真夜中の虹【劇団子供鉅人】160428
2016年04月28日 HEP HALL (100分)
真夜中のまったりとした優しい時間を、ナトリウムランプに照らされた高速道路を軸に連作小説みたいな感じでコミカルに描く。
真夜中の時間を過ごす人たちが、色々と交錯しながら繋がり合っていく巧妙な作品。
昼間の明るい太陽光の下で日常を過ごす私たち。
何でも見える割には、肝心な自分が進んでいる道や、その先の自分の夢や希望は見えなくなってしまうものなのかも。
真夜中の温かいナトリウムランプに照らされた高速道路が、まるで色あせた虹のように映り、自分自身の本当の姿、その歩んでいる道、そして、その先にある乗り越えた虹の向こうの世界を見せてくれる。
そんな穏やかながらも、どこか勇気を奮い立たせてくれるような話でした。
<以下、あらすじがネタバレします。大阪に続き、東京でも公演があり、期間が長いため白字にはしていません。重々、ご注意願います。大阪は日曜日まで。東京は5/9から始まります>
真夜中の街。
高速道路はナトリウムの光に照らされ、色あせた虹のよう。
今日も多くの人たちが一日を終え、明日の朝までの時間を各々過ごす。
そんな街中をオーバー・ザ・レインボーを口ずさみながら、中年男性が自転車で徘徊している。
真夜中のスタジオ。
たった2分程度の再現Vの撮影なのに、やたら熱が入っているシャープ横田。
難病の娘の治療費のために斧を持って強盗をする木こりの役。
無駄なアドリブ、勝手な設定でテイクは50を超える。
共演者のアキラは、横田の無駄な役者魂や、どこか自分を馬鹿にしたような飄々とした態度にキレ気味。
次のロケを控えるディレクターもうんざりしている。
結局、翌朝、再撮影となる。
真夜中の兄妹。
若年性アルツハイマーの妹、タマキ。幼児帰りも始まっているようで、無邪気な姿を見せる。兄のサトシが面倒を見ているようだ。
サトシは、タマキに出来るだけ、自分の名前や両親、兄の名前を口にさせて、進行を抑えようとしているようだが、なかなか状況は厳しい。
サトシのことを急に父や母、もういなくなってしまった飼い犬のトトと間違えたりして、その度にそのキャラを演じなくてはいけない。
真夜中のパーティー。
エル君の家で毎週のように開催されるパジャマパーティー。
メインイベントは藁人形タイム。その名の通り、誰かに呪いをかける。
今日は会社の金の横領を疑われたOLが、犯人であるクボタという上司を呪う。フィリピンパブ嬢にかなり貢いだみたいだ。
そんな中、エル君は参加者のクミポンとイチャイチャ。
エル君と同棲中のヨッコは激しく嫉妬の炎を燃やす。
インチキ霊媒師である母、エルファバが残した遺産で好き放題しているエル君。こんなパーティーを開いて、隣からの苦情に対応したり、後片付けをするのは全部、私なのにと怒りを露わにするヨッコ。
真夜中のホテル。
クボタはフィリピンパブ嬢のジェニファーと一緒。
病弱なジェニファーの命は明日にも消えようとしている。
これまで、薬や病院代に多額のお金を費やしてきたが、よくならなかったみたいだ。
ジェニファーは、最期の望みとして、サバの味噌煮が食べたいと言う。
クボタはジェニファーからストッキンングをもらい、それを被ってホテルを飛び出す。
真夜中の彼女。
アキラが帰宅。とんでもない共演者のために撮影が伸びてこんな時間に。
しょーもない。あんな程度の再現ドラマなんて適当にすりゃあいいのに。疲れた。
ふと見ると、同棲しているトーコが荷物をまとめている。
明日、出て行くつもりらしい。東京に行く。もう一度役者として頑張ってみる。
止めるアキラに、トーコは、夢や希望を追わなくなって変わってしまったアキラの今の姿を言及する。
ちょっとした修羅場を迎える二人。
そんな二人の部屋にトトを探しにタマキがやって来る。
首にかけていた名札に書かれていた連絡先に電話。すぐに兄のサトシが迎えに行くと。
