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2015年8月 7日 (金)

阿部定の犬【エイチエムピー・シアターカンパニー】150806

2015年08月06日 アイホール (60分、35分、45分  10分休憩×2)

アングラだったのか。
阿部定の半生を追うような作品かと思っていた。
だから、狂気だけど、どうしようもない愛なんてものを描くような話かななんて。
実際は全く違って、奇天烈、難解。
それだけに、よくは分かりませんが、2・26事件が起こった頃の日本の天皇への思想と、阿部定の執着した男への愛を相関させながら、戦争へと導かれる日本の様子を描いているようです。
そこに当時もあったであろう、大衆の意志を浮き上がらせ、史実とは異なる一つの理想的な世界を導き出そうとしているみたい。そして、その答えが、今の世にも通じているのではないかという警鐘も。

アングラと言いながらも、比較的、筋は追いやすい。
もちろん、どうしようもない不条理もあるけど、現代と照らし合わせて、少し、紐解けるようなところも多々あり。
ベテラン役者さんの味のある演技、不可解なコミカル、潜むエロ、ラストのなるほどという爽快感や、オペラ調で話を展開していくこともあり、作品の内容とは関係なしに、ちょっと楽しく面白いといった感想の方が大きいかな。

<以下、あらすじがネタバレしますが、再演であること、8月半ばに東京で公演があって先が長いので、白字にはしていませんのでご注意願います>

舞台は、東京市日本晴れ区安全剃刀町オペラ通り。
街頭歌手により、世間を震撼させた殺人事件、阿部定のことが語られている。

第一章。
2・26事件以後、世間は戒厳令がしかれている。
にもかかわらず、ここ妊婦預かり所では、今日も女は妊娠する。因業夫婦が経営。
男なら30円、女なら150円。腹ぼて女3人組、単に腹が大きいだけの女、晴夫が待機。
本日、預かりの妊婦から新しい命、男の子誕生。でも母親は死亡。いい加減なところだから。
男の子は、生まれてすぐに、自分の孤独を嘆き、厭世感を抱き、それを文学的な言葉で表現する。
晴夫はその子を万歳と名付け、引き取ることに。実母の死体は川に流す。
外では、パリ帰りのモーニング姿の男、松竹梅と怪しげな写真師。松竹梅は中の様子を伺っている。
松竹梅はなぜか拳銃を風呂敷に隠し持つ。写真師は、それを見抜き、大事な物は埋めた方がいいと言う。
そんな中、突如、あたしと名乗る女が現れる。あたしと名乗る女は、晴夫に連れられて、妊婦預かり所の中に。あたしの腹も大きい。でも、そこには大切なものが風呂敷に包まれているようだ。
松竹梅はあたしに惚れるが、犬になってくれるかと問われ、写真師に犬になるための教えを乞うことに。

第二章。
川のポンポン船の廓屋。
船長の写真師、3人組の女、晴夫が働いている。あたしもここで働いている。
客の先生。何やら学のありそうな難しいことを言っているが、あたしは興味無し。先生はあたしの気をひくために犬になる。
松竹梅は着々と犬を目指す。町で骨をたくさん集め、埋めてきた。今度は、それを犬たちに与える立場。いわば、犬の軍曹だ。
町の男3人組。ここは覚えがある、自分たちが生まれた町。だけど、帰る場所が分からず彷徨っている。気付けば、船に乗り込み、シンガポールへ。
船の中で大騒ぎしている中、万歳が女の人が飛び込んだことを知らせにやって来る。あたしだ。先生は飛び込んで救出へと向かう。
流されていた実母の死体は、飛び込んできたあたしが落とした風呂敷を拾う。

第三章。
男3人組は軍人に。支給されるものは骨。
夫婦はそんな犬を捕まえる仕事をする。
松竹梅は射撃訓練ならぬ射的。的となる女に見事当たるとお遊びが出来るようだ。的の女は実母の死体。海まで流れて、マグロと一緒に引き揚げらたらしく魚臭い。
そんな松竹梅、今では尻尾も生えて、すっかり犬らしく。少尉ってところか。死体とまぐわるうちに風呂敷を見つける。あたしからした匂いと同じだ。松竹梅はそれを取り上げると、死体は動かなくなってしまった。
先生は、首輪をつけてあたしに連れられている。もう難しいことなど喋らない。ただ、あたしがしたい時にするだけの犬に。
あの脳みそが詰まった頭も今では水のように。そんな水に恐怖する先生。狂犬病。皆に銃殺される。天皇陛下万歳の言葉を最後に死ぬ。

第四章。
女3人組はパンパン娘に。
松竹梅はアイスクリンをなめるだけになってしまった実母の死体を埋める。
万歳は相変わらず、孤独の中にいる。春代との元々繋がっていない血縁を断ち切ろうと、春夫の体を求めようとするが、その股間に母には存在し得ないものを見つけてしまう。万歳は狂ったように走り出し、春夫は泣きながら、万歳を追いかける。
あたしが現れる。松竹梅と久しぶりの再会。犬となった先生が死んだことを聞く。
松竹梅の犬化はさらに進み、今では中尉となっている。
そこに犬を捕まえる仕事をする夫婦が現れ、松竹梅を確保。しかし、松竹梅は、この夫婦の息子だった。パリだかどこかは知らないが、家を飛び出した野良息子。犬になりさがった松竹梅に嘆き、家に連れて帰る。連行される松竹梅は、去り際、あたしに実母の死体から手に入れた風呂敷を渡す。
取り残されたあたしの下に、春夫が現れ、出刃を片手に、自分のあそこを切ってくれと頼まれる。
男3人組は、愛する者を残して、天皇陛下万歳の言葉と共に戦地に赴く。
首輪をした写真師は、あたしと先生の数々の写真をばらまき始める。
あたしは風呂敷を取り出す。その中に入っていた物は、あたしが大切にしていたものではなく、拳銃だった。
あたしは、銃を写真師に向ける。

第五章。
妊婦預かり所。
夫婦が暮らす。松竹梅は人畜無害の飼い犬になっているよう。
春夫は、子供のように純粋になってしまったおじさんの万歳と共に幸せそう。
ラジオからは天皇崩御が伝えられている。

残してあるメモから、思い起こしながら書いたあらすじ。
訳が分からな過ぎて、自分で書いたはずのそのメモの言葉の意味が分からないところもちらほら。
知識が無いのだが、2・26事件をベースにしているのだろうか。

時代背景は困窮、孤独、厭世みたいな空気が漂う。
2・26事件により、戦争はより現実化している。
そんな中で、真っ直ぐ一辺倒の狂気的な愛を抱く女性、阿部定が現れる。愛が、大衆的、自己正当化、自己本位、偏執を感じさせるのはいわゆる統制派のイメージだろうか。
シンガポールへと向かう船から飛び降りたのも、当時の東南アジア侵略の軍事思想への反発みたいなものだったのだろうか。
彼女の魅力に憑りつかれ、犬になろうとする男。
知的な先生はそのまま彼女の犬になったが、それは狂気であると判断され抹殺される。
同じように犬になろうとした松竹梅は、写真師の影響もあり、軍人として育っていく。写真師は、自らの目ではなく、抱えるカメラの視線で世を見詰める、戦争へと導く世論を生み出した者の象徴、ここでは天皇と捉える。松竹梅は従順に、ワンと鳴く立派な犬となっていく。こちらが皇道派か。
松竹梅は軍人を従え、やがて軍人を戦地に送り込む。生きるために、大切な者を守るために男たちは犬になる。
そんな犬たちを捕まえようとするのが、夫婦。二人は生きることに精一杯。何かを食い物にしてでも、必死に生きる。その邪魔をするものが犬だったのか。大衆は、殺人鬼とも言える定よりも、犬を恐れていたような意味合いを感じる。
我が息子も犬になっていた。夫婦は、無理をする必要は無い。私たちと一緒に生きていくだけでいいではないかとばかりに、息子を守りながら生きる道を進もうとする。
女3人組は、時代の流れに身を任せて強く生きる。それは、死体となっても川を流れ、アイスクリンとかその時代の楽しみを味わってしまうくらいの女の図太さも浮き上がる。
オカマという世間ではつまはじき者である春夫。生まれながらにして孤独、求められた生では無いかのような万歳。二人が幸せに過ごせる社会は、犬が蔓延る世では無く、つつましくも二人が生活していける世だったみたいだ。

だいたい、こんな感じで話は理解しましたが・・・
感覚的には、これ、今と照らし合わせてみてどうでしょうかと伝えているところがあるように感じる。
ちょうど、漢字が違うけど苗字が同じだし。
安倍の犬と阿部の犬。
本当に忠実な犬はワンとなんて鳴かないという定の言葉。安倍の犬はワンと鳴いているのかな。
大衆はそんな簡単に迎合しない。大衆の意志はこちらにあり。私たちは、言葉を発していかなくてはいけないという警鐘のような。
最後、阿部定の大切に持つ陰茎は、ピストルへと変わる。
自分が大切にするものを本当に守るならば、それをただ抱えていても腐って無くなってしまう。それを脅かす者へと突き付ける武器を持ちなさい。
そんなことを、かつての日本のある時期を思い起こしながら、史実とは異なるラストを迎える形で描いた一つの理想を追求しているような作品のように感じる。

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コメント

SAISEI 様


忙しい中暇を見つけては公演を予約しています(笑)


8月は2日の清風南海高校が観劇初めのはずだったんですが満員で入れず(ビューは観れたのですが)。残念でした。


以下私の8月予定です。どっか被ってますか?

●8月予定

7日:
劇団でん組(済)

9日:
進劇銃題やぎゅり場(済)
エイチエムピー・シアターカンパニー(済)
舞台芸術創造機関SAI(済)

10日:
DanieLonely(済)

11日:
火曜日のゲキジョウ30×30(済)

13日:
大阪経済法科大学(済)
吉本ライブ(済)

14日:
伊藤えん魔プロデュース(済)

15日:
劇団鹿殺し(済)
ミュージカルカンパニーOZmate(済)

16日:
GMP(問)
劇団SOLA(考)

18日:
火曜日のゲキジョウ30×30(済)

22日:
少年眼鏡(済)
プロトテアトル(済)

23日:
プロトテアトル(済)
壱劇屋(済)
劇団ZTON(済)

24日:
キャラメルボックス(予)

25日:
劇団まるごとキウイ(考)

27日:
関西芸術座(考)

29日:
劇団NOLCASOLCA(済)
上海太郎カンパニー(済)

30日:
Hauptbahnhof(済)
劇団そとばこまち(済)
ユニット美人(予)


※(済)は予約済、(予)は行くつもりだがまだ予約していない、(考)は仕事などとの辛みで調整中、(問)は問合せ中。


いつも連絡先を訊くのを忘れてます。今度差し支えなければお教えくださいませ。


劇団でん組やSAIは観られると思ってました。あと火ゲキも来られてなかったのが意外。


私は10日に阿倍野長屋の後うずめに移動するはずだったのが迷ってりんごとぬこを観られず(無念)。


はやぶさ座も制作面がちょっと観客に優しくないシステムなので全公演を見送ることにしたのが変更点です。


劇団ZTONの稽古場見学(通し稽古)に12日(水)に行ってきました。コメディということで心配していたのですが個人的にはツボにはまりました。面白かったです。メリハリもあったし。観劇激戦週ですが公演会場の関西テレビなんでもアリーナはあまり行くことのない場所だと思います。2公演しかありませんがよろしかったら是非(笑)


私はそこは土日に4団体5公演放り込んでいます。カメハウスやパッチが観れなくて残念です。

投稿: KAISEI | 2015年8月15日 (土) 02時32分

私も同じで思ってたのと違ったです。


記事読ませていただいてナルホドなあ、と思うこともありましたが… いつくらいの作品なんでしょうね? 阿部と安倍をかけてるならここ数年の作品ですね。

投稿: KAISEI | 2015年9月 3日 (木) 00時54分

>KAISEIさん

1970年代の作品だとか。

不思議といいタイミングで再演される時ってありますよね。
前も、劇団太陽族だったかな。ちょうど、オウム真理教がニュースに上がったタイミングで、そんな作品が上演された覚えが。
何か見えない力が働いているんでしょう。

投稿: SAISEI | 2015年9月 7日 (月) 18時04分

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