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2016年10月24日 (月)

ロイドと【劇団ガバメンツ】161023

2016年10月23日 space9 (100分)

コメディーしかできない劇団。
この劇団のキャッチフレーズみたいだが、これまで、その通りの様々なコメディーを楽しませてもらった。
だろうなと思っていたけど、やっぱりコメディー以外も出来るんじゃん。それも、今までの上質な空気をそのまま保って。

人はみんな、孤独を、寂しさを怖れ、人を求める。そんな中でも、生きていかなくてはいけない。ただ、命を長らえるのではなく、社会の中で生活するという意味合いも込めて。
生き辛い世の中。募る孤独の不安。そんな、自分を取り巻く渇いた空気を潤したいと加湿器の力を借りる。
物理的に乾いた肉体に水分を補給するためではない。潤うことで、その人の中に生きていく活力を与えてもらうためなのかと思う。
それと同じように、寂しいからと、会いたい、一緒にいたい人を、装置の力を借りて具象化する。画像や動画では足りないから、もっとその人自身を求めて。そんな人工知能が未来には出来るのだろうか。
出来ても、それはきっと肉体に水分を補給するだけのような加湿器をより高性能化しただけのものなんだろう。
人が求めるのは、その人と会って、そこで想いを通じ合わせながら共の時間を過ごすことなはず。
単純なある期間、一緒にいましたという記録ではなく、その期間に互いに心を通じ合わせようと触れ合った時間、思い出、記憶なのでしょう。
そんな人工知能の限界をコミカルに見せながら、閉じてしまった人の心に入り込み、外に連れ出してくれるのは、想いを持てる人以外は無いんだろうなと思わせるような優しい、安堵を得るような気持ちになる作品でした。

今、現在でも、友達や恋人を、そんな自分の理想する形で人工知能に委ねることが出来るのだと思います。
様々な仕事も、やがて人工知能に置き換えられるなんて報道もよく見かけます。例えば、医師の診察だって、巨大なデータベースに頼った方が的確な診断ができるのだとか。
でも、それは本当でしょうか。こちらの痛いとか苦しいとかを、人以外が理解してくれるのでしょうか。
そんな人との触れ合いが必要な様々なことに対して、人工知能が取って代われると思えてしまうぐらいに、そこに人の感情や想いが無い世界になっているのかもしれません。
そんな本当に渇ききってしまったような世界に、警鐘と潤いを与えようとする作品にもなっているようです。

<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は、本日、月曜日まで>

東京五輪も終わった2021年。人工知能なんて技術も格段と進歩しているのか。
春子は大学卒業後も、専門学校の非常勤講師をしている冴えない叔父の家に転がり込んで、引きこもりの日々を過ごしている。
部屋にはその人の言葉、表情から感情を読み取り、それに合わせた音楽をギターで奏でるという、この時代、誰もが持っているという装置がある。
していることと言えば、週一、金曜日だけ居酒屋でバイト。至る所で腹筋をする動画を投稿しているフッキンというハンドルネームの男の動画を見る。あとは、空の写真や自撮りの変顔を、かまってオーラを出した意味深な言葉と共にツイートするくらい。
こうなったのは、もちろんだらしない性格もあるが、大好きだった飛雄と別れてしまってから。飛雄は結婚した。それももう2年前の話だ。
そんな春子を叔父は諌めるが、自分も寂しいのか、お見合いパーティーに参加したり、無理して若者に合わせたりして、女性といい仲になることを妄想するような日々を過ごしており、偉そうなことを言える身分では無い。

春子の部屋を訪ねる女性。あい。飛雄の妹。
あいは、春子に励ましなのだか、けなしているのか、キツイ言葉を投げ掛ける。
元彼の妹に説教されるとは、春子も情けないところだ。
しかし、それには理由があった。叔父にも協力をしてもらって、2ヶ月前に忘れていた誕生日パーティーをサプライズでするつもり。
あいの彼氏、フッキンでお馴染みの男にも協力してもらいプレゼントも用意した。
でも、不器用な叔父のおかげですぐにバレる。あいは考える。別れた彼氏を吹っ切れていない春子に、今の彼氏を見せること、そして当たり前だが2ヶ月遅れで誕生日パーティーをすることの不謹慎さを。
結局、プレゼントは自分でちょっと早いクリスマスプレゼントだとして渡す。
プレゼントは、最近、流行りの人工知能を備えた加湿器、LOID。

春子は、母が亡くなった日でもどうしていいのか分からず、居酒屋のバイトに来るような、どういうテンションで生きているのか掴めない石黒という男がいる店でバイト。
フッキンの動画は、再生回数に囚われ過ぎているのか、過激になるだけで、以前ほど面白くなくなった。
家に帰ったら、LOIDをいじる。携帯と連動させて、保存された飛雄の動画や写真を見る。そのうち、LOIDに顔を描いて、悲しみを紛らわすようになる。
春子のLOIDは、春子からの情報により、学習して、飛雄らしくなる。ヒョロっとしていた飛雄。タワー型のLOIDに顔を描けば、確かにそれは飛雄だ。
凄いものだが、天気予報や交通情報など、まだまだ人間にかなわないところも多い。人間の経験に基づく経験や知識に追いつくまでのレベルには至らないようだ。
しかし、LOIDと連動するように春子に自我が芽生え始める。バイトも週ニになり、外に目を向けるようになった。

飛雄は妹のあいの下に身を寄せている。離婚を考えているらしい。始めからあいは反対していた。
飛雄は春子のことを口にする。あいが春子と会っていることは知っている。やり直したい。だから、会えるように取り計らえと。
しかし、今、春子は飛雄のことをようやく忘れかけている。そう思っているあいはそんな勝手を許さない。
飛雄とあいは口ケンカ。
そんな修羅場の中で、ひたすら腹筋する自分を動画撮影するフッキン。
そんなフッキンに苛立ちを覚え、あいは責めるが、そんなものは二人でマッスルすることでうやむやになってしまう。フッキンはそんなマッスルも、課金が必要な大人の時間と称して動画をアップする。

居酒屋。大口の団体キャンセル。それでも、石黒は懸命に明るさを保って、元気に働く。でも、そんなことも限界がきて、感極まる。確かにいなくなってしまった母。自分にはもう誰もいない。そう言って涙を流す。
春子は体脂肪率を計ろうととLOIDを抱き締める。不意に気付く。飛雄はもういない。涙が溢れる。
春子はその別れを受け止めて、外の世界にもっと目を向けられるようになったみたいだ。
そんな春子の再起とは逆に、周囲の人には悩みが降りかかっている。
フッキンと上手くいかないあい。それに春子の目が自分だけに向いていないことに苛立ちを感じ始めている。友達がいないのだ。
一向に女性に相手にされないおっさんの叔父。
あいの気の迷いか、二人は体を重ねる。
そんなあいの心の乱れをフッキンも感じ取り、イライラしている。別れ話にもなる。でも、あいはフッキンと別れたくはない。それはフッキンも同じ。二人は傷を舐め合うようにマッスルに励む。
石黒は寂しさをフッキンの大人動画で紛らす。元々、人間には興味が無いのだとか。生きている人が面倒くさいらしい。だったら、LOIDが合っているのでないか。
春子は石黒を家に招き入れて、LOIDを紹介。でも、石黒は春子に欲情する。
襲われそうになった時、LOIDは叔父から電話がかかっていると音声を発する。石黒は我に返って立ち去る。
叔父から電話などかかっていなかった。
LOID、飛雄が春子に嫉妬した。
その日から、春子はまた引きこもる。

そんな春子を心配して、叔父はあいに電話する。もっとも、一度、体を許されたので、その誘いもあるようだが、そちらはキッパリと断られる。
飛雄に会わした方がいいのかも。
あいはそう考える。
飛雄は離婚を決意していたが、子供が出来てしまい、無理になってしまった。それで、より一層、ハルコに会いたいとあいに言ってきている。
飛雄に相談。でも、飛雄の方はその気が無くなっていた。妻の腹の中の我が子の画像を見たりして、父親としての覚悟が芽生えたらしい。そして、妻への愛も戻ったみたいだ。

フッキンが最近、居酒屋に顔を出す。それも閉店間際に。誰かを探しているのか。
春子が久しぶりにバイトに来る。その帰路、偶然にも飛雄と会ってしまう。飛雄は、何も言わず、妻と生まれてくる子供のために買ったケーキを持って、急いで帰っていった。
そこにフッキンが現れて、春子を襲う。春子の携帯を奪い取って、鍛えた筋肉で潰す。その様子を動画撮影する。当時、すぐに逮捕される。
LOIDは、携帯からの情報を失い、初期化されてしまった。もう、飛雄の面影はない。
春子はまた一人になってしまった。
そんな意気消沈した春子の下を訪ねるあい。
フッキンが春子を襲ったのは、あいが春子にばかり目を向けていたことからの嫉妬もあるようだ。責任を感じての謝罪。
それよりも、本当の想いを春子に伝える。
本当は一人ぼっちで孤独を恐れている。寂しい。友達は春子だけ。その春子が外の世界に目を向けるようになって、放っておかれるような気持ちになって不安になっていた。ずっと友達でいて欲しい。程よく引きこもって、自分と一緒にいて欲しい。
変顔で答える春子。

バイト先の居酒屋は、店長がおかしなウィルス性の疾患を患い、しばらく休業。この時代でも、科学で病気一つ治せないみたいだ。
最後のバイト代をもらう。石黒はどうなるか分からないのに前借りをしている。
世はクリスマス。
春子は実家に戻ることにする。
ちょうど、叔父も生徒に手を出そうとして首になったみたいだし。
春子はあいを呼び出す。
もうすぐ、あいの誕生日。
自分の時みたいに、キツイ言葉をたくさん、あいに投げ掛ける。
誕生日プレゼントは、LOID。もらったものをプレゼントとしての返すという最悪の行動ではあるが。
春子はまた会おうねと実家に帰って行く。
あいは一人になった部屋でLOIDを立ち上げる。
こんにちは、さようなら。
また会おうね。
そこには春子がいるみたいだ。
春子からラインが届いたことをLOIDは知らせる。
変顔。こちらも変顔で返す・・・

やっぱり、どんな世界になっても、人は人を求めている。
それは人の弱さや脆さを象徴するものなのかもしれませんが、同時に何よりも誇れる大切なことのようにも感じます。
そんな人間というものを、コミカルに、かつ深く突っ込んで、そこにある大切なものを認識させる話になっているように思います。
面白い、かつ、心情込めた熱演で魅せる力を持つ。そんな役者さん方が、見事にこの話を創り出しているところが印象に残ります。

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コメント

SAISEI様

今回諦めざるを得なかった劇団。当ブログで楽しみます。

いつも興味を惹く公演ですが縁がなく「木曜ドラマPERHAPS警部パハップス(全10回)」だけしか観ていません。これが個人的にイマイチだったんですよね。。

投稿: KAISEI | 2016年11月 4日 (金) 00時12分

>KAISEIさん

PERHAPSが、この劇団らしい作品って感じですね。
今回は少し趣向を変えられて、コメディーの中にも、風刺的なメッセージも込められていたような。
次回がどうなるのかは分かりませんが、上質な感じがするところはけっこう好きですけどね。

投稿: SAISEI | 2016年11月10日 (木) 17時27分

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