わたしがわたしであるために【演劇集団あしたかぜ】151213
2015年12月13日 Free Style Studio 金毘羅 (65分)
幸せの形を問うような話か。
これまでにもこの劇団の作品で感じる、自分自身と作品を通じて対話する形の作品。
純粋に素朴に、想いを連ねていく。
それは芯があり揺るぎない力強さを感じさせもするし、脆く壊れてしまいそうな哀しさを伴う弱さを感じさせたり。
夢と仕事とお金。一度きりの人生。
自分自身のことを削りながら、その想いを作品として昇華させているよう。
緊張した面持ちで女性を待つ男。
やって来た女性を見て、男は少し表情をこわばらせる。
自分は初めてだけど、女性は慣れている様子。12000円という値段を伝えて、タイマーをセットして、ベッドに横たわり一服。
とりあえず、風呂に湯を張る。それまでは、コーヒーでも飲んでおしゃべり。
女性はブラックを男に手渡す。いや、ミルク入りで。その男の言葉に女性は怪訝な表情を見せる。前はブラックだったのに。
女性もどうやら、自分のことを覚えてくれていたみたい。
あれは、まだ男がミュージシャン目指して、スタジオを借りる金も無く、路上で練習していた頃。
路上ライブと間違ったのだろうか。練習していた希望の光という歌を聞いて、素敵だと近づいてくる女性。
大袈裟だけど、生きる喜び、希望をもらえたと。
ちっぽけな自分。でも、音楽が大好き。音楽をしている時、自分が自分でいられる。自分は生きているんだと。だから、その音楽を通じて、聞く人が生きるということに喜びを抱いてくれたら。そんな風にいつも自分の音楽表現を考えている男にとっては最高の褒め言葉。
女性に夢を語る。プロになって世界へ。夢はでっかく。なりたいじゃなくて、なる。言葉にすると叶うから。女性はどこまでも前向きで、明るい。
ファン第一号。出会いにコーヒーで乾杯。
お金が無いからおごってもらう。自分はブラック、女性はカフェオレ。
男はタバコに火をつける。辞めた方ががいいよ。声に影響するから。
女性は女優の卵。そのために、色々と自分を律して頑張っているみたい。
同じ表現者同士。今度、会う時には、何か同じ仕事で出会えたら。
女性の携帯が鳴る。女性は不安そうな表情を浮かべる。オーディションがあるから。そう言って、笑顔で駆けて行った。
数時間後、まだ、路上にいた男は、お金を握りしめ、不安をかき消すようにタバコに火をつける女性と目が合い、女性は逃げるように立ち去っていった。
夢やら希望。色々あるけど、お金って大事。生きるためにお金は。でも、・・・
月が綺麗な夜だった。
ベッドに並んで座り、男は女性と会話。
今は、教師をしている。安定だから。
音楽は辞めた。でも、今でも大好き。今でも、立ち向かっているつもり。あの頃があったから、今の自分がいると思っているから。
女性は、それは逃げだと言う。
今日だって、夢がなくなった日常に嫌気がさして、むしゃくしゃして女でも買おうと思ったはずだと。
続けていないと好きでいたらダメなのだろうか。
女性は、今でも女優を続けている。そのための仕事だ。
男はそれは執着し過ぎだと言う。
それでも、女性は表現者としていないと、自分じゃなくなってしまうからと。
今でも女優。この先も。そのために生きてきたから。そして、これからも、ずっと。
男はかわいそうにという言葉しか出てこない。
時間がきた。
女性は部屋を出て行く。あの日、本当に生きる喜びをもらえたんだともう一度、伝えて。
男は路上でギターを弾く男と出会う。
そう、今日はそんな路上ライブをしている人を見かけて、何か心がざわついて、あんなことをしたのだった。
じっと、ギターを弾く男を見詰める。
手にしていた受け取ってもらえなかったお金、12000円。
男はそれをそっとギターケースの中に入れる・・・
逃げてはいないんだろうな。まだ、見詰めていたから。男は昔の自分を。
夢と仕事とお金。
この作品では夢ではないのかな。今、していること。むしろ現実。現実を諦めないみたいな感じか。諦めないでも無いか。続けること。辞めないこと。
お金があればと言っていた頃が夢を追いかけていて、あるようになって安定した時は追いかけなくなって仕事をしている。
同時成立が無い皮肉。
12000円渡す。これでギター弾きは何も変わらないでしょう。額の問題ではなく。
夢を辞めるのも、追い続けるのも、お金は第一要因では少なくとも無いように思います。
女性が引き出しを増やすための経験と言っているのと同じように、辞めるのも一つの経験であっていいように思います。
これが男の言っているあの頃があったからに繋がっているのでしょう。
がむしゃらに頑張ったという経験、多視点で物事を見詰め、一つの結論を出した実績。
これは否定されるものでは無く、大切な人生の一ページだと思います。
演じる方々のご自分の今と同調させているところもあるのでしょう。
世の中は夢を追う人に優しく出来ていないのでしょうね。
夢ではなく、今を保つことなのかもしれませんが。
でも、だからこそ、客である私は作品を優しく観たいなと思っています。
だって、生きる喜び。大袈裟でも何でもない。
私はここ数年、表現する人を観続けて、それを得ていると思っていますから。
まあ、自分で決めることですからね。
辞めても続けても。
辞めるなら、何をするのか。続けるなら、どうやって続けるのか。
誰も何も否定はしないし、出来ないし。
どうあっても、出会った表現者にかける言葉はいつも、ありがとうだけだと思っています。
表現することが好きだから続けている。その表現への大きな愛は私たちをとても力強く包み込んでくれているのだと思うのです。
いい作品はその想いが真摯に伝わってきます。
その温もりが、人を幸せにするのだと思います。そして、人を幸せにする者が、幸せでないはずが無いと思いますから。
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