小林まゆみ10周年記念企画【小林まゆみ】160220
2016年02月20日 KAIKA (ゲスト:10分×2、本編:60分)
小林まゆみさんを初めて拝見したのはいつで、何の公演だったかな。
失礼ながら、その記憶はありません。
いや、もちろん、綺麗な方ですし、魅力的な演技をされる方ではあるのですが、多分、一目見て、この人だって強烈な印象に残る感じのタイプでは無いのでしょうね。
今は、しっかりと認識出来るようになりました。だから、今回も足を運んだ訳で。
少し色気ある、丁寧な仕草でじっくりとこちらの心情を蓄積させていく役者さんという認識かな。
じっくりとその魅力が染み込んでくるような、まあ、大人の女優さんの魅力でしょう。
今回の作品も、そんな大人の女性の芯を魅せるようなものだったように感じます。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は、本日、日曜日まで>
・平成ぼやき講座 : 丸山交通公園
蟹はピチピチじゃない、ひたすら頑張っている人にエールは不要、ラジオは壊れている、弁当のおかずのバランスが悪い、別れて泣く女に笑顔の強制は狂気の沙汰、100万年夜の設定に対する異常な行動・・・
CM、童謡、名曲、流行曲のおかしな歌詞に、声を大にして叫び倒す。
平成に蘇った人生幸朗師匠か。
えらい豪快な姿で蘇ったものですが。
・絵の女 : 黒木夏海、豊島勇士
美しい女性が描かれた絵を部屋に飾る男。
うん、いい感じ。コーヒーを入れて、満足に浸ろうとすると、額が勝手に傾く。何度直しても。イライラして力任せにすると、額から女性が飛び出てきた。額はまだ彼女の体に少し懸かったままだが。
女性は台所の包丁を手にする。あ~、刺されて殺される。と思ったら、料理を作ってくれる。
食事が運ばれる。何かを首かけられる。絞殺だったか。と思ったら、ナプキン。
美味しい。のどが詰まる。窒息死狙いかあ。と思ったら、水をくれた。
一緒に外に出かけよう。
男は女性から額を取り外す。
突然、女性は額を男に突きつけてくる。激しい格闘の末、女性を元に戻して、部屋に飾る。
夢でも見ていたか。さて、コーヒーでも。ところが、見えない何かに閉じ込められている。
気付くと、女性がコーヒーを優雅に飲んで、自分を見ている。
女性が額から出てきた時点で、男に災いが降りかかる、恐らくは入れ替わるというのが何となく分かる。
その漠然とした不安感を、男と女性のコミカルなやり取りでちょっと微笑ましくさせておいてからの、ブラックって感じがより恐怖感を煽ります。
単純な話だけに、心の揺り動かせ方をよく考えて、巧く創り上げられている作品だと思います。
・嫌だ! : 小林まゆみ
雨漏りする部屋。
男はつまようじで耳かきをするというあぶなっかしいことを。
止めとけと言っても、いつも言うことを聞かない。
雨漏りだってそうだ。部屋で傘をさすって一体、何なのか。女は男に大家に言えと言っているのに、いっこうに言おうとしない。どうせ家賃でも溜めて会いづらいのだろう。
今日はサヨナラを。しばらく会えないから。
この部屋にはお世話になったものだ。蛍が近くの疎水から見えたものだが、もう今はいないのだとか。
演劇を辞める。周囲から反対される中、おばあちゃんから縁起がいいともらった芸名、茶柱立子は、もうこの世から消える。
だから、男がせっかく創ったという二人芝居の脚本も見るつもりは無い。
仲間たちも、みんな辞めていった。2人目が生まれた子だって。みんな、それぞれの道を歩んでいる。そんなことを思い出していたら、ふと脚本に手がいく。
分譲マンションを売ろうとする夫。
いや、もったいない。どうせ安くしか売れないのだろうし、そんなことしたら損だ。
確かにちょっとアレルギー症状が出たりしているが、広いベランダに、そこから見える花火大会とか、けっこう気に入っている。
私の友達なんか、雨漏りする部屋に住んでるのに。30歳を超えて、6000円がどうにもならない生活に比べたら。
義理の母親から電話。マンションを売る話は既に夫から聞いているらしい。
そんなのもったいないから反対してます。一戸建てなんて土地代も高いし。
そんな女の言葉に、義理の母は、私と一緒に住むことにしたと聞いているがと。
久しぶりに男のアパートを訪ねる。
ずいぶんとこのあたりも風変わりした。
犬に吠えられる。吠え返してやった。近くを通ったおじちゃんに、男のアパートのことを聞く。
男と途中で出会う。土産だけ渡して帰るつもりが、部屋に招き入れられる。
部屋はまだ雨漏り。それどころか、水たまり、いやプールが。
男が泳ごうと言い出し、その水の中に引き込まれそうになる。
嫌だ!
