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2015年12月21日 (月)

しずかなごはん【劇団ジャブジャブサーキット】151220

2015年12月20日 ウィングフィールド (120分)

面白かったと書くのは、ちょっとテーマが深刻な病気だけに、気が引けるところがあるが、やはり面白かった。
実際に取材も綿密に行っているようで、食べ吐きという摂食障害に至る経緯や、その治療の実状が非常に分かりやすくまとめられている。
ダイエットや失恋、家庭環境、仕事環境など、要因は絡み合っており、それに苦しむ患者の不安、それを一つ一つ丁寧に慎重に紐解いていこうとする医師たちの懸命な姿が浮き上がる。
同時に、作品として、ネットの流通により、情報が売り物になる変化する社会・時代を背景に、ある事件の真相究明という謎解きを交えて、話が肉付けされている。
そして、その犯人探しという行為が、こんな摂食障害など依存症に苦しむ患者たちにとっては無意味なことであり、決してミステリーのような虚構の世界ではなく厳しい現実なのだということを突き付けるようなラストになっているようだった。

<2015.12.23追記:公演日程を把握していませんでした。来年、5月、6月に津と大垣で公演があるみたいです。以下、かなりネタバレします。白字にはしていませんので、重々ご注意願います>

精神科クリニック。
数々の依存症などの障害に苦しむ患者と接している。
ちょっとおちゃらけて、いい加減そうな空気を醸しているが、それが治療を受ける患者にも、治療をするスタッフにもより適切な環境を作り出しているような聡明な院長。
真面目で真摯に患者に接する分室長、桜井。都合が悪いことや嘘をつくと丁寧語になってしまうくらいの分かりやすい人のよさ。精神科における患者との接し方は難しい。かつて、担当していた患者に、治療の中で、医師と患者の関係以上の思いを抱かせてしまい、結局、自殺に追い込んでしまう経験を持っている。それだけに患者には丁寧に、慎重に、そして何よりも生身の患者をしっかりと見ることに努めている。
そんな桜井を先輩医師として尊敬し、男としても想いを寄せているケースワーカーの角田。来年には資格試験を受験するつもり。桜井をはじめ、医師たちの補助、病院内の雑用をテキパキとこなし、皆から頼られている。少し、お天気屋さんなところがあるみたいだが。

桜井は今、摂食障害を患うなつみという女子高生の治療に携わっている。
治療の一環という訳だけでは無いようだが、演劇の脚本を共同執筆して、賞を目指している。なつみの描く脚本は、伏線などが本人にしか分かりにくく、所々、支離滅裂で何らかの心理状況を表現しているようなところがあるみたいだが、桜井は気にせずに自由にさせている。心理解析ばかりに頼ると生身のなつみを見る目を失ってしまうから。
なつみもそんな桜井を信頼してくれて、様々なことを話してくれている。
ある日、なつみの友人がやって来る。彼女の存在はなつみ自身からも一番の親友だと聞いている。
角田が話を聞くと、自分がなつみの彼氏だった大学生を略奪したのが、病気のきっかけなのだとか。だから、自分はなつみに恨まれている。自分はその大学生とは別れたが、今、また、なつみがその大学生と一緒にいるらしい。
桜井はなつみを担当している。だから、なつみの言葉、彼女が描く脚本をまず第一の情報としたい。だから、なつみの友人の件は角田に任せ、互いに情報を交換することにする。
なつみの脚本は、宇宙人が出てきたりとさらに暴走気味だ。でも、なつみの友人の話も角田から情報として聞いた桜井は、この脚本が友人への許容を示唆していることに気付く。
なつみの友人が血相を変えて病院にやって来る。正確には病院前で挙動不審だったので院長が連れて来たらしい。
なつみとの面会を求めてくる。
桜井はそれを許可する。
なつみは友人の方は決して向かず、一切喋らない。
ただ、友人が話す。
彼氏を奪ったことへの謝罪。そして、その大学生を今、刺してしまったことを。
大学生の部屋でなつみの隠し撮りを見つけ、咄嗟に刺したらしい。
自首する前にどうしてもなつみと会いたかったから。
何も喋らないなつみの代わりに、桜井は彼女が今、描いている脚本のことを伝える。
友人は院長に連れられて警察に向かう。
なつみは、自分が大学生を殺すつもりだったのにとだけ友人に伝え、またそっぽを向く。
誰もいなくなり、桜井と二人きりになったなつみは、食べてもいいかと桜井に聞き、桜井はそれを許可する。
食べながら、涙を流すなつみ。
止めることだけが治療では無いのだろう。きっと、彼女は今、友人の想いを噛みしめている。それは、きっと、彼女自身が生きていく大切な栄養になる。摂食障害になるまで、普通に食事をして、それを体の糧にしていたように。

