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2016年7月23日 (土)

Z ~一度ならずも二度も手にとってしまったアレの話【HPF高校演劇祭 箕面・豊島高等学校】160722

2016年07月22日 シアトリカル應典院 (85分)

Zというアルファベットの最後の文字という意味深さに、何かを掴むことを意識しているような作品名。さぞかし、奥深い難解な作品なのだろうと構えて拝見したが、拍子抜け。
意外にこの手の熱血、恋愛と学園青春群像劇スタイルの作品はHPFでは珍しいのでは無いだろうか。
よくもまあ、こんなアホみたいなこと考えるはとか思いながら、クスリと笑いながらリラックスして観ていたが、意外にしっかりしたことを伝えている作品でもあるみたい。
ちょっぴり恋心や今の自分への悩みなんかが入っているところが、まさに高校時代の心の葛藤を描いている。
そう思うとヅラ部のヅラは、色々なヅラで今の自分が、これからの自分が輝く姿を思考錯誤して見つけ出すこと。ズラ部の三輪車は幼き頃の乗り物で最後に必死に駆けて身体と精神を鍛え、次のもっと大人の乗り物に乗り継げるようにすること。そんな、高校時代に、未来の自分をより輝かすためにも成さなければいけないことを、クラブ活動として描いているようにも見える。

出演者が大人数だが、見ているとけっこう整然としていて、メリハリがある。
ヅラ部、ズラ部、生徒会、ヅラ髪様たちと大きく分ければ4つぐらいのグループに分かれ、各々が個性豊かなキャラたちから成り立つ。
これが様々な形で交錯しながら、話は進むのだが、舞台上には必要最小限の人数を立たせている感が強い。
元々は人数がもっと少ない作品だったらしく、その時のことを活かしているのか、キャラがぶつかり合い過ぎて、舞台が騒然とし過ぎるのを巧く制御しているのか。どちらにせよ、綺麗にまとめて話を進行していることが、最後の皆で力を合わせる大団円の迫力へと繋がっているように思う。
弾けたキャラたちの魅力を損なうことなく、整然とした話の流れをキープして、しっかりとコメディスタイルが貫かれた良作に仕上がっているように思う。

 

竹其面曲豆島高校。
10年前に竹其面高校と曲豆島高校が合併。実に安直に名前がつけられたようだ。
部活動が盛んだが、少々、ナンセンスなクラブも多い。
ヅラ部もその一つと言えよう。
ヅラを愛し、そのヅラをかぶり、芝居を演じる。演劇部では決して無い。
部員は5人。うち2人は3年生なので、新入部員を入れないと来年には廃部になってしまう。3人よればならぬ、5人よれば文殊の知恵が、この学校のルールだ。
そのためにも、1週間後に迫った新入生歓迎公演の稽古に力が入る。
3年生は蘭子(増山友惟さん)と綾(永藪采佳さん)。
男勝りで女子力が低い蘭子。でも、本当は可愛らしい女性でいたいという乙女の心を持つ。
綾はしっかり者。暴走しがちな蘭子を抑えながら、冷静沈着に事を進める。
下級生の3人。
桃(西岡優奈さん)は、優しい空気を醸し、いわゆる女子ってやつだ。ヒロインが出来る可愛らしい女性。
ハル(杉田光さん)は、キャピキャピしているが、けっこうしっかりとしている。舞台では役者ではなく、様々なスタッフとして務める。ヅラを誰よりも愛している。
ただ一人の男、塩田(辰野奏人さん)。女性に囲まれてさぞ息苦しい日々を過ごしているかと思いきや、持ち前の明るく、若干いい加減なおちゃらけさと、ナルシストっぷりを発揮して自由に振舞っている。
配役が決まる。
芋羊羹屋は塩田。それを買いに来る町娘が桃。桃に絡む悪い奴が蘭子。桃を助ける侍が綾。
本当は町娘が良かったのに、斬られ役だ。蘭子は不満タラタラだが、どうにもならず。
成功を祈願して、いつものように、ヅラ髪様(尾上信人さん)に、昆布、昆布・・・と呪文を唱えてお祈りを捧げる。ぶっきらぼうな面をしているヅラ髪様だが、その時だけは笑顔を見せているかのよう。ヅラ神様に仕える、人の目には見えないヅライオン(中尾桃子さん)とライダオン(村上理紗さん)も嬉しそうだ。不器用そうなヅラ髪様の面倒を見ているからか、その姿はおばちゃんのようにお節介で、ボケとツッコミのコンビの様相を見せる。ライダオンは、ヅラ髪様にちょっと想いがあるみたい。

