重力の光【子供鉅人】151203
2015年12月03日 近鉄アート館 (110分)
愛の不毛と救済の三部作のラスト。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/115-cbf9.html)
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/80-aab2.html)
愛の不毛を厳しい現実と共に惨劇で描き、最後に絶望。でも、そこから愛ある限り生まれる希望を見せるような作りはこれまでと同じか。
弾けた女子高生やおかしな西部劇といったこれまでの作品よりも、炭鉱のさびれた町というより不条理などうしようもない現実が感じられる背景の今回の作品は、愛にすがりつきたくなる人たち、その愛に裏切られ、見放されても、なお離そうとせず、掴もうとする人の愛への執着が強く描かれているようだった。このあたりが、私たちを天へと向かわせない、地へととどませる。つまりは生きるために働く重力は、愛の力なのかもしれないと語っているよう。
ラストはそんな愛が互いに存在し、愛し合うことに繋がっていることを知ることで、この歪んだ世界も美しく見えるような、愛によって絶望も生まれるが、同時に輝く希望も生まれることを伝えているように感じる。
<以下、あらすじを書いているので、かなりネタバレします。来年1月の東京公演まで先が長いこともあり、白字にはしていませんので、重々、ご注意願います>
かつては石炭で栄えた町が、さびれて、やがて消滅するまでの話。
でも、その話の終わりは、これからの世界の始まりでもある。
話の始まりは、タネスケ爺さんが亡くなるところから。息子のタネオが、口うるさい看護師の目を盗んで良かれと思っておかゆに混ぜたクレイジーソルトがトドメを刺すことになったみたいだ。
天に召されようとするタネスケ爺さんの下に、天使たちが集まる。自分のしたことへの罪の意識でパニクっていたのか、美しい天使たちに童貞男がテンション上がってしまったのか、タネオは一人の天使に種付けをしてしまう。
おかげで、タネスケ爺さんは、天に召されず、中途半端にこの世を漂う。タネオはどこかに姿をくらまし、町でその姿を見た者はいない。
それから、20年の月日が流れる。
そんなタネスケ爺さんの姿が見えて、話ができる8歳になった男の子、テルオ。胸の鼓動が高まると光る電球を頭につけたちょっと変わった子。言葉も不自由で、人と接するのも苦手。そんなだから、学校も行かずに、かつての石炭掘りの坑道跡で、かつてここで亡くなった人たちのお化けと友達になりながら、色々な発明品を考えているみたい。今は、ロケットを開発中。
話はテルオがタネスケ爺さんから聞いた話も交えて、この町で起こったことが語られていく。
スナック堕天使。
かつてタネオに種付けされた天使は、羽根を捨て、ここでママとして働く。
そんなママの下で懸命に働くヒツジ。テルオの姉。テルオのこともあるのだろう。26歳のヒツジは女としての幸せは鼻から諦めている。両親を早くに亡くし、自分はテルオの面倒を見ながら、このさびれた町の場末のスナックで、燃えるような熱い恋も知らずに生涯を終えるだけ。
今日の店は騒がしい。ヒカリの20歳の誕生日だから。ヒカリはママの娘。つまりはあの時、人との間に授かった天使だ。天使だけに美しく、誰にも優しい。愛がある。
こんなさびれた町でヤクザをやっているサトルさん。タネスケ爺さんと同期でまだ現役ヤクザとして若頭を張っているゴンスケさん。イタリアンマフィアが町を狙っているだとか、二人の遊びのような抗争劇にもヒカリは真剣に付き合う。
悪徳警官として名高いマキタ。サトルさんの娘、マリンさんを弄んでいるみたい。町で一つしかないラブホでよく見かける。そんなマキタにも、ヒカリは忙しくてピクニックにも行けないだろうからと弁当持参で交番でピクニック気分を味あわせてくれる。
町の人たちは皆、ヒカリのことが好き。
