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2016年2月13日 (土)

叫べ。決意と、今と、【劇団未踏座】160212

2016年02月12日 龍谷大学深草キャンパス学友会館3階大ホール (65分)

話の展開が細切れというのか、シーン転換がスムーズじゃないというのか、前半、ギグシャクした感じが漂い、ここでしっかりと惹きつけられなかったことが残念。
伝えたい、言いたいことが、整理されて話の中に詰め込まれていないので、焦点が絞れないなと感じたのもマイナス要因だったかもしれない。
結局、この前半の引いた観劇が、ラストに向かっての登場人物たちの心情の積み重ねに繋がらず、大きく心を揺すぶられるまでに至らなかった。

ただ、後半になってからの、各登場人物の言動は、大人と言っても一人で何でも決めて出来るわけではなく、その葛藤や将来への不安が絶えず付きまとう中で、各々の道を進む覚悟を熱もって描く力強い姿として表現されている。その描き方に、4人の高校生の性格、家庭環境、考え方など、キャラにしっかりとした背景を持たせた個性的な形を浮き上がらせている。それと同時に、各々の具体的な夢は全てぼかされている。
恐らくは、自身の経験を基に、その大事な一つの分岐点で何かしらの選択をして今、ここ大学の演劇部にいる大学生の自分たちの視点で描かれた作品。自分たちのことだけを描いているのではなく、これからその分岐点を迎える人たち、その一つを超えた自分たちと同じ位置にいる人たち、そこからさらにたくさんの選択をしながら人生を歩む人たちと、この作品を観る全ての人へと伝えたい言葉、決意を熱い叫びと共に激励を感じさせるような描き方は、巧さだと感じる。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

高校生の男女4人。
中2の時に一緒だった4人は、久しぶりに母校の中学校で再会。
当時の先生の話をしたり、懐かしい思い出話に花を咲かす。
陸上部で活躍していた真悠は、相変わらず遅刻で駆け込んでくる。
真悠と同じ高校の佑介。一緒のクラスだったことを忘れていたりして、皆から責められ、逆に自分の影の薄さをからかわれている。
梓は進学校に行っている。頭が良かったから。昔から自分を持ってしっかりしているところは、今も変わらない。
そんな中、大学、専門学校、就職と色々な道を選ぶ生徒が多い高校に行った南が、進路について皆に問いかける。
自分はどうしたらいいのか分からない。でも、紙切れ一枚と面談で道が決まってしまう。
それは他の子達も同じらしく、はっきりと道を決めているのはどうやら梓だけ。もちろん、大学へ。・・・ではないらしい。就職する予定。進学には奨学金が必要。それで諦めるのではなく、それと進学することを天秤にかけたら、早くに就職してしっかりと稼ぎたいようだ。数学好きな梓。その数字を扱う力はビジネス、金儲けで活かすという、しっかりした人生設計だ。

真悠は先生と面談。ちょっと、いや、かなり変わっているが、生徒のことを考えたいい先生のよう。
陸上だったら推薦でいける。大学で陸上をしないなら、まあ成績はそこそこだから中ぐらいの大学には行けるのではないか。そんな先生の言葉に真悠は曖昧な返事しか出来ない。心のどこかで、昔からの夢が残っている。親にははっきり言っていない。言っても、そんな甘いことを言っていてはいけないときつく言われて、自分もキレてしまうだけだから。
佑介。進学はしない。ずっと決めている夢があるから。忙しいバイトもその夢のためにしている。先生は反対はしないが、親にきちんと言うように伝える。保護者の許可が無いと、いくら決めても難しいから。
佑介は大丈夫ですとだけ先生に答える。大丈夫では無い。親は大学に行くのが当たり前だと思っている。安定して苦労の少ない生活を手に入れる。叶うかどうかも分からない夢など追う必要が無いというのが親の考えだから。

南が真悠の学校に遊びに来た。南は数学がかなり出来る。数学が赤点との戦いである真悠に教えに来たらしい。校則違反で見つかったらえらいことになるが、漫画のように潜入している自分にちょっと酔っているみたい。佑介は真面目なのか心配している。
先生に見つかってしまった。でも、良かった。あの変わった先生だったから。
先生は頼みもしていないのに、自分のことを語り出す。可愛いネコとの日々、懐いていたコンビニ店員との楽しい時間、突然のサヨナラ、荒んだ生活、喧嘩の毎日、あの素敵な女性との出会い。
でも、その女性とは別れた。自分がふさわしいかとか色々と考えてしまったから。結局、自分の本当の気持ちを分かっていなかった。それを彼女に言えなかった。ただ、ずっと一緒に君といたいんだということを。
女性を夢のメタファーにしたかのような話だが、この先生が語ると胡散臭い。
でも、南だけはこの話に心を打たれたらしい。この子も少し変わっているようだ。
自分の本当の気持ちが大事。分かった。今の自分の気持ちが。彼女は進路を決断した。

真悠は梓に相談。
親は何も分かってくれない。自分の気持ちなんて。何かと言えば、すぐに現実を見なさいだ。
親に、家族にその自分の本当の気持ちが伝わらないからどうしようもないのだと。
梓だって、進路は決めているものの、同じように悩める少女だ。的確なアドバイスが出来るわけではない。でも、彼女は自分の夢、そしてそれを叶えた自分の将来の姿を語る。自分のしっかりした言葉で。
私はまだ語れていない。自分が何をしたいのか、どうなりたいのかを、自分の言葉で。言葉にできない、言えない夢なんてきっと本物じゃない。真悠は夢への覚悟を感じ取ったみたいだ。

真悠は親に自分の夢を語る。もう、その話は進学で決まったはず。いつまでバカなことを言っているのかときつく叱られる。
佑介は家に戻ったら、家族総出で待ち構えられていた。現実を見なさい。その言葉は親の理想に従いなさいと同じ意味だ。自分は親のために生きているのではない。ダメだったらどうするのか、叶わなかったらどうするのか。出てくる言葉は否定だけ。

先生との最終進路相談。
真悠は先生から、前回のとおり進学でいいのかと念を押される。はい、とりあえず進学で。違う、それは本当の気持ちじゃない。真悠は葛藤する。
言葉にして言わないと、自分の本当の気持ち、夢を。先生に言えないようでは親にだって言えない。でも、おじけつく。もし、叶えられなかったらどうなってしまうのか。今の一言で進路が決まってしまう。
不安で押し潰されそうになる中、真悠の口からようやく言葉が出て来る。自分には夢があります。
先生は、その夢が何かを聞くことも無く、その選択をした真悠を肯定する。後悔はするかもしれない。そんなの当たり前の話。でも、その時、笑って後悔できるなら、それでいいのではないか。後は、親に言いなさい。許可をもらうのではない。君がどんな道を進むにしても、保護者は一番身近の協力者、支えになってくれる人だからだ。
結局、親の許しを得ることは出来なかった。だから、真悠は卒業後、家を飛び出して夢を追うために走り続ける。
佑介は、先生に進学する意志を伝える。夢を追うのでは無かったのか。親に反対されたからなのか。先生は、否定はしないものの、自分の力不足を嘆き、彼のそのつらい決断を憂慮する表情を見せる。
いいえ。これは自分の意志。自分で決めた。大丈夫だと語る佑介。
彼は進学する。遅れて決めた道だから、一浪してそこそこの大学へ。

皆、高校を卒業して各々の道を進み始めた。
家出してまで夢を追う覚悟を決めた真悠は、大変なことも多いけど、日々、輝いている自分を気に入っている。
夢を諦めた、捨てた佑介は、大変なこと、壁にぶつかった時に、辛さと悔いが自分にのしかかるようだ。同じように自分で選んだ道なのに、真悠とは違う。あれは錯覚だったのか。今日は、社会人になった梓、自分のしたい道へと進む南たちとまた、4人で出会う。母校の高校へ。あの先生もいるはず。
佑介は思う。自分の道は失敗だったのだろうか。どんな道を選んでも後悔しないことは無いだろう。その時、笑って後悔できる、輝いているそんな自分を誇りに思えるようにならないといけないのかもしれない。
でも、大丈夫。だって、自分の人生はまだまだこれから。また、夢を追う準備も始めつつある。そう、今から・・・

高校演劇なんかで用いられそうな話だなあと思いながら観ていたが、その人生の選択すべき時を一つ越えた者たちの視点で描くことで、夢を追うことの魅力、その夢は選択間違いで消えてなくなるものでは無く、ラストに用いられているように今からだということに、妙な真実味が感じられる。
そこには、自分たちが通ってきた道だからこそ、こうあって欲しいという願いや、これから自分たちもいつまでもこうあるといった決意が込められているかのよう。
大人として登場する先生が、高校生たちに伝える言葉もそんな感じだ。
作品中に出てくるような、自分たちの本当の気持ちなのだろう。
こういった直接に想いを伝える作品は難しい。熱さだけで押し切れるわけでもなく、変に技巧勝負でいっても、なんぞらしい印象になってしまう。
上記、大きな感動に至らないというマイナス感想を書いたが、このあたりの魅せ方は経験や工夫でもっと向上できるのだと思う。

佑介、MAXさん。ちょっとお調子者風の割には、朴訥で器用に立ち振る舞えない若い青年時代の男の不器用さがにじみ出る。空気を読むというか、相手に合わせるというところも組み込んだ自分なりの決断をしてしまうところなんかは、そんな男の姿を感じさせる。もっとわがままに、もっと自分勝手に。でも、そう出来ないところも、優柔不断や頼りないなんて言葉で言われてしまうことも多いけど、優しさや勇気なのだとも思う。
真悠、桜庭悠さん。ほんわかした空気を醸す方で、人に流されるとか、自分を出せないなんて雰囲気を見せる。ただ、終始、女性ということもあるのか、芯あるものを心に持ち、その気になってしまえば、大胆な行動を平気でする根性がある性格設定があるような感覚で見ていたが、本当に最後はそんな感じになっていた。強さとは何なのかという答えを導き出すキャラなのだと思う。
先生、神代長助さん。学生劇団には必ずこういう方がいらっしゃいますね。舞台上で自分を楽しめてしまい、空気を掴んでしまう方。ずいぶんとふざけたキャラに仕上がっていますが、実は要になるような素敵な言葉をたくさん語ります。真面目にするとなんぞらしさが出るから、わざとこんな感じにしたのかな。本気で叫びたい言葉だけど、照れみたいなものなのかもしれません。大人が子供たちに伝えないといけない言動をしているように思います。自分がしてきた選択。それが正しいからといって、その子供にとっての正しさに繋がるとは限らない。そもそも、正しいなんて何を基準にしているのか。大人が分岐点に立ち悩む子供にしなくてはいけないことは、自分の経験を伝え、子供のその選択の糧にしてもらうことなのだと思います。
梓、むーみんさん。まだ頼りなさ、迷いを見せる他3人の中で、保護者とも思えるようなくらいにしっかりとしたたたずまい。自分で決めるしかないんだということを明確に示そうとしたようなキャラでしょうか。彼女の現実的な言葉は、夢とはかけ離れているようにも感じます。でも、彼女は何かを掴もうとしている。そのために、どういった道を歩めばいいのかを考えた。綺麗ごとではない、他人事ではない、自分のことだから。そんな夢の厳しさを思い浮かばさせられます。
南、ナンさん。掴みどころに困るようなキャラで、しっかりしてるのか、天然なのか、不可思議な空気を漂わせます。真悠や佑介のうるさい親、梓は恐らく家庭にお金の問題がある。こういった自分の道を縛る外部要因が、この方にはあまり見えません。自由という、好き勝手に出来るけど、それだけに自己責任が重くのしかかるような環境に知らずといる。彼女の決断は自分の本当の気持ちに忠実になる。今回は大学、専門学校、就職といった限定された分岐点ですが、いつの日かそれよりも、もっとたくさんの道がある中で、どれかを選択する時が来る。その時の選択の基盤となる考えを見せているように感じます。

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