THE KING OF THEATER【がっかりアバター】160520
2016年05月20日 HEP HALL (95分)
この劇団の中では一番好きな作品と似たような感覚を得る作品かな。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/120-a76f-1.html)
色々とまたこの劇団らしい、不可思議な設定、えげつない描写を多用していますが、一言で言うと、生きるって色々と大変だけど、バイブス上げて、いい生き方していこうぜみたいな感じでしょうか。
一人ぼっちでさみしいからと、世捨て人のようになって自堕落な生活をしていては死んでいるようなものだし、降りかかる災難に身を任せて、もうこのままズルズル落ちていけばいいなんて抵抗しなければ、そのまま本当に這い上がれないところまで落ち込んでしまう。
だからといって、別に根拠なく、イエ~イとノっていればいいわけでもなく、誰かと体を重ねてセックスしていても一時的な快感でさみしさがまぎれるだけだろうし、薬の力を借りても仕方がなく。
大事なことは、今の自分、生きている自分を肯定することだと伝えているような印象を強く受けます。
そのためにどうすればいいのか。
この作品では、自分のルーツを探るような形で、自分がどのようにして、この世に生を得て、それを多くの周囲の人たちによって見守られてきて、今があるのかを見せているようです。
自分だけの力で生きてきたのではなく、場合によっては、人の幸せを吸い取って、また、自分のさみしさを誰かに押し付けたり、受け止めてもらって、自分の生は守られてきたことが分かります。
最後、そのことを知って、生きる力を得た人間が、同じように苦しむ人間の心を救います。
想われていることを知る強い人間は、想うことでその力を他の人に分け与えることができるのでしょう。
孤独のさみしさ、降りかかる災難と、生きることの悲しみ、辛さは、いつの時でも存在しますが、同時にいつの時だって、それを消し去ってくれるだけの大きな想いが、それこそ時空を超えて自分の傍に存在していることに気付く。
それが生きる力となって、私たちをこれからの時間へと連れて行ってくれるのだと感じます。
今回の公演の観劇代金は客が勝手に決められます。
私は4000円。
一応、内訳を記しておきます。
HEPで若手劇団公演の私の勝手な相場で2500円を基準。
作品の良し悪しよりも、私は上演時間案内、受付対応、観劇環境をよりよくするための努力、・・・などなどに金を払いたいと思っています。
上演時間はしっかりとした案内がされていたと思うので+500円。
初日ということもあってか、開場時間の大幅な遅れ、さらに隣の客のまあちょっとだけどお喋り。前説で私語は慎めということを言えばいいだけだと再三思っているのですが。
本当は、これだけで今回は支払い無しでもいいかと思ったぐらいですが、一生懸命スタッフさんが動いているのを見て、それを否定することは観劇のファンとして出来ません。
今後の改善を信じてマイナスは無しです。
残りの+1000円は、この劇団が好きなこと、こういった企画の挑戦への敬意、あとは、ネタバレになりますが、セットも色々と壊れるんだろうなと、補修費の補助です。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>
17歳、高校生、オダマキ。
深夜3時、目を覚まして、何か冷たい空気を感じて、部屋を出たら、父手一つでここまで育ててくれた父親がドアノブで首吊り自殺。
以来、バイトもサボって仕事もせず、食えりゃあいいといつ作ったのかも分からないカップラーメンを食ったりしながら、残された家の一室で自堕落な生活を送っている。
喋り相手といえば、よくわからない思念体という存在のガンジツぐらい。
そんなオダマキ、こんな生活で頭がおかしくなってしまったのか、女子高の下水道に潜り込み、ウンコを採取。それを誰もいない空き教室で食べるという行為をする。その姿をえりかという可愛い女子高生に見られ、当然のごとくひどく引かれ、逃げ去られる。
好みのタイプだったのか、オダマキは、えりかの後を付け、自宅の部屋のタンスに隠れるという犯罪行為を重ねる。
しかし、そこであまりにもショックなえりかの姿を見ることになる。
えりかの母親、純子はヤク中。
売人の北村の手伝いをするために、ドラッグがたっぷり詰まったキャベツを運ばないといけないところ、脳みそがやられているのか、白菜を運んでしまう。
このままでは、北村の組のボス、モンスターチェリーに殺されてしまう。何せ、若くしてヤクザの組のトップなのに名の通り、童貞。どんなことをしでかすか分かったものではない。
純子は北村を家にかくまうことにする。その北村を見詰める視線は女になっている。
えりかが学校から家に戻って来る。
えりかは、北村の姿を見て、どういうことかと母に正すが、北村は自分がこの家の主だと、いきなり横暴な態度を取る。そして、娘は許してと叫ぶ純子を無視して、北村はえりかを部屋に連れて行き、性的な暴行を加え、処女を奪う。
タンスの中のオダマキは、半ばレイプされているけど濡れた音を立ててセックスするえりかと北村を見て、止めることもせずにただ見るだけ。
家に帰って、当たり前のようにオナニーをしようとするが、精子は出なかった。
オダマキの下に、ロートスという木の化け物みたいな怪しい者がテンガを土産に現れる。その気味悪さは思念体のガンジツですらオシッコをちびるぐらい。
ロートスは、クロノ・・・なんとかいう世界にオダマキを連れて行くと言う。要はタイムスリップということらしい。歴史は変えられないけど、見ることが出来るらしい。
オダマキはロートスの触手をさすり、絶頂を迎えた時に、オダマキとガンジツは時空の狭間へと旅立って行く。
ロートスは、えりかの下にも現れる。用事があったから。一つはお腹が緩い生き物らしく、トイレを借りること、もう一つはデスノートを渡すため。
このデスノートは、たった一人、願った者を生き返らせることが出来るらしい。
今は辛いけど、幸せにきっとなるから頑張ってという言葉と間に合わなかったウンコを残して、ロートスは去る。
あと、出来たらオダマキを救ってあげてとロートスは言うが、ウンコを食べる変態男を助けるいわれなどあるはずもなく。
オダマキとガンジツは、よく分からない時空の狭間で、ハイテンションな3人組に出会う。
長女のビッグベイビー、次男のジョージ、三女のミカ。
ノリにくいラップに、ガンジツは、空気の読めない発言をボソボソと繰り返すが、オダマキは気を使って合わせてノリノリの楽しい姿を見せて、仲良しに。
夜になり、3人はいつものように、絆の証なのか何とかいうラムネみたいなもので乾杯してお別れ。ジョージとミカは家に帰り、ビッグベイビーはここに残る。
話を聞けば、軽という名のフォルクスワーゲンに乗って家族旅行に出かけていた時、事故で運転席と助手席の両親が亡くなったらしい。
後部座席の3人。ジョージとミカはシートベルトをしていて助かる。でも、ビッグベイビーは、真ん中の座りにくいところにいたのでそのまま放り出されて死んだらしい。そして、今、中途半端な状態で生きることもなく、死ぬこともなく、こんな時空の狭間にいるようだ。
ジョージとミカは2人で、変態趣味を楽しみながら、現世で生きている。ビッグベイビーは、いつまでも死に切れず、2人に迷惑をかけていることを感じている。だから、あのラムネのような飲み物に毒が盛られていることは知っているが決して言わない。
ずっと一人ぼっち。それが辛い。
そんな3人。近々、こんな状態になって2周年を祝い、餅パーティーを開くらしい。
オダマキとガンジツは、さらに過去に遡り、25年前のある屋敷にたどり着く。
そこには性格の悪そうなエレーナおばさんと、息子、いじわるな娘のアマディスが裕福な暮らしをしていた。
そこで手島優を目指してメイドとして働く、いじめられてもそれをいじめと思わないような明るく元気な前向きの女性、こっこ。
そんなこっこ、ガスの元栓を閉め忘れ、屋敷を燃やしてしまう。長男は焼死。エレーナとアマディスは、こっこに体を売らせて借金を返済させる。その額、2兆円。こっこの末代まで、その体を貪るつもりでいる。