無邪気で可愛いとトーコはタマキをあやしている。アキラはイライラしながらも、悪い気持ちでは無いのか、タマキに合わせてトトを演じたりしている。
久しぶりに二人はタマキを介して、まともな会話ができたみたいだ。
真夜中のサークル。
男女4人組の学生が今は誰も住んでいない廃墟を探索。
心霊サークルらしく、心霊写真を撮ろうと色々な場所で記念撮影。
そんなことをしていたら、本当に霊が現れる。
と思ったが、よく見ると怪しげなおばさん。
おばさんはエルファバと名乗り、霊媒師なのだとか。
エルファバは、学生たちに憑りつく悪霊を追い払う。
学生たちはその悪霊たちの姿を見て大騒ぎしている。
そんな中に、テレビのロケ撮影にディレクターがやって来る。
学生たちの話を聞いて、怪訝な表情を浮かべる。
エルファバはもう昔に亡くなっている。確か、今日が命日なはず。
シャープ横田は明日の朝からの撮影のために、スタジオに居残りで練習中。
ストッキングを被ったクボタが入って来る。
もちろん、サバの味噌煮を求めに。
話してみれば、横田は難病の娘のために強盗をする役。クボタの今の状況と同じだ。
一生懸命頑張っているのだけど、なかなか芽が出ない横田。昔から存在感が薄い。
そんなところも、これまでずっとくすぶって、会社の金を横領するまでに陥ってしまったクボタの境遇と同じ。
二人は同調し、一緒にサバの味噌煮を探しにスタジオを出発する。
サトシは道に迷い、なかなかタマキを保護してくれている家にたどり着かない。
タマキはすっかりトーコに懐いている。
二人は話を戻す。出て行く、どうしての問答が始まる。
タマキがそんな二人の姿を見て泣き出す。
お母さんは自分を残して出て行ってしまった。お父さんもいない。お兄さんと一緒に暮らしている。
お別れするのは嫌だ。出て行かないで。
二人は冷静を取り戻す。
お腹がすいたと言うタマキに料理を作ることに。
ちょうど、サバが冷蔵庫に余っている。
エル君のパジャマパーティーでは、次なる藁人形タイムが始まる。
エル君とクミポンを縛りあげる皆。
ヨッコが二人に呪いをかける。
お揃いの腕時計を五寸釘で打ち砕き、さらにはエル君が大切にしていた母、エルファバの写真にも五寸釘を打つつもりだ。
止めろ。一枚しかない写真。これを傷つけられたら、本当に二人の仲は終わりになってしまう。
でも、ヨッコはもう後には引けなくなってる。
そんな中、ストッキングを被った二人組の男が乱入。
サバを要求してくる。無いのでフライドチキンを渡して帰ってもらう。
パーティーもお開き。
部屋に残ったエル君とヨッコ。
最悪の状況は、あの二人組のおかげで免れた。
まあ、仲良くやって行こう。二人は仲直りするものの、エル君の携帯に着信。違う浮気相手がいることが判明。
タマキはすっかり疲れて眠ってしまった。
せっかくサバの味噌煮が出来上がったのに。
アキラが食べると言う。
二人は久しぶりに一緒に食卓に。
アキラがトーコにプロポーズ。
二人は幸せにと思いきや、トーコは冷静だった。
ちょっと父性をくすぐられて、その気になっただけ。
結婚はずっと考えていたというアキラに、今、思ったことをずっと思っていたかのようにして正当化しているだけだと。
役者を辞めてお前を幸せにするとまで言うアキラに、それはきっと私では無いと思うと答えるトーコ。
そんな中、ストッキングを被った二人組の男が乱入。
アキラは横田と再会する。
エル君はヨッコにしばかれている。
助けてお母さん。
エルファバが現れる。命日だというのに、パーティーで盛り上がる息子を責めながらも、二人が色々とうまくいかない理由は憑りついている悪霊にあると除霊を始める。
悪霊の力は強かったが、二人は愛の力でそれを跳ね返す。
エルファバは、自分の身を呈して、悪霊たちと共に消えていった。
真夜中。というか、もう日があけそうな時間。
サバの味噌煮を手に入れたクボタは、無事にジェニファーに食べさせる。人生、やり直せるだろうか。二人一緒に、結婚でもして。いや、それは難しそうだ。同姓婚となることが分かったから。
話してみれば、横田とアキラは同級生だったらしい。少し気が合った二人。明日の撮影はうまくいきそうだ。
タマキは兄におぶられて帰っていった。こんな妹が嫌になることもある。でも、二人っきりの大切な家族。明日からも、また兄と妹の二人の時間が続く。
疲れて眠りにつくアキラ。トーコはその寝顔を見て、荷物を再びまとめ始める。明日の朝には出発。自分の夢と希望に向かって。アキラとは一緒に歩けなくなったけど。
エル君とヨッコは後片付け。浮気癖はなかなか治らないから、これからもよく揉めることだろう。でも、明日からは、これまでとはちょっと違う、心を通じ合わせた二人の時間が始まるのかもしれない。
オーバー・ザ・レインボー。
自転車に乗る中年男は、日の出を見る。
真夜中の色あせた虹の向こうが見え始める。
おはよう。
今日も多くの人たちの、明日へと続く今日の時間が始まる。
みんな、昼間の日常を演じて生きているみたいな感覚を得る。
立ち止まったり、畏れて逃げだしそうになりながらも、少しずつ自分の夢や希望に向かって歩みを進めている。
でも、その夢や希望って何なのだろう。自分はどこを歩いているのだろう。
何かに設定されてしまった環境で、作った自分が昼間、太陽の光の下で動いているのではないか。
明るいから何でも見えるけど、自分の進んでいる道は分からないのではないか。
そんな分からなくなった自分が、真夜中、殻を破って、本当の自分となって出てきたみたい。
昼間は見えなかった色あせた虹の向こうに、ぼんやりとだが、確かに自分の夢や希望が見えてくる。
演じていない本当の自分。
そんな人たちが、各々、自分を見詰める時間を得て、この真夜中の時に、出会い、何かしらの心を通じ合わせ、明日の朝を迎えた。
真夜中の高速道路。
ナトリウムランプの温かい光は、そんな人たちのこれまでの想いの残像のようだ。きっと昼間の太陽光の下では、見えなくなってしまうのだろう。
温かい光が見せる色あせた虹は、朝を迎え、その姿を消してしまっても、きっと自分を向こうの世界へと導いてくれる道となるように感じる。
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コメント
SAISEI様
今回は見送りました。過去公演あまり好みではなかったので。。
ただ評価は高い劇団みたいですね。
キキさんは6月に映画にも出演されるみたいで。
投稿: KAISEI | 2016年4月29日 (金) 17時58分
>KAISEIさん
そうなんだよねえ。
ここは作品によって好き嫌いが大きく分かれるんですよね。
おふざけが過ぎる作品と、本当に楽しいエンタメ作品と、なかなか心に響く作品と単純に考えても大きく3つに分かれるように思っています。
今回はきっとKAISEIさんも好きな系統だったと思うのですが・・・
しばらく、大阪には戻って来ないみたいですが、また、機会あれば観てみてください。
東京で揉まれて、何か今までとは違う新しい子供鉅人が観れると思うので。
投稿: SAISEI | 2016年5月 1日 (日) 23時55分
SAISEI様
良かったみたいですね(苦笑) 昨日、KZのUさんから聞きました。そして当記事を昨夜読んで(笑)
まあ仕方ないですね。
2014年11月10日に子供鉅人初観劇。『逐電100W・・・』はまあ良かった。
2015年5月19日の『組みしだかれて・・・』が好きじゃなかったんですよね(笑)
で『真昼の・・・』を見送ってからの
同年12月6日の『重力の光』がう~ん、と。
演技や演出じゃなくて作品がね。好きなタイプではなかった。
まあ次ですね。
投稿: KAISEI | 2016年5月 2日 (月) 10時19分