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2015年10月26日 (月)

メガネニカナウ【iPpei】151025

2015年10月25日 芸術創造館 (35分、25分、30分、冒頭・間にMC10分)

メガネにまつわるショートオムニバス3本立て。熱血不条理、ハートフル、中年男の悲哀みたいな感じでしょうか。
間は、作品に関係しているのか、していないのか、山本香織さんのMCと称する一人芝居、独り言で埋められる。妙齢女性の合コンや元カレをテーマにした自虐ネタ、眼鏡だからこの芸能人となのかシュールな朗読と、オムニバス作品に失礼かもしれないが、むしろこちらの方が印象に残り、iPpei×山本香織プロデュース公演なのではないかと思えるくらいに面白かった。

・7人の怒れるメガネ人

日本の平均的男性を代表するかのような、本当に普通の男。強いて、特徴を挙げれば、近視でメガネをしていることぐらいか。
ある日、白衣を着たおかしな女性に連れられて、ある組織の夜会に参加する。
壁にはフリーメーソンを思わせるマークにメガネが描かれている。
あながち、そのイメージは間違ってはいないようで、セレブと呼ばれる人が集まっているようだ。
気品ある貫禄を見せる当主、かっこよくキメているホテル王、礼儀正しい部族マサイ、汚い金の匂いがプンプンするマダム、そして、自分を連れてきた美しい女医。可愛らしいけど、終始、皆に目を光らせているメイドが当主の傍にいる。
全員がメガネをかけている。メガネ人と呼ぶらしい。男はこのメガネ人として認められたということみたいだ。
いまひとつ、付いていけない中、ホテル王が発言する。この中に裏切り者がいると。
そう、メガネ人にとって最大の裏切り、伊達メガネ人がいるというのだ。
全員が銃を取り出し、互いにけん制し合う。
何をそこまでと考える男に、当主は語る。
今、国家はメガネ人を弾圧しようとしている。だから、伊達メガネ人を送り込み、組織を崩壊させるつもりなのだと。ガセネタが横行するネットから入手した情報らしい。
犯人は・・・、そして、国家は彼らに何をするのか・・・

本気の遊び心ですね。バカじゃないのってところを、熱くかっこよく。
メガネをテーマにというと、物を見るという機能性に焦点を当てるような気がしますが、なるほど、こういったファッションや、それから通じるポリシーみたいなものもありますね。
男を演じる三浦求さん(ポータブル・シアター)が、他全員のボケにツッコむスタイル。その個性的すぎる各キャラの自由な振る舞いに、唯一まともな男が、困惑しながらも絶妙な間合いと空気で対応する姿の面白さが抜群。

・眼鏡紳士

男は小説家。
最初は順調だった。でも、いつの日か、何も書けなくなってしまった。
そんな悩みを抱えながら、街を歩いていると肖像画を描く老人と出会う。
飾られている肖像画をよく見ると、自分が住んでいるセイタカアワダチソウが生い茂ることで有名なアパートの住人たちだ。
なぜか、みんな眼鏡をかけている。何度か出会ったことがあるが、眼鏡はかけていなかったはず。
老人は語る。これはその人が見たいものを見ることが出来る眼鏡なのだとか。
老人は、男の肖像画を描いてくれると言う。
男は思い起こす。
コンビニでバイトをする若い男。彼は102号室に幽霊が住み着いているという噂を耳にして、それを見たいと思っている。眼鏡は彼の好奇心を満たしてくれるのだろう。
隣に引っ越してきた夫婦。夫があるダンボール箱を開けさせてくれないと妻は怪しんでいた。妻は夫の真実を見たいのだろう。そのダンボール箱には実はウェディングドレスが入っている。今はこんな安アパート生活だけど、いつかきちんと結婚式をするつもりだからと妻の誕生日に渡すつもり。夫が見たいものは妻の笑顔。
管理人の娘さん。いつも掃除をしている。若い男がいつもゴミの分別をしないと、ほうきで追い回している。男もよくボツ原稿を丸めて庭に捨てる。きちんとビニール袋に入れるようにと厳しく諭される。
そうか。その捨てた原稿の中に、こんな眼鏡を描いた作品があったはず。
こんなものを拾えるのは、アパートの住人しかいない。恐らくは管理人の娘さんが拾って、この老人に何とかならないかと相談した。老人の正体は、今まで会ったことが無いことを考えると、噂の102号室の幽霊と呼ばれている男なのだろう。
管理人の娘さんは、このセイタカアワダチソウのように、自由にノビノビと小説を書けばいいと言ってくれていた。管理人の娘さんの見たいものは、嬉しいことに自分の新作だ。
老人は付け加える。あなたの作品を見たい人は、管理人の娘さんだけではない。たくさんの人がきっと待っていると。
スランプですっかり周囲が見えなくなって、孤独に打ちひしがれていたが、みんなが自分のことを見てくれていたのだろう。そのことを男は見る心を取り戻した。
男の目の前に、今までとは違った世界が拡がる。空想する、想像する楽しみ。日常にも潜む数々のファンタジー。
男はそれを描き始める・・・

眼鏡の物を見るという機能性、それも、単純に物理的な機能ではなく、かけることで、その人の奥深くに潜む心を引き出して、新たな物を見せるというような感じで眼鏡を見詰めている。とても優しい世界が拡がっている。
これも、何となくなるほどで、眼鏡を変えると、気分が変わるのか、ガラッと視界も今までとは異なって見えるようになります。これは、もちろん、自分の心の変化によるものなのでしょうが、眼鏡はそんな変化を導き出す道具でもあるというわけです。きっかけみたいなものでしょう。
落ち込む自分のことをずっと見ていてくれた人。眼鏡をかけて視力が良くなっても、その人のことは見えていない。老人の言葉がきっかけで、そんな大切な人がいることに気付き、落ち込んでなんかいられない、あの人の見たいものを見せてあげないとという気持ちになった男。温かい人の想いの連鎖反応がとても素敵です。
男を演じる、中路輝さん(劇団「劇団」)。落ち込んだどんよりとした空気から、そこに光が差し込んで、明るさを取り戻したという空気の変化を巧みに演じられていました。
管理人の娘さん、中嶋久美子さん。ほうきを振りかざして追っかけるという、漫画のようなベタな動きが妙にはまって面白く、その中でアパートの人たちの幸せを願っている優しさがずっとあったことを話の流れと共に知って、その素敵な女性っぷりに心を動かされます。

・トニーの谷

トニーは小さな眼鏡屋にいる。こんな小さな店には似つかわしくない綺麗な女主人。
そこに、女性が飛び込んでくる。マネージャー。
もうすぐ会見が始まる。落ちぶれた役者であるトニーにとって、復帰のチャンスともなるこの会見。力の入り具合がいつもと違う。
トニーは、それならきちんとした眼鏡で臨みたいから、少しだけ待つようにと言う。
マネージャーは後から迎えに来ると言い残し、店を去る。
トニー。
これまで色々とあった。トニーというのは名前では無い。ウェストサイドストーリーで主役をもらった時の栄光に浸っている。最近は老眼もひどくなってきた。
時代も変わった。マネージャーも、スマホとかやらで自分の居場所を見つけ出してきた。人の行動が丸見え。だから、偶然や想定外のことに興奮することが出来ない世の中だ。
女主人はそんなトニーに幾つかの眼鏡を薦める。
それをかけると、男にはあの頃が見えるように。
学生時代。役者の道を目指すからとフッた彼女に責められている。数々の女から選んで付き合っていたつもりだったが、女はクラスの女性みんなから、あんな男と何で付き合っているのかと言われ続けていたらしい。厳しくダメ出しをされ、崇拝するハマショーを茶化すようなことまで言われ、怒りの中で正気を取り戻す。目の前には女主人がいる。
次は、役者時代。ライバル劇団のトップ女優と付き合っていた。ウェストサイドストーリーでマリアを演じた女性だ。重い女で毎日30分間隔でメールを送ってくる。最初は全て返していたものの、そのうちおざなりに。それを責めに来たのかと思い、またきちんとメールを返すようにするとトニーは答える。でも、違った。女は別れたくて、あんなことをしたようだ。そのうち嫌になって、自分からフェードアウトしてくれるようにと。だいだい、30を過ぎた男が大量のメールにすぐ返信するということ自体が異常だと罵られる。
劇団の主宰が現れる。客演してくれた女優にも手を出したことを暴露される。さらには、自分の誇り、トニー役も、選ばれた訳ではなく、他におらず仕方なくだったことが明かされる。自分は何一つ、手にしていなかった。トニーは目を覚ます。今にも倒れ込みそうなくらいにショックを受けている様子。女主人は残酷にも、また眼鏡を渡す。
元カノの兄が現れる。子供は元気らしい。トニーが付き合っていた女。事故で亡くなった。子供の命と引き換えに。その子供の養育は全て元カノの兄がしてくれているらしい。トニーはもちろん養育費を渡し続けている。
でも、これも違った。女は死んでいないらしい。それに、子供も自分の子供のではないのだとか。結婚までしているという。要は不倫だったみたい。じゃあ、養育費は。兄は、感謝の気持ちだけ述べて、スーっと消えていく。
気付くと男は膝から崩れ落ちている。
最後に渡されたのは未来を見る眼鏡。
マネージャーが戻って来た。
トニーは、覚悟を決めたように、プロポーズの言葉を・・・

何一つ、これまでの人生で手に入れていない、それを中年になって知ってしまう男の悲哀。
上杉逸平さんの自虐のような切なさが、大きな笑いに。
ネットを通じて、色々なことを知り過ぎてしまう世の中。ところが、自分のことになると、こんなものなのかも。皮肉な話だ。
眼鏡を変えてみたら。視点や距離を変えて、物事を見詰めてみたら。自分が見なくてはいけないものをきちんと見られるようになるのかもしれません。それは、きっと、この作品のトニーのように辛いものなのでしょう。出来れば、いいように勝手に捉えて、封印しておきたいような。でも、今、そしてこれからを良き人生にするためには、そんなこととも向き合わないといけないのかな。
見たくないからと、度の入った眼鏡をかけないで日々を過ごしていたら、色々なことを見過ごしてしまうのだろうから。
半ば無理やりだったけど、人生を見詰め直せた男の、これからの始まりがラストになっているようです。まあ、今回もこれを糧に生きていかないといけないような結果が待っているような気もしますが。それが人生というものなのでしょう。

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