ガウデンテ ~私の守りたかったメロディ~【四方香菜Produce】151018
2015年10月18日 ARCDEUX (80分、休憩15分、70分)
戦争が残した爪痕。
大切な家族、友達を失った者たちが、その厳しさの中で、懸命に生きて、社会の一員となる。
その社会を創り上げる中で、個々は守らなければいけないものを明確に抱き、互いにそれを尊重し合って想いを通じ合わせていく。
戦争の足音が常に聞こえる二つの国。その国で活動する楽団の人たちを通じて、そんな平和な社会への祈りを考えさせられる作品でした。
15年前に隣国カルマンドとの戦争を勝利で終えた小国ルーエ。
その終結はカルマンドでの感染症の流行によるものであり、本来ならばルーエが敗戦国となっていてもおかしくはなかった。
そのため、ルーエではカルマンドの攻撃に備えて、軍基地を設置している。
そんな軍基地のある場所から坂を登った先に、小さな楽団が日々練習をしている。
ちょっぴり頼りないところもあるが皆のリーダーとして頑張る男前のトランペット担当のハリー。
歳は秘密だが妖艶な魅力を醸し、貫録ある歌声を響かせ、ハリーと共に楽団を守るシンガーのニーナ。
お調子者だけど、とても明るく人がいい、憎めない男、バイオリン担当のフリッツ。彼はエンジニアとしての才能を持っている。
いつも元気一杯、無邪気なのか天然なのか、皆のムードメーカーのようなサックス担当のキャンディ。彼女は店を開けるくらいに裁縫が得意。
朴訥で暗くとっつきにくい空気を醸すが、実は温和で優しい男、ベース担当のカコ。彼はお医者さん。
神出鬼没、存在を消してしまうような影の薄さであるが、担当するドラムの音は誰もが心奮い立たされる力強さを持つアート。
そんな、楽団に、ある日、トロンボーンを持った少女、ミミがやって来る。
楽団のモットーは皆、仲良く、楽しく。どこのメーカーか分からない楽器だし、まだ全然吹けないみたいだけど、断る理由は無い。
ミミは仲間になる。
楽しい練習の日々。皆と打ち解けるのはすぐだった。
ハリーとニーナは腐れ縁と言いながらもいい関係。フリッツはキャンディにご執心。でも、キャンディはカコにちょっと想いを寄せているみたい。アートはいつもアウトローだ。
そして、少しずつミミもトロンボーンが吹けるように。
しかし、そんな中、軍部からアモロ少佐が、部下のデリエ大尉を連れて、楽団を訪ねてくる。
ミミを連れ戻しに。そう、勝手にトロンボーンを持ちだした妹のミミを。
でも、ミミは抵抗する。何がいけないのか。私はトロンボーンを吹きたいだけ。お兄ちゃんなんて大っ嫌い。
アモロとミミは両親を戦争で亡くした。アモロは自身も幼き頃から、まだ赤ちゃんだったミミを育ててきた。いわば、父のような存在でもある。だから、嫌いという言葉は彼を酷く傷つける。結局、傷心のアモロは力無く、去って行った。
楽団の者たちも、戦争で家族を失っている。だから、皆で共同生活を送る。ミミもその日からその仲間入りをすることに。
妹さんは年頃だからと慰めるデリエに、アモロは反抗期だとイライラを隠せない。家にも帰って来なくなったと嘆く。
昔を思い出す。
父はこの国の軍人だった。軍の音楽隊に入っていた。担当はトロンボーン。
子供の頃、自分も楽器を吹きたいとねだり、父からもらったマウスピース。楽器はまた買ってあげるから、基礎練習をするようにと。家に父のトロンボーンはある。それを吹きたいと言ったら、絶対ダメだときつく言われた。
結局、そのまま。戦地に赴いた父は戦死した。母は、侵略してきたカルマンドの兵士から、自分とミミを守るために手りゅう弾で自決した。
廃墟となった家から父のトロンボーンが出てきた。形見として今もある。それをミミが持ち出した。
アモロは自分も軍人になった。そして、父があのトロンボーンを吹かさなかった理由を知る。
まだルーエとカルマンドが友好関係にあった頃。父の所属する軍の楽隊はたびたび、カルマンドでコンサートを開いた。
民衆たちは喜んでくれた。しかし、それと同時に政府の支持率が落ちた。
あのトロンボーンは、民衆を扇動する。いつしか、カルマンドはルーエに不信を抱くようになり、関係に亀裂が走る。その行き着いた先が戦争。
父は、自らが戦争を知らずに引き起こしたと悔やむ日々だったらしい。戦死したのも、その責任を取るつもりの覚悟だったのだろう。
楽団はライブを開催することに。
もちろん、ミミも初舞台。
多くの人たちが集まる。そして、トロンボーンの音色に皆が聞き惚れ、熱い拍手を送る。
こんなことは楽団でも初めて。
ハリーとニーナは複雑な表情をしている。
そして、遠くからその姿をシュピッツィヒ中佐が見て、何かを確信した表情。
そんな中、テロ事件が勃発。カルマンドが関与している可能性があるために、軍は進軍を決定する。
アモロは、そんなことをしたら市民が巻き込まれると反対するが軍部決定に逆らうことは出来ず苦悩する。
しばらくして、楽団に軍部より、演奏中止、楽器の回収の通知が出される。
アモロとデリエがやって来るが、ニーナが機転を利かせ、メンテナンスをしてから渡すと猶予の時間をもらう。
ハリーとニーナが、トロンボーンのことを話す。
カルマンドの人たちを魅惑したトロンボーンのことを。
いつしか、その話は、このトロンボーンが、人の願いを叶えるものだということになっているらしい。
だから、軍部はそれを戦争に利用しようとしている。絶対に渡してはいけない。
楽団の皆は、各々の力を活かし、軍部に抵抗する。
フレッツはエンジニアの力で兵士たちを吹き飛ばす。キャンディは色仕掛けで兵士に下剤を。
アモロがようやく、楽団の下へ。
そこには、ハリーとニーナがいた。二人は、自分たちがカルマンド人、それも軍部出身であることを明かす。ルーエの好きなようにはさせない。トロンボーンを戦争に利用はさせない。
その言葉にミミも同調する。
しかし、アモロは父のことをミミに告げる。トロンボーンによって戦争を引き起こしてしまった父の苦悩を。そのトロンボーンは願いなんか叶えない。ハリーに騙されている。軍部は戦争に利用するつもりはない。悪用されるのを防ぐために、回収するだけなのだと。
そんな中、ミミが突然倒れる。
そこにカコが現れる。一緒にいたキャンディは睡眠薬で眠らせてやって来たらしい。
先の戦争でカルマンドで流行った感染症。そのウィルスをミミに飲ませた。自分はその特効薬を持っている。トロンボーンと引き換えに渡すと。
カコもカルマンド人。あの戦争で、幼き妹を感染症で失った。当時、自身も幼かったカコは、自分にはどうしようもなかった。ルーエの軍部に潜り込み、薬が欲しいとお願いした。ダメなことなど当たり前だと分かっていたが、他に方法など無かった。でも、突き飛ばされてお終い。妹は死んだ。
いつか、ルーエを潰してやる。そう思って生きてきた。
アモロは、カコと自分の昔を同調しているのか、何も言えず、ただ弱っていくミミを抱き締めている。
その時、発砲。中佐の撃った銃弾がカコの足を貫く。
特効薬を渡さないと殺す。実力行使。銃口がカコの方を向く。
その前にフリッツが立ちはだかる。よく分からないけど、カコは家族だから。
カコは、もういいと特効薬を渡す。
しかし、もうミミは息をしていなかった。
思い立ったかのように楽団の皆は演奏を始める。そして、アモロにトロンボーンを渡す。
必死に想いを込めて鳴り響く演奏。
そう。このトロンボーンは人の一番奥深いところにある願いを叶える。
ミミは息を吹き返す。
港にハリーとニーナがいる。いい雰囲気だ。
それを壊してしまったシュピッツィヒ中佐。
みんな、カルマンドに帰る。
ルーエとしては、今回の事件はテロ行為にもあたることだったろう。強制送還という形とはいえ、命を残して帰国させるには、きっと軍部説得に中佐も苦労したことだろう。国交が回復するまでは絶対に戻るなという言葉が、その厳しさを物語っている。共に軍部の人間同士、その規律を守る中でも、本当にしなければいけない自分たちの任命は分かり合えているようだ。
遅れてカコもやって来る。
結局、カコがミミに飲ませた薬は仮死となる薬だったらしい。家族が死んだ悲しみを誰よりも知るカコ。よく考えれば、あの優しいカコが、あんなことが出来るわけが無い。また、戦争が起こってしまう。ルーエを潰すと言いながらも、きっとルーエも、もちろんカルマンドもずっと平和で誰も不幸な死を遂げない世界であって欲しいという願い。それを脅かされる状況への焦りがあんな行動に走らせたのかもしれない。そして、自分の本当の気持ちを気付かせたのはフリッツの、損得関係なしに、家族、友達だという本当の心の言葉だったようだ。
ただ、彼が持っていた特効薬は本物だった。ずっと開発を続けていたようだ。もう、二度と妹のような不幸な死が無くなるように。彼は医者として、彼が出来ることを、皆が平和に過ごせる世界を実現するべく頑張り続けていたのだ。
キャンディはカコに想いを寄せている。そのことをフリッツは知っている。だから、カコが裏切ったことなど言えない。幸い、睡眠薬で眠っていたので何も知らない。全ては皆の心の中にしまっておくことに。
カコはキャンディに別れを告げる。自分の母国で飼っているサルとキャンディがそっくりだったから、ついつい可愛がってしまったと乙女心を傷つけるようなことを言って。本気の女心分からずの朴訥男だったのか、下手な言い訳を語れる機転の利く要領のいい男なのか。
ただ、フリッツにキャンディを頼むと言って船に向かう。
アモロとミミは、家でトロンボーンの取り合い。
楽団の皆とは国を隔てて別れることになったが、楽団の精神はいつまでも変わらない。
皆で仲良く、楽しく。
その祈りが世界に届き、叶いますように。
父の残したトロンボーンはこれからも、人々の本当の願いを叶えるべく、残された者たちにより奏で続けられるのでしょう。
戦争が残した傷跡の大きさが浮かびます。
ルーエもカルマンドの人々も、多くの人が大切な家族、友達を亡くしているという事実。
勝敗関係なく、戦争によって、おかしな話、そこだけは平等に大切なものを失っている。
戦争が無ければ、普通に家では家族と暮らし、外では友達と遊びという生活を過ごしていたはずなのに。
でも、この作品の登場人物は、皆、大人になって何者かになっています。
職とはなっていない者もいますが、軍人、医者、エンジニア、シンガー、ミュージシャン、洋裁屋・・・
多くを、大切なものを失っても、その厳しさの中から、何かを学び、得て、生きたという証でしょう。そこに生きる力強さが感じられます。
楽団、ガウデンテ。
私は観ているうちに、この存在が悲しく映りました。もちろん、楽しい人たちの明るく元気な演奏は素敵です。
個々が様々な楽器を担当します。それは個性と同じように、その楽器を通じて、自分だけの素敵なメロディを奏で、皆と協調しながら、素敵な音楽を創り上げていくわけです。
その一方、楽団の皆は、上記したように戦争で大切なものを失いながらも、自分たちで掴んだ経験や知識、技術を持っています。
医学、工学、歌、洋裁などなど。
この各々の得意を活かせない環境におかれているように思うのです。唯一、活かしているのが軍人。
そのことがとても悲しく感じます。
きっと、15年前はまだ子供で、戦争の悲しみを知っている人たち。その人たちが、恐らくは平和を祈り、懸命に生きた先に、まだ戦争というものがはびこっているからこんな環境になっているのではないかと思うと怒りがこみ上げていきます。
ただ、そんな活かせない力を受け止め、発揮する場を与えてくれるのが、もしかしたら、こんな楽団のような芸術の世界なのでしょうか。
そう思うと、その力の集まりは強大です。歴史上、戦時において、芸術が迫害されることが多いのは、そんな脅威を示唆しているのかもしれません。
トロンボーンは本当に願いを叶えるものだったのではないかなと思います。
父はきっと両国がいつまでも仲良く、そして子供たちの未来に幸あれと願っていてた。だから、その音色は戦争を考えていたカルマンドの政府を変えようとした。
ミミは楽団の皆と一緒にいつまでもと願っていた。だから、その音色がお客さんをたくさん連れてきた。
アモロは、妹の命を救いたかった。仮死だったにしても、だから、その音色と併せて、皆で奏でるメロディが息を吹き返させるという奇跡を起こした。
トロンボーンは、いつも、願いを叶えているのに、それを違う方向に持っていってしまうのはきっと人間の負の感情。
この世は美しく、希望に溢れている。
それを美しく無いように見せて、希望を見えなくしてしまっているのは人間なのでしょう。
人間の愚かさに愕然としますが、ただ失望していても仕方ありません。
自分もその人間なのですから。
きっと何かが出来るし、この作品の登場人物たちも、自分が出来ることを各々やって、最後、両国の平和への道しるべを残したように思いますから。
ちょっとした相手への想いが、拡がり、きっと世界を良き道へと導いてくれるはずです。
楽団の人たちは、カルマンド人とルーエ人、両方いて、あたかも家族のように互いに大切な存在だったわけです。皆にとって、きっとカルマンドもルーエも故郷となることでしょう。
大きく言えば、この地球自体が皆の故郷だ。
どこそこの国を守るとか、自国、敵国とかではなく、私たちは今、この地球に生きる人たち皆を大切な家族と想い、誰一人不幸になんかなって欲しくないし、ましてや死んでしまうなんてことの無いような世界にするという祈りを持ちたくなる作品だったように思います。
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コメント
SAISEI様
そういう結末だったんですね。ありがとうございます。最後まで観れず残念でしたから。
この土日は京都ツアーですか(笑)よんぽさんの公演来られるだろうと思ってました。千秋楽やったんですね。
四方さんは昨年11月の劇団衛星『サロメ』が初見、壱劇屋『ゴールドバンバン』が2回目だったかな。
今回SKプロデュース観れて良かったです。SAISEIさんの影響も少しはあるんですよ。
投稿: KAISEI | 2015年10月19日 (月) 16時57分
>KAISEIさん
結末見れずだったとのことで、ラスト少し詳し目に書きましたが、お分かりいただけたでしょうか。
テーマが重厚だっただけに、ほのかに温かみを感じさせる話の締め方は良かったように思います。
四方さんはいつも前向きで全力な素敵な女性だと思います。その方が創られる、少し毒も含んだ優しい物語が好みなんだと思います。
投稿: SAISEI | 2015年10月19日 (月) 18時22分
SAISEI様
お気遣い頂いたのだと思ってました(笑)
私はミミが息をしていないところで出たんです。16時から仕事で15時45分に京都駅を出ないといけなくて。15時29分に会場を出ました。ホームページには2時間15分とあったのかな。千秋楽だいぶ延びてませんか?(笑)日曜日13時は5分遅れで始まったので間も休憩があったのでギリギリかな、と思ってましたが。
開始時間遅らすのも劇団によって違うしね。遅れたところは定時開始、間に合ったところは遅らして始まることが多いような感じがする(笑)
SAISEIさんよんぽさんのこと変な意味でなくて好きですよね(笑)『ダークキャッスル』DVD 感想も今日読みました。
いろいろなことに挑戦されているみたいで。あらすじを見ているとファンタジーっぽいですが現実世界に近い物語だったのではないかな。
投稿: KAISEI | 2015年10月20日 (火) 01時25分
SAISEIさん
今回も丁寧なご感想をありがとうございます。
座組のみんなも喜んで読んでおりました。
私の伝えたかったこと、想いを、本当によく読み取ってくださってたんだと感動し、もう何度も読み返してしまっています(笑)
相当な勝負作でもあった今作品をSAISEIさんにもしっかりと見届けていただけて嬉しかったです!
これからも頑張ります!
投稿: 四方香菜 | 2015年10月22日 (木) 11時14分
>四方香菜さん
コメントありがとうございます。
四方さんの作品に込めた想いをどこまで汲み取れたのかは分かりませんが、自分なりに心に響く作品だったと思います。
いつもは、巧妙に計算された脚本に一番の魅力を感じるのですが、今回はそれに加えて、一人一人が役の想いを前向きに思いっきR表現されている熱が素敵だったように感じます。
仕事との兼ね合いもあるから大変でしょうが、また、公演を拝見できることを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2015年10月24日 (土) 20時02分