寿司【芝居処味一番】151026
2015年10月26日 インディペンデントシアター1st (90分)
新聞社の記者たちが、過去に封殺された、ある記事から引き起こされた同僚が事故に巻き込まれて亡くなるという事件の真相を追う話。
その中で、記者としての仕事のポリシーが浮かび上がるような感じでしょうか。
記者として、真実を皆に伝えるだけでは仕事は成り立ちません。そこには、共に仕事をする仲間がいる。そんな仲間たちの考えを尊重し合い、かつ思いやって進めることで、本当の仕事が出来るといったようなことを感じさせられる話だったように思います。
記者を題材にしていますが、記事を書いた自分自身の記憶に残る、関わった仲間たちの記憶にも残る、そして読む人の記憶にも残るといったものが本当の仕事だと言っているようです。これは、演劇作品のように創る仕事をする人たちにも通じるようなことで、そんな仕事への考えを見詰めたような作品なのかもしれません。
舞台は大阪の新聞社。
速水部長は、言葉少なく、顔もちょっと怖いので、接しにくい空気を漂わせ、実直で妥協を許さない厳しさが滲む。しかし、そんな冷たさには無理をしている感があり、弱い自分を隠し、部下たちを守っていかないといけないという考えに基づいているみたいだ。当然、立場上、部下を叱る。その時、一番、傷ついているのは自分自身のようだ。皆も自分たちの成長を考えての厳しさだという彼の優しさは理解しているようで、6人の部下が部を盛り上げるべく、各々頑張って働いている。
槇島は、速水の秘書的な役割兼、皆のリーダー的存在。速水とは、新人の頃からの付き合いのようで、彼の気持ちは一番よく理解しているみたい。立場上、嫌なことをきつく言うこともあるが、自分にも厳しく、揺るがない律する態度に逆らう者はいない。と言っても、時には女性社員たちと普通に女子トークを繰り広げながら冗談を言い合ったりもする。メリハリを大事にしているみたい。まあ、そんなこととは別に持ち前の美貌にやられている者もいるようだが。
青木は、学生時代から新聞部に所属しており、自らの探究心を満たし、かつ、世の人々に真実を伝える記者の仕事に誇りを持っている。結果を出し続ける。そのためには、落ち込んだり悩んだりしている時間は無い。そこにある真実を貪欲に探り続ける。そんな自分のポリシーをベースにして人と接するので、彼と合わない者は目の敵にされる。
野々村は、今、悩んでいる。青木に目の敵にされているのはまさにこの男。会うたびに嫌味を言われる。人がいいから、反抗もせずにすいませんと謝る。真面目だが、要領が悪い。真っ直ぐに熱いところもあるが、基本的にお人好しなので、色々なものを抱え込んでしまう。仕事が出来ないわけでは無いので、速水は彼に社会部の記事枠を一つ任せた。それが上手くいかない。自分が書きたい記事は何なのか。読む人の記憶に残る記事か。自問自答を繰り返しながら、深みにはまってしまったような感じ。そんな彼だが、その懸命な頑張りを応援している女性社員もいるようだが、気付いてはいないみたい。
堀田は、チャラチャラした感じで、いい加減に仕事をしているわけではないが、強い意欲は感じられない。大きな仕事を任せられて、楽しいプライベートを潰されるのはたまらないぐらいの感じなのかもしれない。そんなだから、惚れている槇島に相手をされるわけもなく。
大野は、正義感や皆で仲良くまとまった連帯感をもってチームとして仕事をするという意識が強いようだ。我を忘れると出てきてしまう随分と田舎の方言から見ても、都会のコミュニケーションには少し違和感を覚えているのかもしれない。特に野々村には、人知れぬ想いがあるようで、皆から厳しく言われながら、抗いもせずにただただ頑張る彼に尊敬と同時に苛立ちも感じているみたい。
そんな職場に、フリーカメラマンの伊東がやって来る。
いつものように、テンション高く、撮影した写真を見せに。時代が時代だけに、メールで画像を送ればいいようなものだが、こうして会って話すということを大事に考えているみたいだ。
この日は、特にそうだったようだ。もう、なかなか会えなくなってしまうから。名古屋へ引っ越し。理由は結婚。
皆は仕事があるものの、記者魂か、その経緯に興味津々。
face bookで同じ高校出身の人から連絡があり、同窓会に参加。クラスも違い、会ったことも無い人だったが意気投合して、結婚にまで至ったらしい。
伊東は、お別れにずっと気になっていたことを皆に聞く。
あそこに何でピアノを置いているのですか。
皆は表情を曇らせる。
槇島が語り出す。もう20年も前のことだ。話しても何も問題ない。
あれは真田という人のピアノ。
当時はこの新聞社も小さく、フリーカメラマンなど雇えず、記者たちがカメラマンを兼任していた。真田は記事を書くよりも、写真で力を発揮した。彼の撮る写真には力強さ、愛が感じられた。そして、そんな彼が好きだったピアノ。引っ越しで、部屋に置けなくなったので、ここに置かせてもらうことになったらしい。
そんなことが出来たのも、速水がいたからだろう。
速水が大学生だった頃、真田と出会った。真田は大学生でも無いのに、勝手に大学に入り込み、中庭に寝転んで写真を撮っていた。空の写真を。それは、速水が講義を受けて、帰宅する時まで続いていた。何も無い空の時間を彼は写真におさめている。
不思議と気が合い、自分が新聞社に入社する時に、彼も誘ったらしい。
仕事が終わってから、たまに真田はピアノを弾いた。迷惑にならないようにヘッドホンを付けて。いつだったか、生の音を聞いたことが槇島はある。それは、写真と同じように力強く、愛を感じさせる素敵なものだった。
そして、今、もうその音を聞くことは二度と出来ない。
真田は、当時、沖縄の基地移設問題で防衛大臣に取材を続けていた。その防衛省を糾弾する記事が新聞に載る。そして、ある日、交通事故にあった。トラックがスリップして、彼に突っ込んできたらしい。
現場検証から、どう考えても不自然な事故であることは明白だった。つまりは他殺だった可能性があるということ。しかし、その考えは圧力がかかって、封殺された。
もちろん、速水は事件を取材して調査もした。でも、新聞社は必ずしも真実を世に伝えるものではない。大きな力の前に屈服せざるを得なかった現実。
数日後、伊東は、ある新聞を手にして、再び、新聞社を訪れる。
真田の事件が記事に載っている。
この日から、皆で真相を突き止めるべく、動き始めることに・・・
だいたい半分ぐらいの時間が上記あらすじのシーン。
この後は、その真相を追う皆の姿を見守りながら、一緒になって推理する時間となります。
特に大きな動きがあるわけではなく、淡々と流れる会話から、その人自身の考え方や人間関係を拾って考えるといった感じです。
覚書のために真相を記しておくと、真田の名前で新聞に載った防衛省の記事は速水の考えに基づいて書かれたものだったようです。週刊誌に掲載する予定だった速水の防衛省に関する記事。その記事を真田が奪い取った。何のために。速水の命を守るために。
真田は不穏な動きは取材をしているから既に感じていたのでしょう。このままでは速水が狙われる。真田は、新聞社に誘ってくれた速水に感謝していました。カメラマンとして、自分の好きな仕事が出来た。だから、速水にはこれからも色々な記事を書き続けて欲しい。そんな考えからの行動だったようです。
真田が、記事を書くと言っても、基本はカメラマンですから上手く書けません。当時、恋愛関係にあった槇島にその記事を書いて欲しいと願い出ます。速水のため。自分のためではなく、人を思いやる考えからの願いを槇島はどうしても断ることが出来なかった。彼女もまた、真田の想いを受け止め、それを思いやる行動を選択したようです。
結果、真田は事故にあって亡くなった。槇島は自分が真田を殺したようなものだと言います。しかし、もう一つの語られていなかった真相が速水の口から出ます。
あの事故の時、速水と真田は一緒にいた。トラックは一直線にこちらに向かってきた。運転手は怯えた目で、速水を見詰めていた。つまりは狙われていたのは自分だった。足がすくみ、覚悟を決めた時、突き飛ばされる衝撃を受け、気付いたら横転するトラックの下に真田がいた。後のことは覚えておらず、気付いたらこの職場に戻って来ていたようです。
その話を聞いて、真田の記事に憧れて入社した青木は速水に最低だと言う厳しい言葉を浴びせます。しかし、その後、速水と仕事が出来てよかった。二人ともいなくならなくて良かったと。彼も速水と真田の想いを受け止めることが出来たのでしょう。
記者としてのポリシー。ただ真実を書いて、世の人たちに知らしめる、記憶に残すのではなく、同時に仲間を思いやり、その仲間にこれからを繋げていけるように考えた真田。その想いをいつまでも、自分の心に留め、記者として生き抜く速水。それを見守り続けた槇島。
そんな共に仕事をする者たちの魂は、若い記者たちにも伝わったようです。悩んでいた野々村は、どういう記事を書けばいいのか、自分なりの答えを導き出したようです。真面目な彼のことですから、後は全力で懸命にその記事を書くことでしょう。今度は一人で背負うことなく、仲間に相談を受けながら。
速水の前に真田が現れます。
二人の事件の記憶、その想いはこのピアノに刻み込まれているのでしょう。
そのピアノから、真田はあの頃の想いを引き出すように、美しい音色を奏でます。
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コメント
SAISEI様
昨日行っていればお会いできていましたわ。当日朝まで行くか迷いました。
この金度日月はどんかぶりに行かれたのですね。トートバッグ目当てではないとは思いますが(笑)偶然ですか?
私は
(土)iPpei→虚飾集団廻天百眼
(日)彗星マジック→劇団伽羅倶梨
でした。
伽羅倶梨さんは今回で4回目、他は初観劇。芝居処味一番さんもまだ行ったことなく。
今日は火ゲキそれとも初茶屋町サミットということも(笑)
投稿: KAISEI | 2015年10月27日 (火) 01時20分