祭里万幻花火【進劇銃題 やぎゅり場】150809
2015年08月09日 芸術創造館 (105分)
役者さんの気迫が感じられる熱き舞台でした。
細々した残念なところは下記しましたが、そんなことは、もう関係ないくらいに、花火と同じく楽しませるという信念が、動き、言葉として伝わる作品に仕上がっているようです。
花火は綺麗です。見ればきっと楽しいでしょう。
色々な環境、立場にいる人全てが、そう思うのは、きっとそれは花火が綺麗なのではなく、そこに込められた楽しんで欲しい、幸せな気持ちを抱いて欲しい、友達、家族、愛する人と一緒にそんな気持ちを共有して欲しい、そしてそんな気持ちがずっと続いて欲しいという願いが込められた人の優しい想いが綺麗だからなのだろうなと感じさせられるような話でした。
戦争が絶えることがなかった隣接する二つの国。
ある時、唯一の交通手段である峠を破壊し、深い渓谷で、互いに国境を閉ざすことで戦争を終結させた。
しかし、今でも隣国からの花火による攻撃を受けている。
そんな国で、若き花火師、タマヤは祭りで花火を打ち上げて、長き戦いで暗い気持ちになっている民たちの心を照らしたいと願っている。
名花火師として名高かったタマヤの祖父が残した花火、万幻花火。
そんなタマヤの力になりたいといつも傍にいる菊咲。花火のことしか頭にないタマヤに恋心を抱きながらも、女性ながら国で一番と言われる剣術をもって守ろうとしている。
花火師の先輩も、タマヤの考えに同意する。先輩は2年前のある事件で、多くの人を自分が作った花火で傷つけてしまった。その悔いや苦しみの中でも、花火は民たちに喜びや希望を抱かせる大切なものだと思っている。
そんな苦しみの中にいる先輩を支えて、救い、心の拠り所になりたい、そして弟であるタマヤの力になりたいと力を貸す女性。
花火は決して武器では無い。本来は人を楽しませるもの、ただそれだけ。その精神の下、花火師協会の理事長として花火を守ろうと活動している男。そして、理事長と共に義勇軍として活動したことがある腕の立つ女剣士。
そんな仲間たちと共に、花火の打ち上げ計画は進められる。
しかし、それを快く思わない者たちがいる。
2年前。
この国のある村が花火により、全焼して、多くの犠牲者を出した。隣国から撃ち込まれた花火だとも言われているが、真実は娯楽用花火の引火であり、そのことは黙殺されたともいう。事実はタマヤの先輩が一番よく知っている。
その事故に巻き込まれ、親を失った少年。その妹は今でも花火を恐れている。自分たちをこんな目に合わせた花火。その花火を作った花火師。彼らは花火に関わる全てを憎んでいる。
そんな花火の犠牲者たちの苦しみを少しでも和らげられる拠り所として組織された集団が華の盟約。
代表を務める女性は、花火の存在自体を否定し、部下の諜報員により、この国で花火がいかなる理由においても、使用されてはいけないと目を光らせている。
当然、今回のタマヤの計画を阻止しようと、武力行使に出る。
戦争により、荒れた世の中。
現実の生きる生活に追われ、夢や希望を失い、この世を憎むテロリスト。この世を破滅させるための武器として花火を入手して、全てを破壊しようと考えている。
そのテロ組織には、花火職人としての腕に限界を感じ、自暴自棄になってしまい、花火を、この世を憎む、元花火職人もいる。
最高の花火は、最高の武器ともなり得る。それを持って、全てを破壊する。彼らもまた、万幻花火を狙う。
国の軍人たちも、花火師の持つ最高の花火、万幻花火を狙っている。隣国からの攻撃は脅威である。これに対抗するための力を国は持たなくてはいけない。
花火を隣国の攻撃を抑止するための武器として保持するべく、二人の軍人が動き出す。
隣国からの使節団。
プリンセスである女性は、タマヤとは異父姉弟の関係になるようだ。法律に詳しく、頭脳明晰な男と、家事担当ではあるが、そこらの兵士よりも頼りになりそうな力を持つ女性を従えてやって来る。
表向きは友好関係の保持であるが、実は万幻花火を狙っている。持ち帰り、自国でその花火を生産する。それは、国を守るための強大な力となるはずだ。
そんな立場によって、様々な思惑が交錯する中、タマヤはただひたすらに花火で人を楽しませたいと奮闘する。
