魔女が詠うは、とある娘の御伽噺。【NOISY BLOOM】160604
2016年06月04日 シアターカフェNyan (100分)
前回拝見した作品がなかなかお気に入りで、今回はチラシから漂う、いい作品オーラがぷんぷんと匂っていたので、足を運んでみました。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-1.html)
非常に良かったですね。
ファンタジーベースに、恋する人の美しさを、その素敵さと同時に残酷な一面も交えて描かれています。
人は醜く、汚い。想い合いなんて言っても、そんなもの欲望で容易に消し去ってしまい、後に憎しみ、恨み、妬みを残す。
御伽噺みたいな、幸せで綺麗な話なんか無い。あるのは厳しく、汚く、歪んだ現実。
でも、そんなことを越えて存在する美しい愛を人はきっと生み出せる。
それを信じて、人を好きになって、幸せを願いながら、生きていければ。
そんなことを感じさせる話でした。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は本日、日曜日まで>
グレンハルム家の屋敷で、召使いとして働くルナリア。
執事や他の召使いたちに虐げられながらも、日々、懸命に働いている。
親を亡くして、親戚をたらい回しにされていた頃に比べたら幸せだ。
それだけで十分。身の程はよくわきまえているつもり。でも、今、抑えきれない気持ちがルナリアを襲っている。恋。近々、爵位を与えられ、いずれはこの地を治めることになるユーリに想いを寄せている。
ユーリは紳士でとても優しい。ルナリアの歌声をとても気に入ってくれていて、執事や他の召使いたちに辛くあたられた時もかばい立てをしてくれる。身分が違い過ぎることは重々分かっている。でも、優しくされたら勘違いしてしまいそうになる。
ただ傍にいられたら、ルナリアと名前を呼んでもらえたら、一緒に話をできたら・・・、と想う気持ちは膨らむばかり。
しかし、厳しい現実がルナリアに突きつけられる。
ラングロット家のお嬢様とユーリの婚約。
気が進まないユーリだが、大事な政略結婚なので逆らうことなど絶対に許されない。
最近、噂される言い伝え。
Dの森の奥にある神樹の切り株にキスをすると、どんな願いも叶う。でも、魔女に見つかると木にされてしまうのだとか。
気付くとルナリアは森へ向かっていた。
Dの森には一人の魔女、ディタとそれに仕えるシャルルという者が住んでいた。
二人は近隣の有力者たちに調合した薬を届けて生活を営んでいる。
シャルルが森で薬の材料を集め、ディタがそれを調合する。
シャルルは、森の妖精みたいなものか。枯れた母なる大木と、森に住む獣たちが融合して生み出されたものみたいで、森の守護を司っている。その大木からは最近、芽が再び息吹き、新しい森が生まれようとしているみたいだ。
ディタは、元々は、ある村で薬を調合する賢女と呼ばれていた。しかし、国の政策で魔女狩りが始まると、その疑いをかけられて有罪となる。親しくしていた村人はおろか、恋人までが裏切り、彼女を通報したらしい。彼女の頬には、処刑される罪人の証であるDが刻印されている。この恨みが消えない限り、彼女の頬の傷が癒えることはない。痛みに苦しむディタをシャルルはただ抱き締めることしかできない。
シャルルは最近、森にかすかに届く悲しい歌声を聞いている。いつか、この歌声の持ち主が森にやって来る。そんなシャルルの言葉をディタは、複雑な表情で聞いている。
ルナリアはDの森で行き倒れに。
シャルルはその姿を見て、森の木々たちに彼女を追い返すように指示する。そんな願いが叶う噂など全くの嘘。諦めて帰れと。
しかし、それをディタは止めて、ルナリアの話を聞くと言う。
グレンハルム家。ディタにとっては積年の恨みが募った名前らしい。
ディタはルナリアの心の中を映し出す。それは自由に空を羽ばたく鳥の形をしていた。たとえ人の姿を捨ててでも、ユーリの心が欲しい。その欲望は醜く、しかし美しい。
ディタはルナリアに魔法をかける。鳥の姿になったルナリア。夜中だけこの姿になり、ユーリの心を得ればいい。ただし、気付かれてしまったらそれでお終い。
ルナリアは羽ばたいてユーリの下へと向かう。
ユーリは、その鳥の姿になったルナリアを部屋に迎え入れ、気付かれることなく、幸せな一時を過ごす。
森ではディタが、ルナリアの羽根を一枚、本に挟んで魔法をかけている。ルナリアの未来が本に記されていく。
それを読むシャルルは、知りたくないディタの本当の気持ちを分かってしまったようだ。
翌日の朝、召使いの誰かの目が見えなくなり、騒がしい一日の始まりを迎える。
ユーリは肌荒れがひどいルナリアに薬を持って来てくれて、相変わらず優しい。
夜、ルナリアは再び、鳥になってユーリの下へ向かう。
王である父から厳しく婚約は絶対だと言われた。そして、ルナリアへ想いを寄せていることを悟られてしまったようで、言うことをきかないならルナリアをクビにすると脅しの言葉までかけられた。昼間、そんな辛いことがあり、苦しく寂しそうな表情を浮かべるユーリ。
何も知らないルナリアは彼に笑顔になってもらえるように美しくさえずり歌う。
翌日の朝、今度は別の召使いがの耳が聞こえなくなった。続く不幸に召使いたちもイライラしているのか、ルナリアはユーリに自分だけ優しくされていることを皆から責められる。
確かに思いあがっていたのかもしれない。ユーリはあの婚約者の方と出掛けている。身分が違う。ユーリは誰にでも優しい。自分を想ってくれているのではない。そう自分に言い聞かせたルナリア。この夜はユーリの下へは向かわなかった。
翌日の朝、婚約者の腕が動かなくなる。屋敷ではある噂が広まる。
最近、夜ごとに現れる鳥。その姿、鳴き声を聞いた者に、何かが起っていると。
夜、ルナリアは我慢できず、鳥になってユーリの下へ向かおうとする。
銃声。執事と召使いが、自分を撃ってきた。違う、止めて。
その声で、逆に執事と召使いが傷つき倒れる。
シャルルは混乱するルナリアを森に連れて来る。
ディタはルナリアに魔法では無く、呪いをかけたことを告白する。
愛されるだけでなく、全てを手に入れたいと欲望を膨らます人の心。あの時の醜い人間たちの心。ディタの長年の恨みは復讐の念を生み出している。
ルナリアは飛び出し、ユーリの下へ向かう。
ユーリは胸を押さえ苦しそうだ。きっと呪いの効果だろう。
それでも、ユーリは鳥のルナリアを、昨晩、来なかったので心配していたと迎え入れてくれる。
ルナリアは正体を明かす。
驚くユーリであったが、その歌声が昼も夜も、自分を勇気づけてくれていたと語る。
自分のことを想ってくれていた。それで十分幸せだ。
ルナリアはディタのことを話す。
一緒に謝りに行こうと言うユーリを、ルナリアは諫める。
これはお伽噺では無い。
一人で飛び立とうとするルナリアに、ユーリは声を掛ける。
自分はあなたのことが・・・。その続きはルナリアが止めた。
ルナリアはディタにユーリと皆を助けて欲しいと願う。
自分の欲望のせいで、こんなことになってしまった。罪を償いたい。
ディタはルナリアの目、耳、腕を代償に、召使いたちの失ったものを戻せると言う。
そして、一番呪いが深いユーリを助けるには、ルナリアからユーリの記憶を消さなくてはいけないと。
ルナリアは決断する。
自分の欲望を叶えるために、自分もかつての村人たちのようにディタを利用していたのかもしれない。そのことの謝罪。そして、ほんの一時でも、ユーリとの幸せな時間を過ごせたことへの感謝をルナリアは述べる。
魔女がルナリアに魔法をかける。
ユーリは自分の体から呪いが解かれたことに気付く。
急いでDの森へ。
そこには、動けず、何も見えず、聞こえずとなったルナリアがいた。
自分の命と引き換えにルナリアを助けて欲しい。そうディタに願い出るユーリ。
しかし、ディタはその言葉を否定する。それをルナリアが望むだろうか。もし、お前が傷つき、助かったルナリアはどれほど悲しむことになるか。
そのディタの言葉を理解したユーリは、ルナリアの耳だけを聞こえるようにして欲しいと願う。伝えたい言葉があるから。
ディタは了承する。
ユーリはルナリアに声を掛ける。ルナリア、僕だ。
しかし、ルナリアには、もうユーリの記憶は無い。あなたは誰。
ユーリは、ルナリアに歌を歌ってと願う。
ルナリアが歌い出す。その歌声が森の中に響く・・・
どうしようもなく湧いてくる人が人を恋する気持ち。
互いにそんな気持ちを通わせ合い、いつしか、同じ歩幅で、同じ歩き方で、共に歩むかのような二人だけの時間を育むようになる。
ルナリアは自分だけの想いを膨らませ、それを相手に伝えること、相手の想いを受け止めることから逃げてしまっていたように感じる。
ユーリも同じだろう。膨らむルナリアへの想いを抑え、ルナリア同じく自らの立場などを理由に、ルナリアの想いを見えない振りをしていたのだろうから。
二人で、互いの想いを素直に受け止め合い、大事にして、その愛を育てていけばよかったのに。
そう思うが、そんな御伽噺のような甘いものでは無いことも同時に描かれているみたいだ。
そんな幸せの時を、人は自らの欲望で容易に壊す。裏切り、妬み、保身など、人の醜さが、欲望となって、そこに確かにあった想い合いなど、あっさりと消してしまい、その後に憎しみ合いを生み出させる。
ディタの傷ついた姿は、そんな人の醜さに、人を想う気持ちを消されてしまった姿そのものだろう。
でも、そんな人間の醜さ、歪みを越えて存在する美しい愛も必ずあるはず。
それは時間の経過によって見えてくるのかもしれない。環境の変化が必要なのかもしれない。もしかしたら、何かを失うことでようやく気付けることなのかもしれない。
この話の中で、大木から息吹く芽や、少しずつ癒えてきて、薬を渡す人のことに想いを馳せているディタの姿から、そんなことを感じさせる。
ディタの凍りついた心は、長い時を経て、シャルルの見守るこの森の中で、少しずつ溶けているようだ。
そして、ルナリアが歌う歌声が、彼女をさらに癒してくれるだろう。
彼女の歌声はきっとこれから、ユーリと共に過ごす日々への喜びの歌へと変わっていくはずだ。
ユーリとルナリアは、また、これから始まる。失われた目や腕は、魔法の力を持ってでしか戻せないだろう。
でも、失われた記憶は二人が戻せる。
二人の大切な思い出は、これから作ればいい。
そんな二人の姿が、ディタをいつしか、人は汚い、醜い、御伽噺など存在せず、あるのは厳しく歪んだ現実だけだという気持ちを、変えてくれるのだと思う。
ルナリアとユーリのこれからが、ディタにとって御伽噺になった時、きっと、この森はシャルルの見守る中、深い美しい緑で、鳥が羽ばたき、さえずる風景を生み出しているのだと思う。
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