We are lucky friends【劇団冷凍うさぎ】150927
2015年09月27日 ウィングフィールド (100分)
過去は消え、導かれる未来の世界は今とは違う場所。
そんなパラレルワールド的な世界に入り込んだ男が、今を生きることと、その生きるためにどの世界にもいてくれる友人や恋人への感謝を見出すような話でしょうか。
過去は消えるし、未来はもう用意されている。それでも、今をもがいて、必死に生きる意味合いがどこにあるのかが見えてくるような気がします。
今いる世界は消えて、昨日とは違う新しい世界へと連れて行かれる。こうして世界は続く。
それは過去も未来も存在しないような世界と言えるのかもしれません。でも、今は必ずあり、そこに自分とその周囲の人は必ず存在する。
それだけで、今を頑張って生きる理由には十分じゃないかと思わせるような話が、悩み苦しみ生きる中に安堵と温かみを感じさせます。
大学生の武井。
周囲の悪友たち。
授業サボって映画行こうぜ。志村はお笑い芸人を目指すと言いながら、その努力は何もせずバイト三昧の日々。
バイトサボって飲みに行こうよ。親に勘当されて、何かあれば自殺未遂する江口。
先輩の生形さんは、大麻の栽培、吸引で逮捕。実刑まで喰らい、釈放後も性懲りなく大麻を手放さない。
授業には全く出ず、留年を繰り返す。会えば人の悪口、女性蔑視、下ネタしか話さない真鍋さん。それでも、山崎さんという女性のヒモとして悠々自適な日々を過ごしている。だから、師匠と呼んでいる。
自分のダメさ加減が薄れるからだろうか。武井は、こんな人たちと先の見えない不毛な時間を過ごす。灰色のモラトリアム。
ある日、バイト先で出会った女性、千衣子。遅刻して、かなり迷惑をかけてしまった。謝罪の言葉を口にしたら、死ねと言われた。惚れた。なりふり構わず、想いを伝え続ける。いつしか、その想いは実を結ぶ。
最高のハッピーエンド。
と言っても、世界はここで終わるわけでは無く。ここからも続く。
物語は、このハッピーの後から描かれる。
大学卒業。千衣子との同棲生活。
ハッピーエンドの流れのまま、人生は進むと思っていた。しかし、人生というものは、とかくうまくいかない不条理なもので。
内定が決まった就職先を切ったのが発端だったか。フリーターとしてダラダラした生活を続ける武井。
どうにかしようよ。このままではダメだよと言う千衣子とケンカ。千衣子は部屋を飛び出す。
そんなことは知らずに部屋に酔っ払ってやって来た悪友たち。
薬じゃないから大丈夫なのか冷静な生形さんに、笑い上戸の江口、泣き上戸の志村。
戻って来た千衣子は、再び怒って出て行く。江口は、武井に女がいることを知って泣き出す。生形は冷静に追った方がいいとアドバイス。武井は部屋を飛び出す。
千衣子に追いつき、話し合い。雨が降ってきた。
もう別れよう。暴力を振るうのは辞めてと厳しい表情を武井に向けて走り去って行く。
何のことを言っているのか。そして、見たことの無いキツイ表情。あいつは誰だ。自分の知る千衣子ではない。
雨に濡れたはずなのに乾いている服。
帰宅すると、一人の女性が待ち構えていた。
女は石村みきと名乗る。
未来管理局やらとかからやって来たらしい。
話はよく分からないが、つまりは、未来は今、おかしくなっているらしい。
この時代の無数に存在するパラレルワールドを確認していく作業の一環として、このみきという女性は武井を選んだようだ。
武井は今、自分が縁故入社で金に不自由しない生活ができる世界にいる。
自分が成功したからか、ダメな悪友たちには厳しいみたい。暴言もかなり吐いて、説教じみたことも山崎さんに言ったのか、師匠は見捨てられている。
雨が降る。
昨日とは違う世界へ。
武井は志村とコンビを組んで、お笑い大会で優勝。
千衣子も、これからも頑張ってと笑顔で迎えてくれる。自分の知っている千衣子とまた出会うことができて、武井は涙を流して喜ぶ。
でも、元の世界には戻れないらしい。みき曰く、雨がその世界の欠片みたいなもので、降ると共に消えてしまうのだとか。
愕然とする武井。気付けば、皆に暴言を吐いていた。
志村にはお笑いコンビは解消と。江口には甘え過ぎだと。生形さんにはこれから先の、上手くいくわけがないと。師匠にはクズ呼ばわり、山崎さんにも、師匠と別れろと。
武井は世界を壊す。
その後、武井はみきと共に色々な世界へ行く。未来が無い世界。
江口が自分に想いを寄せていることを知り、数々の世界の中で要領を掴んで落としたりもした。
千衣子と山崎が入れ替わっている、武井にとっては許されない世界も。
いつまで続くのか。愛する千衣子に共に死のうと提案したことも。
ある世界で、江口に、今、起きていることを全て話してみた。
この世界ではまだ、千衣子とは付き合えていない。元の世界のあの時のようになりふり構わず告白する。もちろん、断られる。でも、あの時は何度も何度も告白し続けた。武井には、もうそうする気力がないのか、告白を冗談にしてしまう。
もう誰とも関わらない。
そう決めた世界で、みきと話す。
みきは自分の子孫らしい。
そして、これまでずっと一緒だったが、この世界でお別れみたいだ。みきは、この世界で生まれたみきで、その消滅と共に存在も消えるらしい。
ここでは、武井は千衣子と一緒に暮らしている。借金まみれで大変な生活。
師匠は、山崎に捨てられてホームレス。
志村はお笑いを諦めている。
生形さんはヤクザの手下となり借金の取り立て。
江口は死んだらしい。
何か自分にはできなかったのか。武井は粗悪な大麻の世界に入り込む。
心に火がついた武井は行動を起こす。
世界はずっと続く。だから今やらないといけない。
皆に、ごめんなさいとありがとうを伝え、何かを変えることを試みる。
志村に会いに行くけど、拒絶される。
江口とは大麻による妄想世界で会えた。でも、もう一緒に飲みに行ったりはできない。
山崎さん、生形さんと一緒に師匠を助けにいくが、既に遅かった。
何一つできない。こんなダメな自分と付き合っていたらいけないと千衣子に別れを告げる。千衣子は自分にとって大切ないい子だから。
その時、志村から電話。ちょっと心を開いてくれて、じっくりと相談したいことがあるらしい。
生形さんからも連絡が入る。師匠は助かったらしい。
もがいたら、少しだけ世界を変えられた。
雨が降る。
武井は千衣子に自分の想いを、千衣子を天使のように大切に想う気持ちを伝える。世界が消えていく。
武井の目の前に千衣子が立っている。
どうにかしようよ。このままではダメだよと言う千衣子。元の世界ではケンカになるんだっけ。
武井はケンカしたくないから、少しだけ時間が欲しい。自分の考えをまとめるからと伝える。
千衣子は、なんか自分が子供のように勝手に怒っているみたいな感じになって納得いかない表情で外に出る。
みきが窓から顔を覗かせる。あのみきとはまた違う世界のみきらしい。
未来は、78年後に何とかなるみたい。武井には関係のない話だ。
あのみきは、報告書の中に数々の世界での出来事と一緒に、武井と共に話をして、仲を深める時間を過ごしたことも記していたようだ。
こちらのみきは、エリート路線を進んでいるらしく、効率よく仕事を進めることしか考えていない。
それでも、ちょっと話を聞きたいらしい。
武井は今の世界のことを語り出す・・・
この不思議な世界の最後、救いを感じていいのか、それとも先は無い絶望なのか。
積み重ねても過去は消えるし、未来は当たり前だがどんな所へ連れて行かれるのかは分からないし、そこではどうなるかが決まっているようだし。
ただ、観終えた後に残る感覚は、どこか温かみや安堵があるようにも思います。お先は真っ暗とやる気を失うような話ですが、なぜか頑張る気持ちが湧いてくるような感覚も残ります。
それは、色々と気持ちが整理できず複雑ではありますが二つの点かなと考えます。
一つは、過去もダメで未来もダメ。だったら残されたのは今しかないこと。
過去は消えるなら、考えても仕方ありませんし、未来もどこかに用意されているなら、それにこだわっても仕方ありません。それなら、ただ、今を生きることだけを考えて、その今出来ることにひたすら執着して何かをすることに背中を押されるような感覚を得ます。
これが、きっとこんな自分は大丈夫なのか、どうしたらいいのか、何をすればいいのかとか色々と考えてもがき、悩み、苦しむ自分に安堵を与えているような気がします。
もう一つはどんな世界でも友情や愛情が存在していること。
主人公の武井はじめ、ダメ人間がたくさん登場します。
夢やら、こうありたい姿が漠然としていて、どうしたらいいのかと彷徨っているような人ばかり。上記した今をひたすら生きるということが実行されたら、こんな感じになってしまうのかもしれません。
こんなもがき苦しむ生き方の行き着くところは、もう今を生きるのを辞めるというところでしょう。頑張らずに、そのまま流れに乗っても、未来は用意されているのですから。
でも、そうさせないのが、その人の周囲の友人や大切な人たちの存在にあるようです。
互いにダメ同士ですから、罵り合ったり、傷つけ合ったりしながらも、どこか相手の幸せを考えているように感じます。
自分は今をただひたすらに生きますが、この作品では友人や恋人たちには今だけでなく、未来も生きて欲しいと願ったような言動をします。
得てして人生は上手くいかず、人は思い描く未来へとはなかなか進めませんが、友人や恋人にはそんな上手くいく未来を創り上げようと頑張ろうとする人の姿があります。ずいぶんと、自分のことを棚に上げたおせっかいなことですが、そこに人の善意的な精神が隠されているようにも感じます。
私たちはきっと今をもがいて生きる中、その力をそんな友人や恋人、家族とかから得ているのかもしれません。そして、それは逆に自分自身も相手にとって同じような存在なのでしょう。
その想い合って、今を乗り越える。その先にあるのは、自分たちが思い描いた未来では無く、決められたものであったとしても。そんな世界の流れが温かみと生きる活力を与えてくれているように感じます。
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