いつか みんな なかったことに【ウミ下着】160313
2016年03月13日 KAIKA (85分)
様々人たちから得た震災の記憶を、その言葉、そして、自分たちができる身体表現のダンスを用いて形にしたような作品だろうか。
ドキュメンタリータッチで、あの時のことが淡々と言葉で綴られる。全て、インタビューして聞き取ったものらしい。それを受け止めた証拠のように、その身体表現を舞台上で見せる。
そして、自分たちの想いを真摯に込めたダンスを踊ることで向き合おうとしている。
いつか本当になかったことに、忘れることが出来る日がくるように、今の私たちはまだ忘れてはいけない、目を背けてもいけない。向き合って、そんな日を一緒に導こうと伝えているような感覚が残ります。
色々な物が散乱した舞台。
男1人、女4人がやって来て、少し片付けて、スペースを確保していく。
その間、ホワイトボードに、最初に観た洋画とか幾つかの質問に対する答えで談笑。
男が初めて作った曲をギターで弾いて、それに合わせて、女たちが初めて振りをつけたダンスを踊る。
阪神大震災の時のこと、東日本大震災の時のことが語られる。
被災者、その距離の近い者から遠い者まで様々な人たちから、語られるあの時のこと。
普通に旅行に行って帰った次の日に大変なことに。
津波を恐れて、バラバラに逃げる。金網を老人を抱えながら必死によじ登って避難した。
踊ってという言葉に応えられなくなった。ダンスは無力だから。
上京して学んだダンス。色々と勉強したけど、上手くいかず、地元の仙台で働いている。まあ、愚痴になってしまうけど。
オランダで福島の情報を得る。周囲は日本は大丈夫なのかと聞いてくる。同じ乏しい情報で何が分かるか。
震災以来、でかい防波堤が出来た。国の助成金で。海が見えなくなっtr、地元の漁師は心配している。高台への避難ルート整備に使った方が良かったのかも。
国からの援助金。双葉町の人たちは働かなくていい。遊んで暮らしている。そんなことをパチンコ屋で言われる。
家に戻れるようになった。老人はやはり長年住んでいた家を大事に思うみたい。仮設住宅のプライバシーの無さ。逆に震災住宅の隣とのコミュニケーションを断絶した閉鎖空間。
勤務中に情報を得る。厳しい職場で携帯は預けていた。上司から連絡するように言われて、かけたらなかなか繋がらない。
2日前の自閉症の子供の診察の時に予兆があった。終業式。荷物が多いので車でお迎え。突き上げるような地震。子供2人連れて学校に避難。PTA役員の実績を買われて、避難民120人のリーダーに。配給される水のペットボトル2本。どうやって均等に分けるというのか。最悪を覚悟していた夫との再会。この時ばかりは、家族で抱き合った。電気復旧の感激。
5年間、一度も東北を訪ねなかった後悔。ボランティアとか出来たのでは。タイミングなのか。それで済ましていいのか。不謹慎だと言う人もいるが、福島は神に選ばれたようにも考える時がある。
宗教でイカやエビを食するのを禁じる。分かる気がする。大昔、こんな事故があって、海に溜まる汚染物質を恐れるような教えじゃないのだろうか。
神戸の復興はまだ終わっていない。私たちはまずそれを終わらせたい。東北はそれからだ。じゃあ、いつ終わるのか。
3/11が誕生日。公演もしていた。嬉しいことが重なる日に、あれは起こった。
今でも鮮明にあの時のことを覚えていて、忘れない人もいる。でも、忘れていく人や知らない人も。ルミナリエが鎮魂から始まったことを今の若い人は知っているだろうか。
バイト中だった。籠っていたから、シフト上がりの時に、次の人からどんどん情報を聞かされる。お祭りのようだった。大したことはない。でも、家に帰って、テレビに映る映像を見て、大変なことになったと思った。
・・・
こんな実際にインタビューして得た話を淡々と誰かが語る。残りの人たちは、その話の状況描写、心情描写を、ダンスというか身体で表現する。
あまり、感情的にはならず、その得た話の中の言葉を一つ一つ大切に逃さないように綴ろうとしている感じ。
身体表現もその言葉に忠実に。むしろ、その人の気持ちは入れないようにしているぐらいに見える。よくある手話通訳を、身体全てでしているかのような。事実を伝えるから、その言葉と私たちが出来る身体表現で、その中に潜む人の想いをあなたの頭の中で膨らませなさいといった感じだ。
その数々のエピソードの合間に、ダンスが入る。
よく知らないが、何かブロードウェイみたいな感じのカッコよく楽しいダンス。
これは夢や希望を壊すようなものなど、降りかかるはずも無いと思っていた頃の、今となっては虚像みたいな、でも、確かに誰もがあった時のことを描いているのかな。
波の音に合わせたコンテンポラリー調のダンス。身を縮めて小股で歩く皆。1人倒れ、また1人倒れ。最後まで残った女の踊りに皆は纏わりつく。
何か、同じように被災しながら、未だそこから脱却できない者と新たな一歩を歩み始めた者みたいなイメージ。でも、歩み始めた者の中には、まだ歩み出せない者たちの悲しみや辛さがどこかに残り、脱却できない者は、新たな人生の門出を迎えられた人に救いを求めようとしているみたいな、複雑で歪んだ構造が感じられる。
そして、陽気で軽快な音楽に合わせてダンス。
様々な状況にいる人たちに、喜びや楽しみが導かれるようにと、自分たちが笑顔でその暗く凍った顔や心を照らして溶かそうとしているのか。
この合間のダンスは、何か、創り手の気持ちがたくさん込められているような感じだ。
たくさんの話を聞いて、自分たちがその人たちに送りたい想いをダンスにしてプレゼントみたいなところだろうか。
最後は、この公演をした理由が語られる。
ダンスは無力では無い。
女たち各々が得意とするダンスで必死に踊る。男は音を奏でる。
舞台上に懸命で真摯な想いが、確かに溢れていることが感じられ、その力強さに圧倒される。そして、自分の中でのあの日のことが蘇ってくる感覚を残す。
阪神大震災。
大学院生だった私は、犬の散歩中に揺れを感じた。犬が怯えて歩けなくなったので、抱えて家に急いで戻る。家が無事かというより、何よりも心配だったのは、当時、買ったばかりのPower Macに入っている修士論文のデータ。あれが消えたら、もうお終いだ。
幸いファイルは無事で、家も倒壊は していなかった。食器棚から、食器が全部飛び出したくらい。
電気、ガスが止まった。
駅前まで20分の道を歩くと、ガス管が破裂したのかガス臭い。倒壊している家もチラホラ。偶然にも大丈夫な地域だったことを知る。神戸の本当に酷い被災地と違って、私が住んでいたところは、まだらで被害状況が極端に違う。それだけに、あまり被災地として重要視されず、援助物質が届かず苦労した話もよく聞いた。
電気はその日の夜に復旧。ガスは1ヶ月弱かかった。銭湯で色札をもらって30分交代で入る。カセットコンロのガスボンベは品切れで、京都まで買いに行った。
普段、黙礼ぐらいしかしない近所の人たちと色々と話をするようになったり、昔の友達から連絡が来たりと、人が自分に寄り添ってくれるようなことが、今から思うと一番ありがたかったのかもしれない。
東日本大震災。
数々の転職を繰り返し、父の病気のため、大阪に戻って来ていた。
酒の飲み過ぎで太ったことと不健康なことを気にして、スポーツクラブに通っており、プールで泳いでいた。
大阪でもかなりの揺れで、全員、プールからあげさせられた。30分ぐらいは、プールの水面はかなり大きく揺れていたような気がする。
そのまま、飲み屋へ向かう。
その電車の中で、携帯を見て、震災を知る。
多くの人がそうだっただろうが、この時は、こんなおおごとになるなど、全く思わなかった。
仕事柄、体の免疫を司る細胞を増やすような仕事をしている。放射能汚染の影響を受けた人も多いと聞く。きっと、免疫細胞は減っていることだろう。こんな時のために、あらかじめ健康な時に正常で元気な免疫細胞を保管するシステムが出来ていればいいのになんて話を友達とした。癌だって、抗がん剤を使えば、大抵の場合、免疫細胞は減ってしまう。今や2人に1人が癌になる時代。国がそんなシステムをきちんと作ってもいいぐらいなのになんて考えたり。
友達の中には、被災地に行ってボランティアをすると言う者も。私は、支援金を取り扱う口座に数万円だけ入金した。次の年もした。額は減らした。その次の年からはしていない。
じゃあ、今、何をすればいいとか、まだ厳しい状況にいる人たちにどう寄り添うのかとかは正直、分からないけど、何らかの手段で向き合い続けることは大切なのだろう。
冒頭の質問。質問をされたから、その答えを出そうと記憶を呼び起こしている。忘れてはいない。どこかにしまいこんでいることを、引き出すには、こうして問い続けないといけないような気がする。
そして、自分もそうだったが、自分のことを想ってくれる人がいるという事実が、不安をすごく緩和してくれる。
金や食べ物や家や職は、もちろん重要だ。でも、それが満たされたからといって、復興は終わりでは無い。あの時、抱いた辛さや悲しみを、忘れる日がきちんと来るように、今は忘れないでいる。だから、その声を聞き、それを受け止め、自分が出来ることで応える。
この作品はそんなことを実行しているように思う。
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