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2016年7月23日 (土)

小さな妹の新しい夢【オセロット企画】160723

2016年07月23日 KAIKA (75分)

新しい道を歩むことになって、不安で消え入りそうな妹に、厳しくも優しい想いをただただ投げかけ続ける兄。
それは妹だけでなく、今を苦しみ、先に不安を抱く人が描く夢を祈る姿として映し出されているかのよう。
人は大人になっていき、幼い頃のままではいられない。辛くとも、想いを分かち合っていた幸せな時から、そんな想い合いが希薄な現実的な新しい道へと歩まないといけないこともあるのだろう。
今までを否定して、新しい道を肯定して進む必要は無い。逆に今までに執着して、これからを否定することも無い。幸せな理想、夢を抱いて、その道を一歩一歩、着実に歩んで欲しい。その先にきっとそんな理想や夢にたどり着くことを信じて。
作品名どおり、小さな妹の旅立ちを祈るような優しさで包んだ兄の姿も見えるし、仲間たちとの楽しい時間から、自分だけで出発しないといけない人へのエールのようなことも感じる。もっと言えば、一国家が、分け合うことをベースにした社会から、資本主義へと発展する時に、皆の理想や夢を崩してしまうような道へと進まないで欲しいという願いも感じる。
集団の中から、個として踏み出さないといけない時の、絶望に近いような不安を、優しく包み込んで、それでも自分の向かう先にある理想を見失わずに歩みたいという力強い想いがあるような気がする。

社会主義を守るレジスタンスに関する案内を記した往復葉書を用意する兄妹。
出来るだけ人の多い場所に、それをばら撒いて置き去りにする。兄曰く、素朴なテロリズムらしい。返信葉書が来たことはまだ無い。
妹はこれが最後となる。
2ヶ月先に控えた結婚式。明日からは婚約者との同棲生活が始まるので、この部屋から出て行く。
両親が蒸発したのは兄が小5、妹が小1の時だった。それ以来、ずっと2人っきり。2人で支え合って生きてきた。いや、母から送られるなけなしの金で、食うや食わずの生活。一切れのパンを奪い合って、殴り合ったりしながら。だから、2人の身体は幼い頃に傷つけ合ってできた傷がたくさんあり、いつも長袖を着ている。
兄がわずかながら覚えている親からの愛情。それを妹も信じて、自分が生まれてきたことを肯定しているようだ。
往復葉書も、そんな自分の人生と、資本主義に上手く移行出来ずに近代国家の道へと進めない社会主義にシンパシーを感じてのことのようだ。
そんな長年連れ添った妹との別れ。その割に兄はけっこう冷静。子供を産んで、幸せな家庭を築けばいいと。
口うるさい私が出て行って、清々すると思っているんだと、妹は拗ねて、始発まで寝るとベッドに横たわる。幼い頃はひもじく、寂しく、寒く、互いに体を寄せ合って眠ったこともあるベッド。今は、一緒にベッドに座ることすら禁じているが。
すぐに眠れず、妹は睡眠薬を取り出し飲む。
隣からはホステスが疲れて帰って来て、聞きながら食べているのだろう。ハードロックの音楽が漏れ、カレーの匂いがする。

2ヶ月後。来週には結婚式。
そんな日に妹は久しぶりに帰って来た。
男の一人暮らしにしては、まあまあ片付いている。どうやらダスキンの掃除、家事代行サービスを利用しているみたいだが。
それでも、どこか抜けてるのか電源入れずにアイロンをかけたりおぼつかない様子。
兄はカルピスを出す。妹は口に含み、クチュクチュしてから飲み込む。妹の悪い癖だ。婚約者に嫌がられていないか兄は少し心配。そして、グラスを見て綺麗な青色だと言う。妹は色盲だ。色はほとんど分からない。今、着ているピンクの服だって色を認識してきているわけでは無い。
兄にも直した方がいい癖がある。自分のことをオラと言ってしまう。5文字以上のカタカナの発音もどこか変だ。そんなことを妹に指摘されて、久しぶりに兄妹喧嘩。
妹が買って来た兄の大好物のタマネギで、兄は機嫌をなおす。浜松産の辛くて甘いタマネギ。
部屋からまつ毛が見つかる。形や色、長さから自分のものでは無いし、兄のものでも無いと識別する妹。どこの馬の骨とも分からない人の者なのかと、キレ気味に兄を責め立てる。結局、兄のものだということに。それに、仮に女のものであっても、何か問題があることでも無い。
妹は結婚を辞めるという。自分がいないと兄はダメだ。
1人でやれていると言う兄。
そんなことは無い。これまでだって、気付かないだけで色々なことを私がしてきていたのだ。タマネギを切ってなのか、悔しさからなのか、涙を流しながら、兄に訴える。
兄は妹を見て、違うことを考えている。よく次から次へと喋るものだ。昔は全然、喋らなかったのに。というか、親もいないし、自分も教えなかったから、妹は言葉を覚えるのが遅く、小学生の頃はほとんど喋れなかった。それが、今やこれだけ立派にやりあえるようになったのだ。何があったのか知らないが、幸せに婚約者と結婚して家庭を築けばいい。
兄は居酒屋にバイトに行く前にシャワーを浴びると浴室に向かう。

部屋に女性がいつの間にか入って来て、妹は驚く。
サブリーダー補佐はいらっしゃいますかと聞いてくる。どうやら兄のことのようだ。妹だと名乗ると、女性は何か構えた態度を取っている。
インターホンは錆びて壊れている。しかし、ノックぐらいは普通するはず。しないで平然と入って来るということは、兄とそういう仲なのか。その質問に女性はそうだとあっさり答える。
兄が浴室から出てくる。
女性は確かめに来たらしい。兄と妹のことを。
妹想いの優しい兄。それは構わない。その優しさが素敵なわけで。でも、何かあるような気がしてならない。
そして、遂に見てしまったのだと。
あの日、2人がダイコクドラッグの歩道橋の上で手を取り合っている姿を。
女性は、2人にその時の様子を再現させる。
妹が思い出す。あの日は、自分の引っ越し前日。引っ越しの荷造りで兄は左手を痛めた。湿布と包帯とテープ。その残りが妹のカバンの中にあるし、風呂場には3日間ずっとしっぱなしだった湿布が未だ、放置されていると。
疑いは晴れたようだが、女性はまだあると言う。今度こそ決定的な容疑。
その翌朝の始発電車を待つホーム。二人は肩を寄せ合い、キスをしていた。
そんなバカな話があるはずがない。
兄は女性と言い合いになる。女性も唾を飛ばしながら、でも実際に見たと言い張る。
タイミング悪くダスキンがやって来る。もちろん、帰ってもらう。お金はかかると言われるが、そんなもの幾らでも払ってやると兄は返す。
玄関にハガキが届いている。妹はそれを読んで、慌てて兄に渡す。あの往復葉書の返信が遂に来た。文面からは社会主義への同調をもっと詳しく聞きたいとしたためられている。匿名だが、ハガキについたカレーのシミ、赤と黒のペンで書かれた文字がハードロックの象徴なのだとか。そうなると、それは隣のホステスかもしれない。
女性はそんなことどうでもいいとばかりに話を続ける。そして、また、2人に再現させる。
そして、妹はまた思い出す。
パーカーを着ておらず寒かった妹。人前で肌を見せるなと常々言う兄は、妹を抱きかかえる。その時、妹の顔にまつ毛がついていたので、それを取ろうと顔を近づけた。薄暗いので、顔はだいぶ近くて、遠くからはキスをしているように見えたのだろう。
女性は一度は安心したものの、おかしいことに気付く。
だって、兄の左手は湿布をして包帯。まつ毛なんか取れるはずがない。
兄は、それも実証してみる。湿布と包帯をして、女性のまつ毛を取る。
納得しない女性に、妹はもう取り繕うのは辞めようと兄に言い出す。
あの時、顔を寄せあった2人。私は1mm、1mmと兄に顔を近づけて。
兄は妹を諭す。
それは嘘だ。ずっと一緒だったから。兄と一緒になってみたいな幼い頃の夢をまだ引き摺っているだけ。ままごとのようなもの。
そんな2人を見て、女性は優しい男はやっぱりダメだと言って去って行く。

兄は結婚を辞めるのはダメだと言う。
自分だけが幸せになることに抵抗を感じているのかもしれないが、そんなことはない。
2人の体には、互いに傷つけ合った傷が残る。
それは2人が支え合って生きてきたことの証でもあるのだろう。でも、それももう終わり。
妹には婚約者がいる。兄にだって恋人がいる。
互いに新しい道を進んでいかなくてはいけない時期が来たということだ。
妹はだったら死ぬと、騒ぎ立てる。
兄は、そんな妹を無視してバイトに出掛ける。
妹はかつての自分に言葉を投げかける。この社会は結局、私を受け入れることは無かったのだと。そして、睡眠薬を取り出す。

バイトから戻って来た兄は、ホステス宛にハガキを書く。
人間が社会に理想を抱くことの是非。明日、すぐにその理想は訪れないことを自覚しないといけない。でも、その夢を忘れてもいけない。
そして、そのハガキを持って、部屋を出ていく。
ベッドで眠っていた妹は目を覚ます。毛布も兄がかけてくれたみたいだ。
誰もいない部屋で、妹はまだ生きていること、そして、これからも自分が幸せになることを信じて、兄のいない新しい社会で生きていかないといけないことをまどろみの中で考える・・・

兄と物や時間を分け与え合いながら生きてきたような妹。
親から捨てられ、傷を舐め合うかのような日々は、ひもじく、貧しいものであっても、自分が生きている、この世にあることの肯定へと結びついていたみたい。
でも、そんな日に別れを告げなくてはいけなくなる。
このままではダメなのか。ダメなのだろう。兄の恋人だという女性は、そんな圧力のように見える。そして、兄自身も、妹がここから離れて、新しい道を歩むことを祈る。
婚約者との新しい世界はどんなものなのか。兄と同じように、本当に心を分かち合いながら共に過ごせるのだろうか。
その先に幸せはあるのだろうか。
それでも、その道を進まないといけない。一歩踏み出したから、それで新しい夢を手に入れたりはできない。その道を信じて、一歩一歩歩んで、自分自身を欠陥も含めて見つめながら、その先にようやく、その夢は現れてくれるのだろう。そんな日が来ることを祈っている。兄は、その想いを、この世に平等に生まれてきた妹に、見知らぬ人たちに向けて綴り続ける。
そんな優しい想いが滲んでくるような作品だったように思います。

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