火曜日のゲキジョウ【daisen minori×カヨコの大発明】160126
2016年01月26日 インディペンデントシアター1st (30分+30分、休憩10分)
いつも個々の感想は下記しているので、この部分では、共通テーマみたいなものを、無理やりにでも探り出して書くようにしているのですが・・・
こうまで真逆な作品形態だと厳しいですね。
でも、キーワード的な言葉はあって。
夢見て生きることは難しい。でも、それはきっとその夢に依存してしまうからで、そこに向かった道を進む人生を歩むのは何も間違っちゃいないようなことを考えさせられます。
daisen minoriは奥深くに閉じ込めた暗闇に光を灯すように、カヨコの大発明は眩し過ぎる輝く世界の中にどこか潜んでいるように、それを浮き上がらせているように感じます。
・鍵穴のラヴレター : daisen minori
大晦日。
紅白歌合戦では美輪明宏がヨイトマケの唄 を暗闇で歌い上げるという斬新な演出で勝負をかけてきている
女はブログに一年の振り返りを書いているところ。今年もたくさん脚本を書いて、演出とかもした充実した一年に感謝を込めて。
電話がかかってくる。ある作品の脚本の書き直し命令。今、担当しているドラマのシナリオで手一杯なのに。
電話を切ったら、また電話がかかってくる。嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが、違う相手。その人曰く、世界は後183日で暗闇となる。その前の最後の特番のシナリオを任されることになった。
ドラマの方は好調だ。母と娘のスレ違いを描いたような話。書いている本人だけど、何ぞらしい母のキャラが好きになれないでいる。所詮は他人か。作品名どおり、仮面家族って奴なのだろうか。
でも、ドラマの関係者の中には、話が若いなんて言ってくる者も。もちろん、褒め言葉ではない。悔しいから今まで以上に頑張る。でも、なかなか筆は進まない。
少し、無理をし過ぎているかな。パソコンの光がまぶしいし、電話を取る時の受話器の距離感も掴みにくい。
医者にはかなり症状が進行していると言われた。視力低下や視野狭窄が著しいらしい。こんなに進行って早いものなのか、網膜色素変性症って奴は。
年が明けたが、まだ年賀状を書いていない。アラサー。この歳になるとやはり子供連れの写真が増えた。その中に母からの年賀状。いつになったら帰ってくるの。どうせ、帰っても、そんな仕事辞めて、結婚しなさいしか言わないくせに。
電話で母と話す。偉そうなこと言わないで欲しい。母親らしいことを何もしてくれなかったくせに。障害者の娘だって婚約破棄されたこともあった。そして、今、遺伝であなたと同じ、 網膜色素変性症を患っている。
ドラマの打ち切りが決まった。特番の話も無くなった。なんだ、世界の前に自分が闇の中に陥れられたではないか。
母に電話する。ちょっと、この前は言い過ぎたから。留守電にメッセージを入れておく。もう、帰るつもり。いつまでも夢を追ってられないものね。
ドラマのキャラが自分に語りかけてくる。ドラマはハッピーエンド。なのに、作った本人がなんでうまくいかないの。
荷物をまとめている。古い手紙が見つかった。そこにはあの頃の自分が母の言葉で書き綴られていた。劇団四季のコーラスラインに参加して感動。学歴や障害とかなんか関係ない。全ては自分自身の想いをぶつけるだけのこの道に進むことを決めた自分。それしか考えられないと、突き進むことを決めたあの時のことを。
その手紙には涙が滲んでいた。娘への心配。でも、止めても聞かない娘への信頼と激励。
そうだった。世界が闇に包まれても、私の世界はいつだって色鮮やかに輝いている。
母に電話。相変わらず、いらぬ心配ばかりしてくる。
自分の脚本でラジオドラマが決まったことを伝えると、電話口で喜び泣きの声が聞こえる。
いつだって、母は泣き虫で、心から人の成功を喜べる人だ・・・
ドラマの中で、母とスレ違い、言い合いになる娘。
そのドラマの脚本を描く、将来への不安と母への複雑な想いを抱える女。
それを演じる、恐らくはその女に自身を投影した大山果さん。
そして、ラジオドラマとして、たとえ世界が暗闇となっても、色鮮やかに描かれ、自身の真摯な情熱を傾けた作品として創り上げられた、今回拝見した作品。
こんな演劇らしい多層構造になっているのかな。
この手の作品は、多層の奥深くに、言いたくても言えない抑圧されたことを、表現物を通じて解放するようなところがあるのだろうか。
自分の苦しさ、辛さ、悲しみ、憎しみ、不安、妬みなど負の感情が吐き出されているように感じる。でも、その負の感情は多層の上層部で全て喜び、感謝、決意、信頼、信念、覚悟などといった強い感情に変換される。
これが生きる希望へと繋がるのでしょう。
作品名は心の扉を開けるような人の想いみたいなイメージでしょうか。
暗闇の世界。そこにじっとしていたら、いつまで経っても暗いまま。母からもらったラヴレター。その深い想いが女を暗闇の世界から出発させたような感覚を得ます。
母はあの頃の娘の強い姿を書き留め、本当に大丈夫かなと不安を覚えながらも、やはり凛とした強さを見せる娘の道に誇りと勇気を与えています。
母ほどの深い想いは無理にしても、今回、この作品を拝見した私たちも同じようなラヴレターを心の中に書いたように思います。
基準点5点。演劇らしい巧みな構成、脚本に+1点。舞台上には白いキャンバス。そこに映像を映して舞台上の大山さんと連動させる美輪明宏にだって負けていない斬新な演出に+1点。大山さんの凛とした素敵な声、立ち振る舞い、姿に+2点。
9点。でも、投票用紙には10点と記載しています。理由は、もう一つの作品の感想の後に記します。
・輝け!日本レコード大賞 : カヨコの大発明
毎日、満員電車に揺られ、会社では厳しい上司、先輩3人に叱られ、家に帰って発泡酒をあおる毎日を過ごす女性。
今日も、見積もりを8桁間違うというミスを犯し、会社に国家予算レベルの損失を負わすところだった。先方もカンカン。特にその見積書の裏にふざけて中途半端なドラえもんなど書いたものだからさらに。
上司、先輩3人組は長崎に飛ばすぞと脅してくる。
疲れ切った夜中。交差点。
女性は、上司、先輩そっくりな3人組に出会う。
スウィートメモリーズと名乗る。
女性は毎日変わらない日々を過ごす。ループする人生の記憶と記録。それによってエラーが生じ、それを救いにきたらしい。
そのスイメモの手により、女性は自分の記憶と記録を思いのままに変えられていく。
徹子の部屋に出て、会社の愚痴を喋ったり、盗んだバイクで走り出したり。
やがて、それは単なる薬物依存への道へと導かれていることに気付く。
それの何が悪いのか。多くの歌手だってそれに依存して音楽を創り上げているじゃないか。
そんなスイメモの誘惑に抗い、女性は自分を取り戻す。いつまでも夢見る少女じゃいられない。
その女性の姿を見て、スイメモは正体を明かす。やっぱり上司、先輩の3人組。
これは試験だった。独創的な発想を持つ女性。それを活かすために企画部への異動を考えていてくれたのだ。
試験は合格。
女性は企画部へ。長崎へと飛ばされる。こっちは本当だったんだ。長崎はきっと雨だろう・・・
何これ。
実際はたくさんの歌を劇中に盛り込み、それを生で歌いながらのライブのような感覚での芝居。
ギター、パーカッション、バイオリンと生演奏も。
素敵な演奏に、実力派役者さん方の見事な演技と歌唱。
みんな、その実力、魅力をどこに向けとんねんってツッコミたくなるような作品だったでしょうか。
基準点5点。斬新な企画に+2点。演劇としても成立し、面白さも相乗効果が出ているぐらいの凄さだったので+1点。役者さん方のいつもとは違う魅力に+1点。
9点。でも、こちらも投票用紙には10点と記載しています。
daisen minoriの終演時、大山さんは冗談めかして、次はこんなに暗くない楽しいカヨコの大発明の作品だと紹介して舞台を去られる。カヨコの大発明も、同じく終演時に、有元はるかさんが次はお楽しみのdaisen minoriの作品だと紹介。
こんな真逆の作品形態だからこその気配りでしょうか。その自分たちで終わりじゃなく、次への繋がりを考えるお二方がとても微笑ましかったので、共に追加で+1点。
ということで、両作品共に満点評価となりました。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント