、風景を見て感じ取り、自分の言葉で語る。
そうすることで、心安らかに過ごせるこの宿が続くことが出来るように感じる。宿だけではなく、人間も。
人形師の胡弓の綺麗な音色と、異形の恐ろしい人形が織り成す劇も、そんな闇との付き合い方を教えてくれていたように思う。

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