バブルス・マーメイド【劇団赤鬼】151218
2015年12月18日 ABCホール (125分)
初日ということもあってか、少々、客も舞台も固めな印象かな。そのためか、ちょっと脱線するギャク・コメディー部分の大半は微妙な空気。
それでも、肝心の本筋は、やはりしっかりと魅せられます。
ある一言を書くと、一発ネタバレなので、ここでは記さないようにしますが、名作をベースに綺麗に美しく仕上げた作品だと思います。
私はハッピーエンドが基本的に好きですが、それよりも好きなのは、これからの続きに光が感じられる話です。
個人的な意見ですが、悲劇なんか面白く観れる訳が無く、それでもそんな悲劇が素晴らしいと思われるのは、そこから希望が見出せるからだと思うのです。
例えば、震災だって、それだけ描けば悲劇以外のなにものでもないですが、そこから、新しい命や生きる力、人にあった想いの優しさをたくさん見い出せれば、悲しい別れがそこにあったとしても、その最後には希望へと繋がるように思います。
そういう描き方が本当の厳しい現実を表現しているのだと思います。
この作品は、まさにそれが描かれているように感じます。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
地質学者の先生から久しぶりの電話があり、とある島の岬の街に向かう、民俗学者のキンイチ。
かねてから調べていた銀色のユリの手がかりとなりそうな歌が、この島で子守唄のように歌われているのだとか。
幼き頃にこの銀色のユリの話を聞いて以来、この花を見ると幸せが訪れるような気がしている。
向かう船で、調子の良さそうな船長、自称スケベのハイザキに、同類のスケベ呼ばわりされる。
その島は、訳ありの者が住み着いた所であり、外からやって来る者は、歓楽街で楽しむことを目的にしている者しかいないらしい。
キンイチは、歓楽街目当てで無いことを伝えると、島の入管で厳しく取り締まられる。島のことを詮索するなということみたいだ。でも、ハイザキが、島の権力者である見張と親しいらしく、一応許してもらうことになる。
キンイチは先生と出会う。
先生のこれまでの研究の成果を聞くと、この島には地層学的に歴史が無いらしい。つまりは、地図にも載っていないこの島は、人工的に造られた可能性が高い。地盤は非常に緩く、人が住むのは危険だと推測される。でも、キンイチに伝えた歌は古くからある。歴史無き島にどうして、古い歌が普通に伝わっているのか。
この矛盾する謎を紐解けば、この島の不思議が解明できると先生は考えている。そのためにキンイチに協力を求めたという訳だ。
キンイチは明日から聞き込みをするつもり。先生と別れる。
この日は、怪しまれたキンイチを泊めてくれるような宿は無いみたいなので、神父に教会に泊まらせてもらうようお願いする。ここ数日、ずっと目眩がするらしく、フラフラしているが、快諾してくれる。
そして、島で一番歳をとったばあやを教えてもらう。キャバレーのママをしているのだとか。
その夜、先生は何者かに襲われ、これまで調べた資料を盗まれてしまう。
夜の店、キャバレーマーメイド。
ばあやと呼ばれるママ、しっかりとテキパキ仕事をこなす有能なチーママ、アメ。
タンバリンと喋りで勝負するウタ、まだ未熟で幼い雰囲気のうぶ、そして会話が苦手なので客につくことは無いが、歌声が美しい少女、キキ。
オーナーが権力者の見張なので、繁盛しているみたい。
キキは、幼き頃に両親を亡くし、ばあやに引き取られて、この島にやって来た。
他の者は、皆、訳があるようだ。ウタは、本土で大きな犯罪を犯し、娘を残して、この島に逃げてきている。アメは惚れた男に付いてきたらしい。
店の規律は厳しい。店以外で客と会話することすら許されない。万一、客と一緒にこの島を抜け出されたら、島全体の訳あり者たちが生きていく場所を無くしてしまうから。
そのため、見張はこれまでも手段を選ばず、この規律を守り抜かせてきている。
キキは、シェイクスピアが大好き。将来は女優になりたいと思っている。
