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2016年6月23日 (木)

ただしヤクザを除く 桜組【笑の内閣】160622

2016年06月22日 アトリエ劇研 (95分)

関西で2週間、その後、東京で1週間と、ロングラン公演の初日を拝見。
それだけに、あまりマイナス感想は避けたいところではありますが、正直、いまいち感が残ります。
と言って、決して面白くなかったわけではありません。お薦めできないわけでもなく、せっかくロングランなのだから、うまく日程を合わせて観に行けばいいと思いますし、トリプルキャストなので、私も違う組に伺えるように日程を調整するつもりです。

何でいまいちだったのかと聞かれると答えに困るところもありますが、感じるのはスッキリし過ぎで、綺麗にまとまり過ぎだからでしょうか。
主要キャストが7人。このキャラが、けっこう明確に今の社会の各々の考えを代表するような形になっており、この人、何者なんだろうといったような、遊びのキャラや、キレキャラがいません。この話を展開して、何かしらのオチをつけたラストを迎えるのに、あまりにも役割がはっきりしていて、それが枠にはめられているような窮屈さを役者さんにも、作品にも感じたのかもしれません。
いわば、この作品名のとおり、暴対法におけるヤクザの実態を、教育ビデオのような感じで勉強しながら観たような感覚が残り、笑い飛ばすことがいつものように出来なかったかなあといった感じです。

描かれてることは、寛容できない者を徹底的に排除する、今の不気味な社会への警鐘でしょうか。
排除し尽くせば、次はどうなるのか。人は、次に排除すべき者を求めて、狩りに出るのかもしれません。
それよりかは、認め合える社会。受け入れられない人や考えはたくさんありますが、それを全否定してしまえば、それで終わり。後はどちらが、排除されるかだけになります。だから、どこかを肯定できるような視点を持って、人と接する。無理してでもしなくてはいけないことなのだと思います。
排除したところで、それが自分の幸せ、豊かさに繋がるわけでは無い。
劇中にそんな考えを抱かせる言葉が出てきます。
この考えは、人が人を認めないことの無意味さを理解するのに、非常に分かりやすいもので、だったら、拒絶せずに、少し認めてみようとか、触れてみようとかいう考えに至るように感じます。
その先に、皆が守られて、脅かされない社会が成立するように思います。

<以下、ネタバレしますが、公演期間が長いため、白字にはしていませんので、重々、ご注意願います。公演は大阪は7/3まで。その先に東京でもあるようです>

軍港として盛え、戦後は極道が隆盛を誇った広島、呉。
そんな町のあるピザ屋での話。
ピザマッチョ広島地区のエリアマネージャーは、ある日、警察に呼び出される。
応対するのは捜査4課の巡査部長。いわゆるマル暴ってところだ。
巡査部長は、暴力団排除のために、飲食店にヤクザへのサービス提供を禁じるように要請してくる。
エリアマネージャーは、うちはピザ屋だから関係無いと他人事でいると、巡査部長に大声をあげられ脅される。そして、一枚の写真を見せられる。
それは呉では不器用で朴訥で有名な高倉建設の前に、ピザマッチョの配達バイクが停まってる写真。高倉建設は、ヤクザ高間一家のフロント企業。ヤクザと付き合いがあることを疑われ、今後は一切、高倉建設にピザを届けるなと厳しく命令される。

エリアマネージャーは、その問題となっている店舗、呉店を来訪。
呉店は、新卒の女性に店長を任せている。研修も終えて、すっかりピザマッチョを愛する社畜に仕上がったようだ。普通の精神では出来ないような恥ずかしいCMにも登用されて、やる気満々。可愛らしい子なので、エリアマネージャーは、狙っている様子。恐らくは店長登用にそれは大きな影響があったに違いない。
バイトは二人。一人は、かなり年配の男で古参。イボ痔にもめげず、配達に精を出す。この歳でバイトをして食わなければいけないという、恵まれているとは言えない人生を送っている。
もう一人は、若い青年。同じく配達員。ハーフなのか、考え方が現実的でシビアだ。決して能力は低く無いけど、もらう時給分の労働しか店には提供しないという考えを持つ。不条理な労働に対しては、労基法や人権を持ち出し、論破してこようとする。
あと、パートのおばさん。ピザを焼くのがメインの仕事。離婚してこの店で働くようになったらしい。

