ダークマスター【庭劇団ペニノ】160506
2016年05月06日 OVAL THEATER (135分)
さびれた洋食屋のマスターが、たまたま訪れた若い男に、その仕事を任せ、大繁盛の後に、衰退していくまでの様を描いている話。
メタファー作品として、色々な観方を楽しめる作品だと思います。
もちろん、深く考えずとも、気楽に時折、クスリと笑いながら、話を楽しめるというのは重要なことです。この点も、この作品は満たしており、かなり高品質な見事な作品だと感じます。
今週は日曜日まで公演があります。
来週は、上記した若い男が違う役者さんで、また木曜日から日曜日まで公演があります。
ダブルキャストなので、とりあえず、どっちかを観ておこう。
といった気持ちでしたが、観終えると、ダブルキャストではあるのでしょうが、何か連作となった続きが来週、観られるのではないかといった感覚になります。そんなラストでした。
この妙な感覚を味わうためにも、両週観ておくのもいいかもしれません。
私も来週、違う役者さんの作品を観る予定です。
<以下、あらすじがネタバレします。内容はけっこう異なっているようですが、再演なので、ネットで出てきますので、白字にはしていませんので、重々ご注意願います>
大阪下町の今はシャッター街の中にある洋食屋、キッチン長嶋。
店は長いらしく、全体的に古ぼけていて、キッチンの換気扇の油汚れはこびりついているし、洗面所の鏡のくすみもひどい。
40歳を超えたマスターである中年男性が、店じまいして、響をロックで煽りながら、巨人阪神戦のナイターをテレビで見ている。
今日も不景気で大した客も来なかった。来る奴らといえば、近所のじいさんばあさん達。人嫌いで接客が苦手なマスターは、そんな連中のお喋りに付き合うのにうんざり。腹を立てて、ケンカになったこともある。土下座して泣いて謝ったが、前科持ちとなっている。
近いうちに、向かいにビルが出来る。ますます、ここはさびれることだろう。そろそろ辞め時なのかもしれない。
そんな店に、大きなリュックを背負った若い男がやって来る。
どこも店が開いていなくて、迷い込んできたみたいだ。
マスターは無愛想な口調で、もう閉店だと追い返そうとするが、水の一杯ぐらいは飲んでいけと少しだけ仏心を出す。
マスターも水を飲む。だいぶ飲み過ぎているようで、体調もかんばしくないみたい。
男はお喋り好きなのか、マスターに色々と話しかける。
東京からやって来て、ここまでたどり着いたらしい。だから、野球は巨人ファンだ。もっとも、それほど野球に興味があるわけではないのだが。
大阪だから、マスターも当然、阪神ファンだと思いきや、巨人ファンらしい。よく見れば、長嶋茂雄のポスターも。と言うことは、店の名前の由来もそういうことだろう。かなりの筋金入りの巨人ファンってところみたいだ。
男が巨人ファンだからと言って、マスターは気を良くすることもなく、30歳を超えたが、あてのない旅を続けていることを伝えると、無職で、やりたいこともなく甘く生きていることを非難めいた口調で返される。
このままでいいとは思っていない、いつかはきちんとするつもりだと男が言っても、マスターは結局ずっと変わらないよと素っ気ない。
それでも、マスターは、男を椅子に座らせて、さらには何か料理を作ってやると。
男は、オムライスを注文。
美味い。それも今までで一番なくらいに。
マスターは、店の事情を色々と話し出す。
料理は最高。どうも接客がダメだから、こんな状況になっているみたいだ。
男も、あまり人付き合いはいい方では無かったが、こうして色々な土地で人と触れ合うことで、人と話せるようになったし、自分では貴重な経験をしているつもりであるようなことを語る。
マスターは、持っていたグラスを手にしたまま机に叩きつける。
続いて、男にお前が店をしろと言い出す。
マスターは、何かを取りに二階に上がる。
何かやばそうな雰囲気なので男は店を出ようとするが、そうはいかない。
持って降りてきた物は、極小のワイヤレスイヤホン。
マスターは男の耳にそれを入れ込む。
店にはたくさんのカメラが付いている。
マスターは2階の部屋から、それをモニタリングして、男に料理の指示を送る。
試しにヒレステーキを作ってみる。
やってみればいけるものだ。
給料は50万円。男はキッチンの中だけで生活する。マスターは2階でゆっくりする。
翌日。
客がやって来た。
コロッケ定食。2階のマスターと連絡をし合っての料理なので、かなり怪しげだが、何とかバレずに作ることが出来た。帰り際に美味しかったですの一言。少し自信がつく。
続いて若手芸人。注文はオムライス。昨日、自分が食べて最高だった品だ。
料理に入る。かなりノウハウがあるみたいで、男は必死。そんな中、芸人は喋りかけてくる。こっちの気も知らずによく喋る奴だ。マスターはちょっと毛嫌いしているみたいで、指示なのか、芸人への悪口なのか、よく分からなくなり、さらに状況は混乱する。
悪戦苦闘の末、完成。
芸人が一口。美味いの一言。男はニヤニヤしている。気を良くして、男は芸人のことを色々と聞いたり、接客も経験する。楽しそうにしてくれている。
よく喋って少し空気が読めないところがあるが、悪い人では無い。自分の店の常連になってくれそうだ。
今日はこれから、まだまだ、忙しくなりそうだ。
マスターからトイレに行っておけと指示。
それほど、行きたくはないのだが。
行ってみると思いのほか出る。あ~スッキリした。2階のマスターの気持ちよさそうな声が聞こえる。
1週間後。
だいぶ慣れてきた。
ナポリタン、少し煮込み風のキッチン長嶋特製野菜炒めと料理をこなしながら、軽く客と会話も出来るくらいに。
会話ネタのプロ野球も詳しくなっている。
マスターは2階で飲み過ぎているのか、体調が少し悪そうだ。
正露丸を飲んでおく。男が。
今日は閉店。看板の電気を消す。カウンターの椅子も全部上げてしまう。
流しをシャワー代わりに汗臭い体を洗おうとしていると、客がやって来る。
すいません、閉店です。
でも、客は座って、何やら言っている。中国語。中国人らしい。
どうやら、オムライスを食べたがっているようだ。
男はマスターに連絡。通じない。寝てしまったか。
男は自力で挑戦。
中国人は男の料理の手さばきに感銘を受けているのか、必死に動画撮影をしている。
完成。中国人はガツガツ食べている。
そして、何やら言って金を置いて満足そうに出て行った。
10万円。
大変だと男はマスターに連絡。
ええやないか。ご褒美として取っておけば。マスターはそう言う。
自分の腕で稼いだお金。
男は喜びと誇りの表情でいっぱい。
夜。
男は疲れて、いつものようにキッチンで寝袋で就寝。
マスターに起こされる。
シンクの下にあるお酒。マッカラン1939年もの。なかなか手に入らないらしい。
マスターは男にそれを飲めと言う。
男はお酒が飲めないのに、仕方が無く。
ゴクっ、あ~。気持ちの良さそうなマスターの声が聞こえてくる。
男はマスターにキッチンで久しぶりに二人で飲もうと誘うが、マスターは部屋から出てこない。
客の話になる。芸人。今ではすっかり仲良くなり、色々と相談されたりするくらいになった。
中国人の客。マスターは男に告げる。あれは向かいのビルの奴だ。あそこには中国資本が入っているらしい。
うちの店を脅かすビル。戦わなければいけない。
1939年。ちょうど開戦の年の酒を煽っている。
マスターはさらにレジの下にあるピンクチラシを取らせ、ナルミという女を呼ばせる。中国人からもらった10万円で女を買うつもりらしい。
ナルミがやって来る。
調理師学校に通っているらしく、キッチンに興味津々。男が料理をする素振りを見せると、キャーキャー言ってくる。
そのうち、そういうことに。
ムードを出すために部屋の電飾もピンクに。そして、音楽はスキーターデイビス。
盛り上がった二人はキッチンで体を重ねる。
やがて、イクという叫び声と共に絶頂を迎える。マスターは2階で。
キッチン長嶋は今や大人気店に。
常連の客に混じって、情報誌でも見たのか、やって来る若い子たちも。
ジャイアンツロゴのついたコック帽に、長嶋の背番号のユニフォーム。料理を出す時は、バットに付けたお盆で料理をスイングするように提供する。
料理の美味しさはもちろん、こんな独創性や、今や貫録づいて堂々としているマスターの風貌が人気の秘密みたいだ。
中国人客がやって来る。
料理は最後に作る。
みんな食べ終えて帰っていき、残った中国人。
ヒレステーキを冷たい態度で出す。そして、10万円を差別的な言葉と共に突き返す。
中国人は豹変し、男はボコボコにされる。
人気のバットに付けたお盆も壊され、そのバットで殴りつけられる。
中国人は何かを言いながら、金をばらまいて去って行く。
男は顔を洗い、耳の中のイヤホンを取ろうとする。
男はナルミを呼ぶ。
やって来たナルミをいきなり抱き締める男。
耳から何かが出て来た。ナルミは、この前もお客さんから同じような小さな豆粒が耳から出て来たと。
男はナルミを獣のように抱いて、そのまま眠りに就く。
翌朝。
店の札を休業にしていなかったためか、客が押し寄せてきている。
男は無愛想に札を休業にして、何も言わず店に戻る。
甘えてくるナルミも冷たい言葉を投げかけて追い返す。
一人、店のカウンターで酒を煽る。
大きなリュックを背負った若い男がやって来る。
閉店だと言っているのに、少しだけと店に潜り込まれる。
水を飲ませると、お喋り好きなのか、男に色々と話しかけてくる。
東京から自転車で広島まで旅をしているのだとか。
その途中、自転車が壊れて、どうしようもなくなっている状況らしい。
どうせ、どうしようもなくなって、電車で、金も無いから鈍行で東京に帰るわけだ。甘ったれがと男は厳しい言葉を若い男に投げかける。
若い男は返す言葉が無い。
男は、若い男に料理を食わせてやることに。
若い男はオムライスを注文。美味そうにガツガツ食べている。
自転車で旅の途中、無料露店風呂に入った話などをする。
オーシャンビュー。あの素晴らしい景色。
カツンッ。
男、いや、今やマスターは、持っていたグラスを手にしたまま机に叩きつける・・・
半ば強制的に、マスターの代わりになってしまう男。
その行動は全て、マスターに監視され、指示されることになる。
客はイヤホンを付けてそのマスターの声を聞きながら、男の言動を観ることになる。
いつの間にか、男はマスターと同化してしまったかのよう。
そして、そのマスターは排泄、睡眠、食事、セックスと、人間の必須の生理や欲を、男に託すことで、人間としての存在では無くなってしまったかのように映る。
まさに作品名の闇の支配者といった感じです。
恐らくはメタファー作品というやつで、そのまま、キッチン長嶋に人が食われてしまうような不気味な話として観ていても面白いですが、やはり中国人とかが出てくるので、何らかの国際的な状況を描いているのでしょう。
言われるままに洗脳されてしまう男は日本、男を闇で支配するマスターがアメリカ。今や、古き良き日本を脅かそうとする中国人に対して、アメリカは日本に、あの頃のように開戦を煽られますが、酷い目にあってしまう。
店も洋食屋ですし、その料理が日本の味だと言うようなマスターの設定を考えると、伝統を軽んじて、消してしまい、欧米化に転換したような今の日本のその先の闇を暗にほのめかしたようにも思えます。
漠然と不安を煽られるのは、風俗嬢が違う客からも同じようなイヤホンが出てきたと言っているところ。風俗嬢ですから、この町の環境を考えると中国人もその客の一人なはずです。アメリカは、日本だけでなく、アジア全体にそんな筋書きを各々与えて、高みの見物をしているのでしょうか。
ただ、どうもしっくりこないのが、マスターの料理は上手いけど、接客が下手だというキャラ。
