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2015年11月16日 (月)

劇論 ~どこから来てどこへ行くのか~【劇団太陽族】151115

2015年11月15日 ウィングフィールド (85分)

日本と世界の演劇史を、有名作品を通じてたどっていく。
その中で、演劇に関わった人たち、それこそ誰もが知る有名な作家と触れ合いながら、この劇団で役者を務めた一人の男の生き様に想いを馳せているような話。
降りかかる運命に翻弄されながらも、力強い覚悟を持って懸命に生きる者。その創り上げた時間を、これからも刻み続けていくといった、永遠に続く宇宙の時間のように、一つの演劇の歴史の時間を終わることなく続くものへとする意気込みを見せている。

舞台床は地球、奥は宇宙空間。
雅楽みたいな演奏と踊りで始まる。
確か雅楽の楽器は天と地を表していて、それを繋ぐような音楽だったか。
生と死。この世とあの世。
これから始まる時間は、そんな次元を越えた壮大な宇宙の中で融合した世界の話ということだろうか。
その世界でこの舞台で出会いたい人を待つ二人の男。
場所は稽古場。
待っている間に、稽古をする。

片方の男は歯痛らしい。もう片方の男が、覗き込みながら何やらセリフめいたことを語る。
天照大神の天岩戸が日本の劇の起源か。海外ならギリシャ神話だろうか。オイディプスも交えて、ひと昔の時代の演劇人生を語ってもらう。毒を交えたご自分の演劇との関わりを。
発声練習。あえいうえおあおが私たちでも知る奴だが、ちょっと違う。あえいうえおえあおお。おえあおお。イントネーションで確かのあの方になるな。
ナースが伝言を伝えに。今日は来れないから、また明日にとのこと。ナースは彼を担当しているらしい。彼の言葉を幾つか述べる。稽古場で待つ二人への伝言。いや、これは彼のつぶやき。幾つかの言葉はフォローさせていただいているので、私も知っている。

演劇と言えば、誰もが知るシェークスピア。ハムレット。
to be or not to be.
生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。
この訳は翻訳家によって、色々と違うらしい。小田島雄志先生、松岡和子先生、坪内逍遥先生をお呼びして議論を交わす。もちろん、私は全く知らない。お名前だけメモっておいたので、今、ググって調べて書いている。
日本では忠臣蔵か。
いつの間にやら稽古場にいっぱい人が集まってきたみたい。
チェーホフ、かもめ。銃声。
強烈な音にこめかみ痛を訴える女性。
赤い帽子の松葉杖の女。眼球がどうたらと喋っている。アングラか。何を題材にしているのかよく分からない。唐組とかであんなキャラの人を観たことがあるような。
屈折した作家の想いが曝け出されるそんな分野か。
楽しいミュージカル。やっぱり、こんなエンタメ系の方がいいなと思いながらも、歌詞を聞いていると、痛烈な社会批判を謳っている。
演劇をプロパガンダとして利用されたり、迫害されたりの歴史は、こんな惹き込ませておいて、言葉を語りかけてしまえる力なのかな。
これだけ歌うとやはりのどを痛くした人もいるみたい。

Oを待つ。
Rを待つ。
後の一つの文字が見つかる、Y。
並べたらRYO。
あの日のことが回想される。
恐らくは通夜。明日は葬式みたい。
かなりの田舎ご出身だったみたいだ。生糸で有名なのだとか。糸といったら富岡製糸工場ぐらしか習った覚えが無いが。
妹さんがいらっしゃり、その知り合いの居酒屋で、既に到着している喪服姿の人たちは、稽古終わりに出発して、夜中到着の劇団員を待つ。
祖母は新聞記者。あの時代で、女性が記者。よほどの伝えたい魂が強かったのか。一応、社会派劇団として通る、この劇団への入団もそんなことがきっかけか。
そんな話が、未だ現れない彼を舞台に浮き上がらせる。

稽古場ではまだ男二人が待っている。
ナースがやって来る。
話す言葉は既に知っている。
今日は来れない。また明日に。
二人は彼に、自分たちが稽古場にいたことを伝えるようにナースのお願いする。
明日死ぬなら、今日は稽古するという言葉を発したぐらいの彼だ。
それで全て通じるのだろう。
片方の男は歯痛。
もう片方の男が、覗き込みながら・・・

約90分で、日本と世界の演劇の歴史をたどる。
同時に、その演劇に深く関わった者たちの名前が挙がる。シェークスピア、翻訳家、チェーホフ・・・
その長き時間の歴史。
一人の人間の人生。比べたら短いか。でも、90分でたどった時間と比べたら長い。
稽古場で待つそこそこの中年男性。演劇とはどのくらいの時間携わっているのか。
待たれている男。30歳だったと聞いているが、その時間の中で演劇に関わった時間は彼にとって短かったのだろうか。
舞台は宇宙。その宇宙の歴史は上記した時間と比較する意味が無いくらいの膨大な時間だろう。
宇宙にせよ、何かの歴史にせよ、その時間は、その中に身を委ね、時間を刻んでいった人たちの集積だといった感じ。
そして、その時間は今でもずっと続いている。きっと永遠に続く。
男二人は演劇をし続けるのだろうし、彼だってその続く永遠の時間を構成する一人の人間。
そんなことを感じるラストだったように思う。

設定はゴドーを待ちながら風。
この作品は、数回、色々なパターンで観たが、ゴドーは何者なのかを考えたり、待つということをどう捉えるのかを考えたり、観るたびにその焦点が変わる。
今回は何となくだが、この作品は待ちながらなんだなあという作品名の意味合いに想いを馳せる。
待つとか、待ってとかではなく、待ちながら。
待ちながら、あなたは何をするの、どうするのかを考えろと言っているように感じた。
この作品、劇団、役者さんは、その答えが演劇であり、そのための稽古なのだろう。
歯、こめかみ、のどやら色々な痛みが入り込んでいるのは、その苦しみをイメージしているのだろうか。それでも、その痛みを作品に昇華していくみたいな。痛みを分かち合いたいみたいなことを言われたりもしているし。
もちろん、待つことも辞めないのだろう。
思い出されなくなった時に人は死ぬのと同じだという考えと同じ感覚だろうか。待っている間は、待っている人は消えないのだろうから。

この作品に出てくる待たれている男、RYOは米田嶺さんのことだろう。
私は直接の面識は無い。でも、お名前は実は凄く覚えている役者さん。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/120608-aecc.html
この時、何か印象に残って、上記感想記事でも、私はすぐに名前を忘れてしまうので、見返した時に思い出せるようにと、とってつけたかのようにお名前を書かせていただいている。
Twitterでフォローさせていただいたのも、この作品の後だったかな。何となく、彼の言葉を聞きたい気持ちになったのだと思う。
その後、舞台で拝見した覚えは無い。最後の公演も観逃してしまったから。
客席でお隣だったことがあるが、その時はお友達と女の話をしていたかなあ。盗み聞きをついついしてしまった。
私が覚えている彼はその程度しかない。
だから、この作品で劇団員の方々が彼に向ける本当の想いはなかなか分からないところがある。
人が亡くなっているので少しはじんわりくるが、ほぼ泣けなかった。
きっとそれは、彼が数多く残した力強い覚悟ある言葉が狂気にすら感じるほど、印象に残る真摯なものであったことをつぶやきを通じて知っており、その覚悟に対し、この作品を通じて劇団員の方々が向ける彼への大切な想いが悲しみや悔しさより、むしろ感謝や誇りのように感じたからだと思っている。

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