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2016年1月11日 (月)

机上の空論(ワタシタチハタダコレカラノコトヲカンガエテイタ)【劇団太ロウ】160111

2016年01月11日 ウィングフィールド (50分)

机の上の男と、その男を訪ねる男。
共に死を恐れ、孤独で、これからの生への思いが希薄。
そんな二人が、違う道を歩んでいく。
ラストは悲しい、人がどうあっても避けることのできない死という結末。
でも、そこに至るまでの生の時間に目を向けて、人が幸せにより良く限られた時間を過ごすために必要なものが見えてくるような作品。

机の上にいる男。
ずっと迫害され、様々な降りかかる世の敵意から逃れ、たどり着いたこの世界は自分だけの自由で満足な世界。
相手と妥協点を見出せる人間がいる。自分はそうじゃない人間だったということ。
一人の男が訪ねて来る。
机の上の世界に羨望の眼差しを浮かべている。
ずっと友達もいなくて孤独。そんな寂しさや不安は音楽で紛らわせた。周囲から聞こえてくる耳障りなノイズは、ヘッドフォンから流れるニールヤングが消してくれるから。

ある女が、机の上の男に話しかけてくる。
男を探している。彼との間に子供ができたことを伝えるため。
男が再び、机の上の男を訪ねてくる。
子供ができた。不安しか感じられない。どうすればいいのか。自分だけの世界が脅かされる。
机の上の男はただ聞いている。
散々、不安や愚痴を口にした後、やがて、男は彼女の下へ向かう決心をする。彼だけの自由で満足な世界から足を踏み出す。勇気を持って、彼の載っている机から飛び出す。

男はそれからも机の上の男を訪ねて来る。
婚姻届を出した。胎教のためにバッハを聞かせている。彼女に負担をかけないように、率先して家事を手伝う。検査で写る胎児の姿に感動。目や鼻や口があるんだから、もう立派な人間なんだと。
彼女と海に行く。ちょっと前までは、自分が楽しく生きることだけ考えていた。いや、死なないために生きようとしていたような感じか。
もちろん、今だって色々なことに迷いがある。でも、今は、自分と妻と産まれてくる子供が幸せに生きられたらと思う。生きることの意味合いは分からない。でも、生きる意志は見つけることができた。
そして、子供が無事に産まれる。
もう、ここに来ることも無いだろうと、机の上の男とお別れをする。
机の上の男はそれを見送る。
誰かを愛するため、大切な人を守るため、これからの未来に幸せを導くため。そのために生きる希望を見出す者がいる。これが普通だろうか。
でも、憎しみや争いを糧に生きる者もいる。これは普通じゃなく、誤っているのだろうか。
巡り合わせ。そうなのじゃないかと思う。
机の上の男は、机から降りる決心をする。
いつ以来だろうか。入信してからだから。

翌日、爆破テロ事件が報道される。
多くの犠牲者が出た。その中には、先日、子供が生まれたばかりの夫婦とその新しい命も奪われたことが伝えられる。
政府は軍事報復も辞さない覚悟を表明する・・・

机の上の男と訪ねて来る男。
訪ねて来る男は、机の上の男のもう一つの生き方の幻影だろうか。憎しみに支配されてしまった今の自分が、過去の自分と対峙しているのだろうか。
最初はそんなことを考えながら観ていた。
演劇作品でありがちな同一人物を異なる視点で並行して描いて対峙させているのかと思っていたわけだ。
実際は、上記したあらすじのように、全く違うわけなのだが、二人の男が非常に似ていることは確かかと思う。
共に、死を恐れ、孤独に苦しみ、生きることへの思いが希薄だ。二人には、生きていても、いつも死が濃く包み込んでいるかのよう。そして、いつもこれからに目を向けると死という絶望がそこに見えてくるみたい。
机の上の男は、いつか実行するつもりの自分の死による世への報復、訪ねて来る男には、理由は分からずともあるミュージシャンの自殺。
そんな二人に、違う人生の道筋が分岐することとなる。
もちろん、生まれや育ちの要因だってあるのだろうが、ここでの話では、男に寄り添う存在が現れ、同時に男もそれに寄り添おうとすることが出来たかどうかによって変わっている。
誰だって、机の上の安泰な世界に浸り、そこで思いを巡らせて、死を恐れ、生を考える。でも、そんな偽りの、作品名のような空虚な世界からは足を踏み出さないといけない。いけないというか、人はそれに耐えられないものなのかもしれない。
その時に、訪ねて来る男のように、誰かに会いに行って、自分の存在を認めるのか、机の上の男のように、自分を消すことで存在を認めるのかによって違う道が生まれてしまったように感じる。
前者はそこで自分自身の大切な生の証を得るだろう。でも、後者には生を失うことでその証を得る道しかない。
悲しい結末だが、この二人が死に到るまでにたどった生の時間が、どちらが豊かだったのかを思い浮かべると、生きることの意味合いが見えてくるような気もする。
そして、その生の時間を皆がより良いものとするために存在しなくてはいけないことが、愛し愛される人の存在、想いのように感じる。

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