タンバリン【劇団go to】160116
2016年01月16日 インディペンデントシアター1st (90分)
昨年、INDEPENDENT一人芝居で予告編みたいな作品を拝見して、興味を持った作品。(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-2.html)
まあ、観た方がほとんど思うような感想になりますが、眩しい女性たちの姿を拝見して、勇気をもらえるような素敵な作品でした。
強くなりたいという熱血がベースですが、会話のテンポもよく、ちょっとコミカルなところもあり。
女性が演じているところもあるのか、日常生活を普通に過ごす中で、何かに挑戦する時の家族や周囲の現実も絡んでいて、その話のリアル感が伝わってくるようでした。
<以下、ネタバレしますので、ご注意願います。月末には東京公演がありますが、公演期間が長いので白字にはしていません>
来年、喜寿を迎える丹波鈴。
その娘、鳴子。
生物教師だった鈴の教え子で、今は同じく生物教師をしている揮江。
3人は、響香という女性の下を訪ねている。
響香は女性プロボクサー。鈴が彼女をトレーナーとして、ボクシングを始めると言いだしたから。
数か月前に、何やらボケの症状らしきものが出てから、そんなことを言いだしたみたいだ。
健康目的とか、ダイエットとかではない。強くなりたいんです。彼女の言葉は真剣だ。
鈴に諦めさせようと訪れた鳴子と揮江だったが、いつの間にか、やっぱり無理かと言う鈴に大丈夫、鈴ちゃんならやれると励ましてしまうように。挙句の果てには、皆で響香の下で指導を受けることになる。
やるからには本格的にやりたい。
鳴子の提案で、響香の知り合いのジムを訪ねる。
そこには、沢村というプロボクサーがいた。響香の知り合いらしい。たくましい体にイケメン。響香が珍しく挙動不審な姿を見せ、ジムを後にしようとするが、鳴子たちはそれを許さない。
ジムのすさまじい気迫が漂う空気に圧倒されながらも、マネージャーの下に。
健康目的のフィットネスコースを薦められるが、それではダメ。スパーリングが出来るようになりたい意志を響香が伝えるが、一蹴される。
結局、願い叶わず、皆はジムを後にする。
クソ生意気なマネージャーの悪口を言う鳴子と揮江。諫める鈴。
申し訳なさそうな響香。
様子がおかしかった。もっと強く言ってくれると思ったのに。
もしかしたら、あの沢村が原因なのでは。鳴子と揮江は、響香があの沢村に想いを寄せていることを勘ぐる。鈴は逆じゃないのかと言う。沢村が響香に想いを寄せていることに、響香がどうしていいか分からず、ぎこちなかったのだと。
真相は鈴の言う通り。響香は決して綺麗では無い。はっきり言ってしまえば、ブスの部類に入る。そのことを自覚している響香は、沢村の想いが理解できず、偽りだと思い込むようにしているけど、なかなか行動がそれに追いつかないらしい。
元生物教師の鈴にはよく分かるみたいだ。
生物学的な魅力は何も綺麗だけには限らない。綺麗であることは、確かに一つの強さではあるが、響香には別の強さが備わっている。
種のために戦っている。その姿を沢村は見れる人だというだけなのだろう。
ジムはまた別のところを探す。それまでは、これまで通り、響香の下でトレーニングをすることに。
鳴子は家に帰れば、主婦。夫と娘、義母のために、日々、家事をこなす。
特に料理は得意で栄養管理もできるくらい。この知識と腕はトレーニングでも活かせそう。何かに燃え始めようとしている鳴子の姿に、家族は特に心配もせずに応援している。お母さんなら、妻なら、あの娘なら大丈夫。それだけ、家族から信頼されているみたい。
揮江も、夫とペットの犬と鳥と暮らす。夫は、揮江が鈴に憧れていたことを知っている。何かあれば心配だろうし、傍にいたい気持ちも理解している。それに、ほんわかしてそうだが、意志は強そう。こう決めたことはきっと誰がなんと言っても頑張るだろう。