でも、それが無理な願いだということも理解している。この島から自分は出ることは無い。ましてや、たった一人の家族であるばあやを置いてなど。
このマーメイドのショーで、センターで踊り歌う。それで十分。自分はそうして生きていく人間。きっと誰にも恋をされることもなく、誰かに恋をすることもなく。接吻を経験することもなく。
キキは店が終わった後、部屋に戻り、そんなことを考えながら、時折、涙する。
そんな姿を、いつもキキから餌をもらい、セップンと名付けられたネズミが見ている。明るく楽天的なおじさんネズミ。元気出していこうぜ。もちろん、そんな声はチューチューとしかキキには届かない。
セップンは、それよりももっと大事なことがある。若い嫁さんをもらった。その嫁さんが妊娠中。島のネズミたちは、先日、皆、島を出ていった。嫁さんの体調が悪いので、セップン夫婦だけこの島に残っている。だから、しっかりと嫁さんを守ってあげないといけないのだ。
キンイチは翌日、キャバレーに。
先生は資料を盗まれたので、これまでのことを一度整理するため本土に戻ってしまったので一人ぼっち。
ばあやに会って、唄のことを聞くが、詳しくは教えてもらえない。島の規律を守れ、深く関わるな、特に店の子に惚れるなと念を押される。
その夜、キンイチは岬で海を眺める。そこに綺麗な歌声で、あの唄を歌う少女。キキ。
話しかけるが、逃げられる。店以外で客と喋ってはいけないと厳しく言われているからだろう。客では無いのに。この日は岬でフテ寝。
そんな上手く事が進まないキンイチにさらに災難が降りかかる。
朝、起きたら手元にパンティーがあった。最近、島ではパンティー泥棒が騒がれている。犯人はあのよそ者だ。キンイチは島の人たちから追われる羽目に。
結局、犯人はカラスで、山にカラスが溜め込んだ大量のパンティーがあったのだとか。
キンイチの調査は続く。
アメに誘われ、マーメイドに行く。あの岬で出会った少女に話を聞いてみたいから。
でも、それどころではなくなってしまった。
ウタが島を抜け出そうとしていたらしい。船の中でハイザキに見つかり、連れ戻されてきた。すぐに見張が呼ばれる。
娘が事故にあい、どうしても本土に戻りたかったらしい。
でも、規律は規律。場合によっては海に浮かぶ羽目になることもあるらしいが、これまでの頑張りもあるので、お咎めで許してはもらえそう。
でも、キンイチは、皆がこの島に囚われる意味合いが理解できない。
キンイチは夜の岬へ。
キキがいた。慎重に声を掛ける。
歌っている唄のこと。
とても悲しそうに歌っている。確かに寂しさや悲しみが滲む歌詞。でも、あの唄はきっと希望の唄なのだと伝える。
先生は、島を出る時に、あの唄の続き、恐らくは2番の歌詞の資料を渡してくれた。
キンイチが知っていて、少女が歌っているのは暗闇の海辺を描いた1番。2番は少し、光が差し込んでいる。恐らくはこれは月の唄。新月から三日月。多分、3番で満月が歌われているはず。光り輝くこれからを歌っているのだろう。
この海辺には白いユリが咲いている。
自分が探し求めている銀のユリと、満月の夜にここで出会えるような気がしている。
キンイチはキキと一緒にその花を見ようと約束する。
指切り。小指が触れる。
少女は部屋に戻り、これまでに無かった自分の中に湧いてくる感情に戸惑いながらも大きな喜びを得ている。それが恋であることは、経験の無い少女にはまだ分からない。
神父の持つ資料の中から3番の歌詞が見つかる。
しかし、そこには黒いユリが描かれている。クロユリは山の植物。海辺に咲くことなどあるのだろうか。
キンイチは本土の先生に連絡を取り、調査をしてもらう。
その夜も岬へ。
キキがやって来る。店の人に見つかり、部屋に閉じ込められたが、逃げ出して来たらしい。
キンイチに会うため。キンイチの中にもキキへの想いが湧いてきているようだが、それを言葉には出来なかった。
ふと見るとクロユリ。本当に海辺でも咲くことがあるみたいだ。
そんな中、見張がやって来る。
二人は引き離され、キキは折檻を受ける。
キンイチは、この島を出て、二度と戻って来ないことを約束して、キキへの処罰を許してもらう。
明日の朝一番で島を強制退去。
キンイチは閉じ込められた部屋で、ばあやと話をする。
彼女にどうして自由をあげないのか。そんな問いに、ばあやは真実を語る。キキとは血が繋がっていない。キキの両親があの子を売った。そんな真実を知らせたくない。
このまま、島で一生を終える。飯だって不自由しない。それがあの子の幸せだと。
キンイチはそれは都合がいい逃げだと。彼女の本当の幸せは、自分のしたいことをしてこそ掴めるもの。そのための悲しみや苦しみから逃げて、ただ生きているだけの島に彼女の幸せは無い。
真実を伝えないことは確かにずるい。でも、あなただってずるいじゃないか。
ばあやはキンイチに言う。
どうして、キキに愛していると伝えなかったのか。
翌日、キンイチは本土に戻り、先生を訪ねる。
そして、島の重大な事実を知る。
あの島は、やはり人工的に埋め立てられて出来た島。
山の土砂を使っていたら、クロユリが咲くこともあるかもしれない。例えば、地殻変動による影響などを受けて。
島から急にいなくなったネズミ。
カラスのおかしな行動。
神父の眩暈。
全ては地震が起こることに繋がっている。
あの島は恐らくは津波の防波堤として造られている。そして、あの唄はそんな危険を警鐘する守りの唄だったようだ。
キンイチは、ハイザキに頼んで、もう一度、島に戻る。
地震が起こることを皆に伝える。そして、キキに伝える。愛していることを。
その頃、島では、ばあやが神父にある依頼をしている。神父は裏の仕事をしているらしい。
キキが岬から身を投げる。
身を投げた先の海に船を待機。そのまま本土へ。
死んだことになるキキは、本土でキンイチと新しい人生を歩む。
ばあやが愛するキキに出来ること。
キキは本土にたどり着き、先生の下を訪ねて、キンイチのことを聞く。
キンイチが島に到着。
島民に地震のことを伝える。
誰も信じない中、マーメイドのアメは皆に避難勧告をする。これまでずっと裏の世界で生きてきた女性。人が嘘をついているかどうかぐらいはすぐに見抜ける。
キンイチはキキを探す。
しかし、彼女が身を投げたということを聞いてしまう。
絶望の中、一人、島に残ろうとするキンイチ。
ネズミのセップンたちは知っている。彼女は生きている。お前に会うために。だから、お前が死んだらダメなんだ。この非常事態のさなか、妻は八子を産んだ。新しい命と一緒に、早く船に乗れ。いくら叫んでも、その声はチューチューとしかキンイチには届かない。
キンイチはユリを手にする。
満月の夜。その月の明かりに照らされて、そのユリは銀色に輝く。
キキと一緒に見る約束も今では叶わない。
キンイチはそのユリをセップンに渡す。
何も無くなってしまった島。
キキは片手にユリを携えて、あの海辺を歩く。
ナイフを取り出し、自分の胸にあてる。
島の皆が見守る。ばあやは優しく彼女の頭を抱き抱える。
彼女はユリを見詰め、哀しみの笑顔を浮かべ、ナイフを懐に戻す・・・
上記したように、ロミオとジュリエットのような悲しい別れですが、そこに希望の欠片を残しているところが、この作品の美しさだと思います。
様々な悲しみや苦しみの中で生きていかなくてはいけない現実。それに囚われて、結ばれることの無かった一つの恋。生死をもって分かつことになった人への想い。
そんな悲しみの中に、ネズミが産んだたくさんの新しい命、愛するキンイチからの想い、そして多くの周囲の人からの想いを胸に抱いて生きていこうとするキキの力強さ。
悲しみは、これからの喜びへと必ず繋がっていくだろう。
この島の終わりは、ここに住んでいた人たちの新しい人生の始まりを告げるだろう。
そんな、悲しみをそれ以上の人の優しさで包み込んで、希望へと変えてしまう力が浮き上がってくるようです。
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