エリアマネージャーは、警察に要請されたことを皆に伝える。
確かに高倉建設のヤクザがピザを毎日のように頼んでいる。でも、特に何かされたことなど無い。ピザが崩れてしまった時ですら、何も言わなかった。
堅気の方がよっぽど面倒臭い。ピザには、今、小劇場の女優カードがおまけで付いている。当たりハズレがあって、例えばセ○ラだと転売すれば5万円クラスだが、ポ○ンでは、その何百分の一にまで値が下がる。それでごね出す客もかなりいるらしい。
でも、警察の要請ならば仕方がない。これからは丁重に断るしかない。
ところが、タイミング悪く、既に予約を受けて、しかもテイクアウトでそのヤクザが店に来ることになっていた。
もしかしたら暴れ出すのではないか。ビビる皆。エリアマネージャーは、先ほどの巡査部長に電話。ヤクザが来るから助けてくれと。しかし、巡査部長は、ヤクザを恐れるなと、怒鳴り散らし、事が起こってからでないと警察は動けないと電話を切られる。
途方に暮れる皆に、パートのおばさんが、なぜに詳しいのか、暴対法に関して説明をし出す。ヤクザは堅気に手を出したりしない。何のメリットも無いから。それに、高間一家が傘下となっている会は、堅気と話すときにヤクザ言葉を使わないくらいに徹底しているから大丈夫だと。

ヤクザが店にやって来る。
ビビりながらも丁重に商品を渡せなくなったと謝罪するエリアマネージャー。
しかし、パートのおばさんの話とは違って、ヤクザは暴れ出す。
パートのおばさんが、ヤクザに近づく。自分が話をしたのは賢いヤクザの話。こいつみたいなクズヤクザではちょっと話が違うかと、恐れもせずにきつい言葉をヤクザに投げかける。
ヤクザが怒り心頭になっているところ、パートのおばさんが自らの正体を明かす。高間組長の妻。正確には、離婚調停中で、もうじき元妻になる。
ヤクザがおとなしくなったところに、巡査部長が現れる。一応、心配になったらしい。ヤクザに暴対法をちらつかせ、脅しをかけて、店を立ち去らせる。

巡査部長も、エリアマネージャーも店を後にして、ようやく落ち着いた店。
店長は、ヤクザに渡す予定だったピザを持って、休憩だと言って、外出。
ヤクザに追い付いた店長。ピザを手渡す。もちろん、無料はまずいので料金はいただく。今日で最後になるけどと言って。
ヤクザはピザとおまけのカードを確認。
少し残念そうな表情を浮かべて、ヤクザは自分の生い立ちを語る。
幼き頃。カッパがいると言い放った兄が、皆から嘘つき呼ばわりされて、兄はカッパの着ぐるみを着て川を泳ぐ。狭い田舎だ。その噂はすぐに皆が知ることとなり、それを馬鹿にされ、自分はあのカッパの兄の弟と呼ばれるようになった。
家族が迫害され、どうしようもなくなり、家を飛び出す。ヤクザな日々を過ごす中、今の高間親分に拾われた。
こんな自分にも子供がいる。親がこんなヤクザだから、家族にも色々と支障が出る。子供も保育園を辞めさせられた。その子供がピザが大好き。せめてピザくらい、好きなように食べさせてやりたかった。
その話を聞き、店長は決意する。
今日で最後にはしません。

その日から、店長は自分でピザを購入。休憩時間中に隠れてヤクザに届けて料金をもらうという行動を繰り返す。
バイトたちは、自腹営業を強いられているのではないかと心配する。何せ、ピザを愛する心を会社から洗脳されたかのように植え付けられてしまった子だから。
そんな中、ハーフバイトに見つかってしまう。
これはまずいですね。色々と口うるさいバイト。どうか黙っていて欲しいと店長は願い出るが、ハーフバイトは意外にも協力をすると言い出す。ヤクザにピザを売らないのは人権侵害だという考えらしい。
何はともあれ、この日から、ハーフバイトの協力も得ながら、このヤクザにピザを渡す行動が継続される。

しかし、遂に警察の知るところとなってしまう。巡査部長の部下が、ピザを怪しげな男に渡す店長の姿を目撃したらしい。
巡査部長はエリアマネージャーに、徹底的に店長に事情聴取することを命令。
エリアマネージャーは悩む。店長のことだけではない。パートのおばさん。ヤクザの組長の妻ということで本社から解雇するように通達があった。それをどう伝えればいいのか。
確かにハーフバイトが言うように、ヤクザにだって人権はある。それは守られて当たり前であることは、日本国憲法にだって記載されている。全ての国民、ただしヤクザを除くなんて記載はどこにも無い。
だからと言って、世間の考え方は、古参バイトのように、ヤクザみたいに悪いことをする奴らになんで人権を与えないといけないのか、あんなクズよりも懸命に働いている自分の方がよっぽど恵まれていないことも多いのにどうしてヤクザを守る必要があるのかみたいな考え方の方が強いだろう。
パートのおばさんは、店長のしている行動を聞き、これはかなりまずいと、また暴対法を説明し出す。
いわゆる密接交際者と見なされる可能性が高いようだ。最初は勧告ですむようだが、場合によっては社会的な制裁が下される。
ましてや、こんな企業の店長がそうであった場合、関わる会社、例えば仕入れ業者、バイクの点検業者などから関係を断たれ、店が成り立たなくなる可能性すらある。
エリアマネージャーは、店長を厳しく追及するが、店長は自分が間違ったことはしていないとキレだしてしまう。
ピザ生地をマスクにしてスケキヨのような姿で暴れ出す。

パートのおばさんは、店長にヤクザなんかのことを考えてやる必要は無いと言って止めようとする。だってヤクザはクズなのだからと。
ヤクザがやって来る。
パートのおばさんは、ヤクザに店長を止めさせようとする。あなたのせいで、あんなことになってしまったのだから、責任を取れ。ヤクザは所詮、周囲の堅気を不幸にするのだから。
店長は、ヤクザのことを語り出す。この人は何も悪くない。ただ子供がピザを食べたかっただけ。それをどうして、国に止められないといけないのか。
ヤクザはパートのおばさんに睨まれて、全てを白状する。
そんなの全部、嘘。子供なんかいないし、保育園を辞めさせられたのは、パートのおばさんの子供の話。同情を引くのに、都合のいい話だから拝借した。まあ、カッパの下りは本当だが。
ピザなんか別に欲しくも無かった。欲しかったのは、おまけのカード。転売して稼ぐ。いいしのぎになるというだけ。
やはり、ヤクザはクズだった。
こんな奴らは掴まりゃあいいんだ。古参のバイトは厳しく、ヤクザを非難する。
店長はあまりのことに茫然としている。
しかし、ハーフバイトは、それでも人権は守られるべきだと語る。
店長は、このヤクザに同情した。その人がクズだった。だったら、人権など守ってあげないでいい。この考えではいけない。クズでも、いやクズだからこそ、人権を守らないといけない。クズだろうと、ちゃんとしてようと関係ない。人である以上、人権を守るべきであり、守られることを放棄も出来ない。
そして、古参バイトにも言葉を投げかける。
人権の総量は決まっていない。あなたが、ヤクザの人権を奪っても、それはあなたのところへやって来て、より良い生活が出来るわけでは決して無いと。

巡査部長がやって来る。
ピザをヤクザに渡していた疑いがある、店長とハーフバイトに任意同行を求める。
ハーフバイトは拒絶。こんな不条理なことで、動いている利権問題を言及。巡査部長は、それに対して、認めるわけでも無く、否定するわけでもなく、警察の利権に関して言及する。それが現実の世の中。
巡査部長は店長に返事を促す。
店長は、ヤクザにピザはどうしていたのかだけを最後に聞きたいと。
ヤクザは、もったいないから食べていたと答える。
それなら、全て許します。ありがとうございました。
店長はそう言って、巡査部長の求めに応じる。
ヤクザがそれを遮る。
優しくして欲しくなかった。そんなこと、ずっとされたこと無かったから。自分はヤクザだから。
でも、今なら、そんなこれまでの自分を否定できるのかもしれない。生まれ変わるなんてことがもしかしたら、出来るのかもしれない。
ヤクザは、自分が店長を脅して、ピザを届けさせていたと巡査部長に告げる。
巡査部長は、ヤクザを逮捕。

