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2016年2月29日 (月)

僕の國【劇団展覧劇場】160229

2016年02月29日 関西大学 KUシンフォニーホール (105分)

卒業するということを、負の視点から見詰めてみた問題作と言えば、そんな感じじゃないでしょうか。
それだけ、不安や恐れの中で、覚悟を決めて道を進もうとしているのでしょう。出来ることなら、すがるものが欲しい。逃げ道も欲しいし、一緒に戦ってくれる仲間も欲しい。
でも、神はそんなもの与えてなどくれない。
今、居る場所から、どこかへ向かわないといけない時。自分の道は、自分一人で切り開いていくしかない。その時の原動力は、その居た場所で仲間たちとの時間の中で得たものなのだと思います。

朝起きて、顔洗って、朝ご飯食べて、一時間に2本のバスで登校し、50分の授業を6コマ受ける。
先生にあだ名をつけて悪口叩いて、友達のケンヂとどうでもいいようなくだらない話をする。同級生の悪い奴、チアキに金貸してと絡まれ、それをケンヂに助けてもらい、バスで帰る。そのバスに、自分ほど純粋に深くちゃんと想いを寄せている人はいないというぐらいに好きなアイコが乗っていたら、心音をドキドキと高める。
だいたい、そんな1日。明日もきっとこんな感じ。でも、何かが変わるかもと、そうじゃないフリをする。
そんなボクの下に神様がやって来た。
神様、ボクに面白いことを与えて下さい。

ボクは、ケンヂに毎日が楽しいかを尋ねる。
ケンヂはいつも前向きだ。中年になって、時をかける少女を観て、あんな恋愛したかったなんて悔やむくらいなら、今からでも青春する。
その恋愛だ。ボクはケンヂに、告白の仕方、相手が好きかどうかをどう確認するのかなどを尋ねるが、どうもはぐらかされる。
きっと、アイコも自分に好意を寄せていると思うのだが。

ケンヂは、昔から変な物を人に食べさせるのが好きだ。
今日は鯖缶とミカン缶。やって来たアイコ。ボクは挨拶。挨拶を返してくれた。ケンヂはアイコに食べさせる。まずい。逃げるケンヂを、アイコは追う。あなたも早く捕まえて。グッと距離が近づいた気がする。
神様は、そんなボクにチャンスを与えてくれた。
アイコから電話。今日の騒ぎでピンを無くしたので、拾ってないかと。
残念ながら拾ってない。でも、少し話をして、面白い人なんだなんて言われる。勢いづいて、今度、一緒に遊びに行かないかと。じゃあ、今度ねと返事をもらう。
ボクは喜びで溢れている。でも、神様は知っている。その今度は、来ないことを。

ボクはもう好きな気持ちが止まらなくなる。その想いをポエムにでもしたためればどうかと神様は提案するが、やはりセンスというものは重要みたいだ。
今日は鯖缶とパイン缶に挑戦。今日の犠牲者はチアキだった。
ケンヂは、この地元で毎年、開かられる冬祭りに行かないかと、ボクとチアキを誘う。
冬祭りは毎年、ケンヂと一緒に2人で行っていた。どうしてチアキを誘う。ボクは用事があると嘘を付いた。チアキも空気を読んだのか都合が悪いと。
ボクは、ケンヂに告白しようと思っていることを伝える。でも、ケンヂはまだ早いのではないかと慎重な意見を返してくる。

アイコから電話。
男の人へのプレゼントを聞かれる。アイコからもらえるなら何だって嬉しいはず。でも、そんな答えをアイコは求めていない。じゃあ、具体的にあなただったら何がいいの。その質問こそ、さっきの答えそのままなのだが、ボクは、お菓子だなんてくだらない答えをする。結局、じゃがりこに決まった。
ボクは冬祭りにアイコを誘う。残念ながら先約があるらしい。
ボクはあのプレゼントは自分のためなのではないかと期待を膨らませている。
神様は、そんなボクにケンヂとのことを忠告してくる。
恋愛相談を曖昧にされたり、冬祭りをいつものようにボクだけで誘わなかったり、価値感がズレてきている。いつまでも一緒にいられるわけではない。将来のことを考え、いつかは訪れる別れの時を少し考えた方がいいのではないかと。
ボクには分からない。ケンヂとはずっと一緒だった。それはこれからも変わらない。

翌日、アイコと会う。
昨日は、相談ありがとう。ケンヂの誕生日プレゼントは、お菓子にすると。
2人は付き合っていたらしい。
アイコにフラれた。いや、ケンヂを取られた。複雑な感情がボクに芽生える。
ボクは、ケンヂにアイコが実は好きだったことを伝える。ケンヂは気付かなかったと。
ボクは、以前、誘いを断った冬祭りにやっぱりいけるようになったと、ケンヂを誘う。でも、今度はケンヂが無理になったらしい。

仕方がないので、冬祭りは神様と一緒に行く。
チアキに出会う。ご機嫌斜めだったようで、ボクはだいぶボコられる。アイコにフラれたことも知っているらしい。仲間だからいいよなと。
こんな時、よくケンヂが助けに来てくれたものだ。
ケンヂがいなかったら何も面白くない。
ケンヂが現れる。都合が悪かったのではないのか。
話したいことがあるらしい。東京に行く。親戚のおじさんの会社で働くらしい。
アイコがやって来る。アイコと一緒だったのか。東京へもアイコと一緒なのだろう。
どうして、ボクとケンヂはずっと一緒のはずだったのでは。ずっと変わらないはずだったのでは。
神様はボクに拳銃を渡す。
そうだ、ボクは僕の國へ行く。

ボクとケンヂの毎年の冬祭り。楽しい時間が流れる。
ここは僕の國だから、何度でも振り返る。
出店は変わらない。おでん屋はずっとある。でも、かき氷屋はいつしかつぶれた。金魚すくいで持って帰った金魚は大きくなり、やがて死んだ。
少しずつ変わっているのだ。
そして、何度、やり直しても、ケンヂが東京へ行くという冬祭りの時へとたどり着く。
ボクはケンヂに拳銃を突き付ける。撃っても弾は出ない。
大人にならないと。いつまでも、こうしてはいられない。将来のことを考えないといけないのだから。
それに、18年の付き合い。自分が東京に行ったからと言って何が変わる。いつだって会える。
ケンヂはそう言う。
そして、その後、ボクはケンヂと会うことは無かった。
本当は知っている。知らないフリをしているだけ。無知の知だ。
変わらない付き合いなんて無い。現実は。いつしか忘れてしまうのだ。タイムリープして何度も繰り返すことは出来ないのだから。
分かっている。だからボクは最後に言わなくてはいけない。
今から卒業すること。友と別れることを。
それで、この作品は終わる。
言いたくない・・・
声に出たその言葉の後に、振り絞って繋げた言葉は、まだ声となって聞こえてこない・・・

卒業を、これまでお世話になった方々への感謝や、これから羽ばたく自分たちの時間への希望やらという視点で見て創るのが一般的なんでしょうが。
卒業というからには、大きな変化が訪れる。明日には、昨日まで毎日のように会っていた人がどこか遠くへ行ったりもする。進む道も違ってくるだろう。
また、出会えるその日まで、頑張りましょう。
これは嘘だ。もうそのままなんてことが現実であることを、私たちは知っている。だから、怖いし嫌なんだ。
卒業します。ボクも頑張ります。あなたも頑張って。なんて、簡単に言えないといった苦しみを素直に描いてしまった作品でしょうか。