こっこは、縛られ、男の性液を股間からたらしながら、毎日のように体を売る。
そんなこっこにとって、唯一の癒しの時間がフクジュという客と触れ合う時だった。
フクジュは、いつもチンコが勃っているが、決してこっこを抱かない。いつも話をして元気付けてくれる。フクジュは、一緒に逃げようとも言ってくれるが、自分の罪、それも長男を殺してしまったことを考えると、償いの心がそれを許さないみたい。
やがて、こっこは妊娠する。フクジュとはやっていないので、誰かの子供。それでも、フクジュの子供だと信じている。そうじゃないと悲し過ぎるから。その気持ちをフクジュも受け止める。
こっこの妊娠を知り、エレーナとアマディスは、稼ぎ手が1人増えると喜ぶ。男だろうと女だろうと使い道はいくらでもあるから。
そんな言葉を聞き、こっこは子供だけは許して欲しいと懇願する。
オダマキは、現在に戻る。
えりかはあれから、毎日、北村に抱かれている。
一度、逃げ出したが、GPSを付けられていてすぐに見つかる。北村は無理やり連れて帰ることはしなかった。寒いので缶コーヒーを渡し、しばらく2人で夜を佇む。
優しい。この人は一人ぼっちなんだ。えりかの中に、これまでとは違う感情が北村に対して芽生える。
えりかは北村に協力的になった。ヤク中が進み、狂う母のことは考えないようにした。
オダマキの頭の中にはビッグベイビーの一人ぼっちという悲しい言葉が残っている。
自分は今、生きているのだろうか。こんな死んだような生活をして。自分もまた一人ぼっちだ。
気付くとオダマキは、えりかの下へと向かっていた。
通学を北村から許可されたえりかと再び出会う。
オダマキはいきなりプロポーズ。新婚旅行は、鷲羽山ハイランドだ。
戸惑うえりかに、オダマキは、今のえりかの状況を全て知っていることを伝える。えりかは走り去っていく。
ロートスが現れる。
オダマキの心境の変化が何か奇跡を起こしたのか。
ロートスは、オダマキに、時空を超えた存在になりつつあることを伝え、全てを見せることができると言う。
これまでの自分の全時間に存在できるようになったオダマキ。
その誕生の時へと導かれる。
途中、オダマキは、ビッグベイビーが餅を喉に詰まらせて死んでいる姿を見つける。
一挙に2つも食べたらしい。これは自殺だ。一人ぼっちに耐え切れず、そして、ジョージとミカのことを思って死を決断したのだろう。
妊娠しているこっこの下に。ロートスがいる。
ロートスは、こっこのお腹の中の子供を救うことが出来る言っている。ただし、こっこの命と引き換えに。
こっこは何の躊躇も無しに、自らの命を差し出すと答える。
こっこの体が輝く。その体は崩れながら、手島汁を飛び散らせ、エレーナとアマディスを溶かしてしまう。
こっこは幸せだ。子供を救えた。ただ、叶うことなら子供の顔を見たかった。その想いはフクジュに託される。干からびた酷い人生の中で生まれた湿った子供。乾いた名前にしてバランスを取ろうと、命名、オダマキ。
こっこは最後の力を振り絞り、フクジュにオダマキが大人になるまで死なない魔法、テジマジックをかける。
こっこの肉体は滅ぶが、その想いの力は地面に染み込み、やがて大きな木となる。ロートスはそんな木から生まれた。
自分の生まれた由縁を知ったオダマキは、さらに3年前の父親が自殺した真相を見届けることになる。
深夜3時。テレビでは通り魔殺人事件が報道されている。
オダマキの部屋に入って来た父親。
もう耐えられないのだと。自分がいないオダマキの姿を見ることが。オダマキの中には自分はいない。いるのはこっこだけだ。ずっと一人ぼっちだった。辛かった。死ぬこともできない。だから、殺してくれと。
殺してやってくれ。フクジュの思念体だったガンジツは今のオダマキにそう懇願する。
あの時のことを思い出す。オダマキは父、フクジュの首に手をかける。
オダマキを傷つけることのないように、フクジュは自殺に自分の死を見せかけて、この世の苦しみからようやく解放された。同時にガンジツも消えていく。
オダマキはようやく、自分自身と向き合うことができたみたいだ。
モンスターチェリーが純子の家にやって来る。
