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2016年3月19日 (土)

THE BEE【劇団六風館】160318

2016年03月18日 大阪大学豊中キャンパス 21世紀懐徳堂スタジオ (80分)

ちゃうかちゃわんの卒業公演とはしご。
向こうは楽しくコミカルで、幸せ気分だったが、こちらは気分悪くなる作品だと聞いていたので、一応覚悟をしておく。
結果は覚悟が足りないくらいに、非常に嫌悪感が残る作品。
なんていう作品なんだと驚く。最後もこんなにまで、突き放して終わってしまうのと。
そして、凄いし、なぜか面白く感じる。もちろん、胸に嫌な気分は残るのだが。

カーテンコールで叱咤激励の叱咤はいらないので、社会に飛び立つ自分たちに激励をと冗談めかして言われていた。
とにかく、凄いなという印象が強く、叱咤は無いが、何でまたこんな作品を卒業公演に選んだのかという疑問が残る。何か、この4年間に負の感情を蓄積しておかしくなってしまったのかと心配になる。
と思いながら、帰宅。何か気持ち悪いと凄いの感情が入り乱れて、頭を整理したいから、飲みに出掛ける。
色々と考えていたのだが、この作品、実は相当の力が無いと、とんでもなくくだらない作品になってしまうのではないのかという考えに行き着く。
結局、話としては復讐が復讐を生んで、ルーチン化されていくような日常の恐怖みたいなことを延々と描いているもの。
この単純な構造の中に、狂気を常に潜め、目を背けたくても背けさせないくらいに客を飲み込む空気を作るのは、役者さんの表現力、演出、舞台美術、照明や音響の効果などあらゆることが卓越していないと厳しいだろう。
そうじゃないと、単なるエロやグロが舞台で見せつけられるだけで、心はきっと舞台から離れてしまうだろう。
そうか。それをこの期の方々はやってのけるだけの力があることを、この劇団の歴史に刻み込むことにしたのだなと思う。
そうなるとたった一つの腑に落ちない疑問も消える。
残るのは、この人たち凄いという賞賛だけだ。

今日は6歳になる息子の誕生日。
サラリーマンの井戸は、プレゼントを買って帰路につく。
ごく普通の妻、可愛らしい息子。裕福では無いが、生活に困窮はしない程度の平凡な家庭。
ところが家の前にたどり着くと、マスコミや警察がひしめいている。
家に脱獄犯が、妻と息子を人質にして立てこもっているのだとか。
マスコミは、井戸を、悲劇の象徴として世に映すために、被害者としての演出をしてくる。
警察は特に有効な解決方法を見出せずに、ただそこにいるだけで非協力的。
井戸は、立てこもり犯の小古呂の妻と会って、説得をしてもらうことを考える。
調子のいい警察官の案内で、小古呂の妻に会いに行く。
小古呂の妻はストリッパー。頭の弱い井戸の息子と同い年の息子もいる。
小古呂の妻は、自分には関係無いことだと井戸の頼みを拒否する。
井戸は、警察官から拳銃を奪い、小古呂の妻と息子を部屋に監禁して立てこもる。
警察に連絡して、電話を直接、小古呂と繋げてもらう。
どもりの小古呂。たどたどしい口調で、妻と会わせろ、ここに連れて来いと要求。
井戸は、自分で会いに来ればいい。自分の妻と息子を解放しろと返す。期限は明日の朝まで。朝になってもまだ、妻と息子を解放しないなら、こちらにも考えがある。本気であることを示すために、息子の小指をへし折る。叫び声が小古呂の受話器から聞こえる。
井戸はもう被害者では無い。加害者となった。

小古呂の妻は、最初こそ逃げ出そうとしていたが、息子を傷つけられる恐怖から、身動きが取れなくなる。
翌朝、小古呂がまだ立てこもっていることを知り、井戸は小古呂の息子の指を切断し、小古呂の妻に封筒を用意させ、それを警察に預けて、渡すように伝える。
井戸の下に封筒が届く。そこには自分の息子の指が。
井戸は、また小古呂の息子の指を切断し、小古呂の妻に封筒を用意させ、それを警察に預けて、渡すように伝える。
小古呂の妻は食事を作り、井戸と一緒に食事をする。そして、寝て体を交え、朝、起きる。
また、封筒が届く。
井戸は、また小古呂の息子の指を切断する。息子も自ら手を差し出す。妻も封筒を準備する。
繰り返される狂気の日常。
いつしか、息子は死に、次に指を切断されていった妻も。
井戸は、今度は自分に指だと包丁を手にしている・・・

二つの場所で起こる一つの事件。
舞台の前面で描かれるのは、立てこもり犯の井戸と被害者の小古呂の妻と息子。その裏で、全く同じ鏡のような姿で立てこもり犯の小古呂と被害者の井戸の妻と息子がいる。それは、舞台の奥でほとんど見えないような形で描かれている。
今、目の前で起こっていることが、どこか離れた場所で同じように起こっている。それだけで、何か怖ろしい感覚に襲われる。

作品名の蜂も出てくる。
井戸はそれを恐れているかのよう。茶碗で封じ込む。飛び出してしまうと、銃で撃ち殺す。そして、狂ったように踊り出す。
何か、被害者であった自分が加害者となるために、殺してしまわないといけないような感情みたいなものなのだろうか。良心とかかなあ。
鏡のような姿である、小古呂の下には、この蜂はいたのかな。
脱獄犯という元々の加害者が、人に暴虐を尽くすのと、被害者が加害者になってしまい、人に暴虐を尽くすのでは、その構造が違うようにも思え、外から見れば、同じように指を切り合うみたいにしか見えないが、この蜂の存在が両者の相違のようにも思える。
小古呂だって、元々はきっと井戸のような普通の人だったのだろう。それが過ちを犯し、入獄し、さらに罪を重ねている。小古呂の蜂はもっと前に、自身で殺してしまったのでは。そう思うと、二人は鏡像では無く、小古呂にとっては過去、井戸にとっては未来の姿が映し出されているようにも感じる。
復讐の連鎖は井戸が開始したようだが、実はもっと前に、二人には見えないところで、もう既に始まっていたおり、人はそれから逃れられないみたいなことを何となく感じ、やりきれない絶望感が漂う。

ストリッパーの妻と恐らくは知的障害を抱える息子。生活は困窮してそうだ。そんな被差別階級への、普通の生活をしてきた者の暴虐。
その裏では、逆のことが行われている。
どちらが先かは分からない。
警察やマスコミは、その身分の違いに言及して、それを面白おかしくはやし立て、行われている行為自体への真実追求は無い。
争いは続く。どちらも死ぬまで。
それが分かっていながら、初期の狂気だけを伝える。狂気の上に成立し始めた日常には、もう誰も興味がない。本当はそちらの方が問題なのに。自然と受け入れられてしまい、風化されてしまう。
例えば、ISがテロを起こし、普通に生活をしている人の命を殺めようとする。その狂気をマスコミは煽り、ISに報復行為を行おうとする。ISはそれに対して、また目には目を、歯には歯をの体制を取る。警察は、国家は何も言わない。
最初は、様々な議論がなされる。どちらが加害者で被害者なのか。解決策は無いのか。でも、そのうちに風化してしまう。でも、争いはずっと続いている。復讐の連鎖は終わっていない。
気付いた時には、多くの人が互いに犠牲になっている。それでも、終わらない。最後は自らを自らの手で滅ぼすしか無いような状況になっている。
一度起こった争いが終わらない構造、戦争の終わらぬ仕組みのようなものも見えてくるような気がする。