部外者出入り厳禁の病院に男が現れる。
恵美子という摂食障害の患者の弟なのだとか。
久しぶりの再会。変わり果てた姉の姿にショックを受けて混乱する。
院長が落ち着かせ、彼に恵美子のことをしっかりと説明する。
その日から、弟は姉の部屋に泊まり込むようになり、桜井や角田とも仲良くなる。
フリースペースで、何やら変なゲームをしたり、病院内に亡霊が出るとの患者の中で出回る噂話を教えたり。今は、このフリースペースで潮騒のように聞こえる米をとぐ音が聞こえてくるのだとか。
ある日、ルポライターが恵美子の取材に訪れる。
恵美子の摂食障害は今、非常に快方に向かっている。大事な時期。不用意な一言が彼女をまた悪くさせてしまう可能性もある。
角田は大反対のようだが、恵美子自身も大丈夫ということで、院長が許可をしたみたいだ。一応、喋らないという約束で院長と弟も同席。
恵美子が話し出す。恋愛には疎い方だったが、彼氏が出来た。その彼氏が友人と浮気。ポッチャリは嫌だとフラれる。その時から食べ吐きを繰り返すように。
ルポライターは、摂食障害が失恋だけが理由なのかと問い詰めだす。恵美子と弟は苗字が違う。幼い頃に両親が離婚して、恵美子は父方についた経験があるから。
そんな家庭環境を知っていたルポライターは、自分の友人にもそんな事例があって摂食障害になっていることを語る。恵美子は確かにエディプスコンプレックスが根本にあることを認める。
そこで、取材を院長が強制終了。恵美子は自分の辛い過去を暴かれはしたが、今は冷静に自分を見詰められるようになっているのか落ち着いている。まだ、取材を続けることは構わないといった感じ。
止めたのはルポライターの方の様子に異常が感じられたから。
実はルポライター自身が摂食障害に苦しんでいた。院長は彼女を入院させる。
不安な表情を浮かべるルポライターに、長期潜入取材ぐらいの軽い気持ちでと声をかけ、安心させる。
恐らくは仕事のプレッシャーから発している摂食障害。ここで恵美子と会話することは互いにとってもいいのかもしれない。

日々、患者の治療で忙しいのに、何やら変なものを売り込む業者の男。
調子のいい巧妙な喋り、飄々とした態度で、怪しさプンプンだが、悪い男では無さそう。
桜井と角田が話を聞く。
お墓の話。
誰かが死ぬ。その人がネットで立ちあげていたブログはどうなるか。放置されてサーバ契約が切れてそのまま消滅ということもある。
でも、その人が死んだ後に多数のコメントが寄せられ、生前よりも盛り上がる時がある。そのコメントへの書き込みはよりリアリティーを生み出すくらいに。
そんな個人Webの死をビジネスにしようとしているらしい。要は死後、ブログを管理し、来たるべき時に弔いをして閉鎖をする仕事。
ただ、本題はこれから。
上記した事例が、この病院の患者で摂食障害に苦しんでいた仁科というモデルのものらしい。
彼女は、先日、飛び降り自殺をした。
死の3時間前に書き込みがある。文字化けで全く分からない。
3日前にはしずかなごはんという題名で詩が書かれている。
文字化けは、もしかしたら摂食障害に苦しむ者たちの間での言葉のやり取りなのではないか。
そして、しずかなごはんという言葉と書かれた詩には、ダイイングメッセージが残されているのでは。
色々と解析する中で、ひょんなことから、謎が明かされる。
それは、彼女が所属していた芸能事務所の社長たちの名前。
彼女は、自殺では無く、事務所の都合により口封じで殺されたみたいだ。彼女が摂食障害を患うようになったのも、こんな事務所の上層部の連中に色々なことを押し付けられたからだったのだろう。
警察に連絡し、捜査が開始される。

満月の夜。
病院の屋上で観月会が開かれ、二次会はフリースペースで。
恵美子は退院が決まった。弟と一緒に暮らすらしい。
なつみの友人は、傷害で済みそう。どうやら、あの芸能事務所とも関わりがあったらしく、大掛かりな摘発がなされ、情状酌量も大きいだろう。
院長が挨拶をする。
依存症。時代が進み、色々な依存症に苦しむ人が多くなった。
社会が悪い。教育が悪い。でも、そんな犯人捜しなどやめましょう。
そんなものは、何かどこかのモンスターのせいだとしてしまえばいい。それよりも今を自分として生きることを考えればいい。
続いて、桜井も挨拶。苦手らしく、ずっと避けていたようだが、追い込まれてしまった。
口下手な彼は、自分の辛い経験を話す。死んでしまった患者のこと。生かしたという思いを得たことは無い。ただ、死なせてしまったという思いだけは残っている。
だから、生きよう。とにかく、生きよう。
院長とは真逆の、彼の下手くそで不器用な話。でも、その真摯で優しさに溢れる想いは言葉として皆に伝わる。
院長の言うとおりかも。私たちが想いを通じ合わせることが出来る間は、社会も教育も政治も関係ないのかもしれない。それよりも、そんな想い合いを、人間の弱さを突いて邪魔してくる悪い奴。確かにモンスターだろう。

数日後、業者の男が訪ねてくる。
仁科のブログが閉鎖されてしまったのだとか。せっかく、遺族とも相談して、初仕事の予定だったのに。
聞けば、どうやら観月会の日。
あの日、皆で彼女に黙とうをささげた。
犯人も捕まった。
だからなのだろうか。
電話が鳴る。摂食障害のホットライン。
桜井が電話を取り、じっくり丁寧に、優しく言葉を語りかけている・・・

上記あらすじはまとめて書いてしまったが、なつみ、恵美子とルポライター、仁科と大きく3つの話が並行しながら、進められる。
なつみの話では、友人の想いに気付かせ、一人じゃなく、皆にいつでも頼れるし、自分もまたそんな頼られるべき一人なんだと伝えているような気がする。若いこともあってか、心の弱さをすぐに日常の環境に潜む悪に突つかれてしまうようだ。愛や恋という男女仲が絡めば、思春期だとどうしようもないところもあるような気がする。そんな悪に飲み込まれない強さもいるだろう。でも、人って弱いから。それを否定すること無く、受け入れて、大切に想える人と一緒に力を貸し借りしながら乗り切って生きていく。そんな存在に気付かせると同時に、自分がその頼れる人の一人だと思ってもらえるようにする医師の姿が見える。
恵美子とルポライターの話は、ドキュメンタリー的要素を持たせて、かなりえげつない実状が描かれている。家庭環境や仕事環境。心を悩ませることはたくさん降りかかる。ある程度、大人なので、これまでの蓄積が限界を超えたりすることもあるだろう。沈黙していても仕方がない。まずは語り出してもらう。どんな言葉でもいいから。それが取材という形で、互いに良き方向に進みそうだという、一つの治療の形を見せているよう。
仁科の話は、謎解きミステリーで、摂食障害という深刻なテーマから、目を背けさせないように、心を閉ざしてしまわないように、興味を持たせる仕掛けかのよう。実際にモデルは亡霊となって、お米をとぎながら、舞台をウロウロする。最初は、気味悪く、訳も分からなかったので、怖いという感覚だったが、多分、これはユーモアとまでは言わないが、重くなる心を和らげるような役なのではないかと感じる。もちろん、色々と食いつぶされて殺されるという恐ろしい社会事情を描いているのだが。自分を殺した犯人を捜すのではなく、自分が苦しみの中にいて、頑張って生きようとしたことを見て欲しい。そんな願いがブログには託されていたのではないだろうか。これが院長の最後の言葉、犯人捜しはやめようという言葉に繋がる。
何が原因かはもちろん、考えなくてはいけないのだと思う。でも、それに注視し過ぎると、そこに苦しんでいる人の存在が見えなくなる。依存症の発症は、複雑な要因が絡み合っており、そもそも限定することは難しいのだろうし、分かったからといって、それに最適な治療方法が開発されているわけでもないだろう。それだったら、苦しんでいる個々に目を向けてあげたい。そして、各々にとって、差し伸べられる手を見つけてあげればいいのだと思う。桜井も、そんな自分は患者を見ているのだという精神の下、治療に携わっているように思える。
こうしたことは、依存症の問題だけでなく、自分たちが目を向けないといけないことに気付かされるようだ。マスコミとかに誘導されるように、事件の真相などばかりに目を囚われると、その事件で悲しみ苦しみ辛い状態にある人を置き去りにしてしまうように思う。私たちが本当にしにといけないことは、そんな人にどう寄り添って手を差し伸べられるのかだと思うから。

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コメント

作品を深く、暖かくとらえてくださって感謝します。

投稿: しょか | 2015年12月23日 (水) 01時04分

>しょかさん

コメントありがとうございます。

摂食障害という苦しみに様々な立場から向き合う中で得られる人の優しい心が見えてくるような温かい作品だったように思います。
加えて、ミステリアスで遊び心のある楽しい演出は、この劇団ならではの魅力ですね。

投稿: SAISEI | 2015年12月23日 (水) 10時34分

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