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2016年8月22日 (月)

狼は鎖をもて繋ぐ【東洋企画】160822

2016年08月22日 大阪大学豊中キャンパス学生交流棟前芝生特設舞台 (85分)

屋外の空気、風景が活かされているのか、この重たいテーマを、堅苦しくなく描き、その中で、明確な意志を持って歩むという覚悟が自然に湧き上がる、これからの日本の行く先を見るような高質な作品でした。
こんな作品を創り出してしまう才能なのか、積み重ねた力なのか、強い意志なのか。その作品に込められている、脚本の力、舞台を生み出す技術、演じる役者さん方の膨大な魅力にただただ圧巻。
観終えて、あまりの凄さにため息が出るような見事な作品だったように思います。

ある屋敷の主人、モスコーソツツゴウ次郎に雇われることになった庭師の太郎。主人は友愛精神に溢れ、主従関係となる太郎にも友のように接してくれる。
以前より、屋敷で主人に実直に仕えるバンデンハークキドコロから、主人のことやこの屋敷のルールを教わりながら、庭師としての仕事に従事し始める太郎。
主人は、ここでの主人として振る舞うことの他に、家庭があるらしい。そこでは、不平不満ばかりを突きつけてくる妻との窮屈な時間を過ごしているようだ。
屋敷のルールは、屋敷の奥で眠る大婆の亡き旦那が決めたもの。彼はアメリカ人でみんな家族だと、共に暮らす方針を打ち立て、そのためのルールを作った。
この庭で多くの人が亡くなった。今はその生き残りが、ここで暮らしている。
屋敷の庭には檻がある。鍵もかかっていないし、出入りは自由。そんな檻の中に、狼少女のトオコはいる。太郎は、自分の指紋がほつれ、彼女に引き寄せられて繋がるような感覚を得る。
屋敷には千華子と貴子が住む。千華子は、ネットや音楽と、溢れる娯楽に身を投じて気楽に生きているかのよう。姉の貴子は出戻り。酸いも甘いも経験しているのか、ここで暮らす覚悟をしたかのような威風が感じられる。
主人がやって来て、キドコロに料理を命じ、皆で食事を楽しむ。屋敷の外では、犯人が捕まらない連続殺人事件が報道されている。そこには、屋敷に守られ、衣食住に困らない平和な家族の姿があるのだろう。
屋敷にデスパイネカラカワ太郎がやって来る。かつて、ルールで縛られることに嫌気がさしたのか、貴子と駆け落ちして屋敷を出て行ったが、また戻ってきたようだ。再び、貴子を連れ出そうとするが、貴子にその気は無いらしい。
そんな屋敷に、3人の探偵がやって来る。
行方不明の少女を追うアテナ、屋敷の真相に迫りたいレアードオオタニ、そして、推理を楽しむ名前の通り自由な自由一子。
屋敷にはまだ発見されていない死体が転がっている。千華子がその謎を解明するために雇ったらしい。
この日の食卓は終了。主人は家に戻り、妻に帰りが遅いことをなじられ、不満をぶつけられる。
太郎はアテナと少し会話。一本の糸で結ばれている謎。その糸はどうほどけるのか。切れたりしないのだろうか。
その夜、太郎はトオコから漂う匂いに、親しみを感じ、心を揺さぶられる。トオコとどうかなってしまうように同化する時間。しかし、トオコは主人に連れて行かれた。
翌日、アテナは絞殺死体となって庭で発見される。

太郎は庭で気を失っていたらしく、目を覚ましてアテナの殺害を知る。
皆が集められ、オオタニと自由の推理が始まる。
推理の鉄則、伏線を見出し、一本の線で繋げる。
貴子はなぜ屋敷に戻って来たのか。貴子は答える。肉体改造にただただ勤しむカラカワ太郎との時間に違和感を覚えたから。その肉体改造の鍛錬は屋敷に彼がいた頃からしていたことだったらしい。部屋で隠れてしていたので、それを貴子は知らなかった。
昨日、戻って来たばかりのカラカワ太郎は屋敷に部屋を与えられていない。だから、庭でしていたらしい。犯行現場は庭。犯人は、カラカワ太郎が肉体改造をしていることを知っていて、その時間を避けて犯行に及べる者となる。かつ、探偵が屋敷に出入りしていることを嫌っている者。
主人がやって来る。屋敷では、主人の言うことは絶対だ。皆は主人に集められ、来たる8月の半ばに大婆の誕生日パーティーをすることを告げる。

犯人は主人だ。
カラカワ太郎はそう言い出す。
たくさんの人がこの屋敷の庭で亡くなった。もう、二度とそんなことが起こらぬようにと、大婆の旦那はルールを決めた。主人はそのルールに執着するあまり、それを脅かす存在を消したのだと。
アメリカ人が、一昔前に作ったルールに縛られ、その庭に少女を監禁して、夜な夜なその少女とまぐあう。
屋敷は変わらないといけない。
カラカワ太郎は多数決で、新たな主人を決めようとする。
多くの者が、そんなことは出来ないと立ち去る中、残った者で決がとられる。僅差でカラカワ太郎が新しい主人となる。
翌日、元の主人は、殴りつけられ、残酷な姿となって遺体で発見される。

再び、探偵の推理が始まる。
先の探偵殺しと犯人は同じ。死体を隠そうとしていない。隠す気は無く、自分が抱く思想を押し付けようと宣言しているかのよう。
キドコロは、たとえ主人が変わろうとも、この屋敷にこれまで通りに仕えるつもり。それが自分の使命だから。
太朗は、屋敷を変えたいと考える。トオコと共に。彼女の自分の心を揺らがす匂いを信じて。
貴子は、皆がトオコのことを忘れてしまっていたことに気付く。そこにあったものから目を背け、いつしか見えなくなってしまった。その時から、この屋敷の世界は土台からミシミシと壊れ始めたのかもしれない。

妻が主人の死に怒り、屋敷に乗り込んで暴れる。
探偵の自由は、その行動を責める。主人への愛では無く、己のプライドのためだけのあさはかな行動だと。
その言葉に煽られて暴れる妻を取り押さえ、新しい主人、カラカワ太郎は、妻の殺害を貴子と千華子に命じる。
ルールはもう変わった。やられたら、やり返さなければいけない。
貴子は拒絶する。自分はカラカワ太郎の新しい主人就任に反対だった。決めることを放棄した千華子に押し付けようとする。
新しい主人の命令は絶対だ。これまでは、屋敷にそぐわないルールに検討の余地が与えられていた。でも、今はそれが許されない。
千華子と貴子は互いに争い、千華子は貴子を倒す。そして、千華子は妻を殺害する。
カラカワ太郎は、8月半ばの大婆の誕生日パーティーは実行するつもり。それはこれまでの記念日では無い。これから、うまくやって行くための新しい決戦の始まりの日だ。

太郎は檻の中のトオコの下へ向かう。そこには、オオタニがいた。彼もまた、彼女とまぐあおうとしていた。探偵がいたから、こんなことになった。連続殺人事件が起こってしまったのだと言う。そして、アテナを殺したのも自分だと。太郎は気付くと、オオタニの首を絞めていた。
キドコロは、カラカワ太郎に、そして変わる屋敷についていけずに自殺する。
錯乱する千華子は、カラカワ太郎に刃物を向けて刺す。
屋敷がめちゃくちゃになってしまった。自由に刃物を向けるが、自由は銃で千華子を撃ち殺す。
オオタニがアテナを殺した。仕事に忠実だった彼は、探偵は一人だけでいいと邪魔になったアテナを殺したのだろう。そのオオタニを太郎が、怒りに任せて殺す。
カラカワ太郎は自分の思想を屋敷に押し付けるために、邪魔な次郎を殺した。それも、自分の思想を明確にアピール出来るように。
彼の思想についていけなかったキドコロは自殺する。彼に縛られる貴子と千華子は自滅の道を歩む。そして、カラカワ太郎は、そんな絶望する千華子に殺される。
自由の推理。これが屋敷の連続殺人事件の真相。
屋敷の外で起こっていた連続殺人事件も、中学生が犯人として捕まったことが報道されている。

自由の言葉に耳を傾けていた太郎。その手は檻から連れ出したトオコの手が握られている。
自由は、この屋敷にはまだ生きている、生き残っている人がいると言って、立ち去る。
次郎が現れる。
自分たちは、この屋敷で生きている、生き残っている。
私たちは、この屋敷の歴史の中で、生き残された者。亡くなっていった多くの人たちの死を慈しみ、祈り、その過去から目を背けずに、これからも生きていかなくてはいけない。
しかし、太郎はトオコと共に、この屋敷を出て行くつもりだ。
囚われていたこの屋敷、檻から、自らの意志を持って、旅立つ。
自分たちの声をあげて、自らで閉じこもっていた、この世界の果てから、新しい世界を切り開くために。

