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2016年7月11日 (月)

虫のなんたるか【劇団第一主義】160710

2016年07月10日 STAGE+PLUS (110分)

10年前の作品らしいが、今に通じる放射性廃棄物の時事ネタや、恋愛事情、生きるためにというか、生活するために守らないといけないもの、捨てないといけないものなど、色々な要素がこの狭い土地の狭い鍾乳洞の中で展開されて、ちょっとごちゃごちゃ。

降りかかる環境や社会の変化、生活するために必要な欲望や裏切り。
そんなことに目をつぶり、見ないふりして生きていくことも出来るが、それは変化を受け止めておらず、成長できない。
人としての進化が成し遂げられない。
変化を受け止めて、それに適応しようとすることで、自らを進化させていこう。
変化は怖いし、必ずしも上手く適応できるかどうかは分からない。絶望へと突き落とされるかもしれない。
無駄なく機能的に効率的な適応、生き方が出来る虫だったらどれほどよかったか。
でも、人には感情がある。変化を怖れて不安で立ち止まりそうになるあなたを想って、差し伸べられる手がある。
それを掴み、変わりゆく明日へと向かって歩んでいこう。
難しい内容でしたが、何となくこんな感覚を得る話でした。

ある鍾乳洞に、甕覗教授の率いる大学の研究室の者たちがフィールドワークに訪れる。
10年前にこの鍾乳洞で、新種のメクラチビゴミムシを発見した緑。今回のフィールドワークの名目はその再調査、及び、若手研究者たちにフィールドワークの重要性を教育するため。
教授、緑と共に5人が参加。
海松はこのフィールドワークの結果を論文にするつもり。その実績を持って、本来、自分がしたかった脳の研究をするべく新しい研究室に行くつもりなので、焦っている様子。
新橋は、昨年、論文を書けなかったが、マイペースで自分の研究を続ける。そろそろポジションが欲しいくらいの歳だが、特に焦らず、もしかしたら、それを露骨に出すのは良しとせずに冷静でいる振りなのかもしれない。
ただ、今回、フィールドワークに特別参加している、刈安という男に想いを寄せているみたい。特に生物に興味がある訳では無さそうだが、教授から許可をもらったようだ。このフィールドワークで何かを成し遂げんとしている、目標に向かってギラギラしている姿がいいみたいだ。
そんな新橋に想いを寄せる煤竹。実家がカブトムシ養殖をしているだけで、ブラブラと研究室生活をしている。目的は彼女、嫁探しみたいな方が大きい様子。
一番若手の藤納戸。難しいことは苦手なみたいだが、それだけにこんなフィールドワークは楽しいみたいで、色々と好奇心を出しながら張り切っている。
しかし、今、この鍾乳洞は、地元の有力者である鳩羽の私有地。地図にもその場所は明記されず、誰も知らない秘密の地となっている。代々、その鳩羽に仕える県会議員の呉須と秘書の縹にフィールドワークを止められる。
ここはもうすぐ再開発する予定地。ずっと立ち入り禁止だと。
しかし、緑はきちんと鳩羽から許可をもらったと縹に言う。縹は、かつて緑と同期の研究者だった。鳩羽は、二人の後輩。
鳩羽が家の跡を継ぐために研究室を辞めた時に、縹は呉須の秘書となり、鳩羽を支えることにしたらしい。
確かに鳩羽はフィールドワークを許可していた。もう、最後だからか。鳩羽が言うからには、誰も逆らえない。ここでのことは一切、秘密という約束で渋々、呉須も了承。
秘密だったら論文はどうなるのか、海松は緑の管理能力を責め始める。
新橋は、何かを調べたがっている刈安の手伝いを煤竹と一緒にしようと誘う。
藤納戸は、鍾乳洞の奥にある立ち入り禁止の湖に興味津々。
緑は、立ち入り禁止なのに、多くの人が出入りしている形跡があることに疑念を抱く。