なんちゃって。彼女の口癖なのか、鳥が真似している。そう、これはなんちゃってじゃない。
響香はレストランでバイトをしながら生計を立てる。感じのいいレストランにはちょっと不向きな雰囲気。バイト仲間や客に陰口を叩かれたりすることもあるが、懸命に真面目に仕事をこなす。
ボクシングをしている。しかも女性。それだけで奇異な目で見られることは重々承知している。それでも、自分はボクシングをする。空いた時間は、シャドー練習を欠かさない。
皆は下手くそなりに少しずつ上達。
時間は限られているのでスタミナをつけるためのロードワークは、各々に任せている。
スパーリングは2分。この時間、戦えないとダメだから。
でも、やっぱりジムに早く入ってやりたいという鳴子に、響香は自分ではダメかと尋ねる。
ジムなど探していなかった。どうせ、この前と同じように、本気じゃないと思われて、フィットネスコースを薦められるのが分かっているから。
その言葉に、鳴子は裏切りだと憤慨する。
響香はさらに続ける。
強くなりたい。軽々しい言葉。本気で強くなりたい人はそんなことを言わない。
ボクシングをしているだけで、凄い、強いと言われる。でも、そんなの嘘の言葉だ。凄いのはあのリングの上で結果を出せる人たちなのだから。
いい歳してと心の中で笑っていた。それに鈴からお金も内緒でもらっている。いい小遣い稼ぎだと思ってやっていたと。
鳴子、揮江は、最低、詐欺師の言葉を残して鈴を連れ去る。
でも、鈴には分かっていた。響香の言葉は私たちに向けたものではなかったことを。あれは、響香自身に向けた言葉。
だから、彼女は自分ではダメなのかと聞いてきた。
ボクシングをする。それは本気。強くなりたい。それも本当の気持ち。
周りにどう思われようと関係ないし、お遊びだと思われていても構わない。なんちゃっての適当じゃなく、本当の本気でボクシングとぶつかる。響香は鈴たちを認め、共にその道を歩みたいと思ってくれたのだ。
種が進化して強くなるために、一緒に戦おうと言ってくれたのだろう。
鳴子は普通の主婦に戻る。
家族はそのことを別に歓迎もしないし、責めもしない。
でも、家族の言葉が全部、悪意があるように感じてしまい、苛立ちを隠せない鳴子。更年期障害かもと冗談めかして誤魔化すが、心のざわつきは抑えられない。
夫から鈴がロードワークをまだ続けていることを聞く。娘からは、イライラしている自分にいつも母として頑張ってくれてありがとうの言葉をもらった。
これまでだって、主婦として母として頑張ってきた。そして、それをこれからも続けるのか。新しいことを受け入れず、ここで捨ててしまうのか。自分は変われないのか。
揮江も悩んでいる。辞めてしまう、諦めてしまうことへの抵抗。鈴に憧れて、勉強して教師になった。種は進化するために戦う。自分もそうして、人生を切り開いてきたつもり。ボクシングは別なのだろうか。
それもいいのではないか。今の自分でいてもいいんじゃないのか。
そんな結論に至るが、夫からロードワーク中の鈴と会ったことを聞く。何かむなしい。そして、心は今の決断は偽りだと叫んでいるかのようだ。
鈴は響香を訪ねる。
そこには、まだ一人で頑張る響香がいた。
また、トレーナーを。
その言葉に響香は喜びを隠せない。
そして、そこに鳴子、揮江もやって来る。
恥ずかしながら、ずっとみんなを待っていたという響香。
再び、皆は2分間のスパーリングのためにトレーニングを開始する。
そして、今度はアマチュアのスパーリング大会を目指すことに。
響香が沢村を通じて参加をお願いしてくれていたらしい。大会は2か月後。ただし、1か月後にマネージャーが皆の出来を確認してからのことになるが。
マネージャーも沢村も不可能だとはっきりと言った。
響香も厳しいと思っている。
でも、無理だという新しいことに挑戦する喜び。それを超えたら、きっと種は進化する。鈴は無理かもしれないという不安よりも、変わることへ喜びの方が大きいようだ。
マネージャーに確認してもらう日が来た。
最初は響香から。響香も実はアマチュアだから。皆も何となく分かっていたようだ。でも、戦うことに資格は必要ない。変わろうとする、やろうとする気持ちさえあれば。
相手は沢村。さすがは特訓を積んできた響香の実力もあるし、彼女のことを知る沢村がその力を最大限まで引き出したこともあるのだろう。素晴らしい出来でスパーリングを終える。
鳴子、揮江はフラフラながらも、何とか練習の成果を見せる。
鈴の番になる。ゆっくりだが、一つ一つの動きを冷静に的確にこなしていく。
しかし、途中で力尽きる。スタミナがやはり持たなかったのか。駆け寄る鳴子に、鈴は赤ちゃんのような鳴き声をあげて抱きつく。数か月前のあの時のように。
鳴子はすぐに救急車を呼ぶ。
眠る鈴の下に皆が集まる。
鳴子は自分たちのことを語る。
鳴子は鈴の養子だった。鈴自身もそうだったらしい。
教師だった鈴は、生徒たちに慕われ、生徒がみんな子供のようなもの。養子ということもあり、それに嫉妬したり、どこか安心したりもした過去の自分の思いを語る鳴子。
やがて、鈴が目を覚ます。
スパーリング大会はもちろんダメになった。
でも、鈴はまだ続けるつもりみたい。
強くなりたいから。一人で生きるために。頼ったら、その人に強くならないといけないと思わせてしまうから。
鳴子はそれでも構わないと言うが、鈴はやはり強くなることを望む。
新しいことを受け止め、変わっていくことを拒まない。それが種としての宿命だから。
そんな鈴と共に、皆も一緒にこれからも戦い続けることを決心する・・・
爽快な気持ちになる話で、その本当の熱意溢れる姿に涙も滲みます。
アフタートークで言及されましたが、演劇をする方などは、こんなところはあるのでしょうね。
へえ~凄いね、大変だね、何かちょっとやってみてよとか言われながら、公演期間は仕事も休まないといけないから、どこか奇異な目で見られたりするんでしょ。
頑張ってやっていても、公演をするだけではダメで、結局、舞台で結果を出さないといけないなんて思ったりもするのかな。
この作品の家族は、どこか信頼で結びついているようでしたが、現実には親の反対だってあったりするでしょうし。女性に限らず、演劇を続けることと結婚などのバランスは避けられない現実でもあるのでしょう。
それでもやる。それが本当の気持ちだから。
強くなりたいからという鈴の言葉の強さに感銘を覚えます。
日常生活でのシーンも描かれ、実は、私たちはいやがおうにも変化の環境の中で生きていることを感じさせられます。
それはたいがい、世や時代の流れに伴う、与えられた変化ですが、それに適応しているのだなと。それで強くなっているのか、種として進化しているのかは分かりませんが、それを拒んで歩みを止めたりはしていないのです。
その力があるなら、自分で自分に与える変化にも、それを受け止めて頑張っていける力が備わっているような気になります。
ちょっと無理をした方が成長する。こんな言葉が出てきますが、これは本当にそうですね。自分の限界って、自分ではあんまり分かっていないらしく、人から与えられてしまった方が、意外にここまでやれるんだみたいなことを感じる経験ってよくあるように思います。
だから、自分だけで頑張らず、皆と一緒にやればいいのだと思います。
鈴も一人じゃなくて、みんなとやったからここまでやれたのでしょうから。それは響香、鳴子、揮江にとっても同じだったはずです。
馴れ合いにならず、各々が強くなる意志を持つ。これが互いに各々大きな力を生む。
何か、切磋琢磨みたいな言葉が浮かんできて、人が頑張ることの喜びを感じさせます。
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