そんな純粋な想いに、各々の大義がぶつかり合う。
裏切り、憎しみによる暴力が、剣や銃を用いて飛び交う中、同時に信頼、友情、愛情も、各々の心の中に見出されていく。
万幻花火は誰の手に渡り、人々の命を脅かす武器となるのか、人々に希望を与える娯楽となるのか。
自らの信念に従って、必死に走る者たちが最後に見る夜空の風景は・・・
奥から傾斜がある舞台。これはステージタイガーとかで見たことがあるかな。見た目以上に凄く体に負担がかかるらしいですね。あの肉体派で知られるステージタイガーの役者さん方でもきついという言葉が出たのだとか。
それと、ブレヒト幕って言うんですね。例えばふすまとかの小道具を用いて、シーン転換と同時に役者さんを消して現させるなんて演出は、ピースピットで初めて見て、その後もカメハウスや壱劇屋なんかでも見て、かっこいいから好きだったのですが、原点はきっとここにあるんですね。常にダッシュで舞台に出入りしないといけないので、体力奪われそうですが。
そんな舞台であれだけ駆け回る姿を見たら、まあそれだけでけっこう心打たれますね。
それに最後まで走り抜いており、誰一人、緩む姿を見せていないパワーは存分に魅せられ、感動に値します。
少し話の展開が急になり過ぎなところがある。
細切れのシーンが多く、心情の蓄積が途切れてしまうところがある。
設定理解のための説明セリフが盛り上がりを冷ましている。
鉄砲撃ち過ぎ、剣斬り過ぎ、殴り過ぎ、蹴り過ぎ。本当に想いのこもった一撃がそんなたくさんの銃弾や振られた剣筋、拳や脚の痛みに打ち消されてしまっているように感じる。
といった、自分の中でのマイナス点も多々ありますが、これだけの熱きパワー全開を見せられたら、まあそんなものはどうでもいいように思えて、十分な満足感が得られたように思います。
各々の大義に従って、行動する面々。
ただみんなを笑顔にしたい花火師、もう悲しむ人を見たくない華の盟約、思いのままにならない世を壊してリセットしたいテロリスト、国を守りたい使節団と軍人。
花火師は花火を打ち上げようとしますが、誰もがそれで笑顔になって楽しむとしか思っていないようです。その花火は娯楽だけでなく、武器にもなります。
だから、武器となった花火によって傷ついた人が、そんな打ちあがった花火を見て、普通にたまや~と声をあげられるのか。失った人を思い出し、涙を溢れさせるだけの悲しみをもたらすものとなるかもしれません。
今の世に傷つき、苦しんで、もう終わらせようとまで考えているテロリストが、夜空に拡がる花火を見て綺麗と思えるのか。今、自分が立つ世を汚いと思っているのに、そこに美しさを見出せるだろうか。
打ちあがり、強烈に破裂する花火を見て、これが武器として自国に降りかかってきたら、どう対処すればいいのかを考えてしまう軍人や使節団の人たちは、花火は出来ることなら目を背けて存在を知らないようにしたいのではないか。
花火は確かに人を楽しませるものです。でも、その言葉だけに従って、花火を打ち上げても傷つく、悲しむ、怒る、不安になる者も出て来る。
花火が楽しいのは、そこに楽しませたいと思って出来上がったという人の想いが込められているからだと思うのです。
その想い無くして、楽しいからと花火を打ち上げても、皆が幸せにはならないでしょう。
タマヤは、この作品の中で、様々な人と出会う中で、自分を想う人を見出し、自分が花火を通じて何を人に与えたらいいのか、人をどう想えばいいのかを知ったように思います。
話の最後は、そんなタマヤが、祖父の想いのこもった大切な花火を、同じような想いを持って、夜空に打ち上げ、見る者全てにその想いを伝えたような形で締められています。
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コメント
確かに幕良かったですね。あれはステキでした。
あの傾斜舞台は昨年の杉原邦生『ハムレット』以来かな… 昨年旗揚げに行きたかったのに行けなかったので今回楽しみにしてました。主人公タマヤ役の役者さんが叫ぶような台詞のところが声が届いてこないところから始まったのですが(続)
投稿: KAISEI | 2015年9月 3日 (木) 01時01分