そして、テルオもヒカリと結婚したいと考えている。早く大人になりたい。自分が光になれば、ヒカリに追いつけるかも。ロケット開発はそんな理由みたい。ヒカリに近づく奴は、みんな敵だ。でも、そうすると、姉まで敵になってしまう。あんなことがあったから。
ヒカリの20歳の誕生日会は大盛況だった。店の売り上げも上々。
ヒカリは疲れてグッスリ寝てしまっている。ヒツジは店の片付けで遅くなるからとテルオを先にお客さんと一緒に帰らせる。店の看板もしまい、ふとママを見ると手には包丁。
明日の仕込みかと思いきや、ママはヒカリを女にするのだと言う。
天使は両性具有。あそこを切って女にしてしまうつもり。ママもそうしたのだとか。この店で売ってるハブ酒。浸かっていたのはあそこらしい。
ヒツジは、ヒカリに近づくママを撲殺。店に遅れて入ってきたマキタも勢いで殴りつけて気絶させてしまう。
目を覚ましたヒカリに、ヒツジは羽根を切って、一緒に暮らしてと願う。ママは確かにかわいそうなことをした。でも、もっとかわいそうなのは自分だ。こんなさびれた町で、あんな弟の面倒を見て。天使のような男と一緒になりたい。そんなヒツジの願いをヒカリは受け入れる。ヒツジは、マキタを部屋に監禁して、ヒカリとの同棲生活を始める。テルオはヒツジが家に帰って来ないので一人ぼっちに。
ヒツジは、ヒカリを自分の好みの男に仕立てあげて幸せな日々を過ごす。
しかし、そんな日々は長く続かない。サトルが家に乗り込んできた。それを追い払っている間に、マキタはヒカリに巧いこと言って、二人で逃げ出してしまう。
そんな中、マキタの行方が分からなくなって困っている者たちがいる。公安を名乗る3人組。フクチヤマという女性リーダーに、タンバとササヤマという部下。
マキタが重要な機密情報を握っていると、これまでも清掃員に化けたりして、マキタをマークしてきた。
もうすぐ、この町にトラックがやって来る。その積荷はクレイジーソルト。ではなく、それに偽装した爆弾。これが爆発すれば、この町どころか世界が終わる。その詳細な情報をマキタが持っているらしい。
町にタネオが帰って来ている。今ではあの口うるさい看護師と結婚しているみたいだ。そして、タネスケ爺さんを崇めるべき神として、自らが教祖となった重力の光教団を率いている。
この町には、自分の娘である天使がいる。その天使と共に、地に落ちていくような色々と辛い悩み事を昇華して、天に召されようという教えみたい。禁忌はもちろんクレイジーソルトだ。
町の人を勧誘しながら、娘である天使の情報を探している。
入信するには教祖の許しを得ないといけない。この日は、別のもっと怪しい教団の人なのではと思わすくらいにちょっと怖い4日目バンドという人たちが。もちろん、不合格で帰ってもらう。
続いてやって来たのがタンバ。潜入捜査だ。あなたの重力は。タンバはみみっちい悩みを語る。イヤホンからは、もっとデカい悩みを言えとフクチヤマからお叱りの声が聞こえている。
でも、合格。と思いきや、いきなり抑えこまれて何処かへ連れて行かれてしまう。捜査は失敗。マキタの情報は全く入らない。
テルオをいじめる同級生たちも入信したみたい。天使の衣装を身に纏っている。そんなの天使じゃない。自分はヒカリさんという本当の天使を見たことがあるから。それに天使じゃなくても、空を飛べる。ロケットだ。同級生たちは興味津々。ロケットの材料集めに協力したら乗せてあげるという約束をすることに。
重力の光教団は、テルオが研究室としている坑道跡を本拠地にしている。その奪回のために、テルオは教団に乗り込んで、本当の天使、ヒカリの話をしてしまう。この町に確かに娘がいる。教団は捜索を開始する。
逃げ出したヒカリとマキタはラブホに。その受付にはササヤマが。タンバの悲報をフクチヤマから聞き、責任重大だ。
そこにマリンがやって来る。マキタと会う日だったみたい。
修羅場の予感。そこに、サトルとヒツジもやって来る。
ササヤマからの、もう収拾つかないくらいに揉めているという報告を受け、フクチヤマは、トラック到着まで時間が無いこともあり、ヒカリとマキタを拉致することに。
ヒツジは結局ヒカリを連れ戻すことが出来ずに意気消沈して家に戻る。家にはテルオがいる。
父はワニと戦うような男だった。まあ、それもテレビで見た男と記憶をすり替えているだけかもしれないが。そんなことを思い出しながら、テルオと食事。これが二人の最後の食事となる。
ヒカリとマキタは、フクチヤマとササヤマから拷問を受ける。二人は公安などでは無い。レズとホモ。性の解放を訴える集団。
フクチヤマはヒカリを、ササヤマはマキタを弄びながら毒牙にかける。その時、フクチヤマが気付く。ヒカリにあれが付いていることを。
天使。第三の性。自分たちの考えを世間に知らしめるために、私たちが求めていた象徴。ヒカリに協力を願い出る。マキタを解放する約束で。ヒカリはそれを受け入れる。
教団ではタンバが押さえてつけられて、何かをされそうになっている。フクチヤマに必死に連絡。フクチヤマはこれから、クレイジーソルトを積んだトラックを襲うと返答。
それを教祖が聞いていた。クレイジーソルト。許せない。教団もそのトラックを襲撃することに。
クレイジーソルトに偽装した爆弾を積んだトラックは、ヒカリたちと教団の両方から狙われる。
フクチヤマとササヤマは、教団によって人体改造されてしまったタンバによって互いに自滅する。愛し合っていたササヤマとタンバの悲しい別れ。
積み荷の爆弾は、子供たちがロケットの材料に丁度いいと持って行ってしまう。
何も無くなった現場に取り残されたヒカリと教祖タネオ、つまりは娘と父の再会。
しかし、天使の羽根を無くしているヒカリにタネオは幻滅する。爺さんを殺してしまった罪をどう罰してもらえばいいのか、これでは天国へと連れて行ってもらえない。
そんな嘆き悲しむタネオの姿に、看護師はどうしてヒカリじゃないとダメなのか。愛する自分ではあなたを救えないのかと悲しみを怒りに変えて暴れ出し、タネオを撲殺。
ヒカリを求めて彷徨いやって来たヒツジもその餌食となる。
醜い顔となったヒツジの傍にヒカリが寄り添おうとするが、ヒツジは見ないでくれと拒絶。ヒカリは両目を潰して、そのヒツジの気持ちに応える。
マキタは、サトルに追われてやって来る。マキタは発砲。ゴンスケは最後までヤクザとして立ち向かい死ぬ。そして、ようやく、タネスケと共に気楽な立場となる。マキタは、そんなゴンスケに銃を向けたことに怒るかつての炭鉱仲間のお化けたちによってどこかへと連れ去られる。恐らく、二度とこの世には戻ることは無いだろう。サトルは自暴自棄になって、くだらない男と付き合っていたマリンを抱き締める。
テルオのロケットは材料も揃って完成。
視力を失ったヒカリと出会う。
ロケットにはヒカリさんの席も用意してある。
二人はロケットに乗り込み、空へと飛び、同時に大きな爆発音がし、光に包まれる・・・
誰をも愛するヒカリ。でも、その愛は天使であるがためか、重さが無い。いつでも、空へと舞い上がって、そのまま昇天してしまいそう。
私たち地を這って生きる者の求める愛は、自分をこの地に踏ん張らせ、天へと飛んでいかないようにする重さのある愛なのかなと感じる。
でも、その愛は執着、独占などの人の欲に相まって、膨大な力となって、人を沈めてしまうくらいになってしまうことも。
埋もれて這い上がれない。地を這うことも出来ずに、そこにとどまるしかない。かと言って、天にも飛んでいけない。
そんな絶望の世界の中でただ佇むしかなくなった人たちが描かれているように感じる。
だったら、その人たちは、それこそ世界が滅びるまで、ずっとそのまま埋もれて時を過ごすしかないのか。
作品のラストは、それを救い出すのもまた愛の力であることを伝えているようだ。それは自分を満たすために求める愛ではなく、ただ純粋に人を愛することが出来る自分がいることを知り、自分も何も返してあげたりできないけど、また誰かから愛されていることを知るという、愛し合うことが存在している世界に生きていることに喜びを得ることのように思う。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント