2016年10月16日 シアトリカル應典院 (90分)
2年前、少し観劇をお休みしていた間に、本家、劇団赤鬼の本公演で上演された作品。
その後、DVDでは拝見しているが、やはり生で観たかったという気持ちはどうしても出てくるもので、それをこの劇団が上演するというならということで、足を運ぶ。
程よいコミカルさを交えながら、しっかりと魅せる力を持つ個々の役者さん方のバランスのいいまとまりで、分かりやすいスムーズな話の展開、その先にある感動を得るというドラマチックな赤鬼作品がとてもよく似合っている劇団だと感じているから。
それに、Twitterなど、SNSでも高評価の感想が並んでいる。
と、そんなことで、少々、ハードルを上げての観劇になってしまったのだろうか。
率直な感想を一言で書くと、普通みたいな言葉になってしまう。
決して、面白くない、楽しくない、感動しないというわけではない。
観終えて、上記したような魅力は十分すぎるくらいに、心に刻まれて、さすがは万絵巻きだなあという気持ちはある。
今回は特に男優陣の魅力が光る。本家の劇団赤鬼の男優は少々、年齢層が高い。それだけに落ち着きある安定感、そして、ちょっとおっさんぽいコミカルさが楽しみの一つだ。それを見事に引き出している。若さを抑えて、穏やかな安定した空気を醸しながらも、ちょっと面白いというのは、弾けまくることより、数段難しいように感じられ、それを実現する底力を強く感じる。
代わって女優陣は、個性的なキャラで町の空気をまとめる。キレキャラから、ごく普通の空気を醸すアンサンブル的なキャラに至るまで、細かく行き届いた言動が、この最果ての町の特殊な雰囲気を美しく浮き上がらせているようだ。
それにも関わらず、まあ、普通に出来のいい作品を観たというだけの感が残ってしまっている。
それというのも、まず、実はこの作品の話があまり好みじゃないというところは大きいだろう。
DVDで拝見していて、事件の真相に迫る部分にウェイトがかかり過ぎて、いまひとつ、少女と父親や、町の人たち、事件のカギとなる政府関係者たちの想いが繋がらず、いつもなら心揺さぶる、人の優しさや温かみが自分の中に入ってこないなあと思っていたので。
それに、背景となる政府の闇の部分がどうも曖昧だ。こんな町が生み出されてしまう根本がイメージしにくいように思う。
全て、生ではなく、DVDで観たからだと思っていたが、どうも違うようだ。
それと、あとは、舞台セットだろうか。
何とも物足りなく寂しく感じるのは、単に素人目線だからだろうか。
最果ての地。極寒の中で、闇を抱えて、大切な人との別れを経験して、その闇と共に生き抜く。だからこそ、そこで繋がり合う町の人たちの心は、互いに手を差し伸べ合うことで、外の世界でのことで凍ってしまった心を優しく溶かしながら、ほのかな温かみある光を生み出して日々過ごしている。
そんなイメージが浮き上がってこない。
黒を基調にした殺風景な舞台は、町の人たちの心を象徴するのかもしれないが、この町にいる人たちは、そこから自分たちでその寂しい心を満たそうと、必死に町を創り上げてきた歴史があるのだと感じる。それならば、観る風景は、普通の街並みであり、そこに潜む黒い影を想像させるような感覚で舞台を観たかったように思う。
また、これは観る側の想像力を必要とするのだろうが、舞台から登場人物がいなくなる時、消えるのではなく、どこか違う場所に行っているはず。その奥行きが、そういう舞台だから分からない。場所は色々とシーンによって変わる。それがこま切れとなって、全体的な町の風景にまで頭の中で組み立てることができず、舞台に入り込むことが難しかったように思う。