さらば、トレイン仮面【崖淵五次元】151012
2015年10月12日 OVAL THEATER (120分)
話の流れと伏線回収が、もう少しスムーズだと私にとっては完璧でした。
個性的なキャラを巧く掛け合わせ、テンポ良く展開。
狭い舞台に多人数。ゴチャゴチャさせずに、躍動感溢れる盛り上がった熱い空気を醸す、エンタメ的な魅せ方は特筆すべきでしょう。
夢と現実。自分の人生。
その捉え方、進み方を、あるしょぼいヒーローに魅惑された3人の男の姿から導き出されるような話でした。
交番勤務の警官、ユダ。
今日も、近所の若い者に未だ色目を使ってくるお喋り婆ちゃん、フエさんの相手をしている。迫られても困ったものだ。自分には、小学校の時の同級生、よっちゃんという守らなければいけない愛する妻がいるのだから。
そんな中、小学生からの友達、コーシローが飛び込んでくる。大学以来の再会。ヤクザに追われている。かくまってくれと。
とにかく事情を聞く。
コーシローは、フリーターでピザ屋の配達員。ヤクザの事務所に配達に行ったところ、若いチンピラ3人組のくだらないケンカから発展した抗争に巻き込まれる。銃声に驚き、ピザを放り投げてしまう。ピザは見事に組長のハゲた頭にかつらのように載っかって。
組長は何も喋らずただただ怖い顔をしている。その張り詰めた空気を楽しんでいるかのような組長の横にいる女、フウカ。
若頭のテツは、ケジメはつけてもらわないといけないとチンピラ3人組がコーシローに迫ってくる。
トレインスター。コーシローはその言葉と共にチンピラに体当たり。その場を逃げ去る。
しかし、チンピラ3人組に追い込まれてしまう。絶体絶命。助けてトレイン仮面。
すると、颯爽とトレイン仮面が現れる。事情は分かっている。さあ、ここは私に任せて逃げなさい。
コーシローは、何とか逃げ切り、交番までたどり着いた。
トレイン仮面。
まだ、そんなことを言っているのか。ユダは呆れた口調でコーシローに語りかける。
いつまで夢を追っているんだ。
1999年。小学生3年生。
ノストラダムスの予言により世界は破滅するという噂が流れ、世はポケモンやらデジモンやら、モンスターなんかが流行っていた頃。そんな時に、トレイン仮面は大阪のローカルヒーローとしてテレビに現れた。駆け込み魔人はじめ、大阪のマナーを守るために戦うヒーロー。必殺技は電車のスピードで走り、相手に体当たりするトレインスター。
クラスでは、全く人気が無かった。でも、コーシローは、彼こそ大阪を、日本を、世界を救うヒーローだと皆に語りかける。
当時、走るのが早く、クラスでも人気者だったコーシローの言うことなので、みんな、耳を傾けるが仲間を増やすことはできなかったようだ。
コーシローとその妹、チビはいつもトレイン仮面ごっこをしていた。
ユダは、誘われるけど、いつも勉強があるからと断る。家が貧乏だから、将来、いい職に就かないと。自分のようになるなと言う親のためにも。夢は見ない。見るのはいつも現実と決めている。
でも、借りたビデオ見て、少しだけ。何かに期待、救いを求めていたのかもしれない。
そんなトレイン仮面も、必殺技が人身事故をイメージさせると放送中止に。
中学生になってからは、互いに陸上部に入った。
ユダがコーシローに勝つことはなく、コーシローは相変わらず、クラスの人気者。
高校は別々だったが、続けて陸上部に。
この頃からユダは、マネージャーになったよっちゃんと付き合い始める。
高2の大会。ユダはコーシローに勝つ。
こうなることは、ある程度は想像できた。コーシローの体は走ることに向いていない。ただ、走ることだけを考えていたら、いつか限界が訪れる。向き不向き。夢だけ見ていても、現実は厳しく突き刺さってくる。
それでも、そんな事実を認めたくないコーシローは、大学でも陸上部に入り、勝負を挑んできた。
その勝負が実現することはない。ユダは、その頃、警官になるべく、勉強するため走ることを辞めた。
ユダは、未だ夢を追ってフリーターのコーシローを見詰める。その目は、自分と比べて明らかに違う。どうして、あんなに生きた目をしているのか。あらゆるものを手に入れた自分の目はなぜ、今、死んでしまって見えるのか。
ユダに電話がかかってくる。ユダは顔を曇らせてなかなか電話に出ない。よっちゃんじゃないのかとコーシローが尋ねるが、うやむやな返答。奥の方へ向かい、ようやく電話に出る。
その間に、よっちゃんが忘れていた弁当を持ってきてくれる。コーシローは、よっちゃんの変わりっぷりに驚いている。まあ、お互い様ではあるが。
ほとぼりもさめたようなので、コーシローは交番を立ち去る。
翌朝、ユダは休みの日。でも、朝早くからよっちゃんに起こされる。
テレビでコーシローが映っている。
麻薬売人の疑いがある男が逃亡。現在、フエさんを人質に立て籠もり中。
家にチビがやって来る。久しぶりの再会だが、それを喜んでいる場合ではない。
とりあえず、コーシローから連絡があって、事情は聞かされているようだ。
交番を出た後、なぜかすぐに3人組に捕まる。ボコボコにされて、気絶した隙に白い粉をつかまされる。
3人組は警察に連絡。あの男が麻薬の売人だと。
警察がやって来て、逮捕されそうになった時、再びトレイン仮面が。
コーシローは必死に逃げるが、何やらエロポリスたちが追ってくる。
そんな中、フエさんとぶつかり、ふっ飛ばしてしまう。病院に連れて行かないと。
そして、病院から出たところを取り押さえられそうになる。仕方なく、フエさんを人質にして、フエさんの家に立て籠もっているのだとか。
何とも不運な話ではあるが、ユダはフエさん宅を訪ねることに。
訪ねるとコーシローもフエさんも元気そう。
どうするか。そこにトレイン仮面がやって来る。
どうもおかしい。このトレイン仮面は自分たちのことを知り過ぎている。
正体を現せと、マスクを外させると、そこにはヤクザの若頭の顔が。
ユダは顔を曇らせる。
知っている男。美人局で脅されているヤクザ。と言っても、フウカという女性に無理やり抱きつかれたところを3人組に写真を撮られたようだ。
その3人組に脅されており、昨日、コーシローが交番にいた時にかかってきた電話もそんな脅しの電話だったみたい。要はユダは、コーシローを売ったらしい。
偉そうなことを言っていて、そんなものかと怒るコーシローに、ユダはお前がずっと羨ましかっと言う。夢を追い続けて。ずっと。今も目を輝かせて。自分にとってのヒーローはずっとコーシローだった。
自分はずっと我慢。夢を捨て、現実を見るしかなかった。努力もたくさんした。それで、行き着いた先は確かにこんなもんだ。
コーシローは、ユダに語る。お前はもうヒーローじゃないかと。警官になって街の平和を守り、大切なよっちゃんを守り。
2人にとって、互いにヒーローだったトレイン仮面が語り出す。
今は、ヤクザのテツ。彼はトレイン仮面を演じる役者だった。
妻のまどか。貧乏暮らし。いつか、本格的な役者になって、デカい夢を叶える。
そんなことを言っていた頃に、突然転がり込んできたチャンス。トレイン仮面。
しかし、なかなかいい演技はできず、監督や共演者から叱られる日々。
心身共に疲弊し、まどかにも当たるように。
そして、打ち切り。
また、別の道でやり直せばいいと言うまどかに、テツは別れを切り出す。
俺は、まだ役者を辞めない。才能がなかろうと夢にしがみつく。まどかは去っていく。
何事も上手くいかず、自暴自棄になって町を彷徨う中、今の組長に拾われた。
コーシローから、トレインスターという言葉を聞いた時、あの時の気持ちが再燃した。
フエさんが倒れる。
ユダは抜け出して病院へ連れて行き、再び戻って来る。
頭の使い過ぎ。そんな馬鹿な話と思うが本当にそうらしい。昔、別れた娘のことをずっと思っているらしい。
テツが話を聞くとピンとくる。性欲に強いババアの娘。フウカに違いない。きっと会えば、フエさんも元気になることだろう。
テツは、ここからの脱出、そしてそれからのことの作戦を立てる。
テツはトレイン仮面の格好をしている。だから、誰かは分からない。コーシローとユダはトレイン仮面に全ては脅されてしたことだと言いながら家を出る。
その隙にテツは逃げ、トレイン仮面の衣装を脱ぎ捨てて、ヤクザ事務所へ。そこでユダの写真を盗み出し、フウカを説得して病院へ。その後は国外にでも逃げてカタギになるつもりだ。
名付けて、さらば、トレイン仮面作戦。3人にとってのヒーローは、全てを引き受けて、自分たちに未来を託してもらう。
ところが、よっちゃんとチビから電話。
3人組に乗り込まれて人質に。
テツがトレイン仮面だということにも気付いたみたい。
ヤクザと警官、麻薬売人がグルだったと触れ回り出す。
コーシロー、ユダは、多数の警官に追われながら、何とか病院に。コーシローは、面が割れているので、テツからトレイン仮面の衣装をもらった。
テツは予定通り、ヤクザ事務所に。なかなか母に会いに行くと言わないフウカに、自分のフウカへの想いを告げて説得。連れ出し、病院へ。フエさんと再会を果たす。
病院にヤクザの追っ手。警官も。
テツはフウカ、フエさんを連れて逃げ出す。あの頃とは違って今なら女を守れる。そんな時間をくれた組長に深く感謝して、大切な人を守る本当のトレイン仮面のようなヒーローになる。ハワイにでも行って、やり直すか。
コーシローとユダもひたすら走って逃げる。
今、トレイン仮面であるコーシローは、テツの作戦通り、自分が全ての犯人だと言い放ち、線路を走る。ユダも並走する。
まだまだ夢は捨てない。トレイン仮面の後を引き継ぐかのように未来を見詰めて走るコーシロー。
大切な人の下へ。ヒーローであることを自覚して、これからの人生を歩むユダ。
あの頃、勝負をしていたように・・・
ユダもコーシローも互いにヒーローだった。それをずっと繋いでいたトレイン仮面みたいな構図でしょうか。
コーシローは、トレイン仮面に夢を抱き、こうなりたい、誰よりも速く走りたい、みんなの幸せを守りたいみたいな、色々なものを手に入れたいと突き進んでいます。でも、具体的にどうするかは無く、最終目標の形も不明瞭なので、夢を叶えるというかは、ただひたすら追い続けているだけのように見えます。
ユダが手に入れたいと思っているものは、比較論で、自分に欠けていて、相手が持っているものを欲している。だから、自己嫌悪や妬みの心が顔を出してしまう。欲しいものなど、いくらでも無限に出てくるので、いつまで経っても、自分の最終形にはたどり着けない。不安や苛立ちが募るだけ。夢を追っているだけで、掴むことは決して出来ないような感じでしょうか。
テツは一番、自分の達成したい夢の形がはっきりしているようです。でも、その道を歩むには、自分自身の体力や技術が足りない。いつしか、道を彷徨い、自分の行き着きたい夢の場所は分かっているけど、そこに向かって進めていないような状態みたい。
夢を追うっていうのは、難しいことだと思います。
ただ、がむしゃらに走ればいい訳ではないし、そうかといって戦略立てて理論的に攻めていっても壁にはぶち当たる。乗り越えられなくて断念せざるを得ないのだけど、まだ、その道とサヨナラすることは出来ないでいる。
この作品中の3人は、各々、夢の追い方に欠けたところがあったように感じます。
それを、各々、こんな出会いで、感じ合い、分かち合い、どうしたらいいのかを掴んだようです。
このままではいけないと思っていた漠然とした不安が解消され、自分自身を変化、成長させる勇気を互いに得たのではないでしょうか。
みんな、自分が正しいと信じていた道を必死に突き進んでいたことだけは間違いありません。
だから、その力が、各々の幸せへの道へと必ず導いてくれるように思います。
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コメント
SAISEI様
いつもこのような記事にして頂き、ありがとうございます。
初めて本の作り手としても感想を貰え今までにない嬉しさがあります。
今年は私の演出する公演を2本共観劇頂きありがとうございました。
来年は、座長・岩橋功の演出に戻ります。
今後とも、崖淵五次元を宜しくお願い致します。
投稿: 林和弥(崖淵五次元) | 2015年10月13日 (火) 18時14分
>林和弥(崖淵五次元)さん
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
本は、流れがちょっとごちゃついた感が残りますが、男のヒロイズムと人生が、切なくもたくましく描かれていて、面白味あるものだったと思います。
演出はピカイチじゃないですか。
あれだけ、舞台を熱気で包んで、魅力的にする力は。
また、崖淵五次元はじめ、色々な舞台でお会いできるのを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2015年10月14日 (水) 08時57分
SAISEI様
これも候補に入れてたんですけどね(笑)ここも一度行きたいんですが(笑)
投稿: KAISEI | 2015年10月17日 (土) 23時22分
>KAISEIさん
若い劇団にありがちな、盛り込み過ぎて、芯がぼやけるところが多々ありますが、熱さと魅せるエンタメ演出で、しっかりと楽しめる作品創りをされている劇団かと思います。
合わないリスクはありますが、お薦め出来る劇団です。
投稿: SAISEI | 2015年10月19日 (月) 18時12分