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2016年2月 1日 (月)

人魚伝説【エクステ】160131

2016年01月31日 神戸アートビレッジセンター KAVCホール (120分)

高校演劇のワークショップを母体にした劇団のようで、若い方が多いですが、見事な舞台の迫力を創られていました。
はずれの街、ウチウミでどん底とも言えるような生活を過ごす人たち。でも、そこはエネルギッシュで、生命力に溢れていて。金に追われる日々だが、貧しいなりに明るく必死に生きている。
でも、そんなウチウミにだって、変化が訪れる。それは、必ずしも皆を幸せにしてくれるものではない。苦しく辛く悲しい道へと導いてしまうことにも。そして、そのウチウミから暗い大海へと放り出される。
それでも、私たちはその暗い海を、かすかな光をたぐりよせて進まないといけないようなことを感じさせる話でした。
悔いや喪失。人が前へ進む原動力はそんな失うことから始まっているのではないかと思わせるような生きることの残酷さを感じますが、同時に、だからこそ私たちは自分を信じて、悔いても、失っても、何もかもが変わってしまっても、前へと進み続けることが出来るという安堵も得られるような気がします。

夜の公園。
暗闇、街灯のほのかな灯り、その下のベンチ、そのベンチに座るカップル。
詩人はいつも現れる老婆を待つ。
老婆は卒塔婆小町のごとく、チューチューイカかいなと言いながら、シケモクを拾い、カップルを追い出してベンチに座る。
詩人がどうしてそんなことをと尋ねると、老婆は詩人をベンチに座らせて答える。
この地面は流れている。海のごとく。このベンチは船。こうして座っているとこれに乗って船出をしている気分にならないかと。
気付くと詩人の目の前に景色が広がる。あの頃の。自分と家族と周りの人たちが皆、生きるのに必死だったあのウチウミでの生活。思い出したくない。でも、その景色の中に、あの頃の自分の姿を見つける。詩人は眠たくなる。夢の中で詩人は、あの頃の自分、シキ男となる。
さっきのカップルのような上っ面の見せかけの愛なんかではない。そこにあった本当の愛の美しさ。でも、それは同時に残酷な時間でもあった。

ウチウミと呼ばれるはずれの街。
バラックのようなみすぼらしい住処が並ぶ。
クズ鉄の仕事で稼いだ金を株につぎ込み、家計を圧迫させた不甲斐ない父。生活が貧しくても、その変化を受け入れてただ淡々と日々を生きる人だった。
そんな父を持ち前の明るさで支え、肝っ玉据わった根性でたくさんの兄弟を育ててくれた母。兄弟たちの稼ぎを生活費に回しながらの金に追われる日々を過ごし、金に対しては綺麗事など一切言ってられなかった。
スカ爺と呼ばれる、酒を飲むか、釣りをするかで、呑気に暮らす人もいた。
長男のセツ男は、ゲイバーで働く。男をとっかえひっかえしながら、自分の道を自由に進む。
長男がそんなだから、次男のハル男が、父の仕事を引き継ぐ予定だ。先行きに希望が見えないこんな仕事。自暴自棄になりながらも、その流れに身を任せる。違った自分がどこかにいる。芝居の中にそんな自分を見出してみたりしているようだ。
その妻、英姫は足が不自由で車椅子生活。ハル男の足かせになっている、この家族の負担になっているという思いを常にどこかに抱いている。
三男のナツ男はボクシングジムに通う。男爵といういいかげんそうな男がオーナー。そのいいかげんさに愛想を尽かされたか、その恐妻とは離婚寸前の様子。ナツ男は、今、チャンピオンだ。このウチウミのヒーローってところだろう。もちろん、一番の稼ぎ頭で、そこそこの金を母に渡す。ただ、自分の生活はヒモのような日々を送っている。近くのキャバレーに勤めるジェニーに遊びの金は全て出させている。
四男のアキ男は、いわゆるダメ人間。軽薄で、やる気がなくて、適当で。楽して生きることしか考えておらず、いや、それすら考えていないくらいにダラダラした生活をしている。この前も、河で溺れていたという金魚という名の女を拾ってきた。口ずさむ歌声は美しいが、アキ男ぐらいにしか喋らない。仕事もただ、洗濯をしているだけ。
五男のフユ男は、ちょっと言葉が不自由。でも、読書家で色々と勉強をしているみたいだ。稼ぎ方も、何かを仲介したり、情報を売ったりと、形ある物を売る、体で稼ぐみたいな今までとは変わっていくであろう時代を意識したものである。
そして、六男、シキ男が自分だ。一番下ということもあってか、あんまり親、兄弟にも構ってもらえず、一人で遊ぶ毎日だった。よく海辺へ行き、小石を投げて、お姉さんを呼び出した。水女。早くに亡くなった兄弟。会うと、いつももうここに来てはいけないと言われる。持ってきた樟脳船。海に浮かべても動かない。水女は、丸い水桶の中だけで樟脳船は動くのだと言う。あなたも早く大きな海に出て、船出をしなさい。そう言われても、シキ男は、水女に会いに幾度とやって来た。

