水いらずの星【壁ノ花団】060903
2016年09月03日 アイホール (70分)
不幸を背負う、悲しい二人が、互いに自暴自棄の状況から、二人だけで少しだけ幸せを見つけてみようかとしているような、哀しいけれどほんのりと温かく甘い匂いがするような。
吸い込まれてしまいそうな、二人だけの空間を創り出す舞台上のお二人。
そこには不幸への憎しみがあり、自身の人生への否定がぶつけようのない怒りとなって露わになる。でも、同時に、こんな人生で出会い、一時でも夫婦として生活した日々への愛おしさ、そのことだけでも、自身の人生を肯定してみたいという心情も見え隠れする。
そんな哀しい愛。でも、それがとても尊く温かく感じられ、二人の幸せな未来を願いたくなる。今度こそ幸せになって欲しい。人の幸せを自然に願いたくなる気持ちが溢れるその感覚が、この作品の薄幸の中に、どこか充足した気持ちを引き起こしているように感じる。
<以下、あらすじがネタバレしますが、再演でネットに既に詳しく載っていたりするので、白字にはしていません。ご注意願います。公演は本日、日曜日まで>
坂出のスナックで働く女の下に、佐世保から元夫が訪ねて来る。
造船所で働いていた夫。辞めてから、夫への愛情が冷めてしまい、まだ物造りをする夫の同僚に魅力を感じたのか駆け落ち。
まだ、籍は残ったままだが、もう数年会っておらず、女は再会の懐かしさより、戸惑いと迷惑な感情が顔に出ている。
どうしてここが分かったのか。何をしに来たのか。
場所は共通の友人から聞いたらしい。もちろん、女から友人には教えないようにと言っており、友人も裏切る気は無かったようだが、言わざるを得ない事情があったみたい。
大腸がんの肝転移。余命いくばくもなく、造船所を辞めた後、勤めているレンタルビデオ屋の上司や同僚に報告するものの、なんぞらしい反応しか得られず、ちゃんとした反応を得るにはどうしたらいいかを考えた結果、女の顔が頭に浮かんだらしい。
女は駆け落ち後のことを話し出す。
あの人の叔父が営む福山の造船所に身を寄せる。
叔父は女房、子供がいるにも関わらず、女に色目を使ってくる。嫌だったが、あの人からは世話になっているから我慢するように言われる。
そのうち、体を許す。絶技自慢で体中を舐め回されて鳥肌が立つ毎日。そして、妊娠。
黙って堕ろそうとするものの、あの人に見つかり、暴行を受ける。顔中を何針も縫い、右目は義眼、頭は深い傷のおかげで髪が生えてこずかつらに。まともなのは左目だけ。
叔父には子供を産むように懇願される。一人息子が障害があるのか、跡継ぎとして問題があるためみたい。
しかし、奥さんに大好物だった桃缶に農薬を盛られて、食中毒に。
ウンコと共に、胎児もそのまま便器に。
女は男に、幽霊なのではないかと半分冗談、半分本気で問い正す。
男は怒り出す。冗談に腹を立てたのではなく、今の自分が本当に幽霊でないのか自信が無いから、怒ったような感じ。
そのうち、女は男に幽霊でないなら抱いてみろと言い出す。一回、一万円で。女は今、体を売って生活しているようだ。
男は客として、女の部屋を出入りするように。
男の持ってきた写真を見て、夫婦のように楽し気に会話する二人。
春の空、夏の空。秋と冬はこれから。レンタルビデオ屋の店長、双子のネパール人の同僚。店長の姉、客の飼っている犬。雲、雨・・・
女はあれからずっと一人ぼっちだったと言う。店のママからシャブを勧められる。恐ろしいと拒絶するものの、客に体を売る辛さが和らぐから受け入れる。元々のアル中に加え、シャブ中に。
男は写真は全部、自分が念写したものだと言い出す。自分は超能力者だからと。
生まれ変わるなら、一緒に食べたあの味噌汁に入っていた赤かぶだろうか。
そんな会話をする中、女は震え出し、部屋に付いている非常灯が点灯し、サイレンが鳴る。
女はあの日、流産した時の待合室の自分の姿を思い浮かべる。あの人の暴行で包帯だらけの顔。それでも、外科ではなく食中毒だから内科の待合室。いや、便器に胎児を落としてきているのだから本当は産婦人科じゃないといけなかったのか。あの時の待合室に、確か非常灯があった。
写真や、自分が描いた山の絵を女の部屋に飾ろうとする男。自分の生きた記念に。
女は拒絶する。もう夫婦じゃないから。今は客でしかない。
しつこい男に、女は次の客がいるから出て行けと追い出す。
暗闇の部屋の中、女はスプーンにシャブをのせて火であぶる。
男がいつの間にか、部屋に佇んで、その姿を見ている。
スプーン曲げで盛り上がる二人。
タネを教えろ、他のものは曲げられないだろうといちゃもんをつける女。超能力者だと言い張る男。
男は女にあの人への嫉妬の想いを正直に告白する。
女は苛立ちの表情を見せる。情が湧く自分に腹立つ。今は客でしかない男。自分は左目以外は全て偽物のレプリカント。恋愛も仕事だと思っている。
それに、自分には便器に落とした子供の亡霊、そして、あの人の亡霊が見える。
叔父に世話になっているから、また戻って相手をしてくれ、奥さんももう毒を盛ったりはしないからと訪ねてきたあの人。コタツのコードで首を絞め、コンクリを括り付けて海に沈めた。
女は男を出て行かせようとする。もう、ここには来ないで。
男は金を貸してくれと言う。電車代が無いから帰れない。
女は拒絶すると同時に、また非常灯が点灯し、警報が発令。
女の生身の左目から溢れる体液。それは世界を沈めてしまう。
男はスプーンに、女の左目を載せて部屋にいる。
流産して待合室にいる包帯だらけの過去の女に話しかける。
世界は未来の女によって、沈んでしまったから。
今や、ヒマラヤの頂上が3cmだけ残っているだけ。
そこに行って、目玉を置いてこよう。
目玉おやじみたい。
そこから、オーイ、オーイと声をかけて合図をするから・・・
遠近法を使っているのか、玄関へ続く通路は外から部屋への拡がりを見せる。吊り下げられた窓も同じ感じ。
要は舞台となる狭い部屋が、逆に狭い外から入り込むと、無限に拡がった空間になっているように感じさせられるような作り。
外では雨が降り続いているみたい。時折、もの凄い音と光で車が通り過ぎる。
イメージは暗闇の宇宙の中に浮かぶ、軌道を失って、宇宙の果てへと漂う宇宙船が舞台になっているような感覚。
そんな宇宙船の中で、女と元夫が二人っきり。互いに世間から身を潜め、闇と同化してしまうようなくらいに存在が消えそうな雰囲気。でも、出会うことでかすかな光を放つ。もしかしたら、もう二人とも星になってしまっているのかなとも感じる。
辛く苦しい不幸の生から解放され、死が二人を優しく迎えに来て、二人もそれにゆっくりと近づく。
今度こそ、幸せに。そして、現世ですれ違った二人の愛が今度こそ、結びついて、長い時を過ごせますように。
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