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2016年1月16日 (土)

夕空はれて ~よくかきくうきゃく~【カラ/フル】160115

2016年01月15日 船場ユシェット座 (90分)

別役作品にしては、不条理ながらも微妙に分かるという会話が心地いい、非常に観やすい話でした。
いつものごとく、なかなか核心に至らないイライラするコミカルなやり取りをより楽しめたように思います。
多様性を求められる現代社会において、自分の存在をどう明確にして生きていくのかみたいなことが込められているのかなあ。
自分を分かってもらうために懸命に言葉で行動で示していかないと、社会からおいてけぼりにされてしまうような、今の窮屈な世の中で、かつての緩やかで優しかった時代に思いを馳せる。そんな、いつの間にか、良いのか悪いのか、こんな世になってしまったんだなあという哀愁の念を感じさせられます。
観方によって、色々と捉えられる面白味のある作品であることは間違いないでしょう。

<以下、ネタバレしますが、有名戯曲なので、ネットで情報は幾らでも入るので、白字にはしていません。ご注意願います。公演は日曜日まで>

故郷の空を口ずさみながら、営業である町を訪れた男。
椅子が7つ。その内、1つに花束。男はそれを拾い上げると、町の人がやって来る。
喪服のような黒い服を着た女と、左耳、左手を怪我して包帯姿の男。女は男の面倒見役みたいな関係を感じさせる。
聞けば、その椅子に座っていた男が昨日、ライオンに殺されたのだとか。
よく見ると、確かに檻がある。
一昨日は、包帯姿の男が襲われた。昨日はその殺された男。今日はきっと、あの檻の前の椅子に座る人が襲われるはず。
そこに母娘が現れる。母は松葉杖、娘はウェディングドレス姿。母娘というよりかは、主従関係が成立し、娘がかなり抑圧されている感じ。娘の手には、母から殴られて血が滲んでいる。昨日、殺された男は、この娘の婚約者らしい。
母は娘にその襲われる可能性の高い席に座らせようとするが、娘は噛まれたくないと拒絶する。ただ、その襲うものはトラに変わっているが。
でも、皆はその席は営業でやって来た男が座ることになっていると言い出す。
営業の男は噛まれたくない。でも、ここの人たちはちょっと噛まれたいと思っているようにも感じる。現に包帯姿の男は、噛まれるのは嫌だが、座ってライオンに相手もしてもらえないのは寂しいようなことを言っている。噛まれるリスクと同時に、何かを得られるというチャンスがあるかのよう。
そのことを言及すると、皆に私たちだって噛まれたくないと反論される。
故郷の空をハーモニカで吹きながら、作業員姿の男がやって来る。飼育員らしい。捕まえて、この檻まで連れてくるのが仕事。捕まえるのは、男曰く、クマらしいが。
一番、襲われる可能性が高い仕事である。でも、その仕事をする人は決まっており、次、またその次と順番待ち状態にあるようだ。ハーモニカの音が聞こえている間は、まだ飼育員は健在。音がしなくなったら、襲われたものだと、次の飼育員が職に就く。
やっぱり、ここの人たちはちょっと噛まれたいのではないのか。
そんな営業の男の疑念にやはり飼育員も反論する。
本当に噛まれたくない。その本当にを伝えるために、皆は熱意を込めて噛まれたくないと言い合うが、その真意ははっきりしない。
そんな中、どこかからハーモニカの音がする。
ここにハーモニカはあるのに。
もしかしたら、こんなことをしている間に、ハーモニカの音がしなくなったと思われ、次の飼育員が職に就いてしまったのではないか。
飼育員は自分はまだ噛まれていないと叫ぶ。
そんなことをここで言っていてもしょうがない。そんなことは皆、分かっている。
まだ、噛まれていません。これを向こうのハーモニカを吹く男に伝えないと。
皆は、それを伝えにこの場を去る。
残ったのは、営業の男とウェディングドレス姿の娘。
営業の男は母からの言葉を思い出す。隣の客はよく柿食う客だ。これは、隣の客は何をしているのという質問に答えたもの。でも、それだけ。その客の中身は分からない。中身、内心なんてものは、本当は分からないものなのかもしれない。
娘は、本当に私は噛まれたくないことを男に伝える。男にしなだれかかり、媚びた様子で助けて欲しいと言う。
でも、皆は、でも噛まれたいと思っているのではないかと思っているのだと。嫌だと言っても、嫌じゃないと思っているのではないかと思われてしまう。人に自分のことを伝えて、理解させることは難しい。

