真昼のジョージ【劇団子供鉅人】150903
2015年09月03日 HEP HALL (80分)
ある男の夢と現実を交錯させた二重構造になっている話。
さえない現実から、ある女性への不毛な愛によって輝く夢の中へと入り込む。
しかし、厳しい現実はそんな夢の世界を脅かし、浸食してくる。
男が最後に行き着いた夢の中での絶望。
物語はそこから始まるというようなラストを迎える。
男は戻るしかない現実の世界の中で、これまで気付かず、目を背けてきた本当の愛を知ることが出来るのか。
愛の不毛と救済の物語。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>
ニシムラジョージ。
中学卒業の時に苗字は捨てた。
自分にあるものは、漆黒のマグナム、親父の形見のカウボーイハット。
33歳の誕生日に母親を撃ち殺した。その誕生日ケーキのろうそくの火は家を全て燃やした。
西へ向かう。孤独なカウボーイ。
ダンボール工場の夜勤に入る。
昼間は、人妻風俗。そこで出会ったまひる。彼女との数々のプレイ。オプションの息子カルロスと三人で食卓を囲み、その後セックス。彼女は自分の輝く太陽だ。
まひるのことを考えたら、自分のマグナムがおさまりがつかない。夜勤のパートはおばちゃんばっかり。
いきりたったものを見て、騒ぎ立てられる。暴行未遂の疑いをかけられ、おばちゃんたちに罵られる。主任はねちっこくクズ呼ばわり。
そんなある日、いつものように店に行くと、まひるがいない。失踪したのだとか。
店長や、風俗嬢に行き先を聞いても誰も知らないと言い張る。怒りに任せて発砲。一番不細工な風俗嬢が撃ち殺される。
現れた赤毛のチャーミー。彼女を連れ去ったのは、真夜中のジョージ。52回の結婚と離婚を繰り返す伝説の風俗嬢。彼女の最初の夫らしい。
店長はまひるの夫。彼がまひるを売り渡したようだ。
だったら、まひるの次の夫は俺だ。久しぶりに真夜中のジョージと会いたいと言うチャーミー、なぜかカルロスも一緒に車を飛ばして、まひるを追うことに。
行き先はワイルド牧場。そこが真夜中のジョージが営む場所だ。
ジョージはお尋ね者。途中、チャーミーの何番目かの夫の保安官に追われ、振り切る中で車は大破。カルロスをどこかに落としてしまった。
必死に走って向かうジョージだったが、チャーミーのおかげで、保安官の協力も取り付け、再び、どこかから奪った車で牧場へ向かう。保安官はまだチャーミーへの愛を残していたようだ。それはきっと、チャーミーも。
一方、まひるは、ジャンボという真っ黒な男と共に真夜中のジョージの下へと向かう。真っ黒な男は強い。奴隷として農園で働いていた頃、ボスを殺し、その引きずり出した心臓を首に掲げている。旅行中の若者集団の車を奪い、まひるを連れて行こうとするが、その車はキーを持っていかれて動かなかった。
夜空には、農園で亡くなった数々の奴隷たちの星が瞬いている。
まひるとジャンボは二人で逃避行を決断するが、まひるはジャンボを本当に愛しているわけではないし、ジャンボも煮え切らず、結局は真夜中のジョージの下へと向かうことになる。
工場でのジョージへのおばちゃんたちのいじめはどんどんひどくなる。
自分に好意を寄せているおばちゃんがくれた夜食パンを持っているだけで、今度は強盗呼ばわり。
夜食パンをくれたおばちゃんは、やけに親しげにしてきて、今度は弁当を作ってくるなんて言ってくるが、冗談じゃない。俺に構うな。
工場長から呼び出し。遂に首だろうか。
部屋に向かうと、知っている顔が。学生の時、工作クラブで一緒だった後輩。
この工場の跡取り息子らしい。
何にもない田舎町。でも、こんな町でも楽しめることがあるのだとか。
それは、夜勤パートのおばちゃんを食うこと。真夜中の情事だ。
先輩だから、女をあてがうようなことを言われるが、自分の本当に愛する女はまひるだけ。
部屋を飛び出すと、おばちゃんが弁当を持って待っている。
自分には弁当を作ってくれる人がいる。一緒に食べる子供だっている。
ジョージはそのおばちゃんを拒絶する。
ある日、ジョージは工場で、まひるを見る。新しく夜勤パートに入ってきたらしい。
俺だと叫んで、抱きついても、覚えていないようだ。
今度は、疑いではなく、暴行の現行犯。おばちゃんたちに取り押さえられる。
まひるは、いきなり工場長に呼び出されている。ということは、あの部屋で。
ジョージは、許せないと工場長の下へと走り出す。
おばちゃんがケーキを持って立っている。
ずっと好きでした。過去形。あなたの邪魔はしたくないから。
35歳の誕生日を祝わせて欲しい。
でも、今のジョージにそんな姿は見えない。
色々とあったが、ジョージはワイルド牧場にたどり着いた。
そこでは、まひるは真夜中のジョージに小屋に監禁されていた。
ジョージは、手にするマグナムでまひるを救い出そうとするが、小屋の周りにはガソリン。火を持って脅す真夜中のジョージに手も足も出ない。
その時、はぐれたカルロスが現地のインディアンたちを連れて登場。
家族の絆。自分たちの愛は誰にも邪魔させない。
逃げ出す真夜中のジョージにまひるは銃を向ける。
しかし、真夜中のジョージを撃ったのはチャーミーだった。
真夜中のジョージに惚れてしまったチャーミー。でも、弄ばれ、捨てられる。そして、数々の男性遍歴を繰り返す風俗嬢にまで身を落とした。生まれ変わりたい。そのためのけじめ。
これで生まれ変われる。そんなチャーミーにまひるは銃弾を撃ち込む。
生まれ変わるなら、死んだ方が早い。同じように身を落とした現実を知る者だからこその優しさだろうか。
ジョージはまひるに近づき、再会を喜ぶが、まひるは全く覚えていない。
単なる客。いちいち覚えてなんかいられない。
ジョージはまひるに銃を向ける。
まひるの遺体をダンボールに詰め込み、一緒に家に帰ろうと運ぼうとする。
手伝ってくれとカルロスを呼ぶが、カルロスなんていない。
35歳の誕生日ケーキのろうそくの火は全てを燃やす。
ジョージは、自分には帰る場所が無いことに気付く・・・
舞台セットや小道具が全部ダンボールという、安っぽさを見せながら、なぜか全体としてはクオリティーの高さを感じてしまう不思議な舞台。
見せ方の工夫や、それを使う人たちの熱で、いくらでも輝いて見せられるという点は、この話の中に込められていることにも繋がっているようです。
工場長と真夜中のジョージを同調させて、ジョージの夢と現実の世界を交錯させて話を展開させる。
現実ではさえないダメ男、ニシムラジョージが、夢の世界では、孤独なカウボーイ、ジョージとして愛する人を救い出す勇敢な男として描かれます。
でも、しょせんは夢の世界。現実の厳しさの力の方が強いらしく、その世界はどんどん現実に浸食されてしまいます。
現実から夢に逃げ込んでも、現実はその夢にまで入り込んで襲い掛かってくる。逃げ場がないなら、現実に立ち向かうしかない。でも、ジョージはあくまで夢に逃げ込み、その奥深くまで潜り、彷徨ってしまうことになります。
現実では、何もうまくいかず、くすんでいる男。自分を照らして輝かせてくれることを一人の女性に依存したことから、夢の世界が始まる。
夢の中では無条件に輝くことが出来る。
でも、その現実では、女性への愛は不毛でしかなく、輝く先など無い。
母が自分を無条件に想ってくれる愛。
ありのままの自分の良さを見出してくれて、想いを寄せてくれたパートのおばちゃんの愛。
ジョージは、本当の愛を見過ごしてしまったようです。
この作品は愛の不毛と救済の三部作の第二弾と称されています。
(第一弾:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/115-cbf9.html)
愛の不毛は痛いほど伝わりますが、ラストの一人、夢の中に取り残されたかのようなジョージの姿に救済の念は全く感じません。
ここは、この後のこちら側の想像に委ねられているのでしょうか。
現実でも孤独。華やかだった夢の世界でも結局は最後に一人っきり。
ジョージが撃ち殺した母やまひる、多くの人たちは、本当に殺してしまったわけではなく、自分の夢から消したみたいなことなのでしょう。
一人っきりになってしまったジョージは、もはや現実に戻るしかないのだと思います。
そこには、不毛な愛では無く、本当の愛もあることにようやく気付くかもしれません。
現実は厳しい。辛いから逃げ込んだ夢だって、たやすく壊され、現実に引きずり戻される。
でも、現実は捨てたもんでもない。中学生からずっと逃げ込んできた夢から、35歳の現実に戻って来たジョージにも、やっと戻って来たか、おかえりと声を掛けてくれる愛があるように思います。
それが、彼がずっと見過ごしてきてしまったけど、まだ残る本当の愛であり、そこに救済され、これからを現実の中で生きるジョージの姿として浮かべればいいのかなと思います。
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