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2015年11月 8日 (日)

箱庭短編集【箱庭計画】151107

2015年11月07日 STAGE+PLUS (20分×3)

3本立てのオムニバス公演。
今を生きる若者たちが、これから未来に向かって進んでいく。
その時に自分自身を振り返らないといけないこと、今の自分を見詰め直さないといけないこと、先人たちの生き方に目を向けてみないといけないこと。
こんなことが、各々の作品で組み込まれているのではないでしょうか。
どの作品も、これから踏み出す一歩を温かく見守りたいような気持ちになる素敵な作品だったように思います。
ちょっと、一つの作品は、ほとんど分からなかったので、感覚的ですが・・・

・少年カメラ
10年ぶりに島に帰って来た亘。
両親の仲良しっぷりは相変わらず。何事にも動じない大らかさのある母に、昔から妙に威厳を見せようとするが空回りしている父。
亘はカメラマンとして活躍している。先日もなかなかの賞を取った。今度は活動の場を世界に拡げるつもり。
その前にどうしてもしておきたいことがあった。
亘は部屋を探す。古いカメラ。
学生時代、カメラ部なのに、カメラが無く、同級生の郁子に借りていたのを父が見かねて、誕生日プレゼントに買ってくれたものだ。お守り代わりに、一緒に連れて行こうと思っている。
亘はその郁子にも挨拶をしておくと言って、家を出る。
と言ったものの、なかなか足は郁子の家へと進まない。気付くと山の上にいた。
そう、あの時もそうだった。カメラを買ってもらって、郁子と一緒に島を巡って撮影。郁子はカメラに詳しく、いつかは最優秀賞を取るんだと意気込んでいた。色々なことを教えてもらった。
夕方、山へたどり着く。絶好の撮影場所らしい。夕陽。
その美しい風景を二人で見る。亘は郁子が見ている風景をそのまま取りたいと、彼女の後ろからシャッターを切る。
その写真が受賞した。郁子は急に冷たくなった。ずっと、カメラをやって来た。それが亘は買ってもらったその日の写真で受賞。私には才能が無い。もうカメラは辞める。その日から、一緒にカメラを撮ることは無かった。
そんな苦い思い出。
気付くと郁子が来ていた。あの時のことを郁子の方から話す。
もうそんなことはどうでもいい。今は、また郁子が自分と会ってくれたことが嬉しい。
郁子は、あの時、言えなかった言葉、おめでとうを口にして、心もすっきりしたみたい。
これで、もう二人の間にあるつっかえは無くなった。
亘からも言いたいことがある。ポケットに手をしのばせる。
その時、お母さんという声。郁子の子供らしい。そりゃあそうか。あれからどれだけ時間が経っているのか。
明日には島を出る。そう言う亘に郁子は見送りに行くと。
また明日。
亘はそう言って、ポケットの中の指輪を投げ捨てる・・・

まあ普通にいい話ですね。
あらすじでは書けない色々な伏線があって、学生時代に山の上で、亘と郁子はカメラを撮りますが、その時、間違いなく郁子は亘に想いを寄せていたようです。亘を見る目線がね。この時の郁子は三村優里花さん(遊劇舞台二月病)が演じています。その目配せがとても丁寧で非常に演じ方が魅力的。でも、その想いを伝えることはありませんでした。それは亘が新しいカメラでテンション高かったのか、もうカメラに夢中だったから。恐らく、郁子の中では、既にこの時、亘との恋は自分の中でけじめをつけていたように感じます。そんな中で賞を取る。これは、嫉妬もあったでしょうが、まだ心残りはあったけど、確実にカメラに亘を取られたという瞬間だったのかもしれません。
そんなことを知らずに、この年になってプロポーズしようってねえ。申し訳ないですが、あまり同情できないですね。
タイミングをはずしたわけです。シャッターチャンスを逃してはいけないカメラマンとしては致命的なミスでしょう。
大人の亘は塚本拓也さん(劇団ちゃうかちゃわん)が演じます。確かにちょっと不器用そうで、目の前のものしか見えなくなってしまうような子供っぽさを残します。夢を追う者はそんな感じでいいのでしょう。先々を読んで、周囲に目を配るような賢明さは、夢へ向かう道からは遠回りになるのかもしれません。
ただ、そこにいる人の本当の想いに目を向けられていない間は、まだまだいい写真は撮れないように思いますが。
世界で存分に修行に励めばいいと思います。

・フォークロア
就職活動が全然うまくいかない女子大生が神社にお参り。
神様どうにかしてください。
気付くと、いつの間に時間が経ったのか、夕方。
男が現れる。神隠しってやつだ。もう帰れないぞと言ってくる。
神隠しの研究をしていて、自らの体で実験をしてみた結果、こうなったらしい。
試しに神社から出ようとしても出口が無い。
男は出口を探せと言ってくるが、女子大生はもうこのままでもいいかと思い始めている。嫌な現実から逃げ出して、ここで永遠の時間を。
ところが、子供の声がどこかから聞こえてくる。
ここで死んだら、あっちの世界に行くのだろうと男は言う。
死ぬ。冗談じゃない。何とか出口を探さないと。
男は、この神社にお参りしても意味が無いと言い出す。それは神がいないから。
そう、もしかしたら、神候補として呼び込まれたのかも。
私が神様。女子大生は少し頬を緩める。
一向に出口は見つからない。子供たちの遊び声が気味悪く響く。
鬼探し。突然、女子大生は思い出す。
この地方特有にかくれんぼみたいなもの。ここでは、鬼が探すのではなく、隠れた鬼を探す。
男は思う。もし、その遊びに付き合わされているだとしたら。鬼は・・・
その瞬間、男は消える。
女子大生は焦るが、冷静に考える。つまりは私が鬼・・・
気付くと女子大生は神社に戻っていた。
数日して、あの日のことを思い出す。
あの時の男。不思議なことが多い。
神隠しに合っていながら、自分は神社でお参りしていることを知っていたり。
隣の部屋から誰かが出てくる。
あの時の男・・・

う~ん、よく分からない。
ちょっとした、まあちょっとはしていないけど人生の壁にぶつかり、自暴自棄になって、死ぬとかは無いにせよ、真剣に生きようという気力を無くしている女子大生。
世の中から、身を隠しているような鬼探しの鬼みたいになっているということでしょうか。早く見つけ出して。自分を見つけてくれる人を。
神が願いを叶えたのか。この神社は神自身がその願いに乗り出したので、神不在になっているのか。そういう人はすぐ傍にいるから、あなたはただ頑張ればいいということかな。
閉じ込められた世界は夕暮れ時。陽が沈み、黄昏時を迎える頃、そこに見えていた男の姿は見えなくなったみたいな古風な描写が感じられます。
女子大生演じることねさん。悩みがあるのか無いのか分からないくらいに元気はつらつの姿に、安直な考えですぐに言動。その前向きさが、人生好転を生み出したのだろうか。男、シャツ太郎さん(演劇集団ゲロリスト)。名前は聞いたことがあるけど、あんまり記憶に無かった。こんな貫録があったら覚えていそうだけどな。前作品でもそうですが、周囲のペース関係なしに、自分のペースそのまま突き進むようなスタイルで、飄々と自分を出すのが巧い方みたいです。

・夜色タクシー
卒論に追われる女子大生。
あっという間に駅までのバスの時間を逃す。駅までは歩くしかない。
同級生の男が、夜遅いから気を付けないとダメと言ってくる。うちに泊まってもいいよ。
遠慮しておく。身の危険があるからでは無い。男には同棲している彼氏がいるから大丈夫なんだろうが。
オカマ同級生は、裏門に特に気をつけろと。最近、自転車に乗った男がうろついているのだとか。不審者だと警備員に言っても、気付いた時には姿を消しているのだとか。もしかしたら幽霊かも。
女子大生は裏門を通る。自転車に乗った男。言われたとおりだ。
声を掛けられる。身構えるが、どうも悪い人では無さそう。人を待っているのだとか。名前を聞くが女子大生は知らない。でも、少なくとも今日はもう帰ってしまっているのだろう。こんなに遅い時間だから。
男は駅まで乗せていくと言ってくる。少し、不安だったが、まあ悪そうな人でもないし。むしろ、心配なのは最近、厳しくなった自転車の法律にひっかかることぐらいか。当然、二人乗りも禁止。何か、青春っぽくて良かったのに。昔は、学生カップルが二人乗りをして恋を育んだはずだ。
駅まで自転車。楽ちんだった。家に帰る。
おばあちゃんが迎えてくれる。今日の話をする。危ないから気を付けないといけないとちょっと叱られる。
でも、いい人だったから。それに人探しをしている。名前も聞いたけど、どの学部かぐらいは分からないと。
その名前を聞いたおばあちゃんは一瞬表情をこわばらせるが、すぐに、いい人ならきちんとお礼を言っておかないといけないよと。
また、遅くなってしまった女子大生。今日は母が迎えに来てくれる。
裏門。自転車の男がいた。この前はどうも。探したけど、分からなかったことを伝える。
おばあちゃんが現れる。母親の車に乗って来たらしい。
自転車の男はおばあちゃんをずっと見ている。
おばあちゃんは、男に懐かしいと挨拶をし、自転車に乗せてもらうからと女子大生に伝える。
何となく、状況が把握できた女子大生は、母親の車に向かい、巧いこと言うことだろう。
男はおばあちゃんを乗せて走る。
迎えに来て。そんなことを私が言ったから、事故にあってしまって。
あれから、大変だった。卒業して、すぐにあなたの子が生まれ、女手一つで育て。
今はもう孫がいる。既に会ったみたいだけど。
男はようやく約束を守れたことと、今、幸せな愛する人の姿に軽快にペダルをこいでいる・・・

今風の女子大生と個性溢れる同級生。
長い人生を歩んできたおばあちゃんと昔で人生を止めた自転車の男。
今世代と一昔前世代のキャラが明確に分かれていながら、どこか、変わらぬものを時間は繋いできているという感覚がとても素敵に感じます。
おばあちゃんを演じるふろむさん、自転車の男を演じる西村友志さん(劇団万絵巻)の、若い役者さんが昭和を思わせるしっかりした昔世代の人物像を描けているところが非常にいいです。
おばあちゃんは、その演技で年齢を見せることは普通に可能でしょうが、自転車の男は、キャラ的には大学生と同世代。しかし、今の大学生とはまた異なっている姿。歳を刻んだことだけでなく、その時代に生きた人を描き出せている西村さんの朴訥な演技に非常に魅力を感じます。
最後の二人乗りの姿から、その人が生きた当時の時代背景や環境が何となく滲んで見えてくるようでした。

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コメント

SAISEIさん

8日11時~観劇。

私は少年カメラが一番好きかなあ(笑)特に最後の2人のシーンは好きですね。この価格でこれだけのものが観れるのか、という驚きと喜びが大きかったからかな(笑)でもSAISEIさんいつもながら鋭いツッコミ。

箱庭計画は旗揚げ公演確か無理したら行けたんですが無理せず行かなかったらSAISEIさんのblog高評価だったのかな(笑)

今回は多少ムリして行きました。20分ものの作品では過去最高レベルかなぁ。

フォークロアは確かに。分かりにくかったかな。シャツ太郎さんは大きな劇場で観たいかな。ことねさんは少年カメラの演技の方が好きかな。

夜色タクシーはふろむさんの祖母役が上手かった。そして西村さんの真鍋健次郎は確かに古い時代の青年を思わせ好きでした。場合によったら戦前の青年かも(笑)

栃木さんかなあ。出るときの対応が良かったすてきな眼鏡の青年がいらっしゃいました。


投稿: KAISEI | 2015年11月 8日 (日) 22時13分

>KAISEIさん

背の高い眼鏡の人は、恐らく栃木さんですね。
私が多分、学生劇団を初めて観た、関西大学万絵巻出身の方です。万絵巻は、KAISEIさんがいつも厳しい目で見られる客入れ、客出しが非常に礼儀正しく、丁寧です。その名残りが社会人になってもあるのでしょう。

どの作品も20分で綺麗にまとめあげられていて、良かったと思います。
来年の公演も期待しています。

投稿: SAISEI | 2015年11月10日 (火) 15時31分

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