王妃の肖像【演劇ユニット有職文様】161123
2016年11月23日 吹田メイシアター 小ホール (55分、休憩10分、55分)
マリー・アントワネットの心の葛藤を描きながら、フランス革命の歴史を描き、それを今の日本に生きる自分たちの姿と照らして考えてみるような作品でしょうか。
経済破綻による先行き不安、国政に対する不信、格差社会への妬み、変革への見出せない方向性など、類似しているような要素は確かにたくさん感じられます。
今がフランス革命前夜にいるという感覚ではなく、そんな歴史を創る欠片が揃いつつあり、何かの拍子で、あのおぞましい形を生み出さないかと不安を覚えるような感覚にさせられます。歴史に疎い私でも、ある程度はきちんと話の流れを掴める分かりやすさ、常に日本を意識させるようなキャラ設定や演出、歴史的なところだけに焦点を絞るのではなく、人の心情の脆さや弱さにも、視点が向くように観ることが出来る構図で、舞台に惹き込む力のある作品でした。
2011年3月末。
東京のある美術館で、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの回顧展が開催される。
震災後、まだ、街は暗いところもあるが、ようやく復興の兆しが見え始めた頃。
学芸員は、ある絵の前から離れない、老婦人を見つける。マリーアントワネット王妃の肖像画。
話しかけると、その老婦人は、この絵を見ていると、自分の思い出が次々と蘇ってくるのだと言う。そして、その自分の人生はルブランと重なり、そう、まさに私がルブランなのだと。
学芸員は少し頭がおかしいのかと思うが、美術館に飾られる絵に描かれた様々な貴族たちが絵から飛び出て動き出す。
そして、美術館は1778年のパリとなる。
これぞ貴族といった華やかなドレスを纏った貴族たち。
アルトワ伯爵が、ポリニャック伯爵夫人とシャルトレ子爵夫人と話をしている。
マリー・アントワネット王妃が懐妊した。
8年前に、国民たちの盛大な祝福の下、オーストリアのハプスブルク家から、このフランス王族に嫁いできたアントワネットにようやく、世継ぎが出来た。
それは財政難により、絶対王政が揺るぎ始めていた王族たちや、経済難で生活に苦しむ国民たちにとって、待望の出来事であった。
本来ならば、次期王子になる可能性のあったアルトワ伯爵は、嫉妬からかアントワネットの不倫疑惑を口にしたりして、皆からたしなめられる。
今、一番幸せなアントワネット。その肖像画を描くために、一人の女性が宮殿に招かれる。
ルブラン夫人。最近、注目を浴びる新鋭の画家で、まだ若く、王族の肖像画をこれまで描いていたアカデミーの会員でもない。そのことをアルトワ伯爵は辛辣な言葉で批判するが、アントワネットはルブランに優しい言葉をかけ、まるで友達かのように親しく接する。
国民たちの噂では、アントワネットは冷たく、自分のような平民とは口も聞かない、高飛車な女性。
それとは真逆とも言える、その美しい容姿はもちろん、心の美しさにも触れたルブランは、アントワネットを優雅の結晶だと、深く敬う。
アントワネットは、そのルブランの言葉に、その優雅の結晶の種は何なんだろうかと物憂げな表情を浮かべる。
ルブランは肖像画を描き始める。
アントワネットは、子供が娘だったら、世継ぎにならず、多くの人が失望することを怖れている。
しかし、ルブランは、もし娘だったら、一緒に話せる素敵な相手になると語り、アントワネットに励ましを与え、いつも正直な本当の想いを伝える。
そんなルブランをアントワネットも信頼し、心を寄せるようになる。
アントワネットの女官たちを従えるカンパン夫人は、そんなルブランに調子に乗らないようにとくぎを刺し、賄賂を要求する。
アントワネットの心配は現実となってしまう。
生まれたのは娘。
国民たちも、王族たちも失望を高める。
さらに、アントワネットの母が崩御。
孤独から、アントワネットは引きこもるようになり、一部の貴族としか付き合わないようになる。
そんな態度が、どんどん、皆のアントワネットに対する反発を強めていく。
しかし、翌年、アントワネットは王子を出産。
まるで、冬から春が訪れたかのように、国民たちは掌を返して、アントワネットを賞賛する。
アントワネットは褒美に、豪勢な部屋を与えられ、そこで、ルブランやポリニャック伯爵夫人との仲を深めていく。
ポリニャック伯爵夫人は、侯爵夫人に格上げ。
ルブランはアカデミーの会員となる。
王族たちの圧力が働いた。
しかし、アカデミーは、ルブランと同世代の注目を浴びている画家、ギアールも会員とする。
ギアールは娼婦などの平民たちの、生活する姿を露わに描き、食うために必死に生きる平民の王族への批判を煽る危険思想の持主。
アカデミーは、王族の推薦するルブランに対抗する姿勢を見せた。これは、絶対王政の時代では考えられなかったことであり、王子が生まれても、王族の力の衰退は止めることは出来なかった。
首飾り事件が世間を騒がす。
英雄を気取り、革命をと意気込んだ若々しい青年やアントワネットに冷たい態度をとられているシャルトレ子爵夫人が騒いでいる。
事実は、アントワネットを語る伯爵夫人が、枢機卿が宝石商から買った首飾りをだまし取ったというもの。
いつの間にか、この世界に巻き込まれてしまった学芸員は、ここでは、後のフランス革命の立役者であるミラボー伯爵となっている。歴史の勉強をして得た知識から、アントワネットは何も悪くなく、疑われるのは事実無根であることを説明する。
しかし、そんな言葉で歴史は変わらない。
民衆は噂にすぐのってしまうから。
国政は三部会で行われるようになった。
貴族が平民を国政に参加させることで、王族の権力を陥れようと考えたみたいだが、実際は、貴族への課税を平民は追求し出し、その思惑は外れてしまう。
アントワネットの王子が亡くなる。1789年。
国王はいたく悲しみ、国政はアントワネットが代わりに行うようになる。
その頃から、アントワネットから温かみは消え、冷たい魔物のような姿を見せるようになる。
アントワネットへの批判は高まり続ける。
それでも、、ルブランは、アントワネットがかつて見せていた姿を信じる。
まるで平民かのようなみすばらしい姿の中に、彼女の優しさ、温かさが滲む絵。ルブランはアントワネットと絆を深める中で、そんな絵に彼女の本当の姿を見出す。しかし、同時に、アントワネットは、王族としての権威を象徴する、冷淡な支配者の姿での絵も描かせている。
アルトワ伯爵はルブランに言う。
アントワネットは平民のことなど考えていない。冷淡な支配者の姿こそ、彼女の本当の姿。だって、彼女は平民にはなれないのだから。あなたが、いくら絵で、理想の姿を描き出そうと。
それに、あなただって、かつて、私と床を一緒にした時に、国民の噂通りの、アントワネットを罵る、批判的な絵を描いていたはず。あなたの心の中には、彼女に対する怒りや妬みがあるはずだと。
違う。混乱するルブランは、妄想の中で、革命派のギアールから渡された自らの筆で、アントワネットを刺し殺す幻影を見る。
1789年6月。
革命家、デムーランが扇動する大衆が宮殿を取り囲む。
シャルトレ子爵夫人は、議会政治をアントワネットに提言する。このままでは貴族が民衆に滅ぼされてしまうと。
ミルボー伯爵となっている学芸員も、その考えに賛同して、歴史を変えるべく、アントワネットに歴史の事実を語る。
でも、アントワネットが選んだのは弾圧。外国人部隊により、民衆を退け、宮殿を守ることだった。
そして、ついに民衆は立ち上がる。
完全に包囲された宮殿。
アントワネットはルブランを呼び、ある絵を見せる。ハプスブルク家代々の者を描いたもの。
この醜い姿を見て、いつも呪われた運命、血を怖れていた。
シャルトレ子爵夫人がやって来る。アントワネットに助けを乞う。民衆たちは自由と博愛の精神の下に、貴族たちを殺すつもりだと。
アントワネットはその言葉に耳を傾けず、ポリニャック侯爵夫人にオーストリアへの亡命を願う。固辞するも、結局は復興のために、宮殿を後にする。
アルトワ伯爵も宮殿から出て行く。別れ際に、アントワネットに、ルブランがアントワネットと出会う前に描いた絵を見せる。
生活のために絵を描く。アルトワに身を売って、そこそこ有名になる。全ては食って生きるためだ。
あの日、アントワネットが、このフランスに嫁いできた時、多くの国民は盛大に祝福した。でも、その希望の中に、私と同じように、みんな妬みを潜ませていた。
アントワネットはそれに気付いていた。皆の失望、妬みという種が、自分の優雅な結晶を創り出していたことを。
だから、ルブランに2枚の絵を描かせた。平民のいで立ちの自分、そして、絶対的な支配者である王族の自分の。その照らし合わせた中に、自分の人生が見える。
アントワネットは、ミラボー伯爵にこれからを託す。
王族と平民の懸け橋となれる存在に。
ここは東京の美術館。
そこで、見るかつてのフランスの姿。
やがて、起こるかもしれない争乱。これは、これからの日本かもしれない。
アントワネットは、歴史の欠片となる。
華やかなドレスを脱ぎ捨て、その最期の道を歩む。
私たちも、そんな歴史の欠片だ。
それは、時空を超えて、万華鏡のように、一つの形を生み出す。
老婦人は夢から醒める。
学芸員は、あの世界で英雄を語る青年から仕事の呼び出しを受ける。彼の仕草はどこかナポレオンのようだ。
孫が迎えに来る。老婦人は、少し、ボケ気味らしい。
二人は、一つの歴史の形を蘇らせたその美術館を去り、これからの時代を創り出す欠片として、外へと出て行く・・・
貴族が白塗りで宮言葉。ルブランは武士のような忠誠、奉公を思わせる言葉使い。
それに、時折、今風の現代言葉が混ざり込む。
これが終始、フランス革命のシーンを描きながらも、どこか、日本のいつかの出来事を描いているような感覚にさせられる。
これがラストのこれからの日本を思い起こさせるような感じになっているのかな。
戦前と似ていると言われる今の日本。
あの時の歴史の欠片が、今、たくさん揃って、万華鏡のように、何かの拍子にあの戦争へという形を生み出しやすくはなっていないかという警鐘でしょうか。
フランス王政のように力衰える国政。大衆も、貴族のような上流有力者も、そんな国政に怒りと失望を向ける。それは政治だけではなく、首飾り事件のようなスキャンダルをネタにもして。
同じように国政に失望する大衆と上流有力者との間にも隔たりがある。格差社会で鬱積する妬み。
フランス革命は民衆が立ち上がった。しかし、それは狂気的にすら感じる革命だった。
もし、今の日本がそんなフランス革命前夜にいるというなら、この歴史では誰が立ち上がるのだろうか。国政と大衆の懸け橋となれる、学芸員のような上流有力者がいるのだろうか。青年のような英雄が現れるのか。でも、それはナポレオンのように軍事政権への道へとは進まないか。
日本は今、色々な問題はあるにしても、平和で、食えないまでではない。このあたりは、少し崩れてきてはいるが。
そんな優雅な姿が、人の妬みや失望を種にして作られているならば、やがてそれは壊れてしまう。偽りの姿を脱ぎ捨てて、歩み始めないと、今、観た景色と同じものを体験することになるかもしれないという警告を発しているように感じます。
アントワネット演じる、石井歩さんの心の葛藤がよく伝わる表情、空気の変化。
ルブラン演じる、石川信子さんの凛とした佇まいの揺らぎから感じられる人の心の弱さ。
学芸員演じる、本田正明さんの飄々とした中で芯にある良き道へと進んで欲しいという祈り。
皆さん、なかなかの熱演でしたが、お三方が特に印象に残ります。
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コメント
SAISEI様
やはり行かれましたか? 行くつもりでしたが仕事が入り。。夜にアトリエ劇研へうさぎストライプ『みんなしねばいいのに』を観に行きました。
伊藤さんどうだったのかな?
投稿: KAISEI | 2016年11月23日 (水) 21時57分
SAISEIさん
12/16(金) 「幽霊はここにいる」 人間座
12/16(金) 『2人の「つながせのひび」』 ソノノチ
12/17(土) 「王国夜物語」 劇団プラネットカンパニー
12/17(土) 「善国創造記」 劇団空組
12/19(月) 「THE WILSON FAMILY」 THE ROB CARLTON
12/22(木) 「遠ざかるネバーランド」 劇団月光斜
12/24(土) 「銀河旋律」 同志社小劇場
12/25(日) 「Dilemman-Being~イツモソコニイル」 劇団赤鬼
※「僕たちは、世界を変えることはできない」 夕暮れ社 弱男ユニット、「Dilemman-Being~イツモソコニイル」 劇団赤鬼、「3人芝居クリスマスケース 」 ゲキゲキ、「Cheeky,Noisy,Holy Night」 Cheeky☆Queensは仕事のため断念(>_<、)
今年は以上で観劇納め。計265観劇で終了。
Twitterもblogも更新ないので心配ですね。
【KAISEI1月の予定ラインナップ】
●第三劇場プロデュースユニット甘蛙 第二回公演『JEWELRY HOTEL』
●四方香菜Produce「ガウデンテVolta ~私の守りたかったメロディ~」
●FSアカデミー×アカルスタジオ「おばけ少女スピカ~黒猫と屋根裏部屋の秘密~」
●VOGA『Social talk』
●柿喰う客『虚仮威』
●ステージタイガー『ファイアフライ』
●オッドテーラーズ×カヨコの大発明×Micro To Macro合同公演『3MAP』
●劇団ゴサンケ『Doroshy-ドロシー-』
●evkk『タトゥ』
●劇団ZTON「 覇道ナクシテ、泰平ヲミル【護王司馬懿編】」
1ヵ月の観劇費を20,000円以内に収める試み1月目(笑) これでも2700円over(苦笑)
後は仕事の公式発表待ち。第三劇場プロデュースユニット甘蛙が来年の観劇初めになりますね。
投稿: KAISEI | 2016年12月24日 (土) 21時49分
>KAISEIさん
歴史の勉強も兼ねて。
伊藤さんは大衆を扇動する革命家として最後の方で登場。
重要な役どころですが、出番としては少なめだったかな。
投稿: SAISEI | 2016年12月29日 (木) 13時23分