解釈が難しいが、だいたい下記みたいな感じで捉えて観ていた。
もちろん、最初は何のことやら分からず、くじけそうにはなったのだが、30分過ぎたあたりで、何となくメタファー作品で、社会風刺を描きながら、自分たちの信念を伝えようとしているようなことが漠然と分かってくる。
次郎が保守、カラカワ太郎が改革。話の流れからは護憲と改憲。
家族のように人同士が触れ合う時間を大切にし、縛るのではなく、自らが律する社会を生み出せると考えているかのような次郎。自分の思想だけに従ったルールで皆を縛り、強く変わろうとするカラカワ太郎。肉体改造は軍事増強みたいな感じだろうか。
妻は、保守の日本を弱いと見なし、そこにつけこんで自らの欲望とも思える考えをぶつけてくる人。行きつくところ、自分のことしか考えられない、他人に無関心な人。戦後日本の在り方を忌み嫌うアジアの一部諸国でもいいかも。
キドコロは日本という国を信じて実直に身を粉にして務める昔ながらの人。ある意味で、日本ということに執着し過ぎて、至上主義になってしまっているようにも見える。
千華子は、平和ボケという訳ではないだろうが、今の日本に甘んじて日々を過ごす若者。貴子は、グローバル視点の中で、護られる日本の今の良さを見出そうとする若者。か、黒い服装からは、逆に日本に絶望をどこかで抱いてしまっている人かも。
アテナは、今の日本の異常な事件に興味本位だけで首を突っ込むマスコミ。一般人も当てはまるか。世の中の変貌よりも、誰かが行方不明になったような事件の報道を求める。
オオタニは、世界の中での日本の位置づけ、その立場に優位性を見出さんと、日本の在り方に狂気的な執着が感じられるマスコミ。国粋、右傾主義的な偏った感じか。
自由は、扇動する悪意あるマスコミ。中立、客観性を狡猾に利用し、手にする膨大な情報を基に日和見主義的に大衆の世論を操作する。
大婆は、今の日本を創り上げた先人たちの象徴か。戦争を経験し、その残酷さを知る者だからこそ、日本を守るための術を大切に考える。
太郎は、日本を愛し、日本人に寄り添う若者。このままではいけない。変わらなくてはいけない。でも、美しい日本を汚すような道を進みたくはない。庭師である彼が常に日本を見詰めて思っていることのように感じる。新しい日本を生み出す、正しいか間違いか、右か左かのようなオンオフの考えではなく、いい意味でファジーな幅広い考えを持てる今の若者の象徴のように映る。
トオコは何だろうか。日本人の心、優しさや思いやりがあるとか、国際社会ではマイナスになる要素かも。狼少女なので、本能の赴くままにだ。だからこそ、そこに純粋な真っすぐな芯ある想いがある。指紋がほどけて、トオコに繋がるようなところがあるが、日本人のルーツ、ポリシーみたいなものだろうか。その日本人たる想いに、盲目的に執着して愛してもいけない。彼女とまぐあい弄ぶ者たちは、結局、日本に、日本人であることに逃げているかのように感じる。大切なのは、彼女を閉じ込めて守るのではなく、その大切な日本人の想いを、世界に向けて声にして発信する。誇りある彼女の姿を、檻から扉を開けて、外の世界に見せる。扉はいつでも開いている。そこに押し込めているのは、自分たちだ。外に連れ出すその役割は、もちろん、日本を愛する日本人がしなければいけないことなのだろう。

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コメント

SAISEI様

『The BEE』で衝撃を受けた吾輩としたら東洋さんと聞いたら行くき満々になりますよね。+村田さんと中嶋さんが出演されるわけですから余計行きたいと思いますよね。

しかし野外会場とのこと。

一気に冷め冷めに。天候次第で中止になるかもしれないのでハシゴに組み込みにくい。なおかつ優先劇団である劇団ショウダウンに今回楽しみにしていた中野劇団と同じ週。そして日曜日は仕事で使えず。土曜日も夕方から仕事。なおかつ一日フルで空いていた金曜日も夕方に仕事が。柿喰う客も諦めることに(そういえばSAISEIさん柿喰う客も優先順位下げたはります? )。

野外公演が行かなかった理由の全てにしてましたが月曜日も一日フルで仕事。結局行けたとしたら金曜日夜だけ。やっぱり野外公演なら中野劇団取ってますね。

夜だけの公演と言うことは何か演出意図がありそうですね。

次回の東洋企画を楽しみに。村田さん、中嶋さんも役者続けてほしいなあ。

投稿: KAISEI | 2016年8月24日 (水) 00時59分

>KAISEIさん

確かに屋外公演はリスクがねえ。
私も月曜日しか無かったので、巧く日程調整出来たと思います。

暑さの問題もありますが、確かに夕暮れから夜を迎える、あの空気が似合う作品でした。夕暮れを意識できるように、舞台の方向も考えているみたいです。

村田さん、中嶋さんは、今回もとても良かったですよ。

次回作は、ポートエレンという、東洋さんがまだ1回生ぐらいの若かりし頃に創られた作品。その時も観ていますが、少しノスタルジックないい話だったように覚えています。

投稿: SAISEI | 2016年8月27日 (土) 19時48分

SAISEI様

情報ありがとうございます。『ポートエレン』ですね。

オットゥ~、日曜日が仕事で1日使えず。そこの土日は演劇集団よろずやと劇団ZTON×本若の公演が。。

月曜日の昼の時間次第で観に行きたいです。一時間くらいの作品なんですね。

投稿: KAISEI | 2016年9月 8日 (木) 15時58分

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