もう音はいらない【劇団サニー】160124
2016年01月24日 カフェ+ギャラリー can tutku (60分)
自分の道を自分で決める。
でも、若いからどう切り開いていけばいいのかはなかなか分からない。
大人たちに聞いても、かつての失敗や苦い思い出からなのか、その道のリスクや、逃げ道の作り方は教えてくれるけど、本当に一緒に寄り添って道を切り開こうなどとはなかなかしてくれない。
自分の夢を叶える。自分をヒーローに育て上げ輝かせる。
それはどれほど孤独な道で、辛さや苦しさが伴うものなのか。
でも、だからと言って立ち止まってなんかはいられない。
降りかかる様々な悩みの中、自分は前へ進む。だって、その道を進みたいと思ったのだから。
歪んだ感情が渦巻いていますが、最後はそんなことを思わせる力強い希望の話だったように思います。
18歳の女子高生、絹江は自分が何をしたいのか分からないでいた。
進路相談。紙切れ一枚でいったい何が分かるというのか。
部屋ではオーケンを聞きながら時間を過ごす。そして、その感想をノートに書き留めておく。
お世話になっている姉のような存在、麻木から薦められてすっかりハマった筋肉少女帯。彼女は自分のことを否定しない。いつも応援すると言ってくれる。でも、進路は大事なことだから、ちゃんと母に相談しなさいと。あんな人に何が分かるか。毎日、紙くずをいじっているだけなくせに。
登校。
今日もイヤホンをつけて、オーケンを聞きながら電車に乗り込む。
隣に泣いている女の子。彼女にハンカチを渡すと、助けてくれたのは2回目だと言ってくる。昔、痴漢にあっていた時に、絹江が携帯でそのおじさんの写真を撮って助けたのだとか。あまり覚えていないが、彼女はずいぶんと親しく接してくる。
絹江のウルトラマンのバッグも目ざとく見つけて興味を示す。父のお気に入りだったから。まあ、今は出ていっていないのだが。聞いている音楽にも興味を示す。筋肉少女帯なんて言って大丈夫だろうか。答えに窮するが特になんということは無かった。自分も誰が知っているのか分からないようなバンドを聞いているらしい。
そして、彼氏のこと、東京で活躍する夢のこと。
牡丹という名前らしい。連絡先を交換し合ってお別れ。まあ、自分から電話をすることはないけど。最後に、お気に入りのバンドのCDを渡された。返すためにまた会わないといけないではないか。
部屋に母が入ってくる。
CDを見つけて、またくだらない音楽を聞いてと嫌な顔をして吐き捨てる。
カメラを探しているらしい。また、何か撮る気になったのだろうか。
手にはカメラ雑誌。同期のカメラマンが賞を受賞したらしい。何も分かっていないあんな奴が活躍している。自分だったら、もっと光バランスやら構図やらを考えて、上をいく作品を世に出せる。そう、かつてのように。
そのためには絹江が必要。また、私を輝かせてと当て付けがましく迫ってくる。そんなだから、父も家を出て行くのだ。
中途半端な態度をしていたら、母は気分を害して部屋を出て行ってしまった。
いったい自分は何が出来るのだろうか。一人、愚痴りながらつぶやいていたら、いつの間にかそれに返事をしてくる女がいる。何者だ。自分にしか姿は見えないようだが。
借りたCDはちゃんと聞いた方がいいよ。そんなどうでもいいようなことを言ってきて、どこかへ消える。
CDを聞いてみる。衝撃的だった。
絹江はすぐに牡丹に連絡する。
牡丹もそんな絹江にびっくり。
まさか、絹江から連絡してくるとは思わなかったから。CDも借りパクされる覚悟だったらしい。
話をしていると、絹江が書いている音楽の感想に牡丹は興味を持つ。
それをSNSに載せてみたらどうか。誰かの目に止まり、ライターの道が開けるかも。
悪い話ではない。自分が好きでやっていることだから苦痛も無く、楽しいし。
麻木に相談。麻木はいつものように応援すると言ってくれる。
それに対して母は手厳しい。
ダメだった時にどうするのか。流されているだけ。何かをする時には準備が必要。やりたいこと、したいことをいつでもできるわけではない。あなたは私と一緒にいればいいの。あなたは私がいないとダメなのだから。
結局、母は自分のことだけしか考えていないではないか。あの時だってそうだ。あんな写真が公になって、どれだけ絹江が心に傷を負ったか。
麻木は私は違うと言う。いつもあなたのことを考えている。何とかなる。やってみればいい。私がどうにかするから大丈夫。そう言って、絹江の体を抱き締めて、ベッドへ向かう。
女がそんな姿を見ている。何が大丈夫だ。バカ。
牡丹は絹江の部屋にやって来て、SNSの設定をしてくれる。途中経過を見せてもらうが、凄い。もう凄いとしか言えない。私の文章が世界に発信される。その期待で胸を膨らます。
牡丹は今度、高校生限定の撮影会に参加すると言う。絹江は急に真剣な表情になり、辞めておけと言う。自身の経験も話して。
でも、牡丹の反応は意外だった。でも、やってみないと。だって、私は愛する彼氏と東京に一緒に行って活躍するんだから。その足掛かりが欲しい。
そして、絹江に母に私をモデルにしてくれるように頼んでと願い出る。絹江はダメモトで頼んでみると返事をする。
牡丹は御礼に指輪をくれた。こんな大切な指輪はもらえない。でも、それは牡丹の数多くの男の中の一人からもらったもの。絹江も彼氏がいないんだったら、この指輪と一緒にその男もあげる。結局、あいつらは可愛い子を自分の傍に置いておきたいだけ。絹江は可愛いから、男も納得すると。そして、その指輪を指にはめられる。
麻木はその指輪を見て、怒り出す。あれだけずっと大事にしてあげたのにと。
本当の自分はいったいどこにいるんだろう。
崩れてしまいそうな自分を守っているのか、そんな役に立っていないのか、たくさんの鎧を着込んで。その鎧をどれだけ脱げば、本当の自分にたどり着けるのか。
夜中、女が部屋にやって来る。パソコンをちょっといじっている。
パソコンのアラーム音が何回も鳴り響く。
絹江のサイトを見て、いいねを付けた人たちのお知らせ音。
こんなに自分のことを見てくれる人がいるんだ。
女に促され、絹江は牡丹に電話。
家の中でその着信音が鳴っている。
母の部屋。牡丹は母のモデルとして、撮影されているようだ。かつての私のように。
その扉を開ける勇気は無い。
麻木が部屋にやって来て、謝ってくる。絹江を抱きしてめてくるが、麻木からは違う女の匂いがする。
絹江は一人だけになった。
女は封筒を持っている。絹江の書いた感想記事の良さそうなものを集めたらしい。送り先は母が以前にお世話になっていた出版社。
これを渡せば、コネでもしかしたらライターになれるかも。いや、まずなれるだろう。
そう言ってくる女を絹江は拒絶する。封筒も破り捨てる。
こういうことは自分で決めること。いつ、どうやってするかも。私は一人で頑張ってみせる。
女は絹江との別れが寂しいような表情を浮かべ、ベッドの下を探せと言って消える。
ベッドの下には怪獣のおもちゃが出てきた。、ウルトラマン好きだった父に買ってもらったもの。父は怪獣にはなってはダメ。ヒーローになりなさいと言っていた。
あれから、絹江は一人で感想記事を書き続けている。
時間を無駄にしているのかもしれない。でも、私がしたいこと、しなくてはいけないことは、今、これだと思っているから。
母はいつものようにそんな絹江に非難めいた言葉を投げかける。
そして、東京に一緒に来ないかと誘う。牡丹も一緒だから気は楽なのではないかと。
絹江は拒絶はしない。もしかしたら、そんな時が来るのかもしれない。でも、今はまだ一人で頑張ってみたいし、頑張ってみるつもりだ。
力強くそう答える絹江に母は、自分のかつて出来なかったことなのだろうか、客観的な視点を忘れるなみたいな言葉をちょっと嫌味っぽく、でも、今、自分が絹江に出来る全てのように優しく残して立ち去る。
絹江は出かける。どこかの出版社を当たってみようか。出来ることは何でもしてみないと始まらない。
音楽は。プレイヤーも壊れてしまったみたい。でも、調度いいのかも。もう音楽は今の私にはいらなくなったから。また、聞くかもしれないけど。ありがとうを込めて、自分と一緒にいてくれた音楽にいってきますの言葉を掛ける。
絹江がいなくなった部屋に女がいる。
怪獣は父の好きだったウルトラマンへと変わっている。
絹江は音楽に、麻木や母は絹江に依存していたみたいな感じかな。
あくまで依存だから、そこには愛が無いように感じる。愛じゃないから対象が容易に変わる。
そんな姿が映し出されているようで、何か歪んだ人の感情が見え隠れして嫌だなあと感じながら見ていたが、最後に一転した。
確かに依存してはいたのだと思う。
でも、最後にその中にもやっぱり愛があることが浮き上がる。
女子高生とか若い子は、やりたいことが見えなくても、まずやってみればいいとかなるかもしれないけど、母のように大人になったら、その悔いを残す経験から、同じ辛い、悲しい思いをすることになるのではと心配してしまうのかもしれません。それは仕事とかだけでなく、恋愛なんかも含めて。
好きなことを仕事にしたら、それを純粋に楽しめず、例えば評価されないといけないようなことと向き合わないといけなくなり、嫌になってしまうことがある。それだったら、言われたことだけしていた方がいい。
男を愛し、その人のことをいつも懸命に想っていたら、裏切られた時にどれほど辛い想いをするか。それだったら、ただ愛を受け取っているだけの方がいい。
何かそんな考えが母や麻木から見えてきます。
絹江がきっと不幸になってしまう。自分の経験を基にして、母や麻木は彼女に道を作ってあげようとした。でも、それは自分の時には無かった逃げ道を作ってあげているだけで、絹江にとっては前へ進むための道ではない。それに、人はそんなに強くないから、それがいつの間にか絹江ではなく、自分自身を救う道にしかなっていないことにはなかなか気付けないようだ。
結局、自分のことは自分で決めなくてはいけないのだから。
母や麻木がどうだったであろうと、絹江には絹江の進む道があり、同じ道を踏ませる必要など何も無いし、逃げ道も自分で作らせればいい。それでも、やっぱり放っておけない。それが依存みたいな形になってしまうなら、それは全否定されるべきものでは無いようにも思います。それも大切な人からもらう想いなのだと受け止めて、かつ自分の道を切り開いて進めばいい。作品中の絹江は最後にそんな状態にたどり着いているように感じます。
その道は孤独で辛いかもしれないが、ヒーローになるなら、仕方ないですね。
自分のサイトにいいねがたくさんついて、自分にはたくさん味方がいるとか、牡丹のように今の自分の可愛さと体に食いついてくる人たちを見て、自分は輝いているのだと考えてしまう。
それはきっとヒーローでは無いのでしょう。
父が言うウルトラマンは、きっと怪獣を倒してキャーキャー言われるヒーローになれではないでしょう。それだったら、怪獣同士を戦わせて、一番強い怪獣はヒーローになれてしまいますから。その怪獣を倒すことで生み出される素晴らしき世界を自分の手で創れるような力を持ちなさいと言っているような気がします。
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