ビビる北村。純子は薬でおかしくなっているので、あの童貞男なのかと平然と口走る。
なぜ、知っているのか。モンスターチェリーの手にした銃が北村に向けられる。
北村は純子を盾にして逃れようとするが、頭を打ち抜かれる。続いて純子も。
そして、逃げるえりかを部屋に追い詰めて発砲。
息絶え絶えのえりかの目の前にはデスノートがある。
オダマキがやって来る。
この惨状を目にして、ロートスに尋ねられる。
どうする。オダマキはもう何もしないと答える。
2人の生きる世界は、もう破壊しつくされてしまっている。
デスノートの力が発揮されたみたいだ。
見守るオダマキにえりかが声をかける。
鷲羽山ハイランドに2人で行く費用。
今はまだ足りない。
だから、そのお金を貯めるために、2人で。
もう、ウンコなど食っている場合ではない。
生きる力を取り戻した2人は互いに見つめ合い、その視線は2人のこれからに向けられている・・・
自分が生きることを肯定する。
その力の大きさと、それを得るためのちょっとした考え方を示唆しているような話に思えます。
こっこは、自らのミスから転落する不幸な人生、さみしい孤独に苛まれますが、フクジュという自分を優しく想ってくれる存在を得ることができた。
その温もりは彼女にあの状況の中で生きる力を与え、さらには子供という未来を考えることも可能にした。
彼女の肉体は滅ぶものの、その想いはいつの日か、その見ることの出来なかった子供、オダマキを未来で救うロートスという思念体を生み出したようです。
フクジュもこっこを愛する気持ちと、その彼女から託されたオダマキへの愛を信じて、共に生きていました。人の弱さも描写されており、やはり人生、綺麗事だけではないから、どうしてもその孤独に耐えられなくなった。でも、彼がこっこを、オダマキを想う気持ちは本物で、死してもなお、思念体、ガンジツとしてオダマキの傍に残った。
そして、ロートスからは自分の生のルーツを、ガンジツからは今の自分と向き合うことをオダマキは教えられ、オダマキは自分が生きるということの意味合いを理解したようです。
オダマキは自殺して、自分を孤独の中に陥らせた父、フクジュに恨みの念があったのかもしれません。ガンジツではなく、フクジュに傍にずっといて欲しかったと思うのが普通でしょう。でも、時空の中で出会ったビッグベイビーの気持ちを知ることで、そのフクジュの気持ちを理解できたように感じます。
孤独のさみしさの恐怖。それはオダマキ自身も知っていますし、その中でずっと生きなければいけなかったビッグベイビーが解放される手段として、自らを殺すしかなかったことはきっと理解できると思います。
そんな自分自身も見詰め、同時に人の気持ちにも心を寄せる体験をしたオダマキが、成長した姿が浮き上がります。
北村や純子も、きっと生きることの辛さに苦しんでいたはずです。
でも、2人はセックスや薬というもので、それを消し去ろうとしています。おそらく、それでも、生の苦しみは消えるのだと思います。
でも、オダマキの親の過去の事実と比べてみると、そこに未来がありません。生は、今だけあるのではなく、これからの未来に繋がっていくものです。だから、生の苦しみを今だけ消す手段で、生きる力は得られないのだと思います。
えりかは、そんな2人の傍にいたからか、今の苦しみから逃れようと、未来の生に目を背けているように映ります。
今、死んでいないから生きているというものでは無いのだと感じます。
明日、生きる希望を持って、今日を生きられるような生の自分がいるのかみたいな。
そのことをオダマキはえりかに気付かせた。
そして、それはとっても辛いことでもあり、でも、一人ぼっちではない、二人で求め合いながら生きていけるのならば。
色々とあって、2人の環境は、すっかり崩れてしまったけれど、確かに2人はこれから生きるという意志を持って、その視線は2人のこれから、とりあえずは、鷲羽山ハイランドへ向けられているのだろうと感じられるようなラストで締められているようでした。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント