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2016年3月12日 (土)

紡ぎ屋カラムと紅い糸【羊とドラコ】160311

2016年03月11日 芸術創造館 (125分)

何か、観劇を始めた2009年頃に、観終えた後に残る心の動かされ方に似た、懐かしい響きを得た感じですかね。
と言って、ただ懐かしい、昔、観た古き良さを感じたという訳だけでは無い。
あれから、私もたくさんの作品を拝見して、色々な楽しみ方が出来るようになった。だからこそ、感じることが出来るようになった良さも、一緒に味わえたような気持ちです。
この感覚は、この作品の中で描写されている、紡がれる糸、新しい紡ぎ方、紡ぎの里の変わらぬ想いとそこから変化して生み出される新しい創作のような考えに通じているような気がします。
沁みる言葉に、美しい心情表現が、素晴らしく合わさって、素敵な作品が生み出されているように思います。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

6年ぶりに紡ぎの里に帰って来た、紡ぎ屋カラム。
1年前に、前日まで、酒代を稼ぐために、それこそ、お題、いや言葉を紡いで楽しいコントを創るぐらいに元気だったのに、流行病でポックリ逝ってしまった師匠。その骨を紡いだ綺麗な白い糸を大切に抱えての帰省。
帰省のきっかけは、親友の紡ぎ屋ロゥからの手紙。108人を通じて、ある老人からカラムの手に渡った。手紙の内容は、飼っていた羊のメリノが、自分が旅に出て以来、毛を刈らさないので、とんでもないことになっているからどうにかしてくれというもの。
12歳で別れたきりなので、誰か分かるように仮面を被ってくれと変な天狗の面も同封してある。
恥ずかしさもあり、帰ることを悩むカラムだったが、やはり久しぶりにみんなと会うことに。
里はずいぶんと変わった。自分の家の玄関の扉が見つかった。雨で出来た猫のシミがあるのですぐに分かる。久しく家を空けていたので、家は壊れてしまったのだろうか。
懐かしい声が聞こえてくる。シミの猫、ミューだ。ずっと会いたかったとずいぶんと喜んでくれる。昔はよく一緒に玄関先でお喋りしたものだ。
まずは、ロゥの家に案内してもらうことに。そう言えば、昔はミューは玄関から動けなかったはずなのに、シミを取り外して自由に動けるみたいだ。ミュー曰く、進化しているのだと。

そんな紡ぎの里。
作家は書くことが無いと、いつも頭を悩ませている。
編み屋のドットは、染め屋のイロハを従えて、紡いだ糸を編んで作った様々なものの即売会。
今、この里では、糸を紡ぐのは羊からだけではない。
シレンという天才発明家によって、人以外のあらゆるものから糸を紡ぐことができる。それは、その素材からの色があり、染め屋の仕事は衰退する一方。シレンは、それでも、この新しい方法での紡ぎで、里を守ろうと大きな砦を作って、工場化しているようだ。実際に、カラムという一番、実力ある紡ぎ屋がいなくなってからも、里が安定しているのはシレンの功績が大きい。
そんなシレンにドットは想いを寄せており、今、していることが正しいのかに悩むシレンを励まし続けている。
ドットは、仕事が忙しいシレンと息抜きがてら里を散歩することに。シレンは気難しそうな雰囲気を醸しているが、甘いもので誘えば、一発みたいだ。

そんなシレンの新しい紡ぎに、これまでの伝統を守るべきと嫌悪を示す者も。
奏で屋のリリ。
紡ぎ屋がその仕事をする時に、隣で音を奏でるのが仕事。でも、シレンには奏でない。自分はある紡ぎ屋の専属だと言って。
その紡ぎ屋が、ロゥ。かつてはカラムの家にもよく行って、奏でていたらしい。染め屋のイロハは、リリに想いを寄せているが、今はシレン派の下っ端みたいな感じになっているので、苦しい立場みたいだ。
小さな家で、ロゥはこれまでのように変わらず糸を紡ぐ。また、いつか、親友のカラムと一緒に昔のように紡ぎ合える日を待ちながら。今は、とにかく元気いっぱいで騒がしい弟子のランプに身の回りの世話もしてもらったりしている。ランプは、シレンの妹で、シレンは自分への反発のように考えているみたいだが、どうも、ランプはただ楽しく紡げれば幸せという考えだけでロゥのそばにいるだけみたい。
そんなランプが慌ててやって来る。羊のメリノが逃げ出したと。
3人は探しに行くことに。

皆が里で出会う。
久しぶりのカラムとの再会。
かつては、よく一緒に遊んでいた仲間たち。
同封していた仮面も、皆で遊んだ鬼ごっこの時の鬼が被っていたもの。
懐かしさにみんな感激。
・・・ということにはならない。
微妙な空気が漂う。
リリが口を開く。
どうして里から出て行ったのか。師匠が一緒に旅をしようと言ったからと答えるカラムの言葉を遮り、リリは続ける。
何をロゥから奪ったのか、カラムが出て行ってから、ロゥはあまり喋らなくなり、前以上に家に籠るようになったと。
それに手紙の差出人はロゥでは無かったみたい。
カラムは何のことだか全く分からない。どうして、久しぶりに戻って来て、責められないといけないのか。
カラムは、その場を飛び出し、自分の家へと向かう。

その頃、里ではおかしなことが始まっていた。
羊のメリノの失踪と関係しているのか、里のあらゆるものから糸が勝手に紡がれていく。
このままでは里が糸になってしまう。
里の人たちは騒ぎ出し、シレンに助けを求める。
作家は、冷静にシレンでは、無理であることを言及する。一番の紡ぎ屋はカラムであり、そのことをシレン自身も認めているはずだから。
でも、ランプは純粋に里を救ってくれと兄であるシレンに言う。ロゥにも助けてもらう。カラムにも。他の人たちにも。みんなでどうにかしたらいい。
そんなランプの姿に、シレンは自分が出来ることをして、里を守る決心を固める。

カラムは自分の家に。
と言っても、そこは更地。やはり壊されたらしい。
でも、懐かしき、家の壁の残留思念たちが話しかけてくる。
壊される時に抵抗したけど、やはり無理だったのだとか。
もうじき、その思念も消えてしまうようだ。
最後に壁たちは、この家に地下室があることを暴露する。師匠から秘密にするように言われていたこと。
カラムは、ミューと一緒にその地下室へ向かう。
そこに羊のメリノはいた。
そして、そこには、なぜか銀行があり、この世の者とは思えないおかしな銀行員が待ち構えていた。師匠からの預かりものを引き出したい。
役所仕事。本人確認が取れず、揉めはしたが、師匠の死を伝えたら、特別に配慮してくれた。
そこで、カラムは、封印していた自分が旅に出る前の記憶を知る。
皆も地下室に集まって来た。

師匠と二人暮らしだったカラム。
ロゥはカラムと家族になりたいと思っていた。そのためにはお嫁さんになってくれればいい。
そんな胸に秘めた想いが、ロゥの体から紅い糸となって、ほつれて出てきた。
カラムはその糸を紡ぎ、紅い手袋を作りプレゼントする。
しかし、糸を紡がれたロゥにその想いは無くなっていた。
カラムは手袋を捨てて、師匠の下に。
その時のカラムの想いを紡いで銀行に預けていたみたい。
そして、手袋はシレンの手に渡り、シレンは羊ではなく、あらゆるものから糸を紡ぐ方法を知り、それを基に里を守ることを考える。
自分の技術の根幹はカラムからのものだったことを告白。

里はどんどん、紡がれて糸となっていく。
メリノは、この里が変わっていく姿に耐えられなくなっていた。変わって欲しくない。変わるきっかけを全部、その毛の中に隠した。
何かが創られると、何かが壊れる。新しいものが古いものを壊す。それが嫌だと。
そして、カラムを呼び戻そうとした。
そんなメリノをカラムは叱りつける。自分勝手だと。
紡がれた糸は元には戻せない。
また編んで元の姿には出来ない。
ロゥから紡いだ紅い糸は、どうやってもまたロゥに戻すことは出来ないように。
でも、それだったら、ほどいてみたらいいのではないか。
何度でもほどいて、また紡いで編んで。
メリノはそれは無理だと否定する。でも、ミューをはじめ、皆はやってみなければ分からないという考えに至る。
作家は、その里が新しく生まれ変わる、この時を言葉で紡ごうとし始める。

数日後、里は新しく生まれ変わった。
いつの間にか、メリノはどこかへ消えてしまった。
シレンの砦での紡ぎはまだ続けている。きちんとルールを決めて、紡げば、里の発展に活かせるはずだ。
染め屋だって何か新しい染めの仕事が生み出せるはず。奏で屋は、新しいスタイルの紡ぎの仕事にあった音を奏でればいい。
ロゥは、今までどおり、家でひっそりと糸を紡ぐ。
シレンの素早く、シャープな紡ぎ。それも素晴らしい。でも、ロゥのゆっくりと穏やかに紡ぎ出される糸は、変わることなく魅力的だ。
そんな里の新たな門出。
今度、カラムが旅から帰って来たら、どんな里に変わっているのか。
いつまでも、同じではいられない。変わってしまうことは必然だ。
だから、皆で、変化を恐れることなく、より良く変われるように懸命に邁進すればいい。
紡ぎの里は、その紡ぎ出す糸に自分たちの想いを込めて、いつまでも人の心を打つ素敵な作品を生み出し、創り続ける・・・

言葉の表現が素敵ですね。
紡ぐ、ほどく。
人の想いに寄り添い、受け止め、そして、凍った心を溶かして、新しい絆を生み出していくみたいな。
物や人に宿る、そこにある想い。
それを紡ぎ出して、形にする。
その手段は、朴訥にじっくりと時間をかけることもあるだろうし、スマートにスイっと引き出す方がいいこともあるのでしょう。
何がいいわけでもなく、悪いわけでもない。大事なのは自分がどうではなく、紡ぎ出す物や人のことをどこまで考えて、想いを掛けてあげられるのかのように思います。
どのような方法であろうと、引き出した想いから出来たものは、その人の心を幸せに豊かにしてあげるものでありたい。
変わった結果だけを見て、未来を危惧し、過去に想いを馳せるのではなく、どうして今があるのかを見詰めて、その変化の中に込められた人の想いをきちんと受け止めてみる。
皆が、自分たちが出来ることにしっかりと想いを込めて、そこに寄り添っていく。
それが幸せな絆を生み出すような、描かれている里、そこに住む人たちがとても素敵に輝いている話でした。

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