舞台前面で描かれる、井戸、小古呂の妻、息子を演じる、東洋さん、村田千晶さん、中嶋翠さんの圧倒される演技には、もう絶賛。
お忙しそうだし、本当にちょっと気が触れているのではないかと思わすくらいに狂気を醸す東さん。
ストリッパーの荒んだ様相を出しながら、徐々に感情を失って、うつろになっていく姿に恐怖とエロさを魅せる村田さん。
純朴だからこそ、狂気を平然と受け入れることになってしまう悲しさや、同時にそんな世の構造へに怒りを感じさせる中嶋さん。
圧巻でした。
他の役者さん方も、個性的なご自分の魅力を発揮。
恐怖や狂気の中に、入り込むコミカルなところには、だいぶ救われたかもしれません。

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コメント

SAISEI様

巨星発見!と言うべきでしょうか? そんな感想です。

まだ当日パンフを開いてもいないので配役はSAISEIさんの記事を頼りに書いています。

どこ観に行ったはるのか気になるので一応チェックはして観劇前ならあらすじ前の総括っぽいところを見るぐらいにしているのですが今回はバッドエンドらしいのでSAISEIさんキライなやつやん、と(笑) 私はバッドエンドでも良ければオッケーなのでどう感じるか楽しみでした。

普段からよく書かせていただいてるように出だしはイマイチなことが多く、特にここのところ学生劇団をよく拝見するようになって学生劇団に顕著な感じがしていました。

井戸役が最初出てきて発声した瞬間、なんかこの人ちゃう。スゴいかも、と思わせてくれ最後までその想いは変わらず。相当上手い方ですね。この方が東洋さんか。なるほどなるほど。『藪の中』から気になりつつも未だ観れず。声質や台詞回しが浜崎聡さんに似ているかな、と思いながら観てました。

小古呂の妻役も可愛い上に素晴らしい演技力で。。可愛いだけだと最近すぐに忘れるんですがこの演技力はスゴい。もう上手すぎますね。

小古呂息子役も上手い。この役者さんにこの配役を持ってきた段階で勝ちですね。ほんまに大学生か、と。子供にしか見えへん。

以上お三方は特に凄かった印象。他の方も良かったとは思うんですが。

舞台上の大道具は劇団鹿殺しを彷彿とさせました。椅子の使い方も良かったし。テレビになったのはすぐには気づきませんでしたが。

こういうヒリヒリした感じの公演好きですね。他に言葉が見つからないのですが。今年度ベスト5には入ってくるかな。

学生劇団の中やと安定感や洗練さなら展覧劇場や自由劇場の方が上だったと思うのですが印象的なのはこちらの方が残りますね。

投稿: KAISEI | 2016年3月20日 (日) 23時23分

SAISEI様

卒業公演は最後なので皆さん期するものがあるのかな? どこのを観ても印象に残るし伝わってくるものがあります。

六風館はこの前『教室』についてコメントさせていただきましたもんね。良さげな劇団とは思った、とは書きましたがこれほどのものを持ってきてくれるとは。原作はあるようですが脚本はオリジナル?

終演後、この前の分も合わせてカンパ。役者さん達も感じが良く六風館だいぶお気に入りになっちゃいました(笑)

投稿: KAISEI | 2016年3月20日 (日) 23時36分

SAISEI様

当日パンフを見たら配役が書いてな~い。

これはマイナスですね。卒演だしね。書いてほしかった。

村田さんもセンマイルの主宰なんですね。そら上手いはずや(笑)

投稿: KAISEI | 2016年3月21日 (月) 00時30分

>KAISEIさん

ねっ、ここはけっこう凄いよって言ってたとおりだったでしょヽ(´▽`)/

あのお三方は私も絶賛。
東洋さんの役者さんだけでなく、作・演としてもお力を発揮される総合力の凄さは東洋企画など、これまでの実績もありますしね。
村田さんも可愛らしさの中に、なまめかしいエロさを出されたり、飄々としたコミカルさを出される巧妙な魅力ある方だと思います。
中嶋さんは、今回は見事な子役ですが、これまで拝見した中には凄い美女とかもあったりします。メイクとかで名前を拝見することが多いので、何にでも化けられるのかも。

また、お互い、足を運びましょう。

投稿: SAISEI | 2016年3月22日 (火) 13時23分

SAISEI様

コメ返、勉強になります(笑)

3回目の「ストリッパー」が「ストリーパー」になってます(笑)

投稿: KAISEI | 2016年3月23日 (水) 01時37分

>KAISEIさん

ありがとう(◎´∀`)ノ

投稿: SAISEI | 2016年3月24日 (木) 14時12分

SAISEI様

4月以降の主な学生劇団の予定をまとめてみました。もうされてますかね?

●関西大学学窓座2016年度新入生歓迎公演
「遭難、」
4/9(土)13:00〜/18:30〜
4/10(日)13:00〜
関西大学内有鄰館1階多目的ホール
無料カンパ制

●龍谷大学劇団未踏座新入生歓迎公演
「アヒルと鴨のコインロッカー」
4/9(土)13時30分〜/17時15分〜
4/10(日)13時30分〜/17時15分〜
4/11(月)17時15分〜
4/12(火)17時15分〜
※開場は開演の30分前です
龍谷大学深草キャンパス学友会館3階大ホール
無料

●神戸大学自由劇場『室温~夜の音楽~』
4/13(水)17:30〜
4/14(木)17:30〜
4/15(金)17:30〜
4/16(土)13:30〜/18:00〜
上演時間:110分
六甲台講堂
一般・新入生ともに無料

●大阪大学劇団ちゃうかちゃわん第100回新入生歓迎公演
『てのひらを太陽に』
4/14(木)17:00〜
4/15(金)17:00〜
4/16(土)12:30〜
大阪大学豊中キャンパス学生会館2階大集会室
無料(カンパ制)

●立命館大学劇団月光斜2016年度新入生歓迎公演
『ゆめゆめこのじ』
4/18(月)18:30~
4/19(火)13:00~/18:30~
4/20(水)13:00~/18:30~
立命館大学学生会館小ホール
無料

●関西大学学園座2016新人公演『トリツカレ男』
4/22(金)12:30〜/16:30〜
4/23(土)11:00〜/14:30〜
KUシンフォニーホール
無料カンパ制

●同志社小劇場4月公演
「あゆみ」長編ver
4/22(金)19:00〜
4/23(土)14:00〜/18:00〜
4/24(日)14:00〜
同志社大学新町別館小ホール
前売り300円/当日500円
新入生無料!(大学不問・要証明)

●大阪大学劇団六風館次回公演2016新入生歓迎公演
『月並みなはなし
4/23(土) 13:00〜/17:00〜
4/24(日) 11:00〜/15:00〜
(受付開始・開場は開演の30分前)
豊中CP大学会館21世紀懐徳堂スタジオ
無料(カンパ制)

●神戸大学演劇研究会はちの巣座vol.152新入生歓迎公演
「キャベツの類」
―不条理劇であり、神話であり、ラブストーリーである
記憶をすてた男のもとには、キャベツだけが残った。
頭に青虫が住んでいる女がやってくる、女の記憶はあなだらけだという。
てんやわんや、突然の来客。
4月24日(日)11:00〜/16:00〜
4月25日(月)17:30〜
4月26日(火)17:30〜
4月28日(木)17:30〜
4月29日(金)14:00〜
開場は開演の30分前となっております。
シアター300(神戸大学国際文化学部大講義室)
無料

●同志社大学第三劇場新入生歓迎公演
「センシティビりビり」
「ほんとに、みんなちがってみんないい」二作品短編上演
4/28(木)19:00~
4/29(金)18:00~
4/30(土)14:00~/18:00~
5/1(日)14:00~
新町別館小ホール
新入生無料!!
(大学不問・要証明)
前売り:300円/当日:500円
高校生以下:無料(要証明)

●演劇集団Q
5月6日(金)〜8日(日)新入生歓迎公演
新町別館302号室

投稿: KAISEI | 2016年3月26日 (土) 21時12分

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