ただしヤクザを除く 菊組【笑の内閣】160627
2016年06月27日 アトリエ劇研 (100分)
桜組に引き続き、観劇。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/95-3e8a-2.html)
この組特有なのか、私が忘れているのか、プラスアップしたのかは定かではありませんが、前回拝見した時よりも、少し盛り込んでいるところがあるみたい。
2回目ということもありますが、話の展開がとてもスマートで、その内容が把握しやすく、かつ、このヤクザ人権問題に関しての様々な視点からの主義主張が明確に伝わってきたような気がします。
前はあまり意識しませんでしたが、ネタにけっこう演劇界のことを絡ませているみたい。違和感が無いのは、演劇界もヤクザの世界とけっこう似ていて、ともすれば、演劇している人も人権否定される日が来る警鐘も自虐的に込めているのかも。
前回拝見した桜組はおとなしめで、こちらの組は騒がしいみたいになっているようなことをTwitterや前説で言われていましたが、確かに。
共にスマートで、それもちょっと過ぎるくらいで、そこに物足りなさみたいなものを感じるという感想は大きく変わりませんが、確かにこちらの菊組はうるさい感じ。この劇団らしいと言えば、そうかもしれません。
それでも、共に、この題材を巧く理解させ、いつものようにコミカルさを込め、ヤクザだけにちょっぴり人情風の色も持たせた作品に仕上がっているように思います。
2組拝見したので、少しだけ比較。
店長は、共にこの劇団の作品でこれまで拝見したヒロイン像とよく似ており、どこかあかぬけしていない可愛さを醸しています。しっかりしてそうで、飛び交う様々な考えの渦に巻き込まれ、彷徨っているような、救ってあげないといけないと思わせる弱さを感じさせます。頭で理解していても、心がそれについていかない。そんな葛藤からか、感極まると、どうしたいのかが明確でない言動を起こしてしまう。極論を言う人たちに囲まれ、その中でその考えをまとめあげるのは難しく、いつの間にやら、自分の中で自らの極論を仕立て上げて、また偏った人を生み出してしまうような世の常を思わせられます。
自分のポリシーがまだ明確に抱けていない幼さを見せるしらとりまなさんと、芯はあるけど、その健気さゆえに人に合わせてしまう土肥希理子さんといった感じでしょうか。
エリアマネージャーは、人のいい、事なかれ主義者。でも、間違っている上司にたてついたり、無意味で不条理な規則を破ったり、アウトロー的なことをしたい願望はあるのか、自分を変えたいという気持ちが心に潜んでいるかのよう。
そんな外面の実直さの裏腹に、もっと悪くなりたいみたいな心を潜ませる男を、真面目ゆえに悩み葛藤する空気で演じる瓜坂勇朔さんと、媚びへつらうことで、そんな奥の自分を封じ込めようとして奇妙な空気で演じる横山清正さん。
古参バイトは、ヤクザの人権否定派。理由は、あいつらが何で自分よりも恵まれないといけないのかという考え。妙齢を迎えた男の嫉妬や焦りを醸す、色々と悩みや苦労が多い中年像として描かれる。愛らしい情けなさを見せながら、中年の哀愁を醸す松田裕一郎さんと、強引なまでに相手への妬みを卑屈な感じで見せる丸山交通公園さん。
桜組ではハーフバイト、菊組ではギャルバイト。ヤクザ人権の考え方の指針のようなことをひたすら語る、印象に残るセリフが多いキャラ。共に自然体でウザい雰囲気を醸す。山下ダニエル弘之さんは、理路整然と論破しようとするウザさ。下楠絵里さんは感情が沸き上がりそうになりながらも、冷静に抑え込み主義主張するウザさ。よく極論を語り、自らの考えを説明する人の男と女の差がよく描かれているように感じる。
パートのおばちゃんは、人生の酸いも甘いも経験したからこその味を魅せる人。本で得た知識や、薄っぺらい主義主張とは異なり、当事者でもあったという経験が物を言わせている。ヤクザの気持ちを知りたいからと言って、ヤクザになるわけにはいかない。話は違うが、被災者の気持ちは、被災しないと分からないと言われたらそれで話はお終いになる。このような当事者の考えを、いいところ、悪いところも含めて、そうだったからこそ、冷静に分析して語ることが、問題を解決する大きな突破口になるように思う。共に賢さを醸しながら、極妻でもあり、普通にパートで働くおばちゃんでもあり、さらには母でもありと、この問題には様々な立場からの考えが存在することを改めて感じさせるキャラ。外見から発せられる空気は逆なのだが、森田祐利栄さんの方が極妻色を残し、山下みさおさんの方が母親色を残しているような感じがする。
暴力団取り締まりの巡査部長。共に駆け引きを使った仕事が多いからか、飴と鞭をちらつかせた裏表のあるいやらしさを見せる。その切り替えが激しく一直線の力技の丸山交通公園さん、陰湿にも感じる巧みな技の藤井直樹さん。
ヤクザは、全組で髭だるマンさんが演じる。クズ役はもはや定番であるが、今回はそこにある心の葛藤を狂おしく表現もされている。以前、拝見した小児科医なのにロリコンというとんでもない設定で演じられた一人芝居で魅せられた、心の奥から湧き上がる、歪んだ心情との戦いにも通じる名演だったように思う。
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コメント
SAISEI様
桜組拝見。私は最高でしたね。あまり褒めたくないのですが(苦笑)。たぶん毎回満足度が高いという意味ではこの劇団を凌ぐ劇団はないかもしれません。Myベスト10に入ってくるかというとカテゴリーが違う感じがして難しいところなんですが。今回初めてふつうの前売りで行ったんですが3,300円の価格対満足度も満たしてくれたみたいで。結局,公演が良ければ観に来るんでしょ,思われると悔しいしムカつくんですけどね。6月観劇作品では最上位にくると思います。
理由の一つとしては政治ネタや時事ネタをエンターテインメントにする劇団が他にはないんですよね。なのでハードルは低くなる可能性が高いです。
理由の二つ目はやはり配役がウマい。これは高間氏の才能ですよね。なんでこんなに〔私だけかもしれないが〕ぴったりくる配役ができるんだろう。そしてそれぞれの役者に見せ場も与えて。もしかしたら露出時間は各役者全然違うと思うんですがなんか堪能した気分にしてくれます。今回もしらとりまなさん(初見かな),瓜坂勇朔さん(見たことはあるかも)が気になる役者の仲間入りをしてしまいました。
髭だるマンさんはやっぱ凄いです。笑の内閣に欠かせない役者さんですね。『超天晴!福島旅行』で拝見した時からカッコいいしステキな方ですよ。今回もいいな,と思って観てました。丸山交通公園さんは出だしイマイチな感じがしましたが相変わらず身も蓋もない投げっぱなしの台詞回し(うまく表現できない)が久々に聞けて満足でした。男性にしてはカン高い声が特徴ですが今回そこまで高い感じがしなかったかな。。松田裕一郎さんも毎回良いな,と感じる役者さんですし森田祐利栄も何回か拝見してますが今回も良かった。山下ダニエル弘之は物語が進むにつれて味が出てきはって。
土肥希理子さん(三友紀から改名? )、山下みさおさん、由良真介さん、横山清正さんも拝見したかったですけどね。ちょっともう行けないかな。。
理由の三つ目は結局感性が合うんでしょうね(苦笑)。対等の劇団が出てきたら乗り換えたいですが(笑)なかなか出てこないだろうな。
素人の眼から感心するのはよくロングランするなあ,と。お金もかかると思うのでその勇気には敬意を表します。
褒めてばっかだと癪に障るので若干くさしておくと由良さんいつもスタッフでいるときボソボソ聞こえない声で案内したはるんですよね。何のためにいるんや。ちゃんとしろよ,と(笑)
あ,「少し、いつもと違ったおとなしさがあり、そこに何か感じるところがあったのかも。
同時に、ここの気に入っているところが、話と少し別のところにある、遊びの部分だったのかなあとも。」と書かれてましたがこんなのを見つけました。読まれてるかもしれませんが(笑)丸山さんの高間響評なのかな?
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=236732943385046&id=100011450251697
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=245558499169157&id=100011450251697
投稿: KAISEI | 2016年6月29日 (水) 14時01分
SAISEI様
追伸
森田祐利栄さん
山下ダニエル弘之さん
敬称つけるの忘れました(汗)
公演中ちょっとムッとしたのが(笑)2月くらいに高間氏がtwitterで言っていたことを取り込んだ部分。私のSAISEIさんへのコメント見られてたのかな?(笑)
そもそもチケット代とその芝居は等価交換であるはずなので,観客にお礼を言う必要はない(自販機は礼を言わない)のに,カーテンコールでありがとうございますというのは自分らの舞台にそこまで価値がないと思っている証左なのでは。
もっといえば,本来労働基準法をきっちり守ったら,小劇場が2~3千円なわけないのに,その値段で提供しているのだから,むしろ観客側が安くしてくれてありがとうと言ってほしいもんだ。
特に,コンビニの年配の定員は,本当に無愛想で「なんでこの年になって(私みたいな)くそガキに笑顔でありがとういわなあかんねん,クソが」て対応してほしいんですよ。私みたいななにも成し遂げてない若造に,等価交換しただけで年長者がお礼を言うなんて理不尽で申し訳ない罪悪感で一杯。(高間響氏twitterより)
まあ,ウマく取り込んだはりましたが(笑)
だいぶ前に見つけたのですが稽古場の有料化反対の時の公演なのかな? これも面白かったですが(笑)
http://zero-1office.jugem.jp/?eid=98
投稿: KAISEI | 2016年6月29日 (水) 14時34分