片付けたい女たち【劇団センマイる】150927
2015年09月27日 CAFE SLOW OSAKA (90分)
笑いの絶えない会話の中には、切なく痛ましい歳をとること、それも女性としてという厳しいテーマがある。
それでも、そんな厳しさを吹き飛ばすくらいに、まだまだやってやるよといった、強い覚悟、そして、それを色々な悩みを抱え合う友と共に乗り越えるという深く強い絆が見えてくる。
部屋のお片付けと、人生の整理整頓を同調させながら展開する会話劇。
話としての魅力はもちろん、演じる3人の女子大生が等身大の50代を演じている姿が非常に素晴らしい。
歳をとることを、歳を重ねるなんて言うけど、この作品の登場人物たちも、様々な経験の中で、歳を一つとるたびに、何かを蓄積しているのでしょう。
それを綺麗に整理整頓なんてなかなか出来るわけなく、そもそもそれがいつ必要になるのかなんて分かるわけもなく、捨てていいものなのか、これから先必要になるものなのか、今、使うべきものなのかと悩みながらも、結局、とりあえず置いておくみたいな繰り返しが散らかった部屋、乱れた心を生み出すのかもしれません。
でも、それだけ、きっと豊かな心になったのだと言えるのかもしれません。整然としていなくても、きっと引き出しが増えたみたいに。
時に傍観者でなければいけなかった時があるかもしれません。でも、また違う時には、そんな経験から得た何かで、人に寄り添えることが出来るようにも思います。
肌に張りは無くなるし、シワは深まるし、膝は痛いし、老眼で見にくい・・・
出来ることも少なくなる。
でも、その中で、いかに自分が納得出来るような生き方を見出して、様々な視点で物事を捉えられようになった幅広い自分を信じて、進んでいくことが大事なのだと思います。
奥深くなった自分だからこそ、片付けも時間がかかる。
だから、じっくりと、ゆっくりと自分を見詰めて、歩めばいいのではないでしょうか。
連絡がつかなくなったツンコの部屋を訪ねるおチョビとバツミ。鍵は、最近、追い出したという30代の同棲相手、シロウから借りた。
シャレたデザイナーズマンション。借りる時に、おチョビは、こういうところはデザイン重視で収納などの機能性に欠けると反対。なんせ、ツンコは性格が大雑把なのか、それとも逆に神経質なのか片付けられない人なのだから散らかるのが必至だ。かっこいいし、素敵。これを機に片付けられるいい女に生まれ変わろうなんて調子のいいことを言って煽ったのがバツミ。
後先のことを考えないで行動するツンコとバツミ、それを冷静に諌めるおチョビ。この構図は高校時代のバスケ部の頃から変わっていない。悩み多き年頃。色々なことをよく三人で話し合ったものだ。跳び箱の影でしていたから跳び箱会議なんて言っていたっけ。50代になった今となっては懐かしいというレベルをもう超えてしまっているが。
部屋に入ると、想像を絶する散らかりよう。いわゆるゴミ屋敷状態。
ツンコはいない。出掛けてるんでしょ。出直そう。バツミはまた安直にそんなことを言う。
暖房も付いているし、どこかに倒れているのかも。最近、同棲相手のシロウと別れたことは聞いているが円満な別れだったのだろうか。これは事件に巻き込まれた可能性も。おチョビは最悪を想像し始める。
考え過ぎだ。だったら風呂場とトイレを見てきてと言い合いになっている中、ツンコが分が悪そうに登場。この正月休みに有休をつけて、しばらく電話には出ず、インターホンも無視していたのに、無理やり入ってくる奴らがいる。声を聞けば、誰かは分かる。ちょっと脅かしてやろうとゴミの山に隠れていたら、この有様。
まあ、何があったとかは、三人で新年会でもして話すとして、まずは片付けよう。遅くなってもいけないから、30分。全力で効率的に片付ける。こういうことが得意なおチョビをリーダーにして、各自、動き出す。
とにかくどんどん捨てていかないといけないのに、ツンコは分別やらにうるさい。これも片付けられない理由の一つだろう。仕方ないので、その辺の箱や袋をぶちまけて分別用のゴミ入れを作る。仕方がない。ゴミ袋はどこかに埋もれて見つからないのだから。
ちょっと動くと、膝や首にくる。体は正直だ。ガタがきている。歳には逆らえない。
もうこんな歳。老眼もひどいし。
死んでしまった同級生も多い。
死ぬまでにしておきたいこと。そんなことを考える歳になった。そのためには、自分が過ごした人生がどうだったのかを整理する必要があるだろう。
三人は各々、今の自分を語り出す。
おチョビは、高校卒業後、大衆食堂で勤め、結婚。姑にはきつく言われたものだ。初めの頃は客も偉そうな人がいた。一番最初に叱られた客は最近、退職したみたいで、すっかりおとなしくなって感謝の意を残してもう来ることは無くなった。息子は結婚して、嫁が店の手伝いをするかと思いきや、頼られっぱなし。そろそろ自分の好きなことをなんて夢の話みたいな状態。
バツミは、金持ちと結婚して専業主婦。色々あるのだろうが、まあ悠々自適な生活。でも、最近、思う。自分は何ができるのか。肌の張りがなくなり、シワがふえる。人生の折り返し、女としての曲がり角。
ツンコは、大学を卒業し、就職してキャリアウーマンに。いけ好かない女課長にはずいぶんと苦しめられた。でも、最近、その課長職に自分が昇進。素直に喜べない自分がいる。それは女課長が干された理由が部長とのいざこざにある。その時、自分をはじめ、職場の人たちは単なる傍観者の立場を貫いた。学生時代の頃にもそんなことがある。最近、結婚したチヨミがセクハラ指導に合っていた時、私たちは単なる傍観者を決め込んだのではなかったか。最近、亡くなったベトナム反戦運動をしていた同級生が、私たちクラスメートを罵るように言った傍観者の罪という言葉が頭に響く。そして、今、それに悩まされるような、恐らくは女課長からであろうFAXが届いたりしている。
なかなか片付かない。
同時に自分たちの抱える悩み、心の闇もなかなか。
互いに打ち明け合い、分かち合ったりしても、また新たな問題が露出してくる。
結局、ほとんど片付かない。
バツミが車の鍵が無いと言い出し、またひっくり返したりしたから。
でも、ほんの少しだけ。ゴミ袋も出て来た。他にもいろいろなものが顔を見せ始めている。また、それが散らかる原因になるかもしれないが、時間をかけて少しずつやって行こう。
今日は、まず出来ることだけ。また、定期的に集まって片付けていこう。
部屋はそれほど整理されていない。きっと彼女たちの心もぐちゃぐちゃなまま。でも、彼女たちは、これからの残りの人生でやろうと思っていることが少しずつ浮き上がってきているようだ・・・
会話から、登場人物のこれまでの人生や今の環境が自然に想像させられる。
3人とも各々異なる道を歩んでおり、色々な人間関係を経験したり、それに悩まされたりと様々。
色々と置きっぱなしにしてきた人生の数々が今やゴミなのか、大切なものなのかも分からずに散在する。分別しようにも、そのためには一度ひっくり返さないといけないこともある。
とてもじゃないが片付けられない。でも、片付けたい。
このままでは、埋もれてしまうから。
そんな本心をぶつけ合える3人が部屋をお片付けして、動きやすい部屋にするということと、人生の整理をして身動きしやすい環境を作るということが同調されているよう。
傍観者は罪。でも、いつでも傍観者なわけじゃない。自分の人生には責任を持っているし、こうして3人集まれば、互いの人生におせっかいなくらいに干渉しようとする。
そんな3人の温かい絆も見え隠れしながら、そう易々と事は上手くは運ばないという厳しい現実も見せられる。
パンツを脱いだ気持ち。感覚的には、女性が、どれほど歳をとっていようとパンツを脱ぐのは勝負の時だろう。
まだまだ、やりたいことを見つけ、それをやっていく。
人としても、女性としても、まだまだ終わらせないよという強い覚悟。そして、互いに傍観せずに関わり続けるよといった絆の再確認みたいな空気で話は締められている。
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