数週間後、エリアマネージャーは、店長とハーフバイトに本社からの処分を通達する。
店長は減給、バイトはお咎め無し。
エリアマネージャーは、店長のためにと、かなり本社とかけあったみたいだ。まあ、そのやましい目的が果たされることは無いようだが。
ちなみに、パートのおばさんは、離婚成立し、堅気となったので、仕事継続となった。
しばらく、謹慎していた店長。
早速、店を手伝い始める。
そこに、ヤクザがやって来る。嫌疑不十分で釈放されたらしい。
お礼の挨拶に来たみたいだ。
これからどうするのか。そんなパートのおばさんの言葉に、ヤクザはカード転売がダメになったから、また新たなしのぎを見つけると。
足を洗えないのかと言うパートのおばさんにヤクザは返す。ヤクザはヤクザだから。それしか出来ない。
生まれ変わって真っ当に働けばいいと言う店長。
ヤクザはその言葉に返す。
じゃあ、この店で自分を雇ってくれますか。
元ヤクザをわざわざ雇ってくれる店なんかあると思いますか。
店長は何も答えられない・・・

店長は、苦境の中にいる誰かのために行動を起こす。対して、ハーフバイトは、正義のために行動を起こす。
同じ、ヤクザ人権問題を解決しようとしても、確かにこうした視点と言うか、捉え方に違いがあるなあと。
店長の場合は、もし、このヤクザが自分に受け入れられないような存在だったら、きっと、ピザなど渡すことも無く、またヤクザの人権が一つ脅かされたということで、終わっていた話なのでしょう。
ハーフバイトの場合は、それこそ平等の考えですから、たとえどんなに受け入れられない存在だろうと、きっと、ヤクザの人権を守るべく、話は進んでいったはずです。
一見、ハーフバイトの考えは素晴らしく、これこそがこの問題を変えることが出来る根本的な考え方だとも思いますが、こんな考えを皆が持つ世の中なんか気持ち悪い気がしますね。それこそ、どこかの宗教団体に制圧された世界のような。
そうなると、自分が出来るようなことは、むしろ店長の方に近いのだと思います。
この場合、自分がこの人は受け入れられないとなってしまえば、攻撃対象、少なくとも無視の対象になってしまうのでしょう。
だから、受け入れられるように人を見れるようになればいい訳です。人を全否定せずに、部分否定に留めて、どこか肯定できる部分を善意の目で見られれば、そこに、この人は決して排除していい存在では無いという考えが自分の中に生まれるような気がします。
ピザを捨てずに食べていた。店長は、ヤクザに関して、あらゆることを否定されますが、その中で、最後に唯一肯定できる部分を見出した。それが、これから少しでも変わるきっかけになるのかもしれないことを思わせます。ラストはブラックになっていますが、それでも、そんな考え方、ちょっとした行動の一つ一つが、社会を変える原動力となり、逆に結局それしか出来ないように感じます。

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コメント

SAISEI様

SAISEIさん的にはイマイチだったのかなあ(笑)

私はどう感じるかな(笑)

結構SAISEIさんとは感覚が似ていると思う部分もある反面違うところもありますしね。

ただ最近仕事と観劇疲れのせいか不感症気味(笑)

また他記事に書きますが最近観た公演あまり良いと感じない。

配役にもよりますしね。

投稿: KAISEI | 2016年6月24日 (金) 10時53分

>KAISEIさん

いや、けっこう、良かったとは思っていますよ。
多分、違う組も観るつもりですし。
少し、いつもと違ったおとなしさがあり、そこに何か感じるところがあったのかも。
同時に、ここの気に入っているところが、話と少し別のところにある、遊びの部分だったのかなあとも。

投稿: SAISEI | 2016年6月24日 (金) 11時55分

SAISEI様

私は前にも書いたように笑の内閣は社会問題や政治問題をウマくエンターテイメントにするなあ、と思っていて毎回満足度は高いです。ただやや弱いかな、というか物足りなく思うのは高間さん問題提起はするんですけど自分の意見というか結論は述べないんですよね。わざとでしょうが。

いろいろな意見をそれぞれのキャストに設定して適した役者に配役をする力は非常に優れていると感じています。

投稿: KAISEI | 2016年6月24日 (金) 14時37分

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