月下美人【浪花グランドロマン】150918
2015年09月18日 難波宮跡公園内 特設テント劇場 (135分)
2011年に、拝見した作品と雰囲気は似ているかな。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/110927-72e0.html)
今年でいったんテント公演は終了らしい。
テント公演って面白いなと思えるようになったのは、ここがきっかけで、そこから唐組とかも観るようになったので、私の観劇人生に大きな影響を与えてくれた劇団です。
昨年が日程調整つかず観れなかったので、最後に観れてよかった。
ネタバレもあるので、ここでは詳しく書けませんが、最後は心震えるシーンだった。
今、自分たちが生きている時代って、例えば、何でも情報が手軽に入って便利になった、でもその反面、生き辛い世の中になったとか、不人情になったとか、コミュニケーション不足になったとか、色々とあるけど、それは今ある事実に目を向けているだけであって、今に至る時代がどうであったのかまで想いを馳せてみないといけないような感覚を得る作品でした。
空虚な心を見て、何も無いねで終わりではなく、その中にある、あった確かな想いたちを見詰めることで、その心を埋めることが出来るのかもしれません。
物や情報が溢れ過ぎて、自分たちが居場所と思っている場所が本当にそうなのかが分からない世の中かもしれません。
ネット住民なんかは、きっとそこに居場所を見出しているのでしょうが、それは本当にそうなのかは疑問です。
消えて無くなってしまった時、本当に消えてしまうようなものは居場所ではなく、そこに確かにあったという人の想いが残る場所が、居場所なのかもしれません。
そして、消えて無くなってしまわぬように、その場所で人は想い合うことで、人の心に自分を植え付けているように思います。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>
ジャーナリストが、この町のミナミという清掃会社の実態を暴こうと町に取材に訪れてる。
そこで出会った老婆。
大きなズタ袋を背負い、ゴミ屑を拾い集めている。どういった生き方を経て、今に至るのかは分からない。ただ、ジャーナリストの目に映るのは、世間とは隔離されたような町でひっそりと醜い姿で生きている老婆の姿。
しかし、老婆が顔を覆うほっかむりを取ると、そこには思わず抱き締めてしまいそうになるくらいの老婆とは思えない美しい姿が現れる。
真実とは何なのか。
ふと周りを見渡すと若者たちが携帯をいじっている。無表情で情報を得ているのか、ネットを通じた交流をしているのか、その姿は死にながら生きているゾンビのようにすら見える。
ズタ袋には思い出の欠片が詰まっているらしい。
老婆はジャーナリストにあなたに真相を突き止めるのは無理だと断言する。
そして、無理やり、そのズタ袋の中身を覗かせる。そこには、おぞましく、目を背けたくなるようなものが見えたみたい。
清掃会社、ミナミ。
カラダの不浄はココロの不浄を社訓とした立派そうな会社だが、実態は出会い系サイトのような売春組織。
かつては、月下美人という名の、行くあての無い女子たちを集めて売春を行っていたらしい。先代の社長が、法の網をくぐってこういった形で継続している。
今の経営は、その後妻が実権を握る。店を任されるだけあって、その手腕はなかなかのものみたいだ。
娘がいるが、父との血の繋がりは無く、養女として、店に出されることもなく育てられたらしく、お嬢様のように明るい天然の空気を醸す。
ナンバーワンの社員は三鷹。持ち前の美貌を活かして、かなりあくどい手口で男を翻弄しているようだ。今の餌食になっているのは、今市という名前通り、パッとさえない男。かなり三鷹に貢いでおり、一緒になろうと思っているみたいだが、巧い具合にあしらわれている。そろそろ捨て時なのか、今は、ちょっと店にフラッと寄った中野という男に目をつけている。
ナンバーツーは、通称オタクキラーのちょっと痛そうな女性、立川。先代の頃から勤めていた古株で、ナンバーツーであることにも、特に妬みなどは無い様子。身の程を知り、自分の地位が確立していれば、リスクは犯さないという賢い人なのかもしれない。
かなりグイグイと押しが強そうな女、梁川。女王様のようなマニア受けはするのかもしれないが、清楚とか癒しを求める男には、確実に敬遠されるような子。
そんな店に、バイトでニワという女性がやって来る。ずっと引きこもりで、コミュ障ってところだろうか。自分が喋る、相手の言うことを聞くという通常の会話が出来ないみたいで、焦って自分のことばかり先走ってしまい、ほとんど何を言っているのか分からないような状態。ただ、こんな状態になっているのも理由があるようで、彼女は人がゾンビに見えてしまうらしい。不思議なことに、この店の女性たちは普通の姿で見えるらしい。
店に乗っ取り屋が、情婦を連れて現れる。
たまたま、店を訪れていたジャーナリストの助手が取材することに。
男は言葉を選んで喋っているが、情婦は考えが浅いのか、この店の事実を軽はずみに暴露してしまう。
やはり、目をつけていたとおり、ここは怪しい店のようだ。助手の目が光る。
乗っ取り屋は、経営権を得て、きちんとした店にするつもりなどは全く無いようだ。ここでの儲けをそのまま自分のものにする。文字通り、ただの乗っ取りを仕掛けている。
社長は、この乗っ取り対策のため外出することに。
店オープン。社長不在なので、頼りないが娘が仕切る。
今市が現れる。新人のニワにちょっかいをかけたりするが、ニワは完全に拒絶。やはり向いていないようだ。
今市の目当ては当然、三鷹。でも、この日は中野もやって来る。しかも三鷹が呼び出したのだとか。
中野と親しげに話をする三鷹を見て、今市はイライラ。
そんな中、中野の妹がやって来る。
いわゆるブラコンみたいで、中野と親しげな三鷹に軽蔑の眼差しを向ける。おまけに酒まで煽って、この店の女たちが汚いと罵り始める。
中野の方もシスコンみたいで、暴れる妹にきつくは言えない。
三鷹は、それでも慣れた様子で、中野、そして妹からもメールアドレスをゲット。3人でこれからも仲良くしましょうとか言って、巧くあしらい始める。
ところが、今市はもう我慢ならず、妹が酔っていることをネタに、二人を追いだしてしまう。
三鷹は計算通りに事が運ばなかったことに苛立ち、今市をほったらかして、店を去ってしまう。
今市も愕然と店を去る。
まあ、何とか切り抜けた。娘と女たちで軽く酒盛り。
笑いも欲しい。
そのへんを歩いていた面白そうなおっさんを連れて来て、ネタをさせる。
なんやねんマン。
毎年のごとく、全く面白くないが、拍手だけはしたくなるような芸だ。
ニワは、全く活躍できなかった。
それも仕方ない話で、3人がゾンビに見えていたのだから、接待どころではない。
夢を見る。
今まで普通に見えていた女たちも、ゾンビになって自分を襲ってくる。
その中には初めて見る顔もある。まるでリーダーかのように、机の上に立ち上がり、スポットライトをゾンビたちに向けている。
ふと、目を覚ますと、みんなが普通の姿でいた。
社長も帰って来たようだ。
大宮という女性を連れている。さっきのゾンビのリーダー。ニワは口走るが、もちろん夢の話なので相手にされない。
乗っ取り屋は、今度は先代の、いやこのミナミという店そのものでもあるという女性、香芝を連れて来る。
法的措置を取る。でも、大宮は単なる経営コンサルだった。あの単にケチをつけるだけの。
不利な状態となったが、乗っ取り屋も、脅しのネタが合成丸わかりの先代とベッドを共にした写真であったりして、結局は追い返すことに成功。
三鷹は中野に電話している。今度、出掛けようか。妹に彼氏が出来たようで、中野に少し心の余裕が出来たみたい。確実に三鷹の罠にはまっているようだ。
三鷹は今度は妹に電話。男の声色を使って。今度、会おう。ずっと電話かメールだったので、妹は驚きを隠せないが、悪い感じでは無い様子。
次は、今市に電話。泣き声で。あなたしか頼れないの。
今市は妹と会う。三鷹が声色で騙していた男になりすまして。
そして、今市は妹を絞殺。三鷹に報告の電話。
中野に騙されて暴力を振るわれて子供が出来ない体にされた。だから、あなたは妹を、私は中野を殺して、遠くに逃げようみたいなことを言って、今市を騙したみたいだ。
三鷹は今市からの電話を聞いて、携帯を捨てる。この連絡用の携帯はもう不要だから。
ところが、ジャーナリストとその助手がそれを見ていた。
三鷹を突き詰めようとするが、携帯は既に壊れており、証拠がない。
逃げ出す三鷹。しかし、殺人事件に絡んでいるのは間違いない。助手はすぐに後を追う。
ジャーナリストも追おうとした時、老婆が現れる。
またしても、真相を突き止めるのは無理だと言ってくる。
三鷹が人を殺した。人を殺すことは悪いことだから、訴求するべき。大きな記事にしたい。だから、その証拠、真相を突き止める。それがなぜ自分に出来ないというのか。
そんなやり取りをしていると助手が、タクシーで逃げられたと戻って来る。
タクシーのナンバーを警察に通報したらしい。これできっと大手新聞社に情報が洩れて、スクープを取り逃すことになる。
店の周囲は報道陣やらやじ馬でにぎわっているみたい。
殺人者を出してしまったのだから、もう終わりだ。この組織のことも明るみになるだろう。
大宮は社長に倒産手続きを薦める。こっちは得意分野らしい。ある意味、弱った会社を倒産にまで追い込んで儲ける、会社を喰うゾンビってところか。
立川は、店のデータを全部、磁器で壊してしまう。これで、全ては闇の中。
そして、まだ何も関係が無いニワを、隠し通路で脱出させる。
香芝が現れる。今からミナミをかくまう。
店自体をかくまうと、舞台を解体していく。
店はどこかに飛んで行ってしまったかのように消える。
そこに、中野がやって来る。立川も。ニワも走りついた先がここだった。
ジャーナリスト、助手。老婆も現れる。
三鷹を失った。ただ生きているだけの屍のようになった中野。
老婆はその心を埋めるためのものをズタ袋から出す。妹。
中野は妹と抱き合う。
老婆は語る。ジャーナリストの求める真実を見るためには、そこにある物語を見なくてはいけない。
舞台の奥の幕が開く。現実への幕。
その向こうには、ミナミの在りし日々が見えている・・・
ジャーナリストの知りたい真実。
それは、そこにある物語を見詰めなくてはいけないと老婆は言います。
単にそこにある真実だけを切り取って見ても、それはそこだけの情報であり意味が無いといっているのでしょうか。今の情報社会はそんなところが多いような気もします。
情報はいくらでも入ってくるけど、そこにある心は、自分で見詰めなくては誰も教えてくれないのでしょう。
ジャーナリストの求めているものは、単なる事実だけで、その真実を見るには、事象だけでなく、それに関わる人たち、その時代にある心にまで想いを馳せないといけない。
情報を鵜呑みにして、知ったつもりになるのは、この作品での乗っ取りと同じなのかもしれません。
そこにいた人たちの想いとも対峙して、今を見詰める。その繰り返しが無い限り、単なる乗っ取りで店が変わるだけで、店の発展は無いようなイメージかな。
最後に現実の幕が開く。
その向こうに、さっきまで観ていたミナミの姿が映し出される。
時が経った。
今、舞台は、飛んでしまったかのように何も無い殺風景。でも、そこに2時間あまり観て、触れてきた人たちの姿が浮き上がる。
真実を見つめるとはこういうことなのか。
よくは分かっていませんが、老婆の言っていることをそのまま見せられたような時間軸の多重構造の世界が感じられて、心震えるような感動を得ました。
確かにそこで生きていたという人に想いを馳せることで、何も無い空虚な空間を埋めることが出来るような気がする。
何も無い場所。でも、かつて、そこを居場所として生きていた人がいる。
何かがある場所。物が溢れるくらいにあり、情報も散乱しているような今の世の中。そこに私たちの居場所はあるのかと不安になる。生きているのに死んでいる。そんなゾンビのような姿が、居場所を求めて彷徨う人たちの姿と同調する。ニワは出生も住所も定かでないような設定だったが、月下美人があった頃とは異なり、居場所が見つけられない、見つからない若者を描いているようにも感じる。
何も無くなってしまった時、きっと、そこに人の想いが残っていれば、それは居場所であり、生きていたことを実感できるのかもしれない。パソコンのデータのように、人の心は磁器一つで消えてしまうようなものではないでしょうから。
たくさんある有の世界から、本当の有を真実の目を持って見つけ出す。それが無の世界に通じ、私たちが生きていることを知ることに繋がるような感覚を得る作品でした。
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