こんなことって、卒業に限らず似た状況ってけっこうあるのではないでしょうか。
例えば、爽やかな感じなら、ひと夏の思い出みたいな。変わらない田舎での夏休みの日々。友達と出会い、毎日、楽しく遊ぶ。いつかは新学期が始まり、この地にはいれなくなることは知っている。変わらない日々といっても、少しずつ変わっている。それに目を背けながら、時間を過ごす。
また、来年、遊ぼう。でも、そんな願いが必ず叶うとは限らない。そこでの友達とどこまで想いを通じ合わせたのなんか分からないから。自分だけが、固い絆だなんて思っているだけで、向こうは向こうで平然と、自分のことなど忘れて新学期を迎えているのかもしれない。
重い感じならば、人の生死。ちょっと長い入院で、病室で知り合った者同士。変わらない病院での日々。そこで、毎日、暇だし語らい合う。でも、いつしか、退院、悲しい場合は死という形で別れがくることを知っている。自分たちの病状は良くなるにせよ悪くなるにせよ、何かは絶対に変わっていく。でも、そのことを言及するのは暗黙の了解でしないようにして時を過ごす。
退院したら、どこかへ行こうね。それが実現するとは限らない。その間に、互いにどれだけ心を通わせ合ったかは分からない。相手が退院して、未だ入院する自分のことなどすっかり忘れて元気に過ごすのかもしれない。もちろん、逆の場合も。共に忘れてしまうことだってあるだろう。
でも、ずっとそこにいることは出来ない。やっぱり、そこは自分の人生の限られた一居場所でしかないから。いつしか、巣立ってどこかへ行かなくてはいけないのだろう。それだけの力をここで身につけたのだと信じて。
きっと辛いし不安だし。やっぱり良かったと喜べるかもしれないし、まだあそこにいたかったと悔やむこともあるのだろう。
どうなるかは分からない。
でも、そんな人たちにかけられる言葉って、やはり頑張れしかないような気がします。
頑張れ、辛いけど、最後の言葉を口にしろ。覚悟をしよう。
最後のシーンを見て、沸き立つそんな想いは、自分自身にも向けられているような気もします。

卒業生の方は、ボクとケンヂなのかな。まあ、カーテンコールの感じでは、ケンヂは、まだみたいだったけど。
一応、お二人に卒業祝いを兼ねてコメント。
会話の掛け合いが自然体でテンポがいいことを考えると、お二人ご自身の気持ちをそのまま形にしてみた作品のようにも思えます。
ボクを演じる、カタールさん。葛藤をしっかりと狂おしく演じられ、その心情表現は目を見張るものがあるように思います。ボクは自信がまだ無いのかな。本当に想われている自分を見出せていないから、自分が人を想う時に躊躇してしまうようなところが見受けられます。人なんて結局は一人。でも、それは、どこかへ覚悟を決めて向かうと決める時のこと。それまでの悩み苦しむ時間には、きっとたくさんの人が周囲で自分を見てくれている。自分自身も誰かにとってそんな一人なのだろうから。
ケンヂのキャプテン夢林檎厨毒★小雨ときどきレモォ~ン(笑)さん。この作品の作・演。心のあるがままに、ぶつけた問題作みたいな感じでしょうかね。自分の今の考えや気持ちがとても籠った演劇らしい作品のように思います。彼自身もボクと同じように、離れたらもう会えなくなることを分かっていたかのように、ボクを自分と離れるところへと導く気遣いをしているようなところが感じられます。それは同時に自分がボクから脱却するための道でもあったのではないでしょうか。寂しいけど、どこかに進む時には、自分を縛る絆を断ち切ることだって必要なのだと思います。もう会えなくなり、その絆も戻らないかもしれない。でも、それが一人で生きていくことなのでしょう。孤独ではなく、自分の道を進むのは自分一人でしかないから。

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コメント

SAISEI様

予想しないところでお会いしましたが(笑)

私は展覧劇場さん好感触でした。都合がつけば4月下旬も行きたいです。隕石少年トースターの方が所属されてたんですね。

ちなみに大音情報です。

18日(金)19時~
19日(土)13時~
19日(土)17時~

上演時間は約120分とのことです。

投稿: KAISEI | 2016年3月 1日 (火) 13時43分

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