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2015年9月 7日 (月)

蒸発【intro】150906

2015年09月06日 インディペンデントシアター1st (85分)

雨漏りする家に集まる家族とその関わりを持つ人たち。
もう、その家からは離れてしまった人もいるし、戻って来ないだろう人もいる。
あんなにしっかりと建てた家だったのに、いや、そもそもどこかに手抜きがあったのだろうか。そんな家の緩みは、各々が抱える憎しみや妬み、悩みを溶かした水滴を家の中に降り注がせる。その湿気は、家を不快にし、もどかしいイラ立ち、痒みとなって、皆を苦しめる。
でも、それが家だから。
私たち家族を守ってくれるバリアとして家があるのではなく、私たちがこれまで過ごしてきた想いの塊がそんな家を作っているのだから、その繋がりが緩めば、家にも隙間がたくさん出来る。
壊れたところは、また修復すればいい。隙間が出来ても、そこに埋めるものを家族は持っている。
やがて、もう修復できなくなるくらいに、朽ち果ててしまうその時まで、自分たちが家族でずっといるように、家もそこにある。
そんな感覚を抱く作品でした。

リョウヘイは、妻のゆきを連れて、久しぶりに実家に帰る。
途中、雨に降られて、だいぶ濡れてしまった。
あまりにも久しぶりなのでただいまではなく、おじゃましますって感じ。
家に入ると、床に色々な器が散在している。そこにポトンポトンと水滴。ひどい雨漏り。
あまりのことに、びっくりするタイミングを失っていると、先に帰っていた兄のサトルが、器を持ってやって来る。この状況を受け入れてしまったのか。それとも、兄もまた、びっくりのタイミングを失っているのか。どうやら、答えは後者のようではある。
母はカッパを着ている。台所が特にひどいから、これがベストらしい。
一体いつからこんなことに。お金なら自分がどうにかするからと言っても、母は直す気はないらしい。母がそう言っているのだからそれでいいだろう。俺たちはここに住んでいるわけではないのだから。兄の言い分も確かではある。
なぜか、従兄弟のアツシもいる。相変わらず、お調子者でテンションが高い。
どちらかというと言葉少ない、リョウヘイとサトルには不釣り合いだ。まあ、今回はゆきが、気を使ってなのか、アツシとけっこう意気投合しているみたいなので、空気は悪くないが。
リョウヘイは自分の部屋が気になる。大切な物がまだ置いたままだから。
部屋を見てきて、戻って来るとなぜかイライラしている。勝手に物を動かしただろ。まさか、中を開けたりはしていないよな。触れられたくない物が部屋にはあるらしい。
隣のスマも訪ねてくる。リョウヘイと幼馴染。屋根のビニールシートが剥がれていたから、また、雨が止んだら貼るからと。母はお世話になっているらしく、はい、よろしくなんて軽快な言葉を返す。
リョウヘイのイライラは止まらない。昔、スマを少しだけいじめていたことがあった。そのためか、あまり顔を合わしたくないみたい。でも、スマは馴れ馴れしくリョウヘイに接してくる。もう帰れ。リョウヘイは冷たい言葉をスマにかけて、空気が悪くなる。
アツシの母から電話。元気だったアツシは急にイライラし始め、出たくないと駄々をこねる。どうも、口うるさい母らしく、家出してきたらしい。確かに、あのおばさんは異常なほど、アツシに干渉してくるので、アツシの気持ちも分かる。
リョウヘイはしばらく泊めてあげればどうかと、兄の方に目を向ける。
兄は拒絶。一人暮らしをしているが、それは人が嫌いだから。本当は誰とも喋りたくない。
だったら、うちか。ゆきに目を向けるが、彼女は先ほど雨漏りしている水滴が頭に当たり、神経質に頭を何度も何度も拭いていてそれどころじゃないみたい。
こうして、集まった人たち。
母はテレビも見ないし、新聞も読まない。時間が止まってしまったような生活。
サトルはこの家に無関心のようだ。リョウヘイは何かと声をあげているが、きっとどうしていいのか分からずそうしているだけ。
アツシは騒がしい。スマは生理的に好きじゃない。
犬の上杉さんだけが、冷静にこの人たちを見詰めて、それでも退屈で無機質な時間に何かが起こる期待を少しだけ抱いてる様子。

みんなで回転寿司に行ってきた。
帰ってくつろぐみんな。
確か妹がいたよな。帰って来ないのだろうか。どこへ行ったのか。
もう顔も思い出せない。でも、一緒に過ごした時の思い出だけは残っているみたい。
一人だけくつろげていない人がいる。ゆき。
彼女は、我慢できず、部屋の中で傘をさす。こんな古びた家だ。雨漏りの水滴に化学物質が溶け込み、体に悪影響を及ぼす。元気な子を産まなくてはいけない。だから、悪い化学物質を体に取り込むわけにはいかない。
直に、カナダ、沖縄、北欧かに引っ越して、最適の環境で子供を産むことにしているのだとか。
そんなゆきにスマは嫌悪感を示し、彼女にもどかしい怒りをぶつける。それでも、ゆきの信念には陰りが無い。
また、アツシの母から電話。出ない限り、何度でも電話がかかってきそう。無理矢理、アツシに受話器を押し付ける。泣いている母。子供じゃないから大丈夫だと言うアツシ。
電話を切る。アツシはもどかしい怒りを抱えて、もだえ苦しんでいる。
そんなアツシを見て、リョウヘイは自分たちと一緒に住もうと言い出す。ゆきも同情したのか、構わないと言っている。
とまどっているアツシにサトルが声をかける。自分の意見をはっきり言わなくちゃダメだ。アツシ、お前はここに住みたいはず。母と犬だけの家だから、アツシが一緒に住むことに問題はない。お金は自分がどうにかする。
アツシは、まだ何か言いたそうだが、サトルのあまりにも自信満々の態度に従わざるを得ない状況に。

これで一件落着。
かと思いきや、母はアツシと一緒に住むことをどう思うか、スマに聞く。
スマは反対。だったら、ダメ。
どうしてお前がそんなことを言えるのだ。家族じゃないのに。
その言葉にスマはキレだす。
お前らだって家族じゃないだろ。家をほったらかしにして。そして、たまに帰ってきたら優しいふりをする。
犯罪者のくせに。
その言葉にリョウヘイは青ざめる。
スマの言葉は続く。下着泥棒。
遂にバレてしまった。家族の恥。
でも、サトルも母も、そんなことずっと知ってたと言い出す。
だから何なのか。いつか辞めると思ってたけど、なかなか無理だったんだねえなんて呑気なことを言っている。
スマはリョウヘイの部屋に向かい、大量の下着を持って戻って来る。
一枚一枚をリョウヘイに突き付ける。半分は、妹のやつじゃないの。そりゃあ出て行くわなあ。俺をいじめるからこうなるんだ。
ゆきが声をあげる。
リョウヘイは泥棒じゃない。今は、ちゃんと自分でパンティーを買っている。
可愛いパンティーは化学物質製だから、私は履けない。だから、自分で買ってる。
リョウヘイは呆然とする。
隠していたのは自分だけ。全てはそう思い込んでいただけだったのか。

アツシは、騒ぎの中、別にここに住みたいわけじゃないと言う。ずっと言うタイミングを計っていたみたい。
とにかく母から逃げたい。お前はダメだから、こうしないといけない。ずっと、ずっと、そうだった。母のことを思い出し、イライラしながら語る。
スマは、妹に想いを寄せていたが、ずっと避けられていたらしい。最後まで彼女の心の中に入り込むことは出来なかった。思い通りに事が運ばないイライラ。
ゆきは健康な子を産まないといけない。そのために最適な環境でなくてはいけない。それがこの家では無いことを確信し、リョウヘイに新しい環境へと向かうことを迫っている。
ここはもう家じゃない。母は叫び出す。
じめじめ、じめじめ。ずっとこのまま。妹は出て行き、お前たちも出て行き、このまま腐って朽ち果てる家だ。
どこから湧いてくるのか、そのイラ立ちは、もどかしい痒みとなって、みんなは体を掻きむしっている。
そんな姿を尻目に、犬の上杉さんは、この家を去る。

どうしてこうなったんだろう。
一通り、思いの丈を吐き出して、落ち着いたのか、みんな座り込む。
サトルがケーキを取り出す。
誕生日だったっけ。妹の生まれた日だったかも。
ケーキをみんなで分けて食べながら、・・・

淡々と話は展開。
ところどころ、感情が爆発しそうになったら、コンテンポラリー風のもどかしさを表現したような歪んだ姿を見せる。
匿名劇壇とかで似た演出の作品があったかな。パンクしてしまいそうな時に、人はパンクしないで、その歪んだ感情を蓄積する。そんな感覚。
心情表現を普通の言葉や演技だけに依存せず、身体表現や映像、音楽も駆使して、よりリアルに迫ってくるような印象が残る。

家には家族がいて、その家族たちの想いが、喜びや楽しさと同時に、憎しみや妬みも交えて蓄積する。
ぎゅうぎゅうに詰まる。
でも、その家から、家族が出て行くと、その詰まりが緩む。
その緩んだ隙間に、この作品では雨漏りみたいな感じか、外的要因が入り込んでくる。
入り込んできた水滴は、その想いを化学物質のように溶かして、家にいる人に降り注ぐ。懐かしきよき想いもたくさんあるのだろうが、目につくのは憎しみや妬みみたいな負の感情なのかもしれない。それは家を湿らせ、不快にさせ、そのままでは家を腐らせてしまう。
家族の想いって凄いから。絆って絶対に切れないから。
それが家をまた元に戻すなんてことは、幻想だろう。
家族に大きなものを求め過ぎ。家族はちっぽけなものしか与えてくれない。でも、その数は共に過ごし、離れていても切り離せない縁で繋がった時間分だけあって、たくさんあるように思う。
そんなちっぽけなものが、隙間を埋めて、家を修復する。隙間に埋めるものは、小さくても固くてしっかりした核となるようなものの方がいいはずだ。家族はそれをきっと持っている。
家は再生しない。長き目で見れば、腐り朽ち果てていくのだろう。でも、少しでもその家をもたせたいから、いくら壊れても、そこを修復してみようとするのが家族の考えじゃないだろうか。
何度でも繰り返される壊れと直し。未だ壊れず新しいままの場所、直し切れていなかったり、修復不可能な場所もいっぱいある家。
そんな家の姿は、その家族自体を表した素敵なものであるように感じる。

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