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2016年5月30日 (月)

モノクローム・ダイアリー ~読劇 風の又三郎【劇団ほどよし】160529

2016年05月29日 芸術創造館 (110分)

異様なまでに統率された動きの中で、読み綴られる風の又三郎。
役者さんの言葉と身体が、舞台の音響や照明と相まって、美しい風景を創り出している。
これが言葉で上手く説明できないが、圧巻である。

舞台上で描かれる学校が、そんな風の又三郎の幻想的な世界となり、同時に今、生きている現実の社会の様相を浮き上がらせる。
その中で、人が生きること、自分が自分として生きることを示唆し、そのための社会の在り方を導き出そうとしているような話でした。

規律の厳しい仏教系の進学校に転校してきたかざみ。
いじめられていた経験のあるかざみは、不安でいっぱい。
しかし、学園長も担任の先生も優しそうだし、クラスの同級生たちはかざみを温かく迎える。
あなたが願えば、手は差し伸べられる。お釈迦様の教えなのか、そんな精神がここにはあるみたい。
授業が始まる。
規律の厳しさは本当みたいで、同級生たちは一挙一動、統制がとれてキビキビとしている。かざみはそれについていこうと精一杯。
しかし、一人だけ、マイペースで、反抗的な態度を示している生徒がいる。吹雪。しかも、先生はじめ、生徒たちは見えていないかのように無視している。
かざみはその吹雪が気になり始める。

寺での夏の合宿が始まる。
その夜、かざみは、学園長、担任、生徒会長が見守る中、吹雪がクラス委員長に暴行を受けている姿を見る。
最低限の規律を守れ。この学校は、ある日、生徒が神隠しにあった事件以来、風評が悪くなっている。それを挽回するためには、より進学校としての実績を伸ばし続けないといけないと。そのために、退学させることも出来ないので、自分たちに従えと言っているみたいだ。
吹雪はかざみに言う。そんな、生きているのか死んでいるのか分からない幽霊のような生活を過ごすのはまっぴらごめん。自分は妖精パック。自分の信念を持って、自分らしく生きるんだ。
吹雪は神隠しにあった子の死体がこの学園のどこかに埋められていると考えている。探偵となって、その死体を探すつもり。かざみはその助手を任命される。

かざみはそんな吹雪を羨ましく思う。
自分が転校生だけど、吹雪は風の又三郎みたい。かざみの心の奥の苦しみに吹雪の風がさっと吹き抜ける。
かざみは男だ。遺伝子的に。でも、自分は女。いわゆる性同一性障害というやつだろう。こんな体と心が切り離されて生まれたことを恨んだりすることもある。
そのことでいじめられていた。不良品だと言われた。
小学校の時の学芸会。演目は風の又三郎。おとなしかったかざみだが、この時ばかりは、手を挙げて又三郎役に立候補。女がするなんておかしいという意見も同級生たちからは出たが、先生はかざみに決めた。でも、男であることがある日ばれてしまった。結局、学校にも行けなくなって、又三郎にはなれなかった。
誰も助けてくれなかった。手なんか差し伸べてくれなかった。そのことがただただ悲しかった。

部屋に戻ると同級生が自分の日記を盗み見していた。
男だったんだ。ずっと隠しているなんてひどい。男と一緒に同じ部屋にいたなんてゾッとすると非難される。
ばれてしまった。またいじめられる。せっかくみんなと友達になれたのに。仲間が出来たのに。
謝罪と皆に言わないでと懇願するかざみ。
しかし、その同級生は語り出す。
あなたは仲間なんかじゃないよ。誰もそんな風に思っていない。私だって友達だと思っていないし。
学校でそうするように指示されているから、みんな友達、仲間だとそんな振りをしているだけ。
みんな、色々な問題を抱えてこの学校にやって来ている。万引き、クスリ、親の離婚、暴走族・・・
ここに来て、その教えにおりこうさんに従っていれば、いい学校に入れて、人生がやり直せる。これがこの学校の真実なのだと。
それでも、かざみは皆に言わないで欲しいと願う。
同級生はどうでもいいことなのにと言いながらも、その約束をする。ただし、吹雪には近づくなという条件で。
翌日、かざみは皆から誕生日プレゼントをもらう。
初めての経験。昨日の話は覚えている。これは偽物。でも、嬉しくてやっぱり涙が出てくる。

吹雪が合宿に姿を見せなくなる。
かざみは、吹雪を探しに夜の町を彷徨う。
吹雪は若者たちが集うバーにいた。
学校の規律を破って、ここまで来た。自由な自分に少し興奮しているかざみ。
吹雪は学校のことを話す。
否応なしのスパルタ教育で、生徒の自主性を全否定する。それがやり直せる唯一の手段だとばかりに。吹雪の父親もそんな考えを持つ教育者だったらしい。その父を尊敬していた後輩が学園長なので、あんな学校になるのも納得か。
きっと、死んでしまった子は、風の又三郎だったのかも。皆の心にその風は伝わらなかったのだろうか。
本当はみんな変わりたいと思っている。誰だって風の又三郎のようになりたいんだ。
かざみは、吹雪に自分のことを話そうとする。それより先に吹雪は性別は関係ないと言う。そして、かざみのおでこに口づけ。
かざみは自分の心の奥に芽生えているこれまでにない感情を得る。

合宿も終わりの前夜。恒例の花火大会。
皆は笑顔を浮かべて、走り回る。その中にかざみもいる。
ただ、吹雪に近づいたことを責める同級生も。彼女は許さないと怒りの表情を浮かべている。
いつの間にか、かざみは故郷にいる。
吹雪が現れる。
もう目を覚まさないと。
そうか、ようやく気付いたかざみ。もう10年前だろうか。孤独に耐えられなかった。かざみはあの日、どうしようもない選択をした。
吹雪は父親を殴りつけ、学校を変えようとしたが、無理だった。
助けてあげられなかったことを謝る。

かざみはお釈迦さまが祀られる堂に向かう。
きっとそこに死体は眠っている。もう骨になってしまっているのだろうか。かざみは思う。
学園長はそれを否定する。
生徒たちも集まって来る。
学園長は、今の学校の姿は間違っていないと言う。厳しい戒律の中で罰を与えられながら人は生きる。仲間なんかいない。差し伸べられる手なんか無い。だから強くならないといけないのだと。
かざみは、自分が間違った選択をした悔いを語る。最適の選択があったのかも。
過ちを私たちは犯す。でも、自分たちのことを信じて欲しい。私たちの力、手を差し伸べ合うことで、心を寄せあうことで生まれる大きな力を。それは必ず生きる力となって、私たちを歩ませてくれるから。
担任の先生がやって来る。そして、学園長にもう自分たちが抱えることを解放してあげようと進言する。
生徒たちも語り出す。ずっと教えられたとおりに従ってきた。みんな仲良く、手を差し伸べなさいと言われたから、手を差し伸べる振りをした。でも、いつの間にか、その手は勝手に動くようになっていた。本気で友達だ、仲間だと思うようになっていたと。
人はたくさんの過ちをするから、裏切りや妬みで自分たちを傷つけてくる。だから、人を信じることは怖い。学園長は人を真摯に見詰めていたからこそ、人が幸せに生きるためにはどうしたらいいのかを考えていたのだろう。その答えがこの学校だった。でも、それが最適だったかは分からない。今、学園長の心の中に、信じてみたいもう一つの答えが浮かび上がったようだ。

