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2015年8月24日 (月)

午前0時の魔法使い【少年眼鏡】150823

2015年08月23日 Cafe Slow Osaka (75分)

くすぶる人たちが、ちょっとしたきっかけで一歩踏み出すまでの短い時間を描いた話。
若いけど、その若さゆえに踏み出せない童貞と、微妙な年齢になったデリヘル嬢の人生経験があるからこそ踏み出すことに躊躇してしまうもどかしさを交錯させながら、互いの本当の気持ちを浮き上がらせていく、心温まる作品でした。

20歳の誕生日まで、あと1時間ぐらい。
牧村永治にはしておかないといけないことがある。そうしないと、0時を過ぎたら魔法使いになってしまう。
デリヘルに電話。タイプはまゆゆ、白いセーラー服に、オプションでスクール水着。
部屋を掃除。床に散乱するゴミを適当にゴミ袋に入れて、隅っこに放り投げる。まゆゆのポスターは丁重に剥がして保管。シャワーをする時間は無い。コロンなどシャレたものは無いから、ファブリーズで代用。
一応、準備万端。
ところが、やって来たのは、どう見ても30オーバーの女性。
童貞卒業がかかっている。即座にチェンジを申し入れるが、女性の方は生活がかかっているのか、なかなか引き下がらず、強引に部屋に入り込まれる。
そんな揉めている中、想いを寄せている女性、香織さんが訪ねてくる。手にはケーキだろうか、お土産持参で、どうやら誕生日を祝いに来てくれたらしい。
当然のごとく、最低という言葉を残して、立ち去られる。
最悪だ。

デリヘル嬢は、勝手にビールを開けて、部屋にすっかり落ち着いてしまった。
問い詰めれば、36歳と、一回り以上年上の女性。香織さんとは肌の張りが違う。
さすがは人生経験豊富で、香織さんが好きなことも、童貞であることもあっという間に見抜かれてしまう。
だったら、告白の練習をしましょう。私を香織さんだと思って、グッとくる告白の言葉を言ってみなさい。
そんな女性の提案に永治は何も思い浮かばない。
そりゃあそうだ。ずっと女性とは縁がなかったのだから。
高校デビューの時は、これまでと変わった自分になろうと、レイバンのサングラスに、エグザイルの髪型で女性どころか、友達もしばらく出来なかった。その後も、素敵だと思った女性がヤリマンだったりと。恋敵と張り合うこともなく、すぐに諦めてきた。
女性の方は、バーに勤めていた時に、先輩のバーテンダーに好きになってしもうてんと言われて、心ときめかせたのだとか。関西弁がよかっただけで、さほどグッとくるとも思えないが、少なくとも自分よりかは上みたいだ。
そう。変われない、人と比較されるのが怖い、どうせダメだとすぐにあきらめる、どう努力したらいいのか分からず動けない。それが今の自分だ。そんな自分を女性は見透かしているかのように鋭い言葉を突きつけてくる。

女性が、部屋にあった芝居の脚本を見つける。
これには触れられたくない。
永治はすぐに取り上げ、くしゃくしゃにしてしまう。
芝居してるんだ。いいじゃない。
そんな女性の言葉に永治は激昂する。
馬鹿にしてる。芝居なんかしてるんだと。
そう。自虐的で、卑屈で、自分がしていることに自信が無いのも、今の自分。
永治は、女性を罵る。お前だって、所詮30も超えて、体を売る汚い女だと。
空気が凍る。
少し、言い過ぎだった。逃げている自分の色々を曝け出されているような状況に、ついカッとしてしまったみたい。
女性は机をティッシュで拭きながら、語り出す。
事を済ませて、お腹や顔にかかった精液をティッシュで拭く自分。拭きながら、いつも思い出す。あの頃、若かった、それこそ、本当にセーラー服を着ていた頃の自分。輝いていたような気がする。そんな、凄い人になるとはもちろん思っていなかった。でも、普通が普通に訪れるのだろうと思っていた。それが、こうしてデリヘル嬢をすることになるとは。そんな自分をみじめに思いながらも、ずっと時を過ごしてきたことを。
女性は、部屋を立ち去ろうとする。
永治は、それを止める。レイバンのサングラスをかけて、エグザイルの真似をして。自分の黒歴史そのものだ。
さっきは、頭に血が上り、女性の触れられたくないところを突いて、傷つけようとした。自分に自信が無いから、相手のみじめだと思っているところを見つけて、そこを攻撃して、自分を正当化しようとしたみたいな感じ。
だから、自分も実はあなたと同じみじめなところがあることを示そうとしたのだろうか。
そんな気持ちを受け入れたのか、女性は再び、部屋に落ち着く。

冷蔵庫にはビールぐらいしかない。ヨーグルトがあるが、賞味期限は1年以上過ぎている。
女性は匂いを嗅いでみたいといって聞かず、フタを開けてみる。想像以上の強烈な匂い。
ずっと閉じ込めていたら、腐るのも当たり前だ。それはきっと人間だって同じだろう。醗酵し続けているように、人の想いも常に噴出し続けるのだから。どこかで外に逃がしてやったり、空気を入れ替えてあげないと。
こんな馬鹿なことをして、二人はただ笑い合うしかない。
そんなことをしているうちに、時計は0時をさす。
仕方ないので、二人っきりで誕生日パーティー。悲しいかな、香織さんが、恐らくは一緒に食べようと買ってきたケーキがある。
女性が語り出す。
20歳の頃。女優を目指していた。まあまあ、イケていたらしく、東京で少し活躍。
でも、辞めてしまった。
両親がずっと反対してた。妹ばかり可愛がり、自分のことには興味を持ってくれなかった。自分がしたい女優の仕事など目も向けてくれず、一度も舞台にも来てくれなかった。
それで、その後、キャバ嬢をして、それが見つかり、両親と益々、疎遠になって、今に至る。

そんなことを語り出したのは、ケーキに付いている、サンタとかの飾り物を目にしたから。本当はずっと食べたかった。でも、いつもそれを食べるのは妹。自分の誕生日ケーキですら。
永治は食べたいと言えばよかったのにと言う。そうだねと女性は返す。人のことには、冷静に正解を出せるみたい。じゃあ、どうして自分は、その正解を実行できないのか。
一応、ロウソクに火をつけて祝う。 ケーキを不恰好に永治は切り分ける。飾り物は女性に。 食べてみると、言うほど美味しくない。そうか、そんなものだったのか。
アラームが鳴る。 60分経った。お別れ。
永治は女性を抱き締める。不思議な感覚。温かい。相手の顔が見えなくなるものなのか。だから、ギュっとするんだ。
両親は、きっと想ってくれている。ぎごちない言葉だけど、自分にも言い聞かすように女性に語る。少しだけ、かっこいい男に近づけたかもしれない。これで関西弁を喋れれば、きっと合格だったのだろう。
女性は部屋を去る。 お金はサービス。最後の客になるから。
きっと、また、苦労する。今さらレジ打ち覚えるのも。でも、それが、女性が自分で決めた今の生きる道だから。
永治はクシャクシャになった脚本を伸ばし、自分も、自分で決めた道を歩んでみようと思う。
ふと気付き、急いで玄関の扉を開ける。 名前を聞いていなかった。女性の答えはまゆゆ。彼女は、きっとまだ女優なのかもしれない・・・

こうしたいけど、色々と理由付けて、そうしない。
そうしない言い訳にする材料はいくらでも思い浮かぶ。でも、そうすると決めるための材料は探しても出てこない。
そんな時はきっとあると思います。
こんな時、一人で閉じこもって思い悩んでいたら、それもずっと悩み続けていたら、ヨーグルトみたいに腐ってしまうのかもしれません。
外に出て、誰かと話してみたら、その誰かだって別に自分と変わらない。同じようにくすぶっていて、過去を懐かしんだり、悲しんだり、前に踏み出すのに怯えたりと。
そんな人に掛けてあげる言葉を自分は持っている。それをそのまま自分に掛けてあげればよかっただけなんだと気付く。
童貞とデリヘル嬢。互いに気付き合った。想い合いことが出来た。どうしたらいいのか分からず、立ち止まって不安だった気持ちを消し去り合った。
そんな二人の短い時間を描いています。

自分自身がまだ何者なのかはっきり分からないから、変わり方が分からない。世の中には凄い奴っていて、そんな奴には絶対かなわないし、比較されて自分のダメさが証明されてしまうのも怖いから勝負したくない。経験不足や力が未熟だから、努力が実となっていることを感じにくく頑張ることに躊躇してしまう。
高校生や20歳の時ってこんな感じでしょうかね。
じゃあ、36歳にもなれば。
何者なのかとか、先が見え始め、変わること自体に怖れを抱く。こうじゃなかったと思っても、今の安定を選択してしまう。実際に凄い奴と出会って、絶対勝てないことを身をもって知ってしまった。これまでの経験、身に付けてきた力では、したいことに足りていないことを理解している。
あまり変わらずかもしれません。
一番、身近で、自分のことを分かってくれているであろう、親や家族が、後押しでもしてくれたら。でも、そんな都合のいいことは現実にはありません。
一人でくすぶるだけ。
じゃあ、こうして、このまま終えてしまうのか。
何かきっかけがあれば。
そのきっかけは自分で作るものなのかもしれません。
童貞捨ててやる。それだけで十分なのでしょう。
大胆に変わるなんて、そんな簡単に出来るはずがない。
ちょっと変わりたいと思って、起こした行動が、いつの間にか道を切り開く。
そこには、永治が出会ったようなデリヘル嬢のように、まるで自分かのような、同じように悩む人がいるわけですから。
そんな人と心を寄せ合う中で、自分のことをしっかりと見詰められる。そこには情けない自分も誇らしい自分も見えてくるのでしょう。

もし、永治がデリヘルに電話をして変わろうとしなかったら。
彼は魔法使いになりますが、きっとその魔法を使うことが出来ない、ただ、魔法を使う力を秘めているだけの人になっていたように思います。芝居をする力があるのに、そうしないように。
結局、彼は童貞を捨てられず、魔法使いになってしまったことでしょう。でも、変わろうと一歩踏み出した彼は、本当に魔法を使える本物の魔法使いになったはずです。
彼はその魔法を使って、これから多くの人の心に、恐らくは芝居という手法を使って、訴えかけてくることでしょう。
現に0時になって魔法使いになった時に、一番近くにいたデリヘル嬢に魔法をかけたのだと思いますから。
こうして出会った童貞とデリヘル嬢が、自分のしたいことを見詰め直して、その道へ一歩踏み出す。
童貞は芝居、恐らくは脚本を作っていたのではないでしょうか。デリヘル嬢はレジ打ちと言っていましたが、もしかしたら女優の道を掛け持ちで歩むかもしれません。
そんな二人が、もし、仲間として協力し合い、作品を創れば。
それは、今回、観たこの公演なのかもしれません。

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コメント

『暁の雲』の際に立ち話で直接お話もしましたがここは制作がきちんと機能していた印象があります。


私一身上のことなら重大な過失があったのですが(笑)別に実害もなかったですし笑えるレベル(笑)まあ以後気をつけはったらいい話で。


観客全員に手紙付きだったのかな。あれも嬉しかった。無理して行って良かったです(仕事が16時20分まで京都であって20時からプロトテアトルを予約しているなかでの18時からの観劇)。


公演については滑舌がイマイチ良くなかった。早く話すシーンが多かったがそこは鍛錬してほしい。主演の男の子の戸梶君は昨年11月のジョーカーハウス『不思議の国のアリス』に出演されていた由(『暁の雲』立ち話メンバーK氏のタレコミw)。もう少し稽古が必要かな。


風俗嬢役の方の演技の方が好きでした。


脚本はまあまあ面白かったですし。一時間程度の作品なので捻りはなかったですが。次が楽しみです。

投稿: KAISEI | 2015年9月10日 (木) 10時22分

>KAISEIさん

作品の良し悪しはもちろんですが、KAISEIさんが普段言われているように、いかに気持ちよく見せるかという公演としての良し悪しも非常に重要だと私も思っています。
その点、ここは非常にしっかりしていました。
要は心の問題ですからね。
また、観に行きたい気持ちにさせることで、よりいい作品と出会える可能性も高まるわけで。

投稿: SAISEI | 2015年9月16日 (水) 20時19分

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