歓迎公演はなかなかの評判。
可愛い桃推し、カッコいい綾推し、人の好みはマチマチであの塩田推しの新入生が出てくる。
5人の新入生たちは、ヅラ部を訪ねる。仮入部希望の者がかぶらないといけない変な帽子をかぶって。
その様子を呑気に唐揚げを食いながら見ていたのが、ズラ部の女性、ユメ(前田明日香さん)。ヅラのヅはDだが、こちらはズでZだ。正式名称はずんぐりライダー部。三輪車に乗って体を鍛える活動をしているみたい。
このままではヅラ部に新入生を取られてしまう。
ユメはすぐに部長に報告をしに行く。

一方、その頃、生徒会では、典型的なピリピリしたキレる生徒会長(矢嶋仁美さん)の下、会議が行われていた。
お気楽でおっちょこちょいの副会長(野邊茉優子さん)に任せている増えすぎたクラブの整理。一向に進んでいないようだ。
状況をただ冷静に記録する無機質な書記(西村知生さん)。こちらは女性に囲まれ、ちょっと居場所が無さそうで影の薄いイケメン会計(渕上慶希さん)。
整理のターゲットが決まる。DとZ。ヅラ部とズラ部だ。

ヅラ部に新入生が訪ねてくる。上級生が進路相談で不在なので、ハルが対応。
桃推しのまだ幼く頼りなさそうだけど実直なたける(田口勢士郎さん)。
綾推しのやたら張り切っているかな(荒木佑珠さん)。
塩田推しのちっこい元気一杯のみき(直田華歩さん)
優等生っぽいがノリがよさそうなのりこ(木村玲奈さん)。たけるはどうもこの系統がタイプみたい。
寡黙でおとなしそうだが、ヅラへの愛がひしひしと滲み出る姫(堀田愛華さん)。
たくさんのヅラ、そして、ヅラ髪様を見て、皆は興味津々。活動内容も楽しそうなので、入部を決めようとしたその時、ズラ部登場。
がむしゃらな熱血男、レッド、善(宮浦連さん)。
抑え切れぬ食欲と戦い続ける、ブルー、マイ(岩松七海さん)
揚げ物に魅せられた天然少女、イエロー、ユメ。
好き放題のみんなをしっかりとまとめる賢さを醸す、グリーン、森(中村野乃佳さん)。
スイーツ大好き、気持ち悪い甘い空気を溢れさせる、ピンク、雅史(大北舜さん)。
あまりの熱血の勢いに押されたのか、純粋に心動かされたのか、かなとのりこはZ部に行ってしまう。

ヅラ部では、進路相談を終えて、ムシャクシャしている蘭子と綾、他の部員もやって来て、新入生と顔合わせ。
たけるとみきは、憧れの先輩と一緒に舞台に立つべく頑張るつもり。
姫はたくさんの飾れられたヅラに興味を示し、ハルにスタッフとして将来有望だと目をかけられる。
入部が決まり、ヅラ髪様にご挨拶。おかしな呪文に変な踊り。新入生たちは恥ずかしそうだが、やってるうちに慣れて楽しくなってきたみたい。姫はなぜか初めから踊れる。ヅラへの愛が半端じゃないみたいだ。
ズラ部では、レッドが熱く、自分たちの活動を説明。いつの間にか、食べ物の話になったりしているが。
要は、この時期、抑えられない食欲に打ち勝ち、自分たちの精神と共に、身体を鍛錬するということみたいだ。
入隊の儀。己の熱き魂を高めれば、自然に色が現れるらしい。
かなはホワイト、のりこはブラックとなる。

下校。
新入生たちは一緒に帰る。
結局、みんな同じクラブにはならなかったが、各々が楽しめる場所を見つけ、これからの高校生活を満喫するつもり。
また、明日と別れた後、姫を追いかける者が。
生徒会の皆。会長は姫にあるお願いをする。
それを拒絶する姫に、会長はツルヒメという言葉を投げかける。
なぜ、それをと姫の表情が曇る。結局、姫は会長の言うことをきくことに。