気付くと、犬に吠えられている。おじちゃんが大丈夫かと声をかけてくる。ずっと立ちすくんでいたのだとか。
男のアパートのことを聞く。
それなら、ここだ。ここ、この駐車場。
ここに住んでいた人は。分からない。そりゃあ、そうだ。
目の前に蛍の光が。
玉の輿。幸せな生活。しばらく、山奥の方で暮らすから、なかなか会えなくなる。
男にかけたい言葉はたくさんある。
でも、やっぱり今日も、あの時と同じサヨナラ・・・
10周年ということで、作品名の嫌だは、演劇を辞めるのは嫌、これからもずっと続けるんだの意味合いで描かれるのだと思っていました。
もちろん、結論としては多分そうなのでしょうが、冒頭から演劇を辞める女が普通に登場して、面喰らいます。ちょっとひねくれたところがあるのかな。
そんな女視点での話ですから、感覚的には、あの時、演劇を辞めた小林まゆみが、まだ続けている小林まゆみを自分の愛した男に投影して、対峙するみたいな感じでしょうか。
雨漏り。じわじわと部屋に降り注がれ、やがて、それは大きな水たまりとなってしまう。いつかこの部屋には住めなくなるという先行きの不安感が、演劇をすることと同調させているのかな。
女はこの部屋から出て行く。素敵だったこの部屋も朽ちていく。それにこの部屋からはもう蛍の光も見えない。
男は残る。元々、つまようじで耳かきなんて危険なことを平気で出来てしまう性格なのか。それともちょっとしたことは気にしない図太さがあるのか。
時が経ち、女は演劇を辞めた自分が想像する演劇を続ける男と、同時に現実の演劇を続ける男と対峙することになる。どちらも会うことは出来なかったが。
想像では、やはり部屋は住めなくなり、大きな水たまりの中で男はうごめいている。あの時、一緒に二人芝居をしていれば、また変わったのかもしれない。そんな女の後ろめたさか、女はその中に引きずり込まれそうになる。その時、発せられた言葉は嫌だ。演劇の世界にどっぷりと漬かり込んでしまうのは嫌、せっかく脱出したのにといったところだろう。
でも、現実は、そんな部屋はとうに無かった。男だって何処かへ行ってしまっている。演劇を続けているのかどうかは分からない。また、どこか別の部屋であの時のように雨漏りする狭い部屋の中で頑張っているのかもしれない。
駐車場になって何も無くなってしまったアパート。でも、本当に何も無くなったわけではない。
蛍が戻って来ている。それは、男が部屋で溜め込んだ水の魅力に寄せられてきたのではないか。男は何かを残している。少なくともその残したものを女は目にすることが出来た。
自分ではその残したものは見えにくくて分からないのかもしれない。でも、それは、見る者の自分で選んだ人生を励まし、誇りを抱いてその道を進もうとさせてくれる大切な気持ちを与えてくれる。
続けることってきっとそんなことなのかもしれない。
最後は、舞台に飾られたたくさんの服が蛍の光と共に輝く。
たくさんある中で女が着た服は数着。その中の一つに、男の描いた脚本の妻役の衣装もある。演劇をしていれば、もっと着れたのだろうか。でも、それは、その虚構の世界での話。現実で着る服はたくさんある中から、何でも着ることは出来ないから、選ぶしかない。
選ばれなかった服もこうして輝く。こんな服たちがあったからこそ、今、自分が着ている服がある。選ばなかったからといって、捨てられ消えて無くなるわけではない。きちんとそんな服たちと今はサヨナラした。だからこそ、今、着ている服を選んだ自分が輝く時間を過ごさなくてはいけないのだと感じるようなラストだった。
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コメント
SAISEI様
これも行こうかと思ったんですけどね~(笑)
私は小林まゆみさんを初めて拝見した時のことをよく覚えてますよ(笑)
だって小劇場界に引きずり込まれた『王の血脈』に出演されていてあれ誰やろう、と印象に残ったんです。
しかし今に至るまでお話しすることも叶わず。。(笑)
投稿: KAISEI | 2016年2月23日 (火) 02時26分
>KAISEIさん
皆から愛されている方なんだなってことがよく感じられる公演でした。
作品自体は、ごまさん作品だけに、ちょっと掴みどころが難しい感じだったかな。
投稿: SAISEI | 2016年2月24日 (水) 12時02分
SAISEI様
ごまのはえさん、やっぱ難しいんですか?
『サロメ』が合わず確実に寝てしもた。。『カムサリ』で再挑戦するも芸術的にオモロイことやったはんのは分かるんですがやっぱ合わない(笑)
投稿: KAISEI | 2016年2月24日 (水) 20時26分