10年前、まだ学生だった緑は、鳩羽や縹と共に、この鍾乳洞を訪れた。
縹はあまりフィールドワークが好きでは無かった。でも、虫は好きだ。だから、こうして虫と共に歩む研究者生活をこのまま続けてもいいかなあなんて思ったりしていた。というか、緑と共に歩む生活を。
そこで、緑は新種のメクラチビゴミムシを発見した。この閉鎖された場所にしては、ずいぶんと特殊な進化をした形跡があり、学問的に非常に興味深かったと同時に、何かの間違いではないかと思わせるものだった。
緑は鍾乳洞を一人で探検したりして、地元の人に怒られる。常盤という女性。もっとも、この女性も特に許可なく、鍾乳洞に出入りしていたみたいだが。
どうも、密会場所だったらしい。呉須という男との。
常盤の実家は農家。畑を拡げ、牛も飼い始めて、農業をする人生を歩もうとし始めていた。呉須の父はもう長くなかった。呉須は父の跡を継ぎ、政治家になることを決めた。父と同じように県会議員を目指し、この地元の有力者である鳩羽の番頭として仕える。
呉須はここで常盤にプロポーズする。政治家の嫁になるのだから、これまでのようにはいかない。畑も縮小しないといけないし、せっかく飼い始めた牛の世話もどこまで出来るか。
それでも、常盤は呉須と共に人生を歩む決断をする。

そんな鍾乳洞で、今、また恋愛が絡み合っている。
煤竹は、刈安に夢中の新橋からは手をあっさり引いて、海松に乗り換える。
海松は論文のためにも絶対にデータが必要。そんな大事なフィールドワークなのに、こんな許可やら秘密だのとややこしい場所を選んだ教授や緑に対して、相当な反発心を抱いている。緑が縹とかいう昔の恋人に会いたかっただけで、そのだしに使われたのではないのか。
それに、刈安とかいう男は、ついてきているがフィールドワークには参加せずに、何か自分のことをずっとしている。それにベタベタと付きまとっている新橋。みんないい加減だ。
そんな状況にあり孤独感を募らせている海松に、僕が手伝いますという煤竹の一言はかなり効いたみたいだ。

縹と緑は鍾乳洞で再会。
結局、二人は結ばれなかった。生活のために、縹は呉須の秘書となる決意をした。本当は緑も一緒に付いてきて欲しかったが、緑は研究者生活を選んだ。選んだのか、違う道を歩むことを怖れたのか。
鳩羽は緑に想いを寄せていた。せめて、鳩羽と一緒になっていたら。
今の緑は、ここのメクラチビゴミムシにこだわり過ぎている。フィールドワークという、今ではあまり受けが悪い手法で研究を続け、周囲からも認められていない。
ずっと変わらない。自分の周囲の環境が変わっても、それに適応しようとせずにずっといる。この閉鎖した鍾乳洞の中での虫と一緒みたいだ。
そんな中、刈安がやって来る。
秘密を突き止めたらしい。彼の正体はジャーナリストだった。
この鍾乳洞は、放射性廃棄物の不法投棄場所となっている。
でかいネタを掴んだと喜ぶ刈安に、鍾乳洞にやって来た、呉須は脅しをかける。
このままでは、精神病院に強制入院してもらわないといけない。有力者である鳩羽と、自分の政治的な力の存在をちらつかす。
取引をもちかける。
呉須が掴んでいる、現役知事のゴシップネタ。これをリークして渡す。もちろん、そんなことをしたら、呉須の政治生命は終わり。それでも構わないくらいに、ここでのことは守らないといけない。
下手な記事を書いて身の危険に及ぶより、スクープを掴んで、大金と地位を得る。もちろん、ほとぼりが冷めるであろう5年くらいの間は、色々な力を使って優遇すると。
刈安はジャーナリスト魂を捨て、その条件をのむ。
緑は縹から強く口止めをされてお終い。
放射性廃棄物による、突然変異。緑が追い求めていた真相の結末。
これが現実の世界だ。虫が好き。虫好きだから、研究を続けることが無理だったのかもしれない。縹はそんな言葉を残して去って行く。

