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2016年6月20日 (月)

迷路【劇団大阪新選組】160619

2016年06月19日 ウィングフィールド (140分)

お誘いもあったし、難解そうだけど、観劇を趣味とするからには、アラバール作品を一つぐらいは観ておかないといけないのかなと、ちょっと足は重かったけど、観に伺う。
とんでもない作品ですね。圧倒される迫力が伝わってきます。
分かりそうな話なんだけど、考え出すとすぐどこかへ思考が迷い込んでしまうような、巧妙な話の構成になっているようで、なかなか掴ませてもらえないような感覚が、この作品名そのままだなあと。

実際は70分×2みたいな形で、男役を若い青年と中年に変えて、ほぼ同じ話が描かれます。
自分を縛るものを断ち切って走り出しても、迷走してしまう不条理な世の中。その中で、生きることの残酷さを突き付けてるかのような、厳しく不安感を煽る話ですが、そこにたとえ思考が迷路に陥っても、自分の求める出口があることを忘れてはいけないような生き方を示唆しているようにも感じる作品でした。

突然、手錠をかけられて連行され、どこかの便所に、同じように連れて来られていた人と足枷で繋がり、監禁された若い男。
足枷と言ってもそれほどの拘束力がある代物ではなく、男はその足枷をヤスリで切断。水を飲みたいと繋がっていた男は何度も助けを求めるが、まずは自分が自由の身になることが先決だと一切無視する。
足枷は切断され、男は便所の外に出て、必死に走る。しかし、どれだけ走っても、また同じところに戻って来てしまう。
シーツがたくさん干されていて、それが迷路のように入り組んでいるようだ。
うちの庭で何をされているの。その声に振り向くと、そこには女性がいた。
女性曰く、ここは大きな屋敷の大きな庭らしい。厳格な父が主人。女性はその娘らしい。
この大きな庭は、かつては、運動場として自由に遊んでいたが、屋敷の幾つあるのか分からないくらいにたくさんの寝室から、日々、洗濯に出されるシーツと毛布を干す場所になってしまい、いつしか迷路のようになったのだとか。
かつては数千人の労働者がいたが、屋敷の情勢が悪化し、今はほとんどおらず、新しい労働者を雇い入れる話も無いようだ。
男は女性にここから出る道を教えて欲しいと願い出るが、女性もよく分からないらしい。
道を知る召使いが何人かいるらしいが、その速度についていけず、途中で遭難してしまうことになるらしい。一人で頑張れば、その遭難のリスクは低いが、結局、ここに戻って来てしまうようだ。
要は、ここは庭から出れないが、安全地帯で恵まれた場所とも言えよう。
唯一の方法は、主人である父をここに呼び出し、脱出の術を提案してもらうこと。
女性はそう言うと、そこにあったベルを鳴らす。どう考えても屋敷まで聞こえない小さな音だが、何人も並んでいる召使いを通じて、父にまで伝わるのだとか。
女性は、父が来るのを見失わないように、シーツの上から周囲の様子を見渡せと、肩の上に乗れと言う。
男は申し訳なさそうに、女性の肩に乗り、見渡すと、向こうから男がやって来た。
その男は、自分に手錠をかけて、ここまで連れて来た男だった。
男は逃げ出そうとするが、女性に止められる。

主人がやって来た。
すると、女性は父に近づき、あの男が自分を買収しようとし、さらには結婚を迫り、挙げ句の果てにはこの屋敷を放火して逆らおうとしているのだと、有る事無い事を無茶苦茶に言い出す。
父はよく報告してくれたと娘を褒め称え、婚約者のところへ行くように伝える。女性は便所の中へと向かって行った。
主人は男に、申し訳なかったと謝ってくる。娘は少し頭がおかしい。
だから、これ以上おかしくならないように逆らわないようにして欲しい。安心してもらって大丈夫だと。
便所からは、娘が婚約者とまぐわう声が聞こえる。それを盗み聞き、盗み見しながら、主人は娘が嘘ばかりをついていることを主張してくる。
男は主人の言葉を信じ、ここから出たいことを伝える。
ここが迷路であることは本当。それに、過去、たくさんの重罪人が脱走した経緯から、この庭を出るには裁判で審理を受ける必要があるのだとか。
それには通常一月以上かかる。
主人はその手助けなら出来ると言う。
ここで緊急裁判を行い、即決で審理してもらうことが出来るようだ。ただし、その審理は厳格で、男のまだ足にくっついたままの切断された手錠を見て、厳しい判決を受ける可能性もあるらしい。それでも、男はその緊急裁判を受けたいことを主人に伝え、主人はその審理官を呼んで来てくれることになった。

女性が便所から出て来る。
女性はさっきのでたらめの発言は全て、父から命令されていたことだと言う。
自分たちの頭がおかしいということにして、娘に優しい父を演じている。そうして、人を信用させ、酷いことをするのだとか。
緊急裁判を受けたら、きっと有罪にさせられてしまうと忠告してくる。
どちらが真実を語っているのか分からず、悩む男に女性は自分の背中を見せる。
赤く血に染まる背中。父から鞭で酷い折檻を受けているらしい。それに本当の父ではないとも。
男は女性に一緒に逃げようと言うが、女性はその言葉に感謝の意を示すものの、父の恐怖からか行動には移せないでいる。
便所の中の男も婚約者では無いらしい。あの男は犯罪人でここからは出れないだとか。しかし、男は彼から自分は無罪なので、裁判になったら証人になって欲しいと何度も言われている。それも、嘘のようだ。これまでも、彼と繋げられた男が何人もいた。そのたびに、足枷を切断し、男は逃げた。でも、生き延びた者はいないらしい。
そんな中、便所から異音がする。
彼が首吊り自殺をしたらしい。
このままでは、男が殺人者と疑われる。女性に従って、庭のどこかに死体を埋める。
女性はこの婚約者にも数々の暴行を受けており、父への反抗心を密告されたりしていたらしい。そんな男だから、死んでもどうとも思わないみたいだ。

主人が審理官を連れてやって来る。
裁判が始まる。
男は、ここには迷い込んだだけで、そもそも裁判を受ける必要が無いことを主張する。足に付いている手錠もアクセサリーだと。
しかし、審理官に突き詰められると、連れて来られたことを自白する。でも、決して罪は犯していないと。
審理官に仲間の存在を聞かれると、男はずっと一人だったと嘘をつく。それも、すぐに見破られる。
仲間をほったらかしにして、自分だけ逃げ出そうとしたことを言及されると、その仲間は動けなかったとさらに嘘を重ねる。
主人がその仲間が便所にいないことを審理官に告げる。その死体は便所には無く、庭のどこかで発見される。動けなかった仲間。それならば、彼を殺し、死体を隠したのは男だろうと詰め寄られる。
男は主人が娘に暴力をふるう酷い奴であることを告げ、そんな証言は信用できないことを主張する。しかし、その娘の背中を見ると、そこには傷跡一つも無かった。
男は死罪となる。
発狂した男は、処刑人の手によって、殺される。

その庭に今度は中年の男が血相を変えてやって来る。
足枷を切断して逃げ出したものの、迷路のようなこの庭から抜け出さないらしい。
うちの庭で何をされているの・・・

ざっくりこの戯曲の作家、フェルナンド・アラバールのことをネットで調べましたが、彼のトラウマのような生い立ちが深く絡んだ作品みたいです。
植民地の歴史。スペイン領のモロッコで生まれる。反政府主義者の父が母に密告され逮捕。父は脱走して行方不明となる。その後、母と一緒にスペインで暮らす。フランス留学してから、数々の作品を残すが、それが自国政権への反逆とみなされ、自身も投獄され、裁判で無罪となり釈放されたような経験もあるみたいです。
母への愛情と憎しみが交錯した心が、こんな話を生み出しているようにも感じます。

自由に楽しめる運動場だった庭。そこに、いつの間にか蔓延ることになる、屋敷からのシーツ。何不自由無いような大きな屋敷や寝室という、いかにもブルジョアが欲を生み出すようなところから排出されるものが、一般大衆の自由な空間に蓄積されていく。それも、多くの労働者に運ばせて、清廉潔白の象徴のように見える白いシーツを。そして、そこは人々が迷って彷徨う場所となる。物理的にも、思考においても。
その色は本当に白だったのか。
虐待を受ける娘の背中の傷跡、足枷を引っ張り傷つく足から滲む血のような、それを赤に染めてしまう主人に仕える人たち。

主人が正しいのか、娘が正しいのか。真実がどこにあるのか、まるで分からない。
連行されることになった張本人の主人、それに媚びて自分を陥れようとした娘。
男は声をあげて、どちらも非難すべきなのに、上手い具合に言いくるめられてしまう。
嫌悪感を抱く汚い人心掌握術を見ているかのよう。
敵を生み出しておいて、その敵は自分にとっても敵なのだと味方の振りをして同調を得る。
娘が、父が昔、屋敷が大事な時に、しもやけの薬を買いに行っていたようなことを言います。父は男に娘が嘘つきであることを証明するために、それは魚の目の薬だったと言うようなシーンがあります。この話の事の本質は、父が大事な時に不在だった理由は何かということなのに、くだらない細かなことを言及して、はぐらかしてしまう。枝葉を見させて、幹を見せない。その幹が腐りかけていることを知られると困る人が今でもよく使う手段だと思います。
娘に婚約者をあてがい、性欲を満たす。それを子供を見るかのように楽しむ主人。人間の欲は大きいですが、全ては満たされないと謙虚なところもあるのか、何かの欲で満たしておけば、けっこう従順になってしまうのかも。
裁判の時の男の応対を見ていても、一人の大衆を、都合のいい方向へと導くのはけっこう容易いことのようです。
この庭から脱出するという出口がはっきりしているのに、それを見つけ出すための思考が迷路に陥ってしまっている人の弱さでしょうか。
こうあるべき、こうするべきと社会の安寧を願う大衆が、その手段が分からず、迷走するところを巧妙に突いて、自分たちの都合のいい方向へと導かれてしまう社会構造も見え隠れするようです。

上記したように、男を若者、中年に変えて、連続して同じ話が描かれます。
女性はなぜか、二人いて、セリフや動きは各々別々になっていますが、同一の娘役を演じている。若者、中年で、こちらも入れ替わります。
主人や審理官はどちらも同じ。
これが何を意味しているのかはよく分かりませんが、何となく感じるのは支配する側は、決められたたった一人、支配される側は、年代や個人など関係なく、誰でもいい大衆として扱われているような。
多分、若者、中年と話は同じだったと思うのですが、所々、変わっているようなところもあったみたいです。恐らく、気付いていないところがたくさんあると思うのですが、印象に残ったのは2点。
男と一緒に繋がれていた男、娘の婚約者と呼ばれる男は自殺します。その死体を埋めるシーンが舞台奥で行われているところ、白い服の男が舞台前方をゆっくりと横切っていきます。若者の時は白い服で、イメージはキリストみたいな感じでした。でも、中年の時は、その上に赤いマントを羽織っています。イメージは権力者、赤なので共産主義みたいな感じです。
男が足枷を切断して、断ち切ったものを描いているのでしょうか。作家の母はカトリックだったみたいですが、そんな神との別離かな。後者は、フランス留学とかで、母国と絶縁するみたいなことも感じられます。
若者と中年は、同じ男なのか、それとも、父と自分のようなことを描いているのか。
あとは、審理官が裁判を始める時に、パンとワインを用意します。最後の晩餐みたいなものを安易にイメージしてしまいます。
若者にはそれを分け与えますが、中年には一切あげず、自分がむさぼります。
どうも、これも先ほどのキリストみたいな人と権力者みたいな人と連動しているみたいな感じです。
神も権力者も自分を救ってはくれない事実を残酷に見せられているような感覚が残ります。

2回、男が変わっているとはいえ、同じ話を観ることになります。
1回目は、若者の深刻さ、恐怖のようなものが感じとられ、拒絶、怒りみたいなものが沸いてきます。こんなことは許されないという、正義感みたいなものが現れるみたいな感じか。
おかしなことに慣れてしまうのか、中年だからなのかは分かりませんが、2回目にその感覚は少し緩んでいるような気がします。
もはや、どうにもならないという同情、絶望、妥協みたいな。そして、まあ世の中、こんなものですよといった諦めが。
体力的に厳しいですが、多分、これをあと数回繰り返されると、きっと、もういいよと、もしかしたら、不条理な権力者側の考えに同調してしまい、早く男を処刑してしまうべきみたいな考えが生まれてしまうのではと感じて、少し恐怖感を覚えます。
これが迷路に潜り込んで脱出できない愚かな人間、それが作り出す不条理な社会を見せているような、不気味で漠然とした不安を煽られるように感じます。
それでも、いつかは出口にたどりつけると強い意志を持って、この不条理な世の中を生きなくてはいけないと言っているのでしょうか。

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コメント

SAISEI様

これは知らなかった。。

大阪新撰組も気になりつつもまだ行けていない。

今回も知っていたとしても会場で外したかな。。

投稿: KAISEI | 2016年6月23日 (木) 00時05分

>KAISEIさん

ウィングで2時間越えはけっこうきついですね。
頚椎ヘルニアの症状がまた出て、少し指が痺れ気味。
ただ、なかなか興味深い戯曲でしたよ。

投稿: SAISEI | 2016年6月24日 (金) 11時49分

SAISEI様

ウイングは60~90分が限界ですよ。

私はよっぽど公演がない週でここしか観るところがないという時くらいしか今後ウイングは行かないと思います。

ステージ+プラスやスペースイサンなとキタナメのところもそうかなあ。

投稿: KAISEI | 2016年6月24日 (金) 14時55分

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