ヅラ部では蘭子が残っていた。
ヅラ神様に文句を言っている。
町娘役は出来ない、女子力はつかない、色々と上手くいかない。
いつも、お祈りを捧げているのに、ニッと笑うだけで何にもしてくれない。
さんざん、文句を言って、半ば脅しをかけて、下校する。
恋をしているのね。ヅライオンとライダオンは、そんな青春をやたら悟った感じで見詰めている。
その夜、ヅラ部に何者かが侵入。
ヅラを盗み、畏れ多いことにヅラ髪様のヅラまで持ち去る。
ヅラが無くなると、神パワーも無くなってしまうみたいだ。
このままでは神として存在できない。とりあえずは、昆布をかぶせておき、ヅライオンとライダオンはヅラを探しに行く。
その途中、三輪車を見つける。ズラ部のものみたい。
ヅライオンとライダオンはそれに乗って、遊びに出掛けてしまう。

翌朝、ヅラ部ではヅラが無いと大騒ぎ。ヅラ神様の膝元に置手紙。そこにはZの文字が。
ズラ部では三輪車が無いと大騒ぎ。新入部員を取られたヅラ部の嫌がらせだ。
ヅラ部とズラ部は対決。
そこに、生徒会登場。
暴力騒ぎに、盗みの疑い。これは廃部だと会長は言い伝えて去って行く。
どうしてこんなことになってしまったのか、悩めるヅラ髪様の下に、ヅライオンとライダオンが戻って来る。三輪車に乗って。
お前たちのせいで、どれだけ大変なことになってしまったか。神では無くなったヅラ髪様は完全に拗ねてしまう。
副会長が正式な廃部届用紙を持ってくる。蘭子が受け取る。
おちょこちょいなので、会長をからかうネタ帳を最初に誤って手渡されるが。
もう、どうにもならないみたいだ。
蘭子はヅラ髪様を見るが、何も答えてくれない。
一人の女性(古川智子先生)が部室を訪ねてくる。今年から働くことになった掃除のおばちゃんらしい。
ヅラ髪様が初恋の男に似ているのだとか。その男は、自分がくじけそうだった時に、夢を捨てたらダメだと、諦めたらそれで終了だと、どこかのパクリの言葉を投げかけてくれたらしい。
あなたも夢を諦めたらダメ。そう言って、女性はヅラ髪様に投げキッスをしてテンション高く去って行く。

姫は生徒会に直訴。
ただ、ヅラを盗めと言うから、言うことを聞いた。廃部のことなど知らなかった。騙されたと。
でも、そんな姫の言葉には生徒会は見向きもしない。
せっかく見つけた自分の居場所だったのに。
その時、姫のカバンの中のヅラ髪様のヅラから声が。
ヅラ髪様が何とか力を振り絞って、言葉を投げかけているらしい。
このままでいいのか、罪悪感をずっと背負って生きていくつもりか、仲間を裏切るようなことだけはするな。
ヅラ髪様はそう言って、力を使い尽くす。出来ることはした。後は、皆の力が頼り。信じるしかない。

蘭子はヅラ部とズラ部の皆を集め、共同戦線で廃部の危機を乗り越えようと進言。
ズラ部のレッドもそれに同意する。
部員たちにも、一人一人意見を聞いていく。学校から目をつけられるかもしれない。無理強いは出来ない。でも、皆は自分たちのクラブを守りたいと力強く答える。
そして、姫が告白する。自分がヅラを生徒会に脅されて盗んだことを。
理由があったのだろう。ハルは、ヅラをあれだけ愛している子が、ただ盗みなどしないと信じている。
ヅラ好きだった。でも、それを馬鹿にされ、みんなから、ツルヒメというあだ名をつけられた。それが嫌で、高校に入学したら、あだ名のことは誰にも言わず、新たな自分でいようと決めた。でも、生徒会長がそれを知っていて、みんなにバラすと。
姫のことを誰も責めない。辛い想いに気付いてあげられなかったことをむしろ悔いている。
生徒会がやって来る。
ズラ部のレッドは、生徒会長の汚い手段に怒り心頭。今にも殴りかからんばかりの勢い。それを蘭子は諫める。
いいものがある。それは副会長から間違って渡された会長をからかうネタ帳。
生徒会長は、あのきつそうな様相だが、実はかなり乙女心を持った女子みたいだ。
このことをばらしますよ。その一言に生徒会長は廃部取り止めを伝えて、去って行く。