調査はいったん中止になる。
理由が分からない海松は、苛立ちを募らせながら、煤竹と調査を強行。鍾乳洞の奥へと進む。
鍾乳洞で刈安と新橋が出会う。
仕事を手伝うと言う新橋を、刈安はもう不要だと断る。
それよりも二人っきりでと新橋に迫る。それを新橋は拒絶する。
目が変わった。何かを探し、目的を果たそうとした目でなくなっている。目的を果たした目でも無い。何かをあきらめてしまった目だ。
違う。目的は果たされたのだ。新橋の言葉に刈安は苛立ちを感じたのか、新橋を暴行しようとする。
その悲鳴を聞いて、煤竹が助けにくる。
新橋から感謝されるが、煤竹は、かつては想いを寄せていた新橋を、今ではうざいくらいに思っている。
刈安も新橋も鍾乳洞から出て行き、二人っきりになった煤竹と海松。
海松は、自分の生い立ちを告白する。殺人犯の父、出て行った母、精神的に病んでしまった兄。そんな自分をあなたは受け入れてくれるのか。
煤竹は、明らかに引いている。やっぱり、彼女が殺人犯の娘というのはちょっと。
私は何もしていないのに。そう海松は口にする。
迎えに来た教授と新橋。海松は泣き崩れて、教授に抱きかかえられて鍾乳洞を後にする。
煤竹は新橋をデートに誘う。

5年後。
鳩羽と縹が、もうすぐ埋め立てられる鍾乳洞の話をしている。
埋蔵金が埋まっているやら、何か秘密が隠されているやら噂されたままだが、このまま埋めてしまっていいのだろうか。
国定公園にするなんて話もあがった。
今なら、まだそちらの道に変更することも可能だ。今は県会議員の縹が鳩羽に言う。
それは無理だろう。そう笑顔で答える鳩羽。
もちろん、その通りだ。それは縹が一番分かっている。
鳩羽は藤納戸と結婚した。
藤納戸は、鍾乳洞に向かう。そこには教授がいた。最後の調査にやって来ていた。
あれから、海松は違う研究室で助手をしているらしい。新橋も助手として頑張っている。
煤竹は実家でカブトムシの養殖を。最近、クワガタで成功したのだとか。
緑は消息不明。5年前、鍾乳洞から戻って、辞職した後、どうしているのかは分からないようだ。
藤納戸は緑に憧れていたと言う。いつも、飄々と自分の好きなことをしていて。
それは虚勢を張っていたのかもしれない。今の自分が変わることを怖れて。教授はそう答える。お金持ちと結婚したからという訳でなく、今のあなたの方が幸せに映ると。
そう言って、教授は鍾乳洞を去って行った。きっと、最後に虫たちに挨拶したのだろう。
虫は必要最小限の機能を持って、効率的でスマートな生き方をする。
恋愛など不要。生殖をすればそれでいい。
それを寂しくも感じない。感情が無いのだから。
私たち人間は違う。無駄なことをして、悩み苦しみ、喜び楽しみ。
それでも、明日は必ずやって来る。
私たちは、その今日とは変わった明日を生きなくてはいけない。
ならば、私たちはどうすればいいんだろうか。
不安が頭をかすむ藤納戸。
その藤納戸の手に、鳩羽の手が携えられる。
二人はその手を握り合い、鍾乳洞を後にする。

感じるのは進化と変化の違いみたいなものかなあ。
自分の身の周りで絶えず起こる変化。
それは突発的に降りかかり、自分を苦しめるものかもしれない。そして、それに応じて、今までの自分とは変わらないといけなくなるかもしれない。
どういう行動を起こしたかによって、結果も色々で、時には過ちだった思う時もあるのだろうが、少なくともその変化を受け止めて、何かをしたことに価値があるのか。
変化なんか起こっていないと、見て見ぬふりをして、逃げてしまうと、自分は何も変わらず、いつの間にか、周囲と孤立した存在になってしまう。
虫だったら、感情が無いから、それでも淡々と機能的に生きていけるのだろうが、人間はその辛さ苦しみから、より閉鎖した空間に自分を追い込み、益々、変わらぬ自分を維持し続けることになってしまう。
そんな変化を受け入れることの積み重ねが、人を進化させているようだ。

虫はそんな周囲の変化に適応して、進化するのだろうが、人間はその変化を自ら作り出すことも出来る。
受け身じゃなくて、能動的に、今の日常に疑念を抱き、より良き道を歩むことを考える。変わることはリスクもあり、不安だろうが、それが大きな成長、進化に繋がるのだろう。
緑は虫が好きで、フィールドワークを通じて、虫のことを知り、研究を重ねていた。自分の発見した虫のことをもっと知りたいという意志が、いつの間にか、その虫が変わらぬままにいることを求め、変わらない自分をそれで肯定するような生き方をしてしまっているかのように映る。
成長を止めて、今の姿のままで、閉じた世界の中を生きる。
今の自分は何者なのか。何かをしたい、何かを成し遂げたいと、そのために自分の周囲の環境が変わることを怖れずに、変化を受け止めて努力をし続けた結果では無く、与えられた環境の中で、突然変異のように生み出された自分を、そのままの姿で維持させようとしているみたいな。
最後はそれに気付いたのか、それとも、逆にここにいたら自分が変わらないといけなくなると思って研究室を去っていたのか。
話はここで終わりではなく、緑を含め、登場人物たちは更なる時間が流れる。その中で、どう進化を遂げる道へと旅立って行ったのかを考えさせられる。

と言っても、変化はやはり怖いものだ。
観た後に残る印象は、虫の生き方の否定では無く、むしろ、虫の生き方を羨ましいなんて思う感覚が残る。
無駄なことをせずに、その環境に応じて変わることを余儀なくしている方が、幸せなのではないか。
でも、どうあっても、人間として生まれてきてしまっている。これまでも人間として生きてきたし、これからもそうあるはず。
だから、無駄なことをしながら、変化から逃げたり、立ち向かったりして、成長していかないと仕方がない。
押し付けられたような環境の変化に、仕方なく対応しないといけないこともあるだろうし、このままでいいのか、こうありたいという意志を持って、自らを変化させることで環境を変えることもあるだろうし、生活のために欲や裏切りの中で自分を変えざるを得ないこともあるだろう。上手くいくかもしれないが、失敗して苦しみの中に突き落とされるかもしれない。
不安だ。何かが変わる明日が。そして、変わらないといけないことが。
そんな気持ちに押し潰されそうになる時、人間は虫みたいに都合よく生きられず、不器用だけど、その代わり、素敵な感情を持っている。
そんなあなたに想いを寄せて、手を差し伸べられる。
その手を掴み、繋がれた手を通じて、想い合うことで、明日、変わる日々を共に歩もうと勇気を与えられる。
虫の生き方を描き、その姿を愛しながら、そこに無い素敵な人の生き方を見出すような話だったように感じる。

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コメント

SAISEI様

公演を知った瞬間には行く気満々だったのですが。。会場でカット。ソウソウたる面子の役者さんでしたね。

投稿: KAISEI | 2016年7月20日 (水) 01時39分

>KAISEIさん

あの面々で、あの会場だから、かなり窮屈でしたね。
鬱々とした妙な空気の中に流れる、人の生き方を探求しているような感じですかね。
焦点が絞りにくくて、あまり好みでは無かったですが、色々と考えることはできたかな。

投稿: SAISEI | 2016年8月 8日 (月) 11時58分

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