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2016年9月 3日 (土)

カラカラ【コンブリ団】160902

2016年09月02日 ウィングフィールド (40分、休憩10分、アフターイベント40分)

阪神大震災直後に描かれたらしい作品。
そこには、壊されてしまって粉々になってしまったものたちや、分かつことになり距離感や温度差を生み出す人間の姿が映し出されている。
脆く、消えてしまいそうな周囲から露わになる明日への不安。
でも、それを包み込むかのような人の優しい想いが見え隠れするような空気を感じる作品でした。

<以下、あらすじがネタバレしますが、戯曲集も販売されていますし、すじを知ったからといって、どうかなる作品とも思えないので、白字にはしていませんのでご注意願います。公演は大阪は日曜日まで。その後、三重公演へと続きます>

当日チラシで演出をされたはせひろいちさんの境界線という言葉を意識したからかもしれないが、一言で言えば、距離感・温度差のようなものを感じさせられる作品だったように思う。
これは、東北大震災直後に上演された、これをテーマに扱った作品を観劇した時に感じた感覚と非常によく似ている。
恐らく、この作品の初演も阪神大震災直後だったらしいので、共通した作品への想いが込められているのかもしれない。
東北大震災を扱った作品は、その数年後、観劇すると、その距離感や温度差は微妙に消えていく。生と死、被災者と非被災者など、突然に分けられてしまった者たちが、どうしていいのか分からずに互いに立ち尽くしていた時から、少しずつ歩み寄り、また互いに心を寄り添い合うことが出来るようになったのだと思っている。別に、そうするように法律で決められたリしたわけでもなく、ごく自然に。きっと人間は人をそうやって寄り添い、想える大きな力を持った優しい生き物なんだろうと思う。
この作品のラストは、まだ互いに距離を置いたまま。それは、被災者と非被災者の関係だけでなく、被災者同士の間でもそれが感じられる。もっと言えば、非被災者同士だってそうだったのかもしれない。
バラバラにされてしまった。形あったものが、壊された後に出来る砂みたいに。作品名の意味するところはよく分からないが、しっかり固まり合っているものは、カラカラとは音がしないだろう。繋がり合っていた人間がそんな感じで壊されてしまったようなことを感じさせられる。でも、もののように、砂のようになってしまってサラサラとどこかへ吹き飛んでしまうように脆くは無い。人間はあくまで、ちょっと緩んでしまったような、カラカラという音がするだけ。きっと、時間が経てば、その緩みはまた固まり合って、音は無くなる。
そんな日が来ます。時は確実に流れて、被災者だろうと皆を明日へと連れて行ってくれているから。
そんな優しい見守りを最後のシーンで感じます。

震災後の指定避難所、体育館。
ラジオで気象情報を聞き続ける女。気を遣って、イヤホンをしたりしている。
せんべい布団を敷いて、寝転がって漫画を読む女。
学校机で宿題なのか、勉強ををする少女。
その家庭教師役をかってでたのか、車椅子の男。
ラジオ女は、車椅子男と西部劇、砂漠、鳥取砂丘、黄砂、奄美大島、小豆島、遊園地、モノレールなどの話題で話をする。
外を見ればもしかしたら知り合いだった人が住んでいたかもしれない崩れた家が見える。余震にはまだまだ怯え続けている状況。
ついこないだまでは普通に行き来していた外界と閉ざされた不便な生活。
瓦礫がひしめく荒野の風景、今でも時折、襲ってくる揺れに敏感な現況、孤立した明日への不安が頭から離れない時間を過ごす中での会話のようだ。

漫画女の兄がやって来て、家が片付けないと仕方が無い状態であったことを伝える。そして、入院している両親は、まあ大丈夫だということ。父親の方は1週間で退院できるみたい。
外の様子を聞いてくる女に、昨日、病院に行った時に見ているだろうと答え、こんな時に漫画はどうかと思うとちょっとした苛立ちをほのめかして、立ち去る兄。そんな兄に漫画の続きが読みたいと言う女。
兄妹の間でも現況への捉え方に違いがあるみたいだ。でも、両者とも、明日、生きることを無理にでも奮い立たせようとしているようなことを感じる。