新入部員お披露目公演。
新入部員が増えたおかげで、蘭子も町娘の友達役。
キャラを活かして、たけるは斬られ役、みきは芋羊羹屋の子分に。もちろん、姫はハルについて、舞台を支える。
ズラ部の皆も観に来てくれていたみたい。
蘭子は善に可愛らしかったなんて言われてとっても嬉しそう。たけるものりこに良かったと言われて顔をくずしている。
みきは憧れの塩田と一緒に舞台に立てて喜んでいる。
自分たちの手で危機を乗り越えた。最後まで諦めなかったから。自分たちの大切な居場所を守るために懸命に頑張ったから。ヅラ髪様も満足そうだ。そんな悩みが無くなり晴れやかな顔をするヅラ髪様の姿を嬉しそうに見詰めるライダオン。
諦めなかった夢は、これからの甘い恋も交えた楽しい高校生活、卒業してからの各々の将来への歩みへと繋がるようだ。
皆は自分たちが守った、そして、守られたヅラ髪様に改めて、お祈りを捧げる。
昆布、昆布・・・

一応、役者さんに感じたことも交えたあらすじ。
人が多いので、混乱して、役と役者さんがごちゃごちゃになっているところがあるかもしれません。お手数ですが、コメントにでも、ご指摘いただければ、訂正します。

この作品には大人が出てこないように思う。
ヅラ部も、ズラ部も、皆、幼い。好きなことを思う存分に楽しもうとしながら、今の自分自身や、恋やら進路やら、人間関係やらに悩み、自分探しの真っ只中。
掃除のおばちゃんは大人だが、どちらかというと生徒に近い存在として設定されている感じがする。
廃部に追いやろうとする生徒会も、普通ならば、欲にまみれた大人の事情に踊らされる真面目な優等生みたいな構図がありそうだが、どうも大人の影は見えず、自分たちの意志でこうした行動を起こしているようである。
時折、学校のルールが出てくるが、あくまで歴史あるそのルールには不条理ながらも従っているということで、ここはある独自の規則の中で、どこかにそんな規則を決めた大人のいる学校社会であることを思い出させるぐらい。
要は、話の中にも込められていることだと思うが、自主性というキーワードが自然に浮き上がるような仕掛けになっているのかな。
それでは、高校生がただ対立する話なのかというと、もちろんそうでは無い。ヅラ髪様の存在が、ある意味、高校生たちにとっての大人なのかなと感じる。
ヅラ髪様は何もしてくれない。崇めれば、何か嬉しそうに笑顔を見せる。それ以外はぶっきらぼうだ。高校生に映る先生や親、周囲の大人たちの姿なのかもしれない。
大人たちも大人たちで、同じように色々と悩んでいるし、何でも出来るわけでは無い。やることなすこと上手くいかずに凹んだり、力及ばず歯がゆい思いをして悔しがったりしているのだ。
でも、本当に何もしていないわけでは無い。良くなればいいと見守っている。気付かないかもしれないが、陰ながら何かをしたり、言葉を投げかけたりしている。
この話だって、ヅラ髪様が、本当に何もしなければ、高校生たちは何も出来ずに、することなく、声を大にして自分たちの気持ちを伝えることも無く、廃部に追い込まれ、辛い過去だけが残っていたのだろうから。
自分たちのことは最後はやっぱり自分でしないといけない。それは自分が大切に思うこと、夢を捨てずに、守りたいという熱意だけなのだろう。くじけそうになったりすることもあるが、周囲の仲間や大人たちだって、そんな熱意を無碍にはせぬように、何かしらの形で関わってくれている。だから、神頼みでは決して無く、自分自身に祈り、それを実現するべく、頑張る。
そんな若い高校生たちだからこそ、成し遂げられる力強い想いが溢れている作品だったように感じる。

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