これはまさしく日本ですよね。アメリカなら、偏見ですが、大して料理も上手くないくせに、巧いこと言って自分をPRする術を持ったキャラとして描かれるように思うのです。
そのため、私は、今、もう一度考え直して、このマスターは、高度経済成長期を生きてきた、団塊の世代のような日本人を思い浮かべています。いい腕持っているけど、不器用って感じの。
いきなりやって来た、平和ボケしている若い男。これが、今の日本人。
キッチン長嶋は我が国、日本です。
巨人や洋食は、きっと昔は憧れの象徴みたいなところだったので、何となく当てはまるような気がするのです。それに、男に給料を平気で50万円も渡せるほどの貯蓄があるなんてところも。
悪いことでは無いとは思いますが、腕を磨くこともせずに、旅とかして経験を積もうとしている若者。
場さえ与えてあげれば、きっとその腕で色々な勝負が出来る。マスターはそのチャンスを若者に日本で与えます。もう、自分は体も悪くなって、時代も環境も変わってしまったので、この日本に役立てることは無さそうだから。
若者は、やはり日本人なので、腕は確かです。
このままいけば、きっと日本は再生してくれるでしょう。
でも、それを脅かそうとする奴が。それが中国人。
彼らはお金をばらまき、若者を惑わそうとします。
追い払わないといけない。マスターは自分たちの時代の戦争を思い起こし、あの1939年、開戦の覚悟をする気持ちで臨むべきであることを若者に伝えます。
でも、今の若者はそんなこと言われても、マスターたちとは生きてきた環境が違います。精神的にタフな中国人にボロボロにされて、そこに悔しさや恨みだけが残ることになってしまう。そして、自分たちが傷つけられた恨みを、次世代の若者に託し、いつかあの海の向こうの国々を支配し返してやるという危険な思想を抱き始める。
そんな感じの話に見えてきています。
ラストは、繰り返しというか、それよりもさらに悪化して、近いうちにキッチン長嶋、終わるなといった印象を受けます。
マスターが隠居して、姿を見せなくなったから。自分たちの欲を、自らで満たすという気持ちに衰えを持ち始めてしまったから。
男が、与えられた安泰の地の中だけで生きていくようになってしまったから。誰とでも仲良く出来るような旅に出ていたのに、ちょっとした異国の者が許せないと洗脳されてしまったから。
世代を超えて分かち合えばいいのに、男は、かつての自分でもある、やって来た若者に対して、あの時のマスターと同じような言動をするから。
大繁盛していることで、得られていることは何なのかを顧みず、そこに大切な人との繋がりがあることに気付けなかったから。
バッドエンドに至る理由は、幾つか思い当たります。
これをしなければ、ハッピーエンドが待ち構えているのかは分かりませんが、少なくとも今一度、自分自身を含め、日本全体を見詰め直さないと、この伝統あるキッチン長嶋のようになってしまうのかもしれません。
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コメント
SAISEI様
知った瞬間は行く気満々でしたが場所と金額を見て排除しました。
やんさんも行かれたみたいであまりない舞台みたいですね。
投稿: KAISEI | 2016年5月11日 (水) 01時08分
SAISEI様
緒方さんにペレイラさんが出演たはるのは知ってましたが大石さんや劇団しようよ休団中の山中さんも出演られてたんですね。
上演中に料理をして食べるとか。行くべきだったかなあ。。
投稿: KAISEI | 2016年5月12日 (木) 17時18分
>KAISEIさん
ここはきっと気に入られると思ったのですがねえ。
私は、結局、主人公が変わるので2回、拝見しましたわ。
残念。
投稿: SAISEI | 2016年5月15日 (日) 19時37分