お釈迦様の下には死体が埋められていた。名も知らぬ生徒の。
いじめられっ子だった。でも、彼は自分が生きるためにいじめっ子になってしまった。そして、罰を受けた。
かざみの下に吹雪が再び現れる。
どういうことなの。そのかざみの言葉に、吹雪はそろそろ本当に目を覚ましてと。
その言葉でかざみは自分のことを理解する。
やっぱり吹雪は風の又三郎だったんだ。
あの日、自分は吹雪の信念ある生き方から、自分の心の中の苦しみを風で吹き飛ばしてもらったのかも。
彼の風の跡は、今でもかざみの心にしっかりと刻み込まれている。
でも、もっと私は強くならないといけない。今度は自分が心の苦しみを抱える子供たちへの風にならないといけないのだから。
私は、あなたのことが好きでした。あの日にはまだ言えなかった言葉。自分が女であることを受け止めたかざみが、男の吹雪に告白する。
今、かざみは本当に自分を肯定し、全てを受け止めた。自分らしく、自分の力で生きる、自由な妖精パックになれた。
気付くとかざみは子供たちに囲まれている。
今度の学芸会で風の又三郎をしたい人。そのかざみの声に、一斉に手を挙げる子供たち。
かざみはその子供たちに笑顔を見せている・・・

風の又三郎をベースにしているからか、現実と幻想が交錯していて、かつ、時間軸も飛ぶので少々、混乱。
あらすじというかは、最後の方は、もう自分が勝手に思ったことを筋にしてしまったような書き方で、本当は違っているかもしれません。

規律に縛られ、脱個性を良しとする学校。
それに縛られ、自分が何者であるのかが分からなくなってしまっている子供たち。彷徨いは、大人たちの手で、決められた道へと誘導されてしまっている。未熟ゆえに、悲しみ、苦しみをどうすることも出来ないが、本能的に手を繋ぎ合って、その不安を消し去ろうとしている繫がりを断ち切らせて。
そんな中に現れる転校生の風の又三郎。
彼の吹き放つ風は、一人一人の心の中を吹き抜け、各々に変化をもたらし、やがてそれは通りのいい学校へと変えていきます。
風の又三郎は、辛いことを全部吹き飛ばしてくれるような、正義の味方みたいな存在では無いようです。心の中に閉じ込めてしまっている悲しみや苦しみと向き合わせて、その中でもがき、自分の生き方を見つけさせようとしているみたい。
吹雪を介して、かざみと同級生がその抱く想いをぶつけ合うようなシーンもあり、彼の存在が、嫉妬や妬みを生み出し、裏切りや強い想いからの行動を導き出しているようなところもあります。
そんな自分もいることを知る。過ちを犯してしまうことを否定して、自分が悪いと思うのではなく、それが人であり、自分もそんな人の一人である。自分の弱さや汚さを知ると同時に、そこに必ずある人を求める、人を愛する、人を想える大切な心の存在を感じ取って欲しいと伝えているように思います。
自分の全てを受け止め、肯定する。世の中からズレていること、過去に犯した過ちや残り続ける悔いをただ否定して、それを押し込めてしまうのではなく、それを自分が生きていくことの大切な糧にする。それこそが豊かな生き方なのでしょう。

狭い世界で過ごしていると、いつの間にか、その中で生きる自分しか見えなくなるみたいです。そこで違和感があれば、自分を否定してしまう。ここに自分はいらないと思ってしまう。生から心が離れていき、死へ向かう一歩なのかもしれません。
そんな時に、外の世界からの風を感じることが出来たら。それは自分をより苦しめるものかもしれませんし、安堵を与えてくれるものかもしれません。大切なのは、そのことで自分を見詰め直して、自分の心に変化を持たらせてくれること。無機質に、無気力に生きているのではなく、揺れ動く燃えている心が自分にまだあることを改めて知る。それが、生きていく駆動力になり、生きるための大事な一歩となるように感じます。
作品では、人が生へと向かうべき人生の道標を示唆し、さらに、その道を誰もが進める社会の在り方について言及しているようでした。

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コメント

SAISEIさん!
今回もご来場いただき
ありがとうございました!!!

投稿: 村上 琴美 | 2016年5月30日 (月) 16時02分

>村上琴美さん

コメントありがとうございます。

これは凄かったですね。
偶然、会社の仲間も観に行っていたみたいで、あの見せ方は相当な力があると驚き合っていました。
今、ネットレベルですが、風の又三郎のあらすじをちょこちょこと読んでおり、確かに色々なところが同調して描かれているこの巧みな脚本にも驚いています。

また、どこかの舞台で。

投稿: SAISEI | 2016年5月31日 (火) 13時14分

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