プロトタイプ 劇団衛星【劇団衛星+ユニット美人】150827
2015年08月27日 KAIKA (20分、70分)
劇団衛星20周年とユニット美人10周年の記念公演。
まずは、劇団衛星のステージから。
1996年の作品と、新作。
緊迫感漂う、大人の上質な作品と、コミカルな不条理作品であったが、下記したように、どこか共通項を見出せるような二作品でした。
長き戦いの中にいた者が、その終結と共に得た時間。
この時間を未来に向けてどう使っていくのか、流れ方も変わる時間をどう過ごしていくのか。
自分の楽しみや欲に対して、どう接していくのか。
そこに男女差が見出され、生き方が下手な男と、自分を楽しむ術を知り、常に未来への繋がりを念頭に置く女みたいな考えが浮き上がるような話でした。
<以下、ネタバレしますので、ご注意願います。公演終了が水曜日までと、長いから戻すのを忘れそうなので、白字にしていません。>
・捕虜
あれから、どれくらいの時間が経ったのか。
時計が壊れるまでは4ヶ月半。その後は、電気が点いたら朝、消えたら夜ということぐらいしか分からない。
スパイ容疑で捕まり、殺されることもなく、この部屋に監禁される。
無菌室なので病気になることも無い。食事はまずいが供給される。コーヒーも飲めるし、音楽も聴ける。
そして、隣には美女がいる。
今日もセックスを迫られる。どうせ監視されている。見せつけるようにしていたこともあった。叩いたり、コーヒーをかけたりと、暴力の欲に身を任せたことも。もちろん、怪我をしたり、火傷はしないように。自制心はまだ働いていた。どうにせよ、することが無いから、してたものの最近ではその気も起こらない。
全てがコントロールされている部屋だから。
停電。その言葉を忘れてしまったかのように、完璧な部屋で起こった突如の出来事。
男はバスルームで女性の首を絞める。床に転がしておけば片付けてくれるだろう。そして、すぐに新しい女が・・・
・義経千本松原
大学で記者のような勉強としてProject Based Learningに取り組む女子大生。
女子大生は保険代理店を営む安倍晴明の仲介で、源義経と弁慶の取材に訪れる。
初顔合わせで、快く自宅に招き入れてもらう。女子大生の勉強不足もあるので、この日はコーヒーとお漬物を食べながら、ご挨拶。古きを知りながら、今に染まっていったという雰囲気を感じさせる。
ただ、歳は幾つかという簡単な質問にも、覚えていないという答えばかり。調べたところ、義経856歳、弁慶は存在も疑わしい人だから分からない。義経はほとんど覚えていなくて、身分も高いからか気取ってあまり喋らないが、弁慶は同じく、大概のことを忘れているものの、意外に的を突いた答えが返ってくることも。どちらにせよ、興味深い。取材はいつでもOKとのこと。
日を改めて伺う。部屋には電気屋。二人がここに来てから、色々とよくしてくれる電気屋らしい。ニコニコしながら、バンドセットの一部を運び込んで、セッティング。ただ、一切喋らない。
やって来た安倍晴明曰く、人魚の男版みたいな噂もあるのだとか。愛おしい人に結局はフラれて、海に戻ることも出来ず、永久の命を持つ悲しき人生を電気屋として生きる決意をしたのかもしれない。また、いつか取材をしてみたいと思う。声も聞いてみたいし。
この日は、安倍晴明から、難しい話を聞く。
詳しいことは分からないが、要は、義経、弁慶の二人は単に長生きしている人らしい。安倍晴明は次元が高い人なので、時を超えて好きなように動ける存在で、二人とは異なるようだ。菩薩や如来が近い存在で、自分の上司にあたる閻魔からは、好きなことをしてもいいけど、本来存在する時代以外で妊娠させることは、歴史が狂うからご法度らしい。ただ、やることはできるらしく、女子大生に迫ってみるが、体良くあしらわれる。
たびたび訪問して、インタビューを続けるうちに、女子大生と二人は仲を深めていく。
相変わらず、ぶっきらぼうな義経、どこか怪しい弁慶ではあるが、スーパー銭湯なんかに連れて行ったら、少し饒舌になる。
弁慶の千本刀や立往生、義経の鞍馬天狗の修行や八艘飛び、静御前、那須与一、・・・
などなど。
たいがいは覚えていない、分からないの答えだが、その中でも聞き出した内容は、数々の真相へと導かれるものであった。
まとめるとこんな感じ。
義経と弁慶は出会い、天狗の下で修業をする中で不老不死を得る。その後、数々の戦を経験する。その伝説のほとんどは誇張されている。ただ、木曽義仲を討ち破った馬での崖の駆け下りは本当らしい。
その後、立往生と言いながらも死ぬことなく、大陸に渡る。チンギスハーンの影武者となり、不老不死を活かして、数々の戦績を積む。ちなみに元寇はフビライに日本を襲ったらと口添えしたのが義経らしい。そこに、兄、頼朝、日本への復讐心があったことは疑いないことだろう。
その後、戦いに疲れ、崑崙山で氷漬けとなり700年の時を眠る。
目が覚めて、ベトナム、日本とアジアを回る。
どこでも戦があった。疲れた。
今は、ただここでおとなしく暮らしている。
児童所などに赴き、義経・弁慶伝説を三文芝居で見聞きさせて、少しのお金を得られればいい。
ただ、願わくば、美味しい魚が食べたい。魚屋さんがこの町に出来てくれたらいいのだが。自分では出来ない。プライドうんぬんの問題ではなく、武士は刀を振るう以外、何も出来ないものだ。
そんな二人に、女子大生は魚屋をこの町で開くために奮闘し始める。
保健所に具体的な申請方法を聞いた、セリ人が必要で、女性がなるのは難しいが、過去に事例があることも調べた。
二人の部屋ではスタジオセットが完成する。
義経は、自らの運命への憎しみとも思える辛さ、悲しさを歌い上げる。不老不死。その時を戦で費やしてきた。今は、ただお刺身が食べられればいいだけ。
そんな姿に女子大生は怒りを示す。
自分たちで楽しい人生に変えて行けばいい。魚屋さんをしよう。セリ人になってもいい。そして、あなたの子供を産んでもいい。これでは死んだも同然じゃないのか。
二人からは何も答えが返ってこない。ただ、不老不死の悲しさを語るだけ。
まあ、そういう二人だから。安倍晴明はそう言って、女性大生の手を取ろうとする。
未来へ向けて、歩んでいるこの人の方がいいのかも。
女子大生はその手を取り、二人の下を去って行く・・・
二作品まとめて感想を書く。
どうも、同じことを結局、描いているのではないかなという印象が残る。
もちろん、作風は全く異なる。
捕虜は、虚無感にさいなまれて不毛な時を朴訥に過ごす男の影ある姿をかっこよく演じる蓮行さんと、その男に従順に、かつ諦めなのか、悟りを開いたかのような純粋さと、欲にまみれた泥臭さを同居させたようなエロい女、立川潤さんの二人芝居。緊迫感漂う、大人の雰囲気を醸した作品。
かたや、義経千本松原は、不老不死がゆえに、未来への希望を失い、無力感を鬱積させ続けてきたかのような凛々しさの中に、どこかうらびれた感じを見せる義経、首藤慎二さんと、その男に、真っ直ぐな熱情でぶつかり、未来を切り開こうと、まだ若いが故の未熟さもあるけど、純粋な信念を抱く若々しい女子大生、弘津なつめさんをベースに、おかしな個性的キャラで周囲を囲み、面白味を持たせた、ちょっとコミカルな不条理作品。
ただ、共に、この先に膨大な時間があることに幻滅して、どうしていいのか分からず、自暴自棄一歩手前というギリギリまで追い込まれているかのような男と、まだ何か変わるんじゃないのか、だったらこの時間を楽しもうと接する女という構図は似ているような気がする。
接し方も、すいぶんとエロエロの大人の立川さんと、ピチピチの若さあふれる弘津さんで雰囲気は異なるが、愛を育むしかないのではないのかといった共通点が見える。
捕虜は1996年の作品らしい。義経は新作。
時代が違うけど、見えてくるのが、男は戦、戦争という経験をして、その終結により生まれたこの先の時間に心を無くしてしまっているところ。
戦いによって何も生み出さなかった事実。その戦いで自分に残ったものを見詰めたら、何も無かったみたいなことで無力感を生み出し、狂わしてしまったのではないだろうか。
戦、戦争は人を疲弊させ、意味無き時間を過ごした悔いからなのか、絶望にも似た虚無や無力の感覚を植え付けてしまうみたいだ。
それでも、死はそうやすやすと訪れはしない。
食や性といった、欲に執着し、その中で不毛な時をただ過ごす。
男はその中で、うらびれ、落ち込んでいき、未来を見出せなくなる。
女はその欲の中でも、食を楽しく生きるため、性を自分たちを繋げていくための手段として、未来に希望を託す。
要は、男は自分を楽しむのが苦手なのかなと思う。通じるところは、退職後や妻亡き後に、悲しい人生を過ごす老年男性の姿にも行き着くような気がする。企業戦士というくらいなので、現役時代は戦争の中にいたみたいに考えれば、同じ構図で捉えることも出来るように思います。
窮地に陥ったり、不毛な世の中で、力強く生きることが出来る女性と、その力を受け入れることが出来ず、破滅の道を進もうとしてしまう哀れな男の姿が浮き上がるような感覚が残る作品でした。
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