こんな夢は見たくない。
でも、老婆は詩人にあの頃を見せようとする。
今のあなたを踏み止ませていること。
最初は、ジェニーのオルゴールを盗んだことだったか。その中にはジェニーが国元の家族のために貯めていた預金が入っていた。金魚にそれを見つかった。金魚は黙って、それを水の中に沈めた。
アキ男は、金魚と屋台を開いた。けっこう評判になり、売れ行きも上々。
ナツ男は、防衛戦に負けた。もう、チャンピオンではない。それに眼も怪我をして復帰は不可能。ジェニーは仕事を紹介してくれるが、ナツ男はプライドが許さない。ジェニーと険悪になる。そんな中でも、セツ男は、ゲーム感覚の愛のごとく、また男を変えている。そんな器用さが無いナツ男は、何もかも失ったかのような喪失感に苛まれる。
そして、その救いを金魚に求めようとする。でも、金魚からは、アキ男がいるからと拒絶される。それを見ていたシキ男は、金魚が昔、男に体を売る仕事をしていたことをナツ男に告げる。二つ目の罪。
アキ男と金魚は二人でこれから頑張ろうと誓い合っている。空に浮かぶ月を見て、いつかあの月に行って、屋台をしようなんて言いながら。
ナツ男がその場に仲間を連れて現れる。アキ男に金魚の過去を明かし、アキ男に暴行。金魚はナツ男に犯される。
シキ男は、その場から逃げた。
兄弟を金魚に取られるような気がしたからなのではないか。老婆は詩人を見透かす。
水女から、そのことを責められる。今を変えたくなかった。でも、それではダメ。父も言っていたはず。生きていくためには苦い水でも飲まないといけない。透明な水。どんな味かは分からない。苦いかもしれないと逃げていてはいけないのだと。

アキ男は強くなるためにボクシングを始める。男爵曰く、動体視力が素晴らしく、これからのボクシングの時代で活躍できるタイプらしい。
それを見たナツ男は自分もボクサーに復帰しようとするが、男爵は厳しく否定する。ハングリーだけでがむしゃらに攻めるボクシングはもう終わった。これからはサイエンスを組み込んだ時代。もう、あなたの時代は終わったのだと。
アキ男は本当はボクシングなどしたくない。やり直したい。あの時に戻りたい。一緒に月を眺めて未来を語っていた時に。
それは金魚だって同じだった。
でも、金魚は一人でラーメン屋を続けている。
ナツ男はそのラーメン屋にたびたび、ホステスを連れてやって来る。罪滅ぼしのつもりなのかと聞かれても答えない。ただ、その金はジェニーが負担。
ジェニーはナツ男の行動をきつく非難する。そして、ジェニーはビザが切れて、国に帰らないといけなくなった。これでナツ男ともお別れ。
泥酔するナツ男を金魚は殺そうとするが、たまたま見ていたセツ男がわざとハイテンションで店に入って来て、ナツ男を連れ帰る。
それでも、全てを失った、何も信じる者が無くなったナツ男は、再び店にやって来て、金魚に一緒に生きていこうと告げる。でも、拒絶される。ナツ男は金魚を刺す。どんなことをしても生きていたいと叫ぶ金魚はナツ男と共に川の中へ。

ナツ男は一命をとりとめたが、金魚は見つからなかった。もっと下流に流されてしまったと言う者もいるし、最初からそんな女はいなかったという者もいる。
狂った町。
みんな、その町から離れていく。
残る者もいる。でも、出て行く者にここでのことを覚えていて欲しいと願う。
ウチウミから大海へ。
これまでとは変わった場所、時間。そこでみんなは生きていく。

詩人は気付く。
自分はあのウチウミが好きだった。あそこにいた人たちが好きだった。
老婆。金魚なのではないか。その後、大海で人魚となり、今を生きているのではないか。
老婆は答えない。
そうだとしても、詩人のこれからには関係が無い。彼もまたようやく大海に船出するのだろうから。
ただ、老婆は詩人に言われて、ただ一言を語る。許すと。
全てはあの頃のように暗い海の中に沈んでいった。
さようなら。
私はその暗い海へと、糸をたぐりよせて進んでいく・・・

大海へと出発する最後ですが、同時に海に帰っていくみたいな、時間の輪廻みたいなものを感じさせるラストでした。
故郷や、愛する人、自分が信じるものなどを喪失して、どこにも向かえないと彷徨っている人でも、あなたという生を生み出した源、あの水の中へと人は帰っていけるのですといったような海から人はやって来たみたいな伝説が作品の中に込められているように感じます。
生きることは美しい。花みたいな綺麗な美しさじゃなくて、もっと生々しいもの。それは同時にグロテスクで残酷な姿にも見える。でも、それが人が生きることの尊き美しさなのかなと思う。
数多くの過ちを繰り返し、悔いを残し、憎しみや妬みを生み出す人。でも、みんなそうして生きている。必死にがむしゃらに。決してスマートにエレガントになんかは生きられない。それでいいのではないか。私たちは、もう帰ることの出来ないウチウミに別れを告げて、暗い大きな海を、不安や怯えの中にあるわずかな希望の光をたぐりよせて、必死に前に進もうとしているのだから。
そんなことが心にずっしりとのっかかってきて、生きることを見詰めてみるような作品だったように思う。

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