続いてバイト先の先輩が訪ねてくる。交通機関は麻痺しているから、かなりの距離を歩いた様子。差し入れのサンドイッチ。お腹が空いていないと断る女。
歩いて疲れてお腹が空いているだろうから気にしないでと勧められて、自分の分をほうばる先輩。
女は先輩の訪問を歓迎するものの、どこか無理に明るく振る舞って苛立っているような空気を醸す。
先輩は少女にサンドイッチを渡す。そして、車椅子男と少女の関係を問うたりするが、車椅子男はぶっきらぼうに曖昧に答える。
少女はもらったサンドイッチを、持ち帰って、病院に持って行くと言う。ラジオ女の表情が曇る。
また明日も来ると先輩は言って、必要なものを女に聞く。女は漫画を頼む。
家へ帰る先輩。カメラを持っている。女は記念撮影に一枚とピースをして撮ってもらう。
被災者と非被災者の距離感や温度差。
恐らく、外では多くの建物が崩れ、酷い風景が広がっている。でも、避難所の中は、日常のような生活感が感じられる。
戦争では無いのだから、別に傷ついた兵士が避難所に収容されているわけでは無いから当たり前か。でも、その中に、隠れるような形で死も見える。
家が崩れているということは、その家族が戻る場所を失ったということ。その中には、死という形でもって、戻れなくなった者もいる。少女の家族もそんな中の一人なのかもしれない。
悪気があるわけでも無いし、何か手を差し伸べたいと思っている先輩。でも、その手は差し伸べられる側からしたら、微妙におかしな方向に向けられて差し伸べられているような感覚。

少女が宿題を終える。車椅子男が採点。100点満点。少女の頬に100点のペインティング。
Jリーグみたいだ。
車椅子男はボールを少女にプレゼント。焦げ跡がついており、崩れた家の跡から拾ってきたのだろう。
少女はボールを爆弾のようにイメージしているのか、ドカーンと言いながら床に落とす。空気が抜けているのかさほど弾まない。
ラジオ女が少女の相手をする。
明日は遠足。宿題は無し。あさっての分は渡す。
Jリーグを含め、衣食住の二の次になるのであろう娯楽は制限される。漫画も同じような意味合いなのか。でも、欲しているのは、明日への希望であり、明日が楽しみと思える心を抱けるように、振舞おうとしているように見える。
そのために焦げたボールで遊び、自分たちをより苦しめるかもしれないけど、かすかな光を求めて、外へ出るイベントを作る。
止まってしまった時を進めようと、終わりでは無いんだと無理にでも意識しようとしているような姿が浮かぶ。
少女にとっては、今は爆弾投下後の姿のようなイメージなのだろうか。
ラジオ女と少女がボールで遊ぶシーンで、作業服を着ているので、復興に携わる人たちなのか、それとも外の世界で働く人なのかは分からないが、その二人がボールを奪い、パス回しをする。
そのパス回しの間には入り込めない。今は、自分たちの間で、そのボールを投げて、それを確かに掴むことぐらいしか出来ないようだ。

ラジオからは、被災者の安否情報が流されているみたい。あの人はそんな名前じゃない。ラジオ女は苛立ちを浮かべる。
外には崩れた家。窓を開けると風が吹く。その風は、壊れて砂になった私たちの家を降らすのだろうか。
外と閉ざされて、物理的にも精神的にも孤立しているようなことが見える。自分たちの目で見る外の世界。それは破壊された数々のものが粉々になって、自分たちに降り注ぐ。取り残されてしまったかのような、寂しく不安な心情が溢れてきそう。

どれくらいの時が経ったのか。
漫画女はまだあの平べったい布団の上で寝ている。周りにはたくさんの漫画。
夜が明けて、光が射し込んでくる。
上記した明日を優しく、温もりを持って感じさせるようなラスト。
壊れてしまった家とかは、粉々になって北北東の風力いくつとかの風に乗って、どこかへ吹き飛んでしまうのだろう。でも、緩められてしまった人への想い合いの絆は、少しずつまた固まり合っている。
大丈夫。そんな言葉が自然に頭に響いてくる。

アフターイベントは、海が私を嫌っているという作品の冒頭部分のリーディング。
ゲストが土田英生さん(MONO)。
はしぐちしんさん、広田ゆうみさん、はせひろいちさんを交えて行われる。
深津篤史さんの独特の大学ノートに手書きされた脚本が映像で映されて、それを見ながら。
冒頭だけなので何とも言えないが、ちょっと面白そうな匂いのする話。
ペラペラとよく喋る女に、朴訥な中年男性、偉そうな鮮魚店の大将。
ちょっと風邪で咳も出るし、体調悪く、リーディングも苦手なので、本編だけで帰らせてもらおうかなと思ったけど、誰一人帰らないので、半ば仕方なく残る。
でも、正解。
これがかなり面白かった。リーディングもなぜか笑えてしまうぐらいに楽しかったし、深津さんと仲が悪かったとよく言われるくらいに、心を通じ合わせていたのであろう土田さんの歯に衣着せぬ思い出話など、大爆笑だ。
じっくり考えさせられる短編作品に、それをどんな想いで創ったのかなと冗談を交えて探りながら、深津さんを偲ぶ、いい時間。

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