ライオンが捕まった。
もちろん、トラやクマと口にする者もいる。先ほどまで主張していたものとは、各々、異なったりしているが。
ずた袋の中に入って、もがいて出せと叫んでいる。
ウェディングドレス姿の娘は、それを叩く。飼育員は蹴る。
檻に入れないといけないので、包帯姿の男が縄をほどこうとするが、きつく縛ってあるのでほどけない。
営業の男が商売道具のハサミを渡す。喪服姿の女はそれで刺そうと言い出す。
ライオンは、叩いた奴、蹴った奴、刺そうと言った奴、ハサミを取り出した奴は誰なのかと叫んでいる。
ハサミを取り出した奴が全部したのか。
そんなことを言っているライオンを今、出したら、犯人は営業の男にされてしまう。
男は止めるが、皆、一切、このことを喋らず口車を合わせる約束をして、ライオンを解放する。
ライオンは魅惑的な姿をしており、誘惑を仕掛けながら、犯人探しを始める。
最初のターゲットとなったのは営業の男。少なくとも自分が犯人ではないことをほのめかすことぐらいしか出来ない。
そのうち、ターゲットがウェディングドレス姿の娘に移る。娘は喋らない。営業の男が悪くなるからと、自分は関係ないことをほのめかしたようなことは言っているが。
娘は、あの襲われる椅子に縛り付けられ、皆から無理やり喋らされそうになる。
その痛ましい姿を見て、営業の男は全てを話し出す。
ハサミを取り出したのは自分、叩いたのは娘、蹴ったのは飼育員、刺そうと言ったのは喪服姿の女。
ライオンはそれを聞くと、手にしたハサミで娘を一突き。血に染まり、動かなくなった娘はどこかに連れて行かれ、始末される。
いいのではないか。元々、娘は噛まれたかったのだから。
そんな母の言葉に、営業の男は、彼女は本当に噛まれたくないと言っていたことを伝える。
母の表情は曇り、どうしてもっと早く言ってくれなかったのだと。
呆然とする営業の男に、喪服姿の女が声を掛ける。
分かっているだろうけど、娘はライオンに襲われた、そして、ライオンは逃げたと言うようにと・・・

本当の気持ちはなかなか人には伝わらないという大前提の下に繰り広げられる不条理会話が、人の集団心理の様子や、歪な社会情勢なんかを感じさせるような話でしょうか。
別役作品は、その時代背景をベースに、社会情勢をメタファーで描写する作品も多いようなので、そんな作品の一つなのでしょう。
何となく、以前に拝見した動物園物語という作品と似た印象を受けます。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/120114-1789.html
そのまま不条理会話を楽しむのもいいですし、何かのメタファーとして考えながら観るのもまた楽しい。
ただ、この作品は、ライオンとか突拍子の無いものが登場はしますが、まだ会話が分かりやすい印象です。後半、こちらの気が狂いそうなくらいの不条理の極みのような作品もありますしね。

私は、かなり初めの段階から、これは企業の姿を描いているのかなと思いながら、辻褄を合わせながら観ていました。
この町は、故郷の空のイメージから、純粋な国内企業。実力主義や利益追求だけを求める冷淡な欧米のビジネススタイルとは異なり、経営方針もかつての年功序列や義理人情がどこかにある。古き良き昭和みたいなイメージでしょうか。
包帯姿の男:叩き上げのベテラン社員。
飼育員:頼りないボンクラ二代目社長。
喪服姿の女:長きにわたってその有能さを発揮してくれている社員。
母:お局様。
ウェディングドレス姿の娘:腰掛ぐらいの気持ちで入社した新人。
ライオン:ライオンはアメリカ、トラは中国、クマはロシアみたいな、市場拡大の大きな魅力的なチャンスと同時にある、外資のシビアな考え方の象徴、もしくは実際に経営陣として入り込んできた人。
営業の男:例えば、この会社に原料供給しているような子会社的なところから来た社員。
ハーモニカの音は、この会社が長年守ってきた、今となっては綺麗ごとのようにすら捉えられてしまう社訓。それでも、それは捨てられない。
ハーモニカの音を聞く町の人は、この会社を慕う顧客。
と、こんな感じに捉えると、皆が各々、新しく入り込んできた考え方に自分の立場が不要だと切り捨てられるのではないかと怖れながらも、もしかしたら取り上げてもらえて、会社での地位が上がるような期待を抱く、ライオンのような存在が分かるような気がします。
犯人探しは、まさに責任の所在追及ってやつでしょうか。一番、弱い立場の娘や、下請けの会社にそれを押し付ける常套手段が見え隠れします。
若さゆえに、自分を主張し過ぎて噛みつかれてしまったのか、昨日、殺された男と同じように、娘もこれからの犠牲になったのでしょう。イエスマンは要らない。だからと言って、反発心を一切持たないような者も要らない。程よく、これから活躍できる者を選別して、新たな道を進もうとする一つの会社のように見えます。
営業の男も、これからもこの会社とお付き合いをするには、こんな出来事には目をつむり、新しい考えで動き始める会社と上手くやっていかないといけないのでしょう。
要は、家族経営で仲良しこよしでやってきていたような会社が、時代の流れからそれだけでは皆が食っていけなくなり、外資やベンチャー企業のような新たな波を受け入れないといけなくなってくる姿のようなイメージ。

これは、今の社会でも、様々な人たちが自分たちの周囲に入り込むようになって、そんな多様な考えを受け止めていかなくてはいけないようなことと同じかもしれません。
その時に、互いに分かち合う手段。言葉でいくら嫌だと言っていても、それを都合良く解釈されることだってある。言わずとも分かるみたいな、古き日本の考えはもう通用しないのかもしれません。Noと言えない日本人じゃないですが、曖昧さを好む日本の文化は、今の社会では厳しいようです。
自分という存在をどう理解してもらうか。単によく柿食う客だとしか思われるのではなく、その中身も何とか伝えないといけない。何も言わないけど、分かってねでは、この作品のような悲劇を生むことがほのめかされているようです。
でも、何となく、そんな世の中って窮屈で嫌ですね。
曖昧だけど、心と心で通じ合うみたいなことだってきっとたくさんあると思うのです。
でも、それでは、今の世は渡っていけない。
昔は良かったのかなあ。
こんな気持ちの時、口ずさみたくなる歌は、確かにこの夕空はれて~・・・のような気もします。

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コメント

ご来場、ありがとうございましたっ!
感想も沢山上げて頂いて…ありがとうございます!
不条理劇といえば、難解なお話も多いかと思うのですが、楽しんで頂けた様で良かったです(*^_^*)
ありがとうございましたー!

投稿: あまのあきこ | 2016年1月17日 (日) 00時16分

>あまのあきこさん

コメントありがとうございます。

そうですね。
別役作品にしては珍しく、難解だけど、楽しかった印象が残っています。
笑えるようなところがたくさんありましたし。
あの娘が、曲者で正体がまだ見えないんですよね。
婚約者も、あの娘の策略なんじゃないかとも思ったりしました。
ある意味、始末したというライオンの考えが正しいようにも思える、何か裏を感じさせられます。
あの町における危険因子だったんだろうなと。

また、どこかの舞台で。受付とかでもお会いできるかな。

投稿: SAISEI | 2016年1月17日 (日) 18時06分

こちらも返信が遅くなりましてすみません(>_<)

おぉっ、それなら本当に良かったです♪
あらすじを調べられたのであればご存知かと思うのですが、元々の戯曲は、ライオン(もしくは虎、熊)と呼ばれている女は、男の設定でして…。私的には、私なりの元々読んでて思っていた戯曲解釈を下敷きに性別を置き換えて演じる事で、何となくあの女の筋が見えました。1幕と2幕の変わり様が、ただ文字だけを追うと凄かったもので。
単純に読むと、本当に何考えてるのかしらって娘で、自分の人生経験の無さを思い知りました(笑)
突拍子のない台詞が多いものですから、色々な解釈ができるのが面白いですよね。
こんなに考察して頂けて、嬉しい限りです。

また有難いことに今年もちょこちょこと舞台にも立てそうでして、今後も受付にもふらっとお手伝いしている予定ですので、またお会い出来るのを楽しみにしております(*^_^*)

投稿: あまのあきこ | 2016年1月22日 (金) 02時08分

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