蟷螂襲短編集【JUIMARCとパプリカン・ポップ友情企画】161029
2016年10月29日 common cafe (65分、休憩10分、65分)
女性二人の会話劇、2作品。
姉妹と友達と設定は異なるが、2作品とも同じ構造のような印象を受ける。
幼さを残す人と大人。
辛さや苦しみ、悲しみを漠然としてしか理解できておらず、それでもどこかに根付いているものに不安を覚える人と、そんな辛さを彷徨いからようやく道が見えてきたのか乗り越えつつある人。
そんな二人が互いに話すことで、各々の一歩を踏み出せているような感覚。
相手のことを分かっているから話せるし、分かるから聞ける。
通じ合ってるっていいなあ。一つの一つの言葉から、その人の心を自然に紐解いて、相手の心に寄り添おうと、本当に自然体でなされている素敵な関係。
きっと立場が逆転しても同じなのだろう。
今、生きる社会、時代。今じゃなかったら出来た、出来るのかもしれないけど、いつだって私たちは今の時間を過ごしているから。頑張ってもどうにもならないこと、自分だけではどうしようもないこと、そんなたくさんのことに悲しみや悔いを抱えながら生きている。
押し潰されそうな不安。でも、その抱えているものに目を向けて、少しだけでも一緒に抱えてくれようと差し伸べられる優しい手。
そんな感覚を覚える作品に、安堵と嬉しいような気持ちを思い起こさせてくれる。
・パプリカン・ポップ 「ぎんのはつこい ~朝子と珠子」
東京オリンピックの熱気もようやく落ち着いた頃。
編み物する姉に、妹がその様子を興奮して話す。
サブローの家でテレビを観たらしい。一瞬、表情が険しくなる姉。
それを察してか、みんなで観に行ったのだと妹は言う。友達のハツエも、どこかのおばちゃんも、兄さんも。
兄さんはマラソンだけ。選手たちは健闘し、メダルは幾つか獲得しているものの、国立競技場に日の丸がまだ揚がらず。諦めていたが最後の最後に揚がった。戦争が終わってから初めて、掲げられる日の丸を尊く感じたと、兄は涙を流して喜びの声をあげたらしい。
今度のオリンピックの頃には、テレビも安くなって、家でも観れるようになるのかも。妹は姉からそんなことを聞き、期待に胸を膨らませる。
兄がマサミさんの話をしなくなったのはいつからだろうか。
妹は姉に話す。
この前、街中でマサミさんの姿を見つけた。人混みの海の中で足がすくみ、追いかけることも、声をかけることも出来なかった。兄は、きっと今でも沈んで消えてしまったマサミさんのいない海をただ眺めているのではないだろうか。
姉はそのことは兄に言ってはいけないと言う。私は、マサミさんにどうして兄と別れることになったのかを聞きたいのに。
妹は続ける。マサミさんを見たのはハツエと一緒だった。ハツエは人混みの中で立ちすくみ、溺れそうになっている私の手を掴み、人混みから連れ出してくれた。その後、すぐに今度はハツエは立ちすくむことになる。ハツエのお母さんが傷痍軍人にお金を渡していたかた。普段は傷痍軍人を見かけても、見てはいけないと言っているのに。ハツエの父は戦争からまだ戻って来ていない。
姉が兄がトマトを嫌いな理由を話し出す。
兄とサブロー。少し歳下のアキラ。3人はいつも一緒。アキラは戦争で母と祖母を亡くしており孤児。戦争から父が帰ってくるのを待つしかなかった。
ある日、アキラはトマトを店から盗んで逃亡。その途中で米軍人の車に轢かれた。遺体は包まれ、米軍人の車でどこかへ連れて行かれた。後には、崩れたトマトだけが残っていた。雨が降ってきて、それはやがて道に広がって薄くなっていった。
姉は、話したことは兄には内緒と言うけど、この話は兄から聞いたことがある。
この後、姉は道に転がったトマトを拾ってどこかへと立ち去っていく。兄もサブローも触れることが出来なかったトマト。
妹は姉にそのトマトをどうしたのか聞く。原っぱに埋めたらしい。少し盛り土をして、花を一輪。
まだ背も低かったアキラ。大きくなる前に死んだ。本当なら、自分の背なんかすぐに抜いていただろうに。
初恋だったの。そんな妹の言葉を軽く流して姉は続ける。
爪を切ってあげた。その手で頬を触られた。ずっと触りたかったけど、いつも汚い手だからと。 夢に出てくるアキラはすっかりおじさんになっていたりする。もうその原っぱは無くなった。でも、アキラのことは心に刻まれている。
妹は早く生まれてこなかったことを疎ましく思うと言う。
五輪の開会式。飛行機から放たれる雲が青い空へと広がって消えていく。そんな空を見上げながら、兄は初恋だったと言っていた。片思いは辛いとも。
姉は妹がこの家にやって来た時のことを話す。まだ幼い妹。嬉しかった。早く生まれてくる必要なんかどこにもない。
妹が姉の編んでいるマフラーのことを聞く。
兄のために編んでいるらしい。これから寒くなる。それに夜勤も増えるみたいだし。
どうして、兄は夜勤をするのだろう。昼間に眠って、誰とも会わなくてすむからだろうか。
姉はマサミのことを話す。兄はマサミともう2年前に別れた。その後、すぐにマサミは結婚。裕福な家に嫁いだらしい。そして、すぐに離婚した。今はこの町に戻って来ている。
兄もマサミを見たらしい。目つきも変わって、すっかり人が変わってしまっていた。どうして、あの時、行くなと言えなかったのかと悩んでいた。
妹はそれでもマサミに兄のことを聞きたかったと言う。
各々、色々と事情があるから。姉はただそう答える。
妹は、ハツエの父のことを話す。もう帰って来ることは無い。家に空の箱があった。届けられたそれがハツエの父らしい。お国ための日の丸はもう十分だ。
そんなハツエは今、恋をしている。初恋だ。だからなのか、綺麗になった。
世界の果て。私たちはそこにいるのかも。姉はそうつぶやく。
サブローの初恋。それはいつまで、このままなの。妹は姉に聞く。
玄関先でドアを叩く音。姉は玄関へ向かう・・・
昭和臭漂う。この空気を巧みな役者さんが見事に醸す。
幼い心にたくさんの不安を抱えているような妹を姉が優しく見守り、その妹もまた、大人である姉や兄が外に出さないで抱え込む悲しみに純粋に寄り添おうとする。
抱き締めたくなるような、人の優しさに溢れている話だと感じる。
当時は、戦争の傷、未だ癒えず、ようやくその傷の深さを受け入れられるようになった時代だったのだろうか。震災直後に被災者の方々が、その心情を語れないような状況と同じ感覚だろうか。
確かに戦争はあった。だから、多くの人が亡くなった。その事実が、考える間も与えないような混沌の時を経て、今、生きている人たちに突き付けられる。そして、それに想いを馳せて、これからに目を向けられるようになったような感じか。
初恋。人を愛した記憶。それは、いつの時もずっと続く。私たちにはそんな純粋な人を想う気持ちがあるのだから、そこに未来の光は見えるような感覚を得る。
・JUIMARC 「いつのまにか、ちがう野原を歩いてる」
2年前に拝見した作品。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/65-0472.html)
あらすじはリンク先参照としたいところだが、後半部分をほとんど書いていませんね。
流産して、もう1年経ったことや、海に一緒に行った人とのお別れの話がまるごと抜けてる。
もしかしたら、意識を飛ばしてしまっていたのだろうか。寝た時は寝たと、分からない時は分からないと、失礼とは言え、なるべく正直に書くようにしているのですが・・・
それに、どうもきちんと把握できていないところがあったみたい。
今回拝見して、感じるのは喪失からの脱却みたいな感じでしょうか。
失ったことを、初めから無かったことにしたり、取り戻したいという当たり前に湧き上がる気持ちを無理に抑え込んでしまう。
悲しく、辛く、悔いがあっても、失ったことを受け入れ、失いたくなかったという本当の気持ちもそのまま受け止める。
それはとっても厳しいことで、そうするには勇気や覚悟がいるし、受け止めることで、より一層大きな悲しみと戦わないといけないのかもしれません。
だから、傍に人がいる。
自分もそうだった、自分もあなたと変わらない。だから話をして、互いに欠けてしまった心を埋め合おうみたいな、信頼関係が浮き上がるように感じます。
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コメント
SAISEI様
最初は予定に入ってたんですが。。カフェ公演ということもあり押し出されちゃいました。
当ブログで楽しみます(笑)
投稿: KAISEI | 2016年11月 4日 (金) 00時14分
>KAISEIさん
これは観ていただきたかった。
COMMON CAFEだから敬遠されたかなとは思っていましたが。
席は意外に悪くなかったですよ。
脚本の力と、女優さんの力が、見事に相乗効果を生み出した作品だったように思います。
投稿: SAISEI | 